私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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こんなん書いた(´・ω・`)

いらんかった気がしないでもない。


『アオハルトライアングル』の閑話の巻き

眩しいくらいに照らすスポットライト。

沸き上がり続ける万雷の拍手。

地響きのような大歓声。

 

少し前までそんな物に囲まれていた私は今・・・・寮の調理場にて、甘い香り漂う少しこぶりな赤いリンゴを手にしていた。寸前までギターを掻き鳴らし、熱狂的な声援を受けていたのが嘘のように感じる。違和感が凄い。とてつもなく凄い。

 

「━━━━耳郎?耳郎さん?聞いてらっしゃいますぅ?」

 

疑問符のついた言葉に視線を向けると、エプロンを着けた上鳴が不思議そうな顔でこっちを見ていた。

その手には先程用意するよう頼んでおいた金属のボウルやトレーが重ねられてる。

 

「ああ、ごめん。ありがとね、用意しても・・・・ちゃんと洗った?」

「洗ったわ!ごっしごし、洗ったわ!そこは疑うなよ!頼まれた事何もしないでここに戻ってきてたら、もうそれただのアホじゃん!?」

「えっ、アホじゃない時なんて・・・・あった?」

「なに、その常時アホみたいな評価!?酷くない!?あったよ、幾らでもありました!最近だと━━━」

「あーはいはい。そうだねー」

「━━━せめて聞いてぇ!?」

 

そんな風に上鳴と話してると、段ボール箱を手にしエプロンを揺らすもう一人もやってきた。ドカドカとした重そうな足音と一緒にきたのは同じクラスの口田だ。

 

「おっ、砂藤から借りられたっぽいな。口田、ここ空いてるぞー」

 

上鳴の誘導に従って置かれた荷物を三人で見ると、お菓子作りに使えそうな調理器具。他にも色んな種類の飴型やお菓子作りに使うナッツだったり色のついたチョコチップだったりが入ってる。

 

「・・・リンゴ飴にこういうのって使うのか?」

 

ナッツの袋を手にした上鳴の疑問に、口田が首を横に振った。

 

「リンゴ飴はリンゴに飴を絡めるだけだから、つっ、使わないとは思うけど、一応渡しておくって。余り物で賞味期限も近いから、必要なら使っても良いって・・・・」

「そっか。んじゃ、これはそのままに・・・・・そう言えばさ、今更だけどコレ入れもんとかってどうすんの?」

 

不思議そうな言葉と共に視線がこっち向いた。

そんな事聞くまでもないだろ━━━と思ったんだけど、言われてみればラッピングの道具はない。ウチが預かってるのはリンゴ飴の材料だけ。

 

「それ、貰ってないわ・・・・やば、どうしよ」

「マジか。でもまぁ緑谷主導だしなぁ、しゃーねーか。んじゃま、俺ひとっ走り買ってくるわ。スーパーならあるよな?」

「ウチも買ったことないから分からないんだけど、スーパーなら多分・・・・ごめんだけど頼める?」

「おう、任せとけ。ついでに何か適当にフルーツとかも買ってくるわ」

「フルーツ?何で」

「いや、ふと思ってさ。飴に絡めるだけっていうなら、なんか他にも作れそうだなぁと。イチゴとか、ミカンとか、バナナとか飴やってさ、色々種類も作ればエリちゃん喜びそうじゃね?どう?」

 

何だってやること増やそうとするかな?と思わなくもないけど、それ自体は悪くはない気がする。料理の工程はリンゴ飴と変わらないし。何より、エリちゃんも喜んでくれそう。

 

「分かった。それじゃ、それも一緒に頼める?後でお金渡すからさ」

「金は良いって、俺がやってみたいだけだし。後なんか買うもんある?」

「後は特には・・・・あっ、ちゃんと外出許可とってからいきなよ」

「やべ、そうだった!相澤先生何処にいんのかな」

 

慌ただしく駆け出していった上鳴を送り出し、ウチと口田はレシピに従って調理の準備を始めた。

何故こんな事になったのか思い出しながら。

 

 

 

『耳郎ちゃん、いっぱい相談乗ってあげたでしょ』

 

 

 

それは一昨日のこと。

そんな笑顔と共に緑谷から渡されたのは真っ赤なリンゴの山と食紅、砂糖、割り箸と言った物だった。最初は意味が分からず首を傾げたが、一緒に渡されたメモを見てそれがなんの為に用意された物なのかは察した。それはリンゴ飴の材料だったのだ。

 

『お菓子ニキからレシピ貰っておいたから、当日に隙見て作っておいて。帰りにエリちゃんにお土産としてあげるから』

『ここまで用意するなら、もう自分でやんなよ・・・』

『やってる時間ないんだってば。その日は一日エリちゃんのお世話しなきゃいけないからね。それにほら、私はあれだよ、ほんの少し、わずかに、若干、きもち、料理は苦手系だし・・・・。お願いサプライズしたいのぉ!出来立てをあげて、ふぉああぁぁぁぁ!って言わせたいの!お願いだよぉ、耳郎ちゃん!Z・I・R・O!耳郎!Z・I・R・O!耳郎ぅ!』

『腹立つからそのコール止めな』

 

緑谷の言葉を聞いて、以前やってきた角の生えた女の子の事を思い出した。陰のある表情を浮かべ、緑谷の側から離れようとしない小さくて弱いその子の事を。

そうしたら断る事が出来なくて、気づけば私は頷いていた。それに相談に乗って貰った恩があったのも事実だし。

 

そうして引き受けて、やってきた当日。

ライブの片付けを終えるとそのまま寮へと帰り、リンゴ飴作りの準備を始めていたんだけど・・・・何故か上鳴と口田が手伝いにやってきた。聞けば緑谷に手伝いに行くように言われたらしい。どちらも災難だな、と思ったけど一人でやるより楽になるので、ウチは二人に是非にと手伝いをお願いして━━━━で、今に至る訳だ。

 

上鳴を見送ってから少し。

口田にリンゴの用意をして貰ってる間、私はレシピの分量通り用意した砂糖・水・食紅を一つのボウルに移して掻き混ぜ始めた。

レシピによれば火に掛ける前に良く混ぜておかないといけないらしい。火に掛けてから混ぜると白くなってしまうそうだ。砂藤のワンポイントアドバイスによれば、先に水と砂糖を火に掛けてよく溶かし、冷ましながら食紅を混ぜ合わせる方法もあるらしいけど、個人的にこちらの方が色味が綺麗な気がする・・・のだそうだ。

 

良く混ぜ合わせたら火に掛けて、あとは煮立つまでそのまま。火力は中火だ。

焦げ付かないように鍋の様子を見てたら「耳郎さん」と声が掛かった。視線をそちらに向ければ任せていたリンゴの山が籠から消えていて、トレーの上に綺麗に並べられた割り箸の刺さったリンゴが置いてある。砂藤のワンポイントアドバイスをちゃんと把握してたみたいで、リンゴの水気もしっかり拭き取ってあった。乾いてから飴を絡めた方が良いとレシピにあったけど、この調子なら煮立つ頃には丁度良さげだ。・・・・ていうか砂藤もさ、ここまで気を回してアドバイス書いてくれるくらいなら手伝ってくれれば良い気が、いや、十分助かってるんだけども。

 

「ありがと、良い仕事するじゃん」

「あっ、いえ、そんな事は・・・僕は、レシピ通りにやっただけですし」

「照れなくて良いって。言われた事きちっとやるのも大切でしょ。世の中それも出来ないのが幾らでもいるんだし・・・・・それにほら、上鳴とかだと雑な感じになってそうじゃん?リンゴの真横に串刺したりさ~『これ芸術的じゃね!?』みたいな事言ってさ」

 

ちょっと物真似して言うと、口田は何とも言えない顔をして乾いた笑い声をあげた。同意こそなかったけど、はっきり否定しない所を見るに『ありそう』ぐらいには思ってそう。

 

不意に会話が途切れた。何かあった訳ではない。単純に話したい事を話し終えたのだ。お互いお喋りが得意な方ではないので、必然キッチンには静寂が訪れた。

耳に響いてくるのは温まってきた鍋が立てるコトコトという小さな音立てるだけ。

そんな静かな空間で、ウチと口田の視線は自然と鍋に向っていった。

 

「・・・・・そう言えばさ、口田は緑谷に何して捕まったの?ウチは、まぁ、ライブの事でちょっとね」

 

何となく聞いてみたら、何故か口田は見てるこっちがびっくりするくらい肩を跳ね上げた。何だか頬も赤くて、額から変な汗が滲んでる。ウチが見てる事に気づくと、口田は物凄い勢いで視線を逸らして、アワアワと狼狽え始めてしまった。

 

何したんだ、緑谷のお馬鹿。

無茶振りする奴ではあるけど、それと同時に加減も分かってる奴だとも思ってたんだけどな。

 

「大丈夫?何をダシにされてんの?言いたくないなら言わなくても良いけど、あんまり━━━━」

「い、いえ!そ、そういう、感じのっ、訳じゃなくて、ですね!僕は、その、お願いされただけでっ、でも無理矢理とかではないので!はい!」

「めっちゃ喋るじゃん、今日・・・・まぁ、口田が良いなら良いんだけどさ。けど、あいつがあんまり馬鹿な事言うようだったら遠慮なく教えてよ。代わりに締めておくから」

「ははは・・・・はい、その時は」

 

モジモジしながらも浮かべた頼り無さげな笑顔に、不思議と陰は見えなかった。無理矢理じゃないというのも、脅されて言わされてるって訳ではなさそう。

ウチの心配し過ぎで済んだのは良いことだけど、それなら何をダシにしたのやら?あの慌てよう普通じゃなかったんだけどな。

 

そうこうしてる内に鍋が煮立ち、ブクブクと音を立て始めた。借りてる温度計をさせばレシピ通りの温度。

ウチは直ぐに火を止めた。

 

「耳郎さん、これを」

 

すかさず手渡された串の刺さったリンゴに、ウチは思わず笑ってしまう。

 

「はは、至れり尽くせりだね。ありがと。でもそんなに気を使わないで良いよ。口田も一緒にやろ、量もあるしさ」

 

無言で頷いた口田と一緒に鍋にリンゴを入れた。

食紅の混ざった真っ赤な飴は、リンゴ一つがしっかり浸る程の量はない。なのでくるくる回すように、リンゴへ飴を絡めていく。どちらかと言えば不器用な方だと思っていたけど、そう苦労する事なく一つ目を綺麗に仕上げられた。

中々の出来に口田に見せようと思ったけど、そっと口田の手元を覗いたらウチが作った物より綺麗に仕上がったリンゴ飴を見てしまい━━━━ウチは静かにクッキングシートを敷いたトレーへそれを置いた。問題は味。そう。見た目は程々で良い。

 

 

「耳郎さん、今日は格好良かったです」

 

 

三つ目のリンゴを手にした所で、不意に口田がそんな事を言った。最初は何を言われたのか分からなくてぼんやりしちゃったけど、言葉の意味に気づいたら気づいたで何だか照れ臭くて返事が返せない。

これが緑谷相手だったりしたら、「まぁね」ぐらいは冗談気味に返してるんだろうけど。

 

言葉を返せずにいると、口田は何処か慌てた様子で言葉を続けた。

 

「あっ、あのっ!生意気言ってすみません!経験者の耳郎さんからしたら、そのっ、多分、駄目な所とかあったなぁとか思うと思うんですけど、でも僕は聞いてて凄いなって思ったし、楽しそうに歌ってる姿とか元気づけられたし、曲も歌も綺麗でまた聞きたいなって思って、だから━━━━こうやって、僕達も見える場所で、音楽を続けてくれたらなって」

 

そんな口田の話を聞いて、お父さんの言葉をまた思い出した。ライブ中に頭を過っていった『好きにやって良い』なんていう、簡単で単純で・・・・けれど、私の背中を押してくれた力強い言葉が。

 

「━━━うん、続ける。これからだって、ずっと。ヒーローになったって続けるよ。だって、好きだから」

 

きっとヒーローというものに負けないくらい、私は音楽が好きだ。歌うのも、楽器を弾くのも、曲を書くのだって最高に楽しくてしょうがない。あの舞台の上ではっきりとそれが分かった。

 

だから、これからだって続けてく。

誤魔化したり言い訳したいしないで、堂々と好きだって胸を張って言えるように。

精一杯に。

 

「また聞いてよ。今度はもっと凄いの聞かせてあげるからさ!」

 

そう笑って伝えたら、口田は頷いてくれた。

コクコクと、何度も。

 

 

 

 

それから口田とリンゴに飴を絡める事暫く。

残り一つとなった所で、漸く上鳴が汗だくで帰ってきた。飴を絡めながら聞けば、相澤先生が中々捕まらなかったらしい。最終的にオールマイトから外出許可を貰ってスーパーへ行ったとか。

 

そんな訳ですっかりくたくたになった上鳴だけど、足腰をプルプルさせながらもリンゴ飴作りはやりたがった。どうしてもというので作りかけだった最後のリンゴを渡せば「任せろ!」と意気込んで飴を絡め始めた。駄目なのが出来上がりそう・・・・と思っていたんだけど、小癪にもウチより手際が良い。仕上がったら普通に最初に作った物より綺麗な物が出来上がりそうで、何だか釈然としない気持ち。

 

「そう言えば上鳴。あんた、緑谷になんて騙されてきたの?」

「そうそう、実はさ・・・・って、何でだよ!騙されてないからな、別に!一昨日さ、リンゴ抱えてる緑谷見つけてさ、何すんの?って聞いたらエリちゃんのお土産作るっていうじゃん。じゃぁ手伝うか、ってそんな感じ?いやぁ、最初は俺がやるつもりだったんだけど、緑谷のやつ全然信用してくれなくてさぁ~失礼な奴だよなぁ~たくさぁ~」

 

「・・・・ごめん、どうせ碌でもない理由だろうなとか思って」

「・・・・ぼっ、僕もごめんなさい。脅されてるんだろうなって、勝手に思ってて」

 

「君らの俺のイメージってなんなの?泣くよ?」

 


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