私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
踏ん切りついたけんよぉ。
「━━━━━皆!!飲み物は行き届いただろうか!!よし、では!!我々のライブ!文化祭での成功を祝して!細やかではあるが慰労会を始めたいと思う!!乾杯の音頭はクラス委員長である僕、飯田天哉が取らせて頂こうと思うが良いだろうか!!」
オレンジジュースの入ったコップを持つ眼鏡が、胸を張ってそんな事を聞いてきた。てっきり乾杯の言葉が出てくると思って用意していたので、なんか肩透かし感がすごい。水を差された気分である。
沢山のお菓子や料理が並ぶテーブルを囲むよう並び立ち、カラフルなコップが手に乾杯の音頭を今か今かと待っていた皆からも「そんな事いちいち許可とるなぁー!」とか「真面目も程々にしろー!」とかブーイングが飛ぶ。
眼鏡はその様子を見て慌ててコップを天井へと掲げた。
「よ、よし!では乾杯だ!!皆、お疲れ様でした!!」
「「「「乾杯ーー!!」」」」
眼鏡に続くようにカラフルなコップが高く掲げられ、楽しげで元気な返事が返っていく。
文化祭の片付けも無事終えて迎えた時刻19時30分。包帯先生からGOサインを何とか貰った私達は、寮の共有スペースで文化祭の打ち上げを開催していた。
強制解散となる21時になるまで、飲むだけ飲んで、食うだけ食って、歌うだけ歌って、楽しめるだけ楽しむ所存である。・・・・そう、宴だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!はははは!あしどん女子みんなで歌うぞ!!なんか選曲してぇ!!轟ぃ、お菓子をもてぇい!よし苦しゅうないぞ、かっちゃん!!ジュースのお代わりをつぐ栄誉を与え━━━━━━あだだだだだだ!!アイアンクローは、いらないんですぅ!ジュースが欲しいんですぅ!!氷いっぱい入れたやつが欲しいんですぅ!お願い、なんか言って!無言でアイクロでしないで!!
最初にそれを思い付いたのは、どっかの髭面が調子こいたメールを送ってきてガチムチ達がその対応に動き出した頃だった。何となく思い付いた。宴しなきゃ、と。
今になって思えば紳士マスクや文化祭の準備とか、やらなきゃいけない事が色々と立て込んでてストレス溜まっていたのだと思う。紳士マスクのせいで遊びにいけないし、皆文化祭の準備で遊んでくれないし・・・・ストレス発散したくて仕方なかったんだと思う。
元凶ぶっ飛ばして、ステージで踊って、エリちゃんと遊んで大分スッキリした今なら分かる。この一ヶ月遊び足らなかったのだと。来月は遊ぶぞ、この野郎。
まぁ、そんな訳で、この一ヶ月は隙あらば包帯先生に媚び売りまくった。授業では常に起きていたし、真面目にやってると見せる為に授業中質問もしたりもしたし、出された宿題はちゃんと全部写させて貰ったし忘れずに提出し━━━━それを全力で、包帯先生にアピールした。マイ猫ファイルの中でも秘蔵の一品引っ張り出して献上し、我が家のアザラシも唸るプロ級の肩揉みでお疲れの肩を揉みほぐした。ぶっちゃけ、肩揉みはうざがられたけど・・・・それでも私の熱意が伝わったのか、すごい嫌そうな顔だけど条件付きで許可が貰えた。打ち上げの場所を寮内にする事、打ち上げの責任者にかっちゃんとお茶子を付ける事、指定した終了時刻に解散する事などなどだ。
責任者にかっちゃんとお茶子を態々付けるというのは、若干思う事もあるがセニハラという物だ。浮かんだ文句を飲み込んで、こうして宴を迎えたのである。
「よっしゃぁ、任せろ!!女子達に負けてられねぇからな!!漢っ、切島鋭児郎!!歌います!!」
「ウェーイ!やったれ!やったれ!次は俺が続くから、お前の魂の演歌で景気づけてくれよ!!切島ー!」
「ひゅーひゅーーー!切島くんのぉ!ちょっと良いとこ見てみたーい!!」
「歌え歌え!!跳ね板共!!乗りに乗りまくってる、このオイラの!ラブソングを際立たせる為になぁ!!」
「・・・・砂藤、俺ね、峰田はこういう所だと思うんだよね」
「だなぁ。尾白、お前の爪の垢で良いからちょっと煎じてやれよ」
「常闇くんは歌わないのかい?合宿の時の歌なんか僕に負けず劣らず素晴らしかったよ!良ければ、僕とデュエットしてみないかい☆!」
「いや、俺はレパートリーが少ない。歌自体、得意でもないのでな。あの時も悪戯な風に誘われてしまっただけだ・・・・ふっ」
だから、もっと私に感謝するべきだと思うんだけど・・・・・こいつら全然敬わないな。私の事。何勝手に男達だけで盛り上がってん。カラオケセットだって、私がラジオ先生から借りてきたのに。女子は女子でお喋りに夢中だし。ちょいちょい、よいしょが足らないぞ?よいしょが。あれだよ、かっちゃんみたいにジュースつぎに来るべきじゃなぃ?腰を低くしながら「へへっ、こりゃ気がききやせんで!」って悪代官と結託する悪徳商人みたいになるべきじゃなぁぁい?
「━━━━ね、かっちゃん」
ちょうどサイダーを注いでくれてるかっちゃんに視線を送れば、サイダーを入れる手を止めて無言でデコぴんしてきた。強めだった。思わずフゴォォって悲鳴が口から漏れる程であった。
「何っ、すんのぉ!いきなり!」
「喧しいわ、ボケが。碌な事考えてねぇって、親切丁寧に顔に書いてあんだよ」
「そんな事考えてませんんんー!私のお陰でぱーちー出来るんだから、もっと私を崇め奉れアホ共めがって、至極当然の事を思ってただけですぅ!!」
「予想を軽々飛び越えてくんじゃねぇよ、馬鹿が」
「━━━あたぁっ!?」
またペチンとやられた。
おでこ痛い、一瞬穴が開いたかと思った。
痛みに悶絶してるとお茶子が濡れタオルを持ってきてくれた。そしてそのまま「赤くなっとるねぇー」とヒリヒリしてる所を冷たいそれを当ててくれる。気持ち良い。お茶子はやはり天使じゃったかぁ。
「うえーんお茶子ぉー、かっちゃんがいじめんねーん」
「あー、うんー、そうかー、そやねー、そういう事にしとこかー。それより、リンゴ飴もろたよ。ありがと。でもラッピングも可愛いから食べるの勿体なくて、えへへ」
そう言うとお茶子はラッピングされたリンゴ飴を見せてきた。紅色の飴を纏ったリンゴが宝石のように艶々と輝いてる。美味しそうというよりは綺麗な感じだろうか。打ち上げの時に皆にあげようと思って材料を用意した身としては、その完成度を誇らしく思う所はあるけど、結局作ったのは耳郎ちゃん達。進んで自慢する気にはならないのが本音だ。
「ははは、喜んで貰えて良かった。でも、私は材料用意しただけだしねー。あとそのラッピングに関しては私は何も知らないちんげーるなのよ。耳郎ちゃんの趣味かな?意外と可愛いの持ってるよね」
「そうなんや?・・・・でも、言い出したのも用意したのもニコちゃんやろ?だから、ありがと。大切に食べさせて貰うね」
そう言ってニコっとされれば、意固地になるのもどうかと思って笑顔を返しておいた。
「そ?んじゃまぁ、どういたまして」
「それをゆーならどういたしましてや。慣れん事は言うもんちゃうね。ふふふ・・・・まぁ、何処の誰かは、慣れんでも、もうちょっと素直に言葉掛けた方がええと思うんやけどねぇーー」
苦笑しながらおでこを冷やしてくれるお茶子に、かっちゃんが鋭い視線を送る。かっちゃん程素直じゃない人もそうはいないから、お茶子の言葉は心にくるものがあったのだろう。自覚もしてるだろうし。
まぁ、その分というか何と言うか、態度にも顔にも出るから分かりやすいとは個人的に思うんだけどね。
「緑谷、適当に持ってきた。食べるか?」
お茶子とかっちゃんが剣呑な雰囲気で見つめ合ってると、眼鏡を引き連れた轟がお菓子山盛りの紙皿片手にやってきた。背筋を伸ばして紙皿の中身を覗いてみれば、私の好みを覚えたのか中々にいいラインナップが揃ってる。
「ありがとー、良い仕事じゃ。ほれほれ、隣空いてるよ。お座り、轟丸、眼鏡丸」
「なんか犬みてぇな呼び方だな」
「緑谷くん、君はまったく・・・・せめて名前を呼んでくれないか」
空いてる隣をポンポン叩いてみせれば、轟は穏やかな笑みを浮かべながら紙皿をテーブルへと置いた。
そして何故かかっちゃんの様子を見てからテーブルを挟んだ反対側、かっちゃんが腰掛けてる向かいのソファーに腰を下ろす。眼鏡も一緒にだ。
「今は、まだこっちで良い」
「?そう?なら、別に良いけど。なんか仲良くなったね、轟とかっちゃん」
「・・・・そうか?だと嬉しいんだけどな」
「ふざけんな、誰が仲良くだ。死ね」
かっちゃんもこうして元気にツンデレしてるし。
仲良くなったなぁ、この二人。
最初は水と油みたいなもんかと思ってたのに。
お菓子摘まみながら話していると、寮の入口からインターホンの音が響いてきた。気づいた百が足早に向かって━━━━直ぐにゾロゾロと人を引き連れて戻ってきた。私が呼んでおいたB組の連中と、目の下に隈を付けた発目だ。「君達と馴れ合うつもりはない!」と元気に喧嘩売ってきた物真似太郎は引き寄せる個性の力で壁とクラッシュアウトして貰い、他の連中へはやっほーと手を振る。発目は生まれたての小鹿の如く足をガクガクさせながらもニヒルな笑みと共にガッツポーズを、イッチー達B組女子ーずからも笑顔と共に手を振り返される。B組男子共からは畏怖の目を向けられた。おう、男共、そこは羨望の眼差しにしとけ。クラッシュしちゃうぞい。
「なーに勝手に始めてんのよ。少しは待ってなっつーの。緑谷幹事殿」
「イッチー達こそ何遅れてんのー?こっちは待ちくたびれて萎びちゃう所だったんだけどぉー?」
「劇やったでしょ?そのせいで片付ける物が色々あったのよ。それにしてもよく言う。あんたに萎びる暇なんてないでしょうが。はい、これ、皆からお土産ね」
そう言って渡された大きな袋にはお菓子が詰め込まれていた。会費代わりに要求してたけど、思ってたより倍くらい多い。元々こっちが用意した量も合わせれば、2クラス分の生徒がワイワイするには十分な量だ。よきよき。
発目にも声を掛けようとしたけど、声を掛ける前に床に突っ伏してイビキをかいていた。無理して来なくて良いって言ったのに・・・こいつは何をしに来たのか。やり遂げた顔して。
取り敢えずお土産だと思われる栄養ドリンクは預かって、はじっこに毛布を掛けて置いておく。部屋のベッドで寝かせる?そんな選択肢はない。運ぶのめんどい。それにどうせ最後に寮へ送り返すつもりだし、取り敢えずこれで良いでしょ。その内復活するかもだしね。
「あっ、そうだ。飲み物も一応買ってきたけど、冷えてるのあんまりないんだよね。氷とかある?」
「あるある。いけ!トドロキング!!」
「クラスメートを製氷機みたいに使うな、馬鹿たれ。轟だってそんな使われ方嫌でしょうが」
折角良いアイディアだと思って言ったのに、ペシンとイッチーに頭を小突かれてしまった。そんなに嫌なの物かと轟に視線を向ければ、無表情のままだけど「任せろ」としっかり頷いてくれる。
なので『どやぁさぁ』とイッチーを見たんだけど、何故か溜息つかれた。
「報われないわ」
「なにが?」
「・・・さぁね」
遠い目をしたイッチーだったけど、結局は轟と一緒に氷を準備しに行った。「叩かれ損なんですけどぉー」とお茶子に不満を漏らしてたらB組女子ーずに囲まれて、なんか頭撫でられた。わしゃわしゃされた。私は犬だったかなってぐらいわしゃわしゃと・・・・やり過ぎなんですけども!!髪型崩れるんですけどぉぉぉ!!かっこ怒りぃぃ!!
「敵にしたら厄介極まりない奴だけど、このにぶちんっぷりは憎めないわ。あはは」
「切奈の気持ち、分かるマース。同じクラスメイトだと、ベリータイヤードなりそデスけど、こうして見るとキュートデス」
「ん」
「のこのこ♪私は同じクラスでも大丈夫だよー可愛いもん」
「お止めなさい、皆さん。まるで動物のように愛でるなど。彼女にも尊厳というものが」
頭ぐわんぐわんされる中、呆れたような溜息が聞こえてきた。ちょっとそっちを見ればレイちゃんがいた。相変わらず幽霊っぽい。
「・・・・・そう言いながら、茨も撫でてるし・・・緑谷、一佳から聞いた。打ち上げ計画したの、貴女なんでしょ?誘ってくれて嬉しかった。ありがと」
「んーーー、まぁ、ぱーちーは人多い方が楽しいしさ。どーいたまして」
そのままB組女子ーずは頭を撫で回されてると、A組女子ーずも集まってきて悪のりしてきた。一応ぱーちーの事で感謝を口にしてたけど、頬っぺたつついくる様子に感謝の念は感じない。なので、「どうせ弄るなら肩揉んだり腕揉んだりするが良い!」と言ったら、足つぼ本気で押された。死ぬかと思った。
そうこうしてるとジュースの用意が出来たみたいなので、皆で揃って二度目の乾杯をした。
皆も揃ったし何をしようか。あれこれ用意したけど、やっぱり最初はあれかな?あれだろうな、あれしかないな!!K●Fで勝ち抜き戦だな!!皆、テレビの前に集まっ、集ま、集まってよぉぉぉぉ!!・・・・・・仕方ない。発目、起きろ。起きてぇ、一緒にやろよぉ。
「━━━━おい、何してんだ。てめぇは」
B組メンバーが合流してから暫く。
遠くから響いてくる打ち上げの喧騒を聞きながら、庭でまったりお月見してたらかっちゃんがやってきた。お花摘みにと出てきた時は男連中と腕相撲大会してたけど、果たして決着はついたのだろうか?B組のですぞが勝ってたら良いな。優勝にチロ●チョコ賭けたから。
やってきたかっちゃんは相変わらず眉間に皺が寄ってる。でも怒ってる訳じゃないっぽい。
「どしたの?かっちゃんも休憩?」
「休憩じゃねぇ」
かっちゃんは呆れたような顔をした。
そして隣まできて手に持っていた上着を私の肩に掛けてた。ちょっと肌寒い気はしてたので、それ自体はありがたいんだけど・・・そのあまりにも優しい手つきと似合わない紳士的な態度に、感謝より先に不信感が込み上げてくる。
思わず半歩下がると「文句でもあんのか?ああ?」と凄まれた。あっ、いつものかっちゃんだ。良かった。
「上着ありがと。・・・・いやでもさ、似合わない事するかっちゃんが悪いと思うんだよね。おらぁ!寒いんじゃぁ、上着でも着とけボケぇ!みたいなのがかっちゃんじゃん?」
「じゃぁ、上着返せや」
「えー、それはやだ。寒いし」
伸び掛けた魔の手から守るように上着をぎゅっと握る。するとかっちゃんは舌打ちしながら顔を背けた。
フェイント掛けて取り返しにくるかと思って様子を見たけど、かっちゃんにその気はなさそう。ホッと一息ついてから何となしにスマホで時間を確認すると、もう直お開きの時間だった。かっちゃんがここに来た理由が分かった。どうやらお迎えにきたらしい。
「お茶子にでも頼まれたの?お迎えご苦労、褒美を取らすぞよ。何が良い?業務用の唐辛子一キロであるか?」
「いらねぇわ。なんの嫌がらせだ」
「辛い物好きでしょ?」
「味付けとしてはな。別に唐辛子が好きな訳じゃねぇわ。てめぇ、俺が唐辛子で飯食ってたらどう思うんだ」
「頭おかしいなぁって」
「分かってんなら言うなや」
そう言うとかっちゃんも私の隣で空を見上げる。
何か言いたげにしてるのに気づいて、そのまま黙って待ってればかっちゃんがゆっくり口を開いた。
「・・・・・少しは、気晴れたかよ」
かっちゃんが、そんな事を言った。
月明かりに照らされたかっちゃんの横顔からは、やっぱり怒ってる気配は感じない。いつもは火のついた爆薬みたいな激情の宿った赤い瞳が、今は穏やかに揺れる暖炉の火みたいな優しさの滲む赤に染まってた。
「まぁね、スカッとしたよ!元凶はパンチ出来たし、今日は遊び尽くしてやったしね!」
「そうかよ・・・・」
短い返事が夜空にとけていく。
私達の話が止まると、そこは酷く静かになった。
何処からか響いてくる虫の音や木々を揺らす風の音は今も聞こえてくる筈なのに、私には会話と一緒に時まで止まったみたいに思えた。世界中から、私達だけが取り残されたみたいだなって。
そう思ったら、気づけばそれが口から出ていっていた。
言うつもりの無かったもの。
だけど、きっと、かっちゃんは気づいてしまってるそれを。
「私、ちゃんと出来てたかな」