私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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すまん、続いた(;・ω・)
じ、次回こそ、終わるからっ!


はろーはろー!聞こえてますか!私はただのウルトラストロングスパーキングギャラクシー美少女!なんてね!なんで無視するの?ねぇ?ねぇってば!!聞けよごらぁ!のifの巻き④

「ニコちゃーん!朝だよー、朝御飯行くよー!」

 

お茶子の声が廊下から響いてくる別世界8日目の朝。

夏の蒸し暑さと元気なお茶子の声に目覚めた私は、寝ぼけ眼を擦りながら時計を確認しようとして━━━━それに気づいて動けなくなった。

 

「・・・・・」

 

なんか、隣に、かっちゃんおるんだけども。

大胆不敵に同じ布団で横になってる奴は、私から奪ったタオルケットを当然の如く被り、静かな寝息を立ててる。腹立つほど気持ち良さそう。

頬っぺたをつついてみたけど、少し眉間にシワを寄せただけで起きる気配はない。フッと耳元に吐息を掛けてればかっちゃんは体をブルリと震わせる。そして不機嫌そうに寝返りをうったがやっぱり起きない。

隣の存在が目に入った瞬間は、遂に寝込みまで襲いにきたのかと思って百万回殴り飛ばそうと思った。ちん●もぎ取ってやろうかと思った・・・思ったんだけど、襲いにきたにしては間抜けな顔してるし、てか寝てるし、それになんか昨日突っ掛かってきたのと雰囲気が違う気がして、私の手は気がつけば止まっていた。

 

「ニコちゃーん?聞いとるー?」

 

外からお茶子の声が聞こえる。ついでにドアもコンコンとノックされ始めた。

すると、そんな元気な音にかっちゃんの肩がピクリと跳ねた。何となく起きる気配を感じてドキドキしながら身構えていると、ムクリと起き上がったかっちゃんが眠たそうな目でドアの方を睨みつける。

 

「ちっ、ぅっせぇな・・・・何騒いでんだ、あの丸顔は・・・・・・あぁ?」

 

かっちゃんは乱暴に自分の頭をかきむしり━━━ふと私の姿を見て止まった。時が止まったかのように瞬き一つしない。なんなら呼吸も止まってそう。

 

「・・・・おはよ?」

 

そう声を掛けるとかっちゃんは目をパチパチさせた。

それから直ぐ不機嫌そうに眉間にシワを寄らせ、何か言いたげに口を開き掛けたんだけど━━━ここが自分の部屋でない事に気づいたようで、険しい表情を浮かべて静かに身構えた。

 

「状況説明しろや。てめぇが把握してる事で良い」

「あっ、かっちゃんだ」

「あぁ?何寝ぼけた事言ってんだ?それより説明しろや。時間がねぇ、手短に━━━━」

 

かっちゃんの声を遮るように勢い良くドアが開いた。

瞬間かっちゃんが私の体を庇うように抱き寄せ、入口の方へ向けて掌を翳し迎撃体勢を取る。

 

騒がしく乗り込んできたのはお茶子とあしどんを始めとした女子ーズの皆だった。纏う雰囲気や浮かべた表情を見れば、皆が私を心配してこうして来てくれたのが伝わってくる。

 

そんな皆の姿にかっちゃんも安堵の溜息をついた。

どんな想定をしてたのか分からないけど、今の状況がかっちゃんにとって想定以下だったのは間違いないと思う。

 

「はぁ・・・てめぇらか。驚かすんじゃ━━」

 

かっちゃんが手を下げると同時。

下がったその右腕には梅雨ちゃんの舌が、左腕には百の手元から伸びた鎖付きの手錠が音を立てて絡まる。

 

「爆豪くん最低や!!幾ら勝てへんからって、寝込みまで襲うなんて!!元からあれやったけど、今回はほんま見損なったわ!!」

「幾らめちゃくちゃやっても、それでも最低限やっちゃいけない事くらい分かってると思ってたのに!!最低だよ!!爆豪!!」

「本当サイテーだよ!!爆豪くん!!恥を知りなよ、恥を!!この恥知らずぅ!」

「本物の恥知らずが言うと違うね!!爆豪動かないで!!一応クラスメイトなんだし、ウチらもあんまり乱暴にしたくないけど・・・でも、抵抗するなら手加減出来ないよ!!」

「爆豪さん!!神妙になさって下さい!!言い訳は相澤先生が来てからゆっくり聞きますわ!!」

「けろぉ!!」

 

「あぁっ!?んだ、てめぇら━━━━ぐぅぬ!?止め、この、糞共がぁぁぁぁぁ!!」

 

怒りの表情を浮かべた女子ーズの尽力によって、かっちゃんは大した抵抗をする暇もなく捕まった。

ヒーロー科の生徒の本気を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かっちゃんが女子ーズの独断と偏見によって現行犯逮捕され、包帯先生達に連行されてから暫く。

午前中の訓練を終えた皆と寮で冷やし中華(きゅうり抜き)を食べてたら、げんなりした顔でかっちゃんは帰ってきた。何を聞かれたのか軽く聞いたら殆んど私と同じ内容だったみたい。それに加えて私に何もしなかったのかしつこく聞かれたそうだ。包帯先生から、それはしつこく。まぁ、何もないんだけど。

かっちゃんがこの世界に来た理由に関しては不明。本人も特に心当たりはないそうだ。昨日の夜、かっちゃんの不幸を軽く呪ったのでそれが原因かと思ったけど、そんな願った程度で時空を越えられる訳もない。一応かっちゃんに話してみたが、私と同じ様に「んな訳あるか」と否定してきた。だよね。

 

「━━━━にしてもよぉ、そっくりだな」

 

私から少し離れた所で男達に囲まれながら冷やし中華(きゅうり入りという狂気の産物)を啜り始めたかっちゃんに、こっちの切島がぼやくように言った。

特に深い意味はなさそう。

 

「っせぇ、てめぇも向こうと変わんねぇ馬鹿面してやがって。ややこしい、面変えろや」

「無茶言うなよ。こういう所はどっちも変わらねぇなぁー、横暴っつーかよー。爆豪・・・つーと、こっちの爆豪もいるしな、あー、勝己って呼んで良いか?」

「ああ?同じ顔だからつって調子乗んな、勝己様だ。クソ髪が」

「おう、勝己様だな。よろしくな、勝己様!」

 

切島の一言を切っ掛けに、男子共が悪のりで勝己様コールを始めた。だけど突っ込まない。誰も突っ込まない。かっちゃんに至っては、さも当然のような顔してふんぞり返ってる。

 

「また偉そうにしちゃってさ、ちょっと遠慮とかないんかね?ね?皆?」

 

「ニコちゃんがそれを言うの?ニコちゃんが?」

「あんたがあそこにいたら間違いなく、受け入れてるでしょ。同類だよ、あんたは」

「寧ろニコならもっと欲しがるんじゃない?コール」

「そんで私はコールしちゃう側だよね!ひゅー!」

「双虎さんですしね」

「けろ」

 

おっと、一人も味方がいない。

さっき駆けつけてくれた時は、めちゃくちゃ心配してくれたのに。ベストフレンドと言って言い程の絆的なモノを見せてくれたのに。

仕方ないのでかっちゃんにヘルプしたら、真顔で「てめぇの自業自得だろ」と冷たく言われた。こ、こいつぅ。

 

そんな風に和気あいあい楽しくお昼ご飯を食べてると、不意に何かがへし折れる音が聞こえた。見れば真っ二つに折った箸を手にした、こっちのかっちゃんが鬼の形相でそこにいた。見つめる先は勝己様。

 

「てめぇ、こっちが黙って見てりゃ・・・俺と同じ様な面しておきながら、クソ女程度にへこへこしてんじゃねぇぞ?ああ!?」

 

そういうとこっちのかっちゃん、略してこっちゃんが私を睨んでくる。ムカついたので睨み返そうとしたけど、視界を遮るようにかっちゃんの掌が割り込んできた。

 

「━━━━ああ?誰が同じ様な面だ。一緒にしてんじゃねぇよ。俺はてめぇみてぇに、頭悪そうな面してねぇわ。鏡でも見返してこい、ボケが」

「ああ?!んだと、てめぇ!!ぶっ殺されてぇのか!?」

「はぁ、キャンキャンるっせぇな。てめぇこそぶっ飛ばされてぇのか?ああ?」

 

こっちゃんの言葉に対してあまりに偉そうに返すので「かっちゃんも、大体こんなもんだけど?」と私は親切から教えてあげた。なんか睨まれた。

 

剣呑な雰囲気を漂わせる二人の姿をおかずに、私は冷やし中華を食べるのを再開。ズルズル麺を啜りながらこれからの事を予想してみる。一、口喧嘩。二、殴り合いの喧嘩。三、個性も使った殺し合い。四、話し合いで解決。和解・・・・因みに一番有り得ないのが四。

まぁ何を選択した所で、あのかっちゃんが負ける事はないだろうし、こっちゃんの弱さに気づいたら手加減するだろうしで、どうなっても大事になる事はないと思うが━━━━とか、思ってたら心配した出久が二人の間に割って入っていった。優しいことは悪い事ではない。だけどそれも時と場合を考えないと、だ。二匹の猛獣の前に、ボケボケした羊が割り込んだらどうなるかなんて分かりきってる。だから引き寄せる個性で逃がそうとしたけど、私の心は冷やし中華に夢中でつい出遅れてしまった。

二人の拳が顔面にめり込み鈍い音が響く。出久の鼻から真っ赤な血を噴き出す。

 

「邪魔してんじゃねぇ!!クソデクが!!」

「んだ、このオタク臭ぇ陰毛野郎は。邪魔すんな、ぶっ飛ばすぞ」

 

もうぶっ飛ばしてるんだよなぁ。

しかしあれだな、向こうのかっちゃんも出久とは相性悪いらしい。よもや会って数時間で顔面パンチするとは。

それから程なくして二人は殴り合いの喧嘩を始めて、当然の如くこっちゃんをかっちゃんが捩じ伏せた。

そしてこっちゃんのギラついた目は、めでたくかっちゃんへと向いたのであった。

 

「てめぇ!!午後の訓練で面貸せや!!!」

「ああ?んだ、この糞雑魚が!こっちが優しくしてやりゃ付け上がりやがって!!イキッてんじゃねぇぞ!!ぶち回すぞ、ごらぁ!!」

 

よし、頑張れ。かっちゃん。

私の分も。

 

 

 

 

 

派手に爆発音が鳴り響いてく午後。

訓練場にて出久にプロレス技を教えてると、ガリガリモードのガチムチが顔を出してきた。向こうと同様に黒マスクとの戦闘で負傷したのか、頭に巻かれた包帯やら体の所々に貼られた絆創膏やらの治療跡が目につく。

首から下がるアームホルダーの中には包帯グルグル巻きの腕も見えた。しかし骨折まで一緒とか・・・・ごめんだけど、ちょっとキモいな。このシンクロ力。

 

「やぁ、緑谷少年。特訓の方は順調かな?」

「あっ、オールマイト!」

 

出久は残像を残す勢いでガチムチの声に振り返った。

浮かべた笑顔はオヤツを差し出された犬のようにキラッキラだ。出久はやはりホモであった。

そんな出久の様子に苦笑いするガチムチは、私に気づいたらしくフラフラと近寄ってきた。

 

「誰に指南を受けてるのかと思えば・・・・君が噂になってる女の子かな?平行世界から来たっていう」

「ちわーす、緑谷双虎でーす。人呼んでアイドルの究極系、ブラックホール級の魅力であまねく人々を惹き付け遂には銀河すら虜にした、可愛いが過ぎるスーパーギャラクシーキングオブキング美少女。気軽に双虎にゃん様って呼んで下さい」

「そ、そっかぁ、成る程。アイドルで、ブラックホールね。そしてスーパーキングオブ、ふむふむ、成る程成る程・・・・いや、ごめん分からないよ。えっーと、緑谷双虎ちゃんで良いのかな?」

「双虎にゃんです。ガチムチ・・・トッシー」

「こだわりが分からないよ・・・トッシー?」

 

困惑するガチムチことトッシーに手招きした。

首を傾げて耳を近づけてきたトッシーに、私は気になってた事をそっと聞いてみる。

 

「何で出久に渡したんですか、個性。苦労するの目に見えてるじゃないですか?新手のイジメ?そうじゃないなら、幾らなんでも考えなし過ぎません?」

「!?えっ、こっ、えっ!?!?緑谷少年から、聞いっ、あぁっ、ごほん!ごほほ!いっ、いや、なんの話かな?」

 

キリッとした顔で返してきたけど、態度が既に取り繕えてない件。取り敢えず出久は特訓の担当であるお化け先生に任せて、トッシーを引き摺って訓練場の隅っこに移動。包帯先生が少し離れた所から見守る中、お話し合いという名の尋問を開始した。

 

「━━━━そうか、そっちの私は君に・・・まさかこんな可愛い女の子に継がせようとするなんて、向こうの私は一体何を考えているのか」

 

神妙な顔で、トッシーはフルスイングでブーメランを投げた。戻ってきた鋭利な切っ先がトッシーの頭に刺さる幻影が頭に浮かぶ。

 

「あの、盛大なブーメラン投げ放ってますけど大丈夫ですか?帰ってきてますからね、戻ってきたブーメラン頭に刺さってますよ。自覚して下さい、こっちのトッシーも向こうのガチムチと変わらないですからね?大概なんですよ?ただでさえイカれた個性なのに、普通の、無個性の、特に身体能力が高い訳でもない凡人に普通継承します?どうせ心がどうとか言うんでしょう?分からなくはないですけど、それ以前の問題ですからね?百万歩譲ってそれは置いときます。でも今の放置っぷりはおかしいでしょう?出久の傷痕みればどれだけ無理させてるか分かりません?なんでちゃんと指導しないんですか。個性の特異性考えたらそれこそマンツーマンで育てなきゃ駄目でしょ。贔屓とか気にしてる場合じゃないですよ?そもそもあれですよ、運良くああして生きてますけど、一つ間違えたらパァンってなってますからね。体パァンって。その個性持ってるトッシーが一番知ってるでしょ。何考えてんですか。師匠でしょ、トッシーは」

「えっ、あっ、ああ、う、うん。そうだね、その通りだ。申し訳ない・・・というか、そのトッシーって私の事なの?あと、さっきからたまに話に入ってくるガチムチってまさか━━━あっ、何でもないです」

 

姿勢については特に何も言ってないのに、トッシーは静かに正座した。まるで母様に叱られる私のようである。ちょっと優しくしてあげたくなる。しないけど。

 

それから少し話を聞いてみたがこの男・・・本当に何にも教えてないらしい。元より出久から話を聞いてたので期待してなかった。何せ出久から聞いたトッシーから教わった事は基本的に授業でやった事ばかりだった。聞いた時は本当、あまりの惨状に叫びたくなった。それ私も授業でやってってからぁぁぁ!!って。この筋肉の塊が教えなくても、他の先生でも教えられる事だからぁぁ!!って。

個性についてなら何かと思ったけど、出久の聞いてると現状私が知ってる事と大差ない事にも気づいてしまった。あれだけ特殊な個性なのに、正式に継いだやつと知識が変わらないって異常だ。向こうでも教えるの下手っくそだなぁとか、言葉が足らないなぁなんて思ってたけど、こっちもそのままポンコツだとは思ってなかった。

まぁ、トッシーの言葉を全部鵜呑みにして、ガンガン聞かなかった出久にも問題はあるんだけども。出久は勝手に自己完結する所あるし。

 

とにもかくにも過去の事をあれこれ言っても仕方ないので、この数日の間で私が見て気づいた事を教えておいた。何が出来なくて、何が足りないのか。大体は私が言うまでもなく、お化け先生や包帯先生辺りはある程度気づいていそうだけど、やっぱり出久の個性の特異性を踏まえた上でじゃないと分からない事もあると思うから。一通り伝えた終えた所で、トッシーは不思議そうに聞いてきた。出久の世話を焼く理由を。

別に答えるつもりはなかったんだけど、矢鱈とトッシーが真剣な目をしてたので一言だけ返しておく。

 

「別の世界とはいえ同じポヨポヨから産まれた弟みたいなもんだから、ちょっと応援してあげよっかな?って思ったのが一つ・・・・後は、私はいつまでもここにいるつもりはないので」

 

私の言葉にトッシーは目を丸くする。

それから口元に手をやって何かを考えるような仕草をしたトッシーは━━━━ふと、笑った。

 

「何となくだが、君を選んだ理由が分かった気がするよ。約束するよ、緑谷少女。彼をきっと立派なヒーローにしてみせる。もしその時が来ても、君は振り返らず進んで欲しい・・・・きっと、向こうの私もそれを望んでいる筈だ」

 

そう言って差し出された手に、私も手を伸ばしてた。

握ったそれは骨ばっていて細くて、けれど沢山の傷に覆われた固い意思の籠った力強い手だった。

私が良く知ってる、あの人達と同じ様に。

 

「頑張って下さい。マジで。トッシーは先生なんですからね」

「HAHAHA・・・はい」

 

力ない返事が返ると同時、また大きな爆発音が響いてきた。訓練にしては明らかにやり過ぎを報せる豪快が過ぎる爆音。喉が張り裂けんばかりの怒号、誰かの悲鳴や焦ったような声も響いてくる。ちょっと音のする方をチラ見してみれば、黒い煙が立ち上る場所とそこへ向かって駆け寄っていく包帯先生達の姿が見えた。

私と同じ様にそれを見たトッシーの眉は困ったように八の字になり、私はいたたまれず静かに目を逸らした。

 

「・・・・取り敢えず、彼らを止める事から始めるとするよ」

「頑張って下さい。マジで」

「うん・・・・緑谷少女、物は相談なんだけど」

「やです」

「うん、そうか・・・・そうだよねぇ・・・」

 

深い溜息をつき爆煙が立ち込める場所へ向かって歩き出したトッシーの背中に向かって、私は胸の所で十字を切った。どうかトッシーに幸運を、と。

 


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