私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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始まったものは必ず終わる。どんな旅もいつかは終わる。人は、その終わりにどこに辿り着くのか・・・(ガンソード味)。

シリアス「最後に人の言葉使いやがった、こいつ」
シリアル「素敵やん?」
シリアス「全然素敵ちゃうで」


危うくタイトル詐欺になりかけた私の楽しい英雄物語!の巻き

激動の文化祭から一夜明けて迎えた、文化祭の振り替え休日。

 

 

「━━━━はぁ、引退ですか?そうですか。お疲れ様です。まぁ、それは一旦おいておいて、かっちゃんがガチムチの後継ぐ気満々グースなので、わんほぉの使い方とか、個性についてその他諸々詳しく教えて下さい。どうせガチムチも良く分かってないんでしょ。期待してませんから、知ってる事だけ吐いて下さい。はよ」

「あれ!?一旦置いとかれる話してるつもりはないんだけど!?私としても結構ドキドキして・・・というか、さらっと別の爆弾投げ込まないで!!爆豪くん継ぐ気になったの!?本当に!?何も聞いてないんだけど!?」

 

 

二度寝し、三度寝し、四度寝し━━━これ以上ないくらい怠惰で優雅な朝を過ごした私は、お昼ご飯という名の朝ご飯を食べてから人気の少ない校舎を訪れた。そしてフラフラしてた暇そうなガチムチを捕まえていつもの休憩室へと直行した。

そしてそして、これまたいつものように、ほぼガチムチ専用と化した冷蔵庫から炭酸ジュースとガチムチ用にお茶を引っ張り出し、側の棚に隠してある茶菓子も取り出し、真面目なお話へと洒落込んだ次第である。

 

ガチムチの引退宣言は怪我の具合から分かりきってた事なので早々に打ちきり、右手に茶菓子を左手にジュースを構えながら、改めて昨日の出来事について順を追って説明した。一通り話終えた頃、ガチムチは「そうか、彼が」と感慨深そうに呟いてお茶を啜る。

 

「いや、そうか・・・ではないですから。何勝手に私以外にも勧誘掛けてんですか?私に一言もなしに。私、オコですからね。地味に。おかしくないですか?普通、先に私に言ってるんだから、事後承諾でも何でも一言くらいなんかありません?かっちゃんに言ったよー、託したよーみたいな」

「えっ、ああ、そ、そうだね。ごめん。確かに君にちゃんと伝えてなかったのは悪かったと思うよ。でも君は継がないと言っていたし、それに爆豪くんから直接聞くと思って・・・・」

「聞きましたよ!昨日!びっくりしましたよ!!私に掛かってたオファーがかっちゃんにも掛かってて!!しかも、もうかっちゃんやる気満々で!やっと、こっちがっ、こ、っち、が━━━━━━」

 

昨日のかっちゃんとの事を思い出すと、妙に格好良く見えたあの横顔が頭を過っていった。

そしてその後の、包帯先生に見られた迂闊な自分の姿も想像して・・・行き場のない、言葉に出来ない色んな感情が込み上げてきて、身悶えせずにはいられなかった。

 

「うがぁぁぁぁぁあああああ!ああああああああ!!はあああああぁぁぁぁぁ!!」

「!?!?ごっ、ごめん!本当にごめん!軽率だった━━━訳でもないんだけど、私もあの時は最善だと思って・・・・いや、しかし、後からでも君にはちゃんと説明するべきだった!本当にすまない!後で焼き肉奢るから!」

「・・・フグで手を打ちましょう!」

「弱い人にはトコトン強いな、君は!けど分かった!フグでも何でも奢るから!ね!」

 

フグを確約出来たので何とか心を落ち着かせ、私は改めてお話に戻った。ガチムチから「耳が真っ赤だけど大丈夫?」とか言われるけど無視する。

うるさいんじゃぁ。

 

「しかし、ワン・フォー・オールの使い方か・・・どうして君が?」

「じゃぁ、逆に聞きますけど、もし仮にそのままかっちゃんが継いで、何か分からない事が出て来たとして・・・かっちゃんが素直にガチムチから聞くと思います?」

「あーーーーー、あーー、成る程。爆豪くんは意地でも聞いてこないか」

 

聞くわけがない、かっちゃんはそういう人だ。

今ですら頂点取ってから継ぐとか言ってる意地っぱりが、個性の使い方を聞きにくる訳がない。自分の目で見て人から技術を盗む事はあるだろう。首根っこ捕まえて無理やり教えれば嫌な顔しながらも取り敢えずは聞いてはくれる。だけど、自分から頭を下げて尋ねるなんて絶対しない。かっちゃんのプライドは成層圏ぶち抜くほど高いのだ。

もう既に、わんほぉのことは実際に使えば何とか出来ると思ってそうだし・・・というか思ってる。絶対。戦闘センスが良いから、ぶっつけ本番でも割といい線いきそうなのがまたあれだ。

 

「状況が変わればかっちゃんも自分で聞きにくるかも知れないですけど・・・・何かあってからじゃ取り返しつきませんから。今は私が代わりに聞いておこうかと」

 

かっちゃんの気持ちは尊重してあげたいけど、今は悠長な事も言ってられない情勢だ。嫌でも、もしもを考えないといけない。

黒マスクが捕まってからヴィランのニュースは絶えない。おハゲや他のヒーロー達が頑張ってるのも同じくらい聞くけど、それでもヴィラン絡みの事件の話を聞かなかった日はない程、世の中は悪い方へと流れてる。これからの情勢が悪化するのは目に見えてる。

当然それはガチムチの身の危険に直結するだろう。この人程ヴィランに恨まれてる人もいないのだから。ヴィランが活性化している今、怪我を理由に引退するなら尚更狙われるようになる。ガチムチの周囲にはそれなりの警備網が敷かれてはいるが、最悪の結果を迎える可能性だってゼロじゃない。

静かに私の話を聞いたガチムチは「面目ない」と言って困ったように笑った。

 

「考えてなかった訳ではないけれど・・・そうだね。少し甘かったかも知れない。分かった、知ってる事を話すよ。機会を見計らって伝えて欲しい・・・・しかし、爆豪少年の代わりにか。君も素直になったものだね」

「はぁ?何ですか、それ。私はいつも自分に正直に生きてるつもりなんですけど?」

「HAHAHA、そうだね。そうだったよ、君は。これからも爆豪少年の事よろしく頼むよ。私に言われるまでもないんだろうけどさ」

 

そう言うとガチムチはニッと笑った。

何か勘違いされてる気がしないでもないけど、言われてる事は特別否定する内容ではないので同じ様に笑顔を返しておく。まぁ、笑顔の価値は私の方がなん十倍も上だけど。いや、なん百倍かな。私だけはスマイル百万円は貰ってもいい気がする。可愛い過ぎるもん。

 

「・・・あっ、それと私の引退についてなんだけど、今はまだオフレコって事でお願いね。当然先生達は皆知ってるんだけど、世間への発表はビルボードの時になるし、生徒達が聞くのもその発表の少し前の予定だから」

「はいはい、りょでーす。誰にも話ませーん。ナイショしときまーす。それよりフグはいつ行きます?今日?」

「君にとって私の引退はフグに負ける話題なのか・・・・何だろうな、悲しい。あと、今日は行かないからね」

 

それからガチムチ話す事暫く。

聞きたい事を聞き終えて寮へと帰ってる途中、書類がめちゃめちゃ詰まったバインダーを抱えた包帯先生に出会ってしまった。やる気のないその目でじっと見られると、今日は本当に何も悪い事してないのに体が震える。あっ、いや、いつも悪い事はしてないけども。

 

「・・・・あー、緑谷、昨日は悪かったな」

「はぁ!?何ですかいきなり!や、止めて貰えます!?謝られる事なんてありませんし!ていゆーか!そういうの逆に気になって、今夜も眠れなかったらどうしてくれるんですか!?寝不足は美容の敵なんですよ!?」

「眠れなかったのか、お前・・・・そうか」

「眠りましたぁぁぁぁ!四度寝してやりましたけど!?包帯先生が忙しく働いてる時間も寝てやりましたけども!?」

「分かった、この話は終わりだ」

 

これ以上何か言われては堪らないと思い、話が終わり次第ダッシュでその場を後にしようとしたけど━━━何故か包帯に絡めとられ強制的に止められた。

まだ何かあるのか振り返れば、「お前に関わる事で少し話がある。今時間はあるか?」と眠たそうな顔で言われる。色々と心当たりが頭を過るが、経験上こちらから何か言って上手くいった試しはないので黙って頷いておいた。

 

そうして包帯先生から聞いたのはエリちゃんの事だった。

 

「えっ?!エリちゃんウチの寮に住むんですか!?」

「ああ、その事について先程校長先生から最終決定の通告を頂いた。ウチの寮で預かる事になる」

 

身寄りがないエリちゃんが退院後どこに行くのか気にはなってたけど、まさかウチに来るとは思わなかった。個性の特異性を考えれば、研究の為に大学病院みたいな所に入るのかなぁ━━━とか考えてただけに驚きだ。

詳しく聞けば病院で検査したもののエリちゃんの個性は未だに謎だらけで、抑える方法も包帯先生の個性しか今の所は見つからなかったらしい。制御の出来ない個性に病院からそろそろ限界だと泣きつかれ、関係各所と協議を重ねた結果うちの校長の鶴の一声で雄英高校が保護する事になったそうだ。で、具体的に何処に住まわせるの?ってなったのを今しがた決めたらしい。

 

「まぁ、そういう訳だ。基本的に彼女の世話が俺が見るつもりだが、時と場合によってはお前の助力を求める事が━━━━」

「りょでーす!皆で面倒見まーす!そうとなったら歓迎会しないと!ひゃっほーーーー!」

「━━━━待て待て。話は終わってない、止まれ」

 

皆に報告する為に走り出したらまた包帯で止められた。

本日二度目の強制停止、しかもさっきやられたばかり。幾ら寛容が服を着て歩いてると称される私も、流石にこれには全力オコ。なので感情のままきっと睨み付けてやった━━━━━やったんだけど、向けられていた静かな視線が怖かったのでテヘペロしといた。ジョーダンっすよぉ!

 

「すみませんした!うっす!包帯先生の包帯の中にトイレットペーパー挟んだの私です!さぁせんした!」

「あの時のはお前だったのか・・・・そうだろうとは思っていたが。まぁ、良い」

 

そう言うと包帯先生は拘束を解いてくれた。

お説教だとばかり思ってたので改めて表情をよーく伺ってみたが━━━━分からない。包帯先生、表情に乏しい。前から思ってたけど、この人分かりづらい。私の人生の中で一二を争うレベルで分かりずらい。まぁ、怒ってなさそうではあるけど。

 

「・・・・取り敢えず、文化祭は良くやった。エリちゃんの事も含めてな」

「えっ、あっ、は、はぁ・・・・」

「最近の授業態度も若干ではあるが改善が見られる。改善する余地はまだ幾らでもあるが・・・いきなり全部をきっちり直せというのも酷な話だ。習慣はそう簡単に直らない。そのまま継続する努力をしろ、今はそれで良い」

「へ、へぇ、えっと、が、がんばりまーす・・・?」

 

多分褒められてるんだろうけど、全然その気にならない。声の感じとか視線の鋭さで、新手の説教にしか思えない。あれ、褒められてるんだよね?これ?えっ?なにこれ新しい説教?

 

何を企んでるのか探ろうと思ってたら、バインダーで頭を軽く小突かれた。

 

「この一ヶ月でのお前の努力を認める。だが、二度目はないぞ。良いな?」

 

それが何に対してか、包帯先生は言わなかった。

だけどその顔を見れば言いたい事は何となく分かってしまった。隠し通せるつもりだったけど、やっぱり爪が甘かったらしい・・・それとも事が済んだからガチムチが話したのか。どちらにせよ、今回のヴィランの件について知ってるっぽい。

 

「・・・えーっと、やっぱりガチムチですか?」

「最終的にはオールマイトから説明はあった。だが、それだけという訳でもない・・・・お前が思ってるより、周りはお前を良く見ているという事だ。よく覚えておけ」

 

そう顰めっ面で言われて、思わず笑い声をあげるとまた頭をポカっとされた。

 

「忙しい中での特別課外補習、怪我せずに良くやった。だが、これも日頃の行いの悪さが招いた事。今後は真面目に授業を受ける事だ」

「特別課外補習・・・・ふふっ、無理ありません?」

「そう思うなら今回限りにしろ。俺も校長先生もどれだけ気を揉んだか・・・・さっきも言ったが、二度目はないぞ。肝に銘じておけ」

「あはは、はーい」

 

包帯先生は呆れたように溜息をついて背中を向けた。

そして数歩歩いた所で急に立ち止まる。

余計な事を思い出したのか!?と身構えたけど、振り返った包帯先生の目に怒りはなかった。ホッとしてると包帯先生が口を開く。

 

「・・・・・緑谷、ヒーローと関わる以上、これからも多かれ少なかれこういった面倒は付きまとう。特にお前は目立つ奴だからな。それでも、お前のやりたい事は今も変わらないか?別の道もお前にはある」

 

それがどういう理由で言われたのか分からない。

だけど少し心配そうな眼差しに、USJで包帯にされた質問を思い出した。あの時もこんな感じの事を聞かれた気がする。色々と言葉が頭に浮かんだ。殆んど言い訳みたいな、誤魔化すものばかり━━━━だけど、結局口を出ていったのは別の言葉だった。

 

 

 

「私、ヒーローになります」

 

 

 

その言葉を聞いて目を見開く包帯先生に、私はニッと笑ってみせた。

僅かな静寂が訪れた後、包帯先生は少しだけ優しい色を瞳に浮かべると前を向いて歩き始めた。

 

「━━━━それなら、まずは進級出来るように努力しろ。話はそれからだ」

「はい、努力し・・・・えっ!?私、進級の危機なんですか!?」

 

聞き捨てならない台詞に質問を投げたが、包帯先生はどんどん廊下の向こうへと行ってしまう。

 

「あれれれのれ!?先生ぇ!あの、私の進級って!?」

「今日はゆっくり休め」

「休めじゃないですよ!ちょっと、いかないで!行かないで先生ぇ!!どーゆーこと!?進級の危機なの!?私ぃ!?テスト頑張ったじゃないですか!ちょっ、包帯先生ぇ!包帯先生ぇってばあああぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、夢を見た。

かっちゃんと会ったばかりの頃を再現したような夢。

相変わらず偉そうにヒーローごっこへと誘う小さな手に、私はあの頃重ねられなかった自分の手を重ねた。それで何か変わる訳じゃない。現実は変わらない。

だけど、掴んだその小さな手は、夢の中でも力強くて温かかった。

 

 

『━━━━━らしくない選択だ。君は本気で、そちらに行けると思ってるのかい?』

 

 

何処からともなく低い男の声が聞こえた。

公園だった場所は真っ暗に淀んで息が苦しくなる。

だけど、もう体は震えなかった。

 

小さな手に引かれるまま、私は真っ暗な闇の中を歩いた。遠くに見える・・・小さな、本当に小さな明かりに向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第一部【完】!!

という訳で、取り敢えず最終回です。
約一年もの間お付き合い頂いた皆様、ちょっと覗きにきて頂いた皆様、感想書いて頂いた皆様、応援してくださった皆様、読んで下さってありがとうございます。本当にありがとうございます。
自分で読み返すと、はぁぁぁぁぁぁ!!ってなる駄文も駄文ですが少しでも楽しんで頂いていれば幸いです。

元々ヒロアカを読んでいた際、出久が女だったら割りと二人の関係って丸く収まるくね?みたいな思いつきから始まり、ただの女の子だと苛められてしまうだけでは?それは可哀想やん……なら色々と高スペックな天才にしとくか!逆にかっちゃんの鼻へし折るか!とこれまた思いつきで書いたお話でした。
そんな行き当たりばったりな感じなので当初は雄英高校に入る前で完結する短編の予定でした。その後は皆さんのご想像にお任せします~と失踪する手筈だったのですが、それがこんなに続ける事になるとは………振り返るとはくびしんもビックリです。

その後も神野やオバホで失踪しようかと企んでいましたが、なんやかんやここまで書いていました。気がついたら話を考えてて、習慣って恐ろしいですね。

この後の展開についてある程度プロットは出来ているのですが、原作の急展開っぷりが怖いので様子見させて下さい。ここから先は迂闊に踏み込んだら舵取り出来そうにないので(泣)。
もういっそ完全オリジナルストーリーに切り換えてエンディングまで突っ走る事も考えたのですが、やっぱり堀越先生の原作から離れ過ぎるのは嫌なので仕方ないね(既に取り返しつかないレベルで改変済みの作者)。今後の原作の展開によっては、次の映画編で完結させる可能性もありますが・・・・まぁ、なんにせよ、原作がもう少し進んで急展開地獄が落ち着くまで再開は未定です。
もうちょっと続いたんじゃよ、とはやりたいので恐ろしく気の長い人は待って頂けたらと思います。

ではでは、はくびしんのつまらない話もこの辺りで。
繰り返しになりますが、この物語にお付き合い頂いた皆様本当にありがとうございました。


PS.僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジングBlu-rayで予約しました。キメラの兄貴が脳裏に焼き付くくらい見ます。

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