私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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はぁぁぁぁぁぁぁ、何とか書き切れたぁぁぁぁ!!
おらには、これが限界だぁぁ( ;∀;)




きっとそれは終わりで、きっとそれは始まりの物語。の巻き【後編】

緑谷双虎って馬鹿は、昔からあまり言葉にしない奴だった。無口って訳じゃねぇ、いらねぇ事は幾らでも口から飛び出しやがる。寧ろ喧しいくらいにだ。

 

けれど、肝心な所は全然口にしねぇ。

いつも勝手に抱えて、最後まで一人で走りきろうとしやがる。能力が下手にあったせいで大抵の無茶は独力で何とかしちまうから、その成功経験が更にその悪癖を加速させていったんだろう。

 

かくいう俺も、ずっとそれに気づかなかった。

気づいた時には、こいつは一人で走るのが当たり前になっていた。俺が辿り着くのは何時だって何もかも終わってからだった。困ったような笑顔と、根拠のねぇ『大丈夫』を何度も聞いた。

 

だから━━━━━

 

 

「私、ちゃんと出来てたかな」

 

 

━━━その言葉が聞けたのは、少しは追い付いた証拠なのだろう。それでもらしくないそいつの横顔を見ていると己の不甲斐なさには怒りを覚えるが、それすらも聞けなかった昔を思えば冷静さを欠く程ではなかった。

ずっと側にいた癖に、俺はこの顔すら見れなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっちゃん、ニコちゃん知らん?」

 

腕相撲で粗方のした頃、山のように菓子を皿に積んだ麗日が話し掛けてきた。妙な呼び方で。

 

「誰がかっちゃんだ、こら。喧嘩売ってんのか、てめぇは」

「喧嘩は売っとらんて。それより知らん?もうすぐ時間やし、皆で一緒に歌おう思うたんやけどおらんくて・・・さっきお花摘みに行ったんは知ってねんけど」

「あ?・・・っち、あいつ」

 

死穢八斎會との件が終わってから、双虎が何かに悩んでるのは直ぐに気づいた。変にやる気を見せる時は大抵何か余計なもん抱えてる時だ。

原因には心当たりがあった。様子を見てればそれは確信に変わった。あの白ガキの様子を何処か遠い目で眺めてる横顔を見れば・・・・あいつが何を見てて、何を考えてるのかは。

 

「・・・・出てくる。時間までに戻らなかったら、後はてめぇが締めろ。丸顔」

「丸顔て、なんか久しぶりに聞くなぁ。ふふ、かっちゃんゆーたお返しなん?」

「っせぇ、やっとけよ」

「うん、ニコちゃんの事よろしくね」

 

双虎の奴を探して騒がしい部屋から出て直ぐ。

廊下の壁に背を預けぼさっとしてる轟の姿を見つけた。

何してんのかと視線を向ければ、丁度こっちに気づいたらしい轟のやつと目が合う。

 

「━━━庭の所にいる」

 

一言呟くように言うと、轟は背を預けてた壁から離れ未だに騒がしい部屋の方へと歩いていく。

通り過ぎていった妙にすかした面が気に入らなく、気づけば俺の口から声が溢れていた。

 

「てめぇは、良いのかよ」

 

自然と漏れた言葉に、轟の足が止まった。

 

「・・・・俺は、いい。俺が言っても、あいつは話さないだろ。頼む」

「・・・てめぇに頼まれるまでもねぇわ」

「だろうな」

 

それだけ言うと振り返る事なく轟は廊下を進んでいった。声を掛ける気にはならなかった。癪ではあるが、その湿気た背中に、固く握られた拳に、身に覚えのある感情を見たからだ━━━━まぁ、だからと言って助け船を出してやるつもりはもっとねぇが。

どうせ放っておいても勝手に立ち直って、勝手に追い駆けてくる奴に気を使うだけ馬鹿らしい。

 

そうして庭に出ると芝生の上で立ち尽くした双虎を見つけた。冬が近づいて肌寒くなってきたって言うのに、半袖で空を眺めながらぼんやりとしてやがる。

引子さんから宜しくと言われてる手前、風邪を引かすのもあれかと思い着てた上着を脱いで側へいった。

 

「おい、何してんだ。てめぇは」

 

そう声を掛けると双虎の視線がこちらに向いた。

少しだけ目を見開き驚いてる様子だったが、直ぐに目が優しげな弧を描いた。

 

「どしたの?かっちゃんも休憩?」

「休憩じゃねぇ」

 

馬鹿にさっさと上着を掛けると、また驚いたような表情を浮かべる。そして何を思ったのか半歩逃げやがった。何か言いたそうな顔に「文句でもあんのか?ああ?」と凄んでみれば、何故か安心したような顔をされる。

その表情にカチンときたが、文句を言うより早く双虎が口を開いた。

 

「上着ありがと。・・・・いやでもさ、似合わない事するかっちゃんが悪いと思うんだよね。おらぁ!寒いんじゃぁ、上着でも着とけボケぇ!みたいなのがかっちゃんじゃん?」

「じゃぁ、上着返せや」

「えー、それはやだ。寒いし」

 

いつもと同じやり取りをしながら、その軽口を聞きながら隣にいる双虎の様子を見た。からかうような仕草も、楽しそうな笑顔も、軽快に紡がれる言葉も・・・・いつもと変わらないように見える。

 

だがその目だけは違っていた。

後悔に染まった瞳の色だけは。

 

「・・・・・少しは、気晴れたかよ」

 

俺の言葉に双虎が僅かに肩を揺らした。

振り返った顔に、その二つの瞳の中に俺が映り込む。

双虎は少しの間を置いてまた笑顔を浮かべた。

 

「まぁね、スカッとしたよ!元凶はパンチ出来たし、今日は遊び尽くしてやったしね!」

「そうかよ・・・・」

 

本当にそう思ってるなら良い。最後まで誤魔化すつもりならそれでも良い。何を選ぶにしろ俺が選ぶ道は変わらない。こいつの側を離れるつもりはねぇ。

だが、俺にはこいつが何かを話したがってるように見えた。そして少し待ってやれば、それを口にした。

 

 

 

 

 

『私、ちゃんと出来てたかな』と。

 

 

 

 

 

何に対してなんて事は聞くまでもなかった。

言葉を発してから双虎が見つめたのはあの日、個性を暴走させる白ガキへと伸ばされかけた掌。

なんて事はない、端から文化祭もヴィランもこいつは眼中になかったんだろう。文化祭の準備に勤しんだのも、ヴィランと対峙したのも━━━━たった一人、白ガキの為だけ。こいつは、あの時の罪滅ぼしがしたかっただけだ。

 

手間の掛かる事が大嫌いなこいつが、打ち上げを一から企画するなんてのがその証拠だ。他の連中の気持ち利用するような真似して、後ろめたい気持ちがあったんだろう。

 

あの日、飛び込もうとしたこいつを止めた事に関して、俺に後悔はねぇ。白ガキの個性はあまりに不安定で力が強過ぎた。不用意に触れていれば、最悪だってあり得た。イレイザーヘッドの協力もあり個性の暴走は止まり、結果的に怪我もなく保護が出来た。今日の様子を見れば、まだ全部が解決出来たと言えなくとも、笑顔を浮かべられる程度は救われた事が分かった筈だ。それまでの経歴、暗いあの無表情を考えれば、この短時間でそうなれたのは上出来だ。出来すぎと言っても良い結果だろう。

 

 

「大丈夫かな、エリちゃん。笑ってはくれたけどさ」

 

 

だが、それでもと、こいつは思うのだろう。

こいつは昔から傲慢で、我が儘な奴だ。

望んだ物でなければ納得しない。

 

 

「それで十分だろ」

「そだね・・・・でもさ、思うの。どうしても」

 

 

あの場所にいたのが本当のヒーローなら、ちゃんと助けてあげられたんじゃないか━━━━そう言って双虎は月を見つめる目を細めた。

 

 

「・・・・私さ、かっちゃんに止められたから止まった訳じゃないんだ。それは切っ掛けにはなったけど、結局手を伸ばさなかったのは私自身の判断。勘だけど、近寄るの危ないと思ってさ」

 

「馬鹿か。あんなもんに触れてたら、それこそ何があったか分からねぇだろうが。何も間違ってねぇよ」

 

「あははは・・・うん、そだね。そう思うよ。でも、でもさ、私はあの場所に、エリちゃんの為にヒーローとして行ったのに・・・・酷い話じゃん、助けなきゃいけない子に、手も伸ばせないなんて━━━━」

 

 

そう言いながら双虎は空に掌を翳した。

月明かりに照らされた双虎の指が淡く白く光る。

誰かの為に伸ばされて、誰かの為に握られてきた筈のその指は、今は酷く細く頼りなく見えた。

 

 

 

 

 

「━━━━━━かっちゃん、私さ、ちゃんと目指してみようと思う。ヒーローってやつ」

 

 

 

 

 

苦手だと聞いた、嫌いだと聞いた、怖いのだと聞いた。

それでも俺はこいつが、いつかそうやって自分から言い出すんじゃないかと心の何処かで思っていた。

おかしい事じゃない。こいつは言葉や形にしなかっただけで、昔からずっとそういう奴だった。だから側に置いておきたかった。

 

「・・・・・・そうかよ」

「うん、そうなのだよ。ふへへ」

 

そして、こいつがそれを選択する事も。

 

 

「それでね、私さ━━━━」

 

 

双虎の言葉を遮るように、首から下がっていたそれを服の中から引っ張りあげて見せてやった。

取り出したのは細工も何もない、シンプルな銀の筒が下がっただけのロケットペンダント。それ自体は珍しくもなければ特別高くもない、ただのアクセサリーでしかない。

それが分かったのか、双虎は飾り気も面白みもないそれを見て不思議そうに首を傾げた後、説明を求めるように俺の目を見つめてくる。

 

 

「お前の出番はねぇ、これは俺が託された物だ」

 

 

ただ一言そう言えば、双虎がポカンと口を開いた。

けれどそうして呆けていたのは僅かの間だけ。直ぐに気づいたんだろう。これがなんなのか。

双虎はそれを眺めながら複雑な表情を浮かべて「そっか」とだけ呟きまた月に視線を向けた。

 

 

「・・・・・かっちゃんが、継ぐんだ」

 

 

「まだ、そのつもりはねぇ。少なくとも、俺の力で頂点取るまではな」

 

 

「なにそれ、格好つけてんの?成れるんなら早くにした方が良いよぉー。ガチムチの話聞いてると即行で使えるよ、みたいな感じだけど、絶対そんな事ないから。代を重ねる毎に出力上がるなら、そもそもガチムチの時と勝手が違うだろうし━━━━あとガチムチって完全に天才型じゃん?アドバイスとか期待出来ないよ、あれは」

 

 

「分かっとるわ」

 

 

「それにさ、今はヴィランが大きく動いてるじゃん。いつ何があるか分からないんだし、使える物は早く使えるようにした方が良いって。まだ使わないんなら━━━」

 

 

「言ったろ、これは俺が託された。てめぇじゃねぇ」

 

 

それが合理で言われた事だろうが、こいつの我が儘だろうが関係はない。こいつにこれを渡すつもりはない。

てめぇの為だと良いながら、誰かの為だけに平気で危険に飛び込むような奴には、たとえどんな条件出されようと、どんな面で言われようと。

 

 

「━━━それに、もし、仮にそういう時が来ても、これを使うのは俺だ。俺の役目だ。それとも、俺の事は信じられねぇってのか」

 

 

「そんな事言ってないじゃん・・・・うん、分かった」

 

 

小さく頷いた双虎から、俺は月へと視線を戻した。

煌々と輝く、少し欠けたその月を。

 

 

 

「てめぇは、てめぇの守れる範囲で力を尽くせ」

 

 

 

「うん」

 

 

 

「てめぇの力で足りねぇなら周りの人間使え。てめぇは得意だろうが、人使うのはよ」

 

 

 

「ふふ、さいてーな褒め言葉ありがとー。でも、そうだね。そうする」

 

 

 

「それでも手が届かねぇもんは、俺が全部守ってやる」

 

 

 

ジジイが言ってた"いつか"の話じゃねぇ。

こいつが望むなら、今だろうと。

 

 

 

「・・・・・それで、かっちゃんが無理したら意味ないじゃん」

 

 

 

返された小さな声は少しだけ震えていた。

いつか聞いた物と同じように。

だから、あの時と同じ言葉を返してやった。

 

 

 

「言ったろ、怪我もしねぇよ」

 

 

 

不意に、俺の肩へ双虎が頭をのせた。

顔を動かさず目を向ければ、少し頬を赤く染めて嬉しそうに笑う双虎の姿があった。

 

「・・・・出来ない約束は、するもんじゃないと思うけどなぁ━━━━━でも、ありがとね。かっちゃん。見てるから、ちゃんと」

「・・・良く見とけ、目離さないでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あーーーお前ら、校内では不純異性交遊は認められてないからな。節度は弁えろよ」

 

そっと背後から掛けられた担任の言葉に、俺達はどちらともなく無言で離れた。

 

「包帯先生、オ帰リ、早イッスネー!ヨッ、韋駄天!疾風迅雷!新幹線!」

「適当な持ち上げ方をするな、何処の三下だ。打ち上げの方はそろそろ終了時間の筈だが片付けは・・・・明かりが落ちてるな。もう終わったのか。お前達、続けてもいいが消灯までには戻れ」

「続キ?ナンノ事ナノカ、双虎ニャン分カラナイニャン!眠イカラ帰ルニャン!!」

 

耳まで真っ赤にさせた双虎はブリキの玩具のようにギクシャクしながら帰って行った。

担任はその様子を見た後、俺に何とも言えない視線を向けてきた。視線で口を開くなと伝えた、が担任はバツが悪そうに口を開いてくる。

 

「・・・・・悪かったな」

「気ぃ、使ってんじゃねぇよ・・・・クソが」

「・・・・まぁ、なんだ、次はタイミングぐらいは計ってやる」

「次なんざあってたまるか、ボケが」

 

担任と別れて寮に帰ると、目をキラキラさせた馬鹿島を見つけたので腹いせにボコっておいた。

後悔は、微塵もねぇ。

 




次っ回━━━予告ぅ!

紳士の皮被ったベランを蹴散らし!
文化祭を大成功に導き!
か弱い女の子の笑顔を守った!

不屈の乙女力の持ち主にして!
完全!究極!天才!美少女!
希代のスーパーアイドル緑谷双虎ちゃんの元に訪れる新たな騒動の予感!

何がが大きく変わろうとするその時の中!
私はそこに何を見るのか、何処へ向かうのか!
そして私の平穏で楽勝な印税生活は果たして本当にくるのだろうか!無理な気がしてきた!



次回、第一部最終回

『危うくタイトル詐欺になりかけた私の、楽しい英雄物語』


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