私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
しかし、取り敢えずこれで一段落。
お付き合い頂きありがと。
次回、バットエンドifを一つ置き逃げします。
すまんな、思い付いてしもうてん。
午後の訓練も終えて迎えたその日の夜。
こっちゃんの世話をかっちゃんがしてくれたお陰で大分時間が余った私は、いつもよりちょっと長めに湯船に浸かってさっさと寝間着に袖を通した。初日から一緒にやってきた相棒、にゃんこの着ぐるみパジャマである。今日も今日とてキャワイイが過ぎる。
私としては夕飯までそのまま部屋でのんびり過ごすつもりだったんだけど、ニコニコした女子ーズの皆に拐われるように共有スペースへと連れ出されてしまった。
そして百お手製のアイスティーと砂糖ニキのお菓子が用意されたかと思えば、向こうのかっちゃんのエピソードを要求された。なんか取り調べを受けてる気分になる。
「・・・・て言ってもなぁ、大体話しちゃったしなぁ」
連日開かれてるパジャマパーティーを思い出しつつ紅茶を上品に嗜みながら言うと、向かい側で手を組んで座るあしどんが唇を尖らせた。
「うっそだー。まだ何かあるでしょ?」
「ないない、一通り話しちゃったってば」
「からのー?」
「ないっつーに」
しつこいっと、あしどんのオデコをペチってやれば「ふにゃぁ」とか言って隣に座る葉隠へ凭れ掛かるように倒れた。
「くそぉー、私はここまでのようだぁ・・・・葉隠ぇ、後は頼んだ、ぜ━━━━━がくっ」
「そんなっ、三奈ちゃん!やだよ、目を開けてよ!私一人置いていかないで!三奈ちゃん!三奈ちゃぁぁぁぁぁぁん!!くそぅ、こうなったら私が仇をとって見せるよ!!さぁ、ニコやん!動くな手をあげろ!そして吐くんだ!胸きゅんエピソードを詳しく!!」
演技下手くそか、三文芝居にも程がある。
けれどその心意気は嫌いじゃないので、演技を披露してくれた葉隠には半分本気のしっぺをプレゼントした。
葉隠はあしどんの比ではないほど悶絶し、あしどんは額に汗を浮かべて葉隠から距離をとった。
まっこともって、ざまぁである。
「━━━━でもさぁ、ウチもあの角の取れた爆豪は目を疑ったわ。ニコへの態度とか見るからに甘いしさ。思わず鳥肌たったっての。何したらああなんの?」
無様な二人を眺めながらお菓子をポリポリしてると耳郎ちゃんがそんな事を聞いてきた。
するとそれに続いてお茶子達も口を開く。
「朝は思いっきり勘違いしてもうたけど、思い返してみれば凄い自然に庇っとったしね。こっちやと攻撃!攻撃!攻撃ぃぃ!!見たいな感じやのに」
「けろけろ、こっちの爆豪ちゃんは救出訓練とか避難誘導訓練とか大嫌いだものね」
「それでも授業はちゃんとこなしますし、成績自体は良いのですが・・・・やはり心構えという部分は首を傾げてしまいますわね。ヒーローを何だと思っているのか。まったく困ったものです」
あれやこれやと私抜きでお喋りは続いた。
そして女子ーズの間でかっちゃんの株が高騰し、こっちゃんの株が下落していく。まさか平行世界にきてモテ期とは、恐れいったでござる。
けど実際のところは戦闘能力以外、中身はあんまり変わらないんだけどな。あの二人。一見するとこっちゃんより落ち着いて見えるけど、性格とか言動とか変わらんよ?割と糞のまんまだよ?うーむ、不思議だ。
「ねぇ、ニコとしてはどうなの?二人見比べてみてさぁ」
「そうだよ!どうなのどうなのー!」
そう言って口元を楽しげにニヨニヨさせながらあしどんは私の顔をぐいっと覗き込み、それに便乗した葉隠が肩を掴んでゆさゆさしてくる。答えないと解放してくれなさそう。
「そりゃ、知らないかっちゃんより、知ってるかっちゃんの方が私は良いよ。愛着もあるし」
「ほほーー!」
「ほほぅ!」
ほほぅ、じゃないわ。ほほぅ、じゃ。
消去法で選んだだけで、恋愛脳共が喜ぶ系の話じゃないから。目をキラキラさせるんじゃない、こら。何きゃーきゃー言ってん!?違っ、頭の中で私とカップリングさせるんじゃない!!何だって私がかっちゃんと付き合わにゃならんのじゃ!!良かろう!!その曇った目を覚まさせてくれるわぁぁぁぁ!!
それから暫く、私は語った。熱く語ってやった。
如何にかっちゃんが彼氏として失格か、如何に横暴なうんこ野郎なのか━━━覚えてる限りの思い出を・・・いやっ、忘却の彼方にしまい込んでた記憶をも引っ張り出して全力で語ってやった。よくやく来た、かっちゃんのモテ期を叩き潰す気で。
「━━━━そしてかっちゃんは!あろう事か、私の教室に乗り込んできてチョコ要求してきた訳!!信じられる!?こっちがさ!アホな幼馴染の元にようやく来たモテ期を潰さないように、学校で渡すの止めておいてあげてたのにさ!それを態々自分から来ますかね!?少し考えれば分かるじゃん!!私みたいなアルティメット天才美少女からチョコ貰ってる姿みたら、大抵の女子は退いちゃうでしょ!だから面倒だけど気を使って━━━ったぁ!?」
「何を話してンだっ、てめぇはッッッ!!」
話が乗りに乗ってきた所で、不意討ちで頭を思いっきりひっぱたかれた。べりー痛い。知能指数が減った。二は確実に減った。
痛みに堪えながら振り向くと、額に青筋を浮かべたかっちゃんがいた。延長してこっちゃん達と戦闘訓練してた割に大きな怪我はなさそう。小さな火傷や擦り傷は一杯あるけど。
そんなかっちゃんの後ろには訓練に参加してた男連中の姿があった。軒並みボロボロだったけど、取り分け出久に背負われてる白眼剥いたこっちゃんが重症っぽい。またアホみたいに限界突破したのだろう。
しかし何がこっちゃんにここまで頑張らせるのだろうか。かっちゃんとは別の次元で謎だ。
「ま、いっか。取り敢えずお帰り、かっちゃん。あのね、夕飯はハンバーグらしいよー。良かったら、半分食べてあげよっか?うん、分かった。任せんしゃい」
「何が分かって、何を勝手に任されてんだ。くれてやる訳ねぇだろ、この馬鹿が。大人しく自分の分だけで我慢してろや」
「えへへ、ありがとー」
「だからっ!!俺が渡す前提で話を進めようとすんじゃねぇつってんだろうが!!このボケ!!」
「あんなゆーて、結局オカズあげるんやろなぁ」
「けろっ、あの様子だとそうなりそうね」
「口の悪さは変わりませんが、あの方明らかにニコさんに甘いですものね」
「らぶだね」
「アオハルだね」
「駄目だ、ウチあれ慣れないわ。鳥肌治まんない」
「ぶつくさうっせぇぞ!!クソ女共ぉ!!ぶちのめされたくねぇなら黙ってろや!!」
「ああやって元気に怒鳴ってっと、俺達のよく知ってる爆豪なんだけどなぁ」
「正直、気味悪ぃからな。あの爆豪」
「うわぁ・・・・かっちゃんが、あのかっちゃんが」
「ぶん殴られ足りねぇのか!!クソ雑魚共ぉ!!」
ほらね、かっちゃんでしょ。所詮はこんなもんよ。
さぁ、皆で見損なうが良いわ。ぬははは━━━━ったぁ!何でデコピンしよった!?なに喧嘩売ってん!?上等だよ、この爆発頭ァ!!
殴り合いの喧嘩を制し、ハンバーグ多めの夕飯を終えた後、何事もなく消灯の時間を迎えた私だったが、ちょっと野暮用があったのでこっそり窓から夜のお出掛けした。まぁ、外出とはいっても雄英の厳戒態勢状態のセキュリティぶち抜いて校外へ、とかじゃない。行き先は同じA組寮にある男子棟。そこに臨時で用意されたかっちゃんの部屋だ。
幾つかのベランダを伝って進む事少し。
特に大きな問題もなくかっちゃんの部屋のベランダに辿り着いた。カーテンの締め切られた部屋に明かりはない。それに窓越しから耳を澄ましてみたけど妙に静かだ。もしや寝てる?消灯から一時間も経ってないよ?早くね?
そっと窓に手を掛けてみると、鍵が掛かってなくてスルスル開いてく。無用心だなと思いながらカーテンを開いて顔を突っ込んだから「おい」と不機嫌そうな声が聞こえた。声の方を見れば安っぽい布団の上で胡座をかく、夜でも絶好調で眉間にシワが寄せたかっちゃんがいた。
「やっほ、起きてるなら起きてるって言ってよ」
「っせぇわ。てめぇこそ来るなら来るっつっとけや。機会はあったろうが。俺が寝てたらどうするつもりだったんだ、この馬鹿が」
「ないっしょ。状況が碌に分からない内に与えられた部屋で、かっちゃんが能天気に寝るなんて無用心な事する訳ないじゃん?実際こうして起きてたし」
部屋に入りながらそう言うと、かっちゃんは窓や入口の様子を伺いながら続けた。
「仕掛けてくるとしたら、そろそろだろうからな。まぁ、てめぇがこうして呑気に散歩出来る程度のセキュリティしか敷けねぇなら、敵だとしても大した事ねぇんだろ。部屋に何も仕掛けてねぇしな」
「もう調べたの?1日くらい大人しくしてれば良いのに。マジで敵だったら仕掛けられてるよ?」
「そんときゃそんときだ、ぶちのめして出てきゃ良い。幸い、厄介なのは先公共だけだ。俺の偽者も含めて雑魚しかいねぇ。それより、この一週間で見たこと聞いたこと全部話せや」
「いや、まぁ、こっちもそのつもりだったけどさぁ。あんまり敵作ろうとしないでよね」
それからかっちゃんに促され一週間の生活の中で、私が知り得た情報を私見こみこみで話した。かっちゃんは私の話を聞きながら現状の確認をし、この世界について自分の考察を話し━━━━あと、私が何を話したのか聞いてきた。なんかめちゃくちゃ聞いてきた。未来に関わる話や私達が不利になる情報は口にしてないのに。
えっ?俺の事は話しただろ?話したけど?でも個性についてとか、出来る事とかは話してないし。少なくとも、私はダメージ受けない話しかしてないし・・・・あだだだだだだだだだだだだ!!
アイアンクローを受けた後はかっちゃんからも話を聞いた。ネズッミー校長から受けた取り調べの内容やかっちゃんに対する先生達の動きがどうだったのか。
そして何より、私が一週間不在にしてた事に対して元の世界がどうなってるのか。
ネズッミー校長や先生達の動きは私の時とそんなに変わらなかったみたい。ただ同一人物がいるから、変装の類いを疑われてかなりしつこく取り調べを受けたそうだ。こっちの皆からすれば、かっちゃんが増えた訳だもんね。キバ子の事もあるし、仕方なし。
で、私が一週間不在だった事に関しては━━━━特に何もなかった。というか、話を聞いてると私がこっちにきた日とかっちゃんがこっちに来た日は、そもそも同じ日みたいなのだ。寝る前に私からメリーさんならぬ、完全究極美少女ふたにゃーんさんから『私いま、共有スペースを挟んだ向かいの女子棟の四階の一室にいるのぉぉぉぉ!』と悪戯電話が掛かってきたそうなので間違いないと思う。あの『知っとるわボケ、さっさと寝ろや』の言葉の冷たさは私も良く覚えてる。思い出したらむかついた。
そんな訳で時間の流れがどうなってるのか超謎だけど、上手くすればジャンプした時間に戻れる可能性が出てきたので取り敢えずは良しとこうと思う。考えても分からんし。
「━━━━ふざけた話だ。どいつもこいつも、言動も見た目も変わらねぇつぅのに俺達を知りやがらねぇ。個性で操られてる、もしくは幻見せられてるって言われる方が納得出来るわ。てめぇは本当に、ここが別の世界だとか思ってんのか?」
「まぁ、嘘ついてそうな人いないっぽいし、色々とリアルだしねぇ。一応さ、こうしてかっちゃんが来るまでは、意識に影響与える系の個性で夢でも見させられたりしてる可能性も考えてたけどね」
「はっ、俺が偽物だったらどうすんだ」
凄い真面目な顔でかっちゃんはおかしな事を聞いてきた。意味が分からず首を傾げると、かっちゃんも何とも言えない顔で私の顔をじっと見てくる。
「・・・・何だ、その面は」
「ん?いやだって、変な事言うから」
「変な事は言ってねぇだろ」
変な事言ってるでしょうに。
「いや、だってさぁ、私がかっちゃんを見間違える訳ないじゃん。あはは」
こういう特殊な状況でもかっちゃんが私を私だと信じてくれたように、私だってかっちゃんの事は間違えない。
実際、アホ面で寝てる姿だけでピンときたくらいなのだ。伊達に幼馴染はしてないという事だろう。あーーでも、姿形がガチムチくらいビフォーアフターしてたら、気づく前に一発くらいぶん殴ってるかも知れないけど。
「ん?」
いつもなら悪態の一つでも返してきそうな物なのに、かっちゃんから何時まで経っても返ってこなかった。
なんかそっぽ向いてる。
「・・・・・どしたの?」
「な、何でもねぇわ・・・・けっ!」
「???何でもないなら、まぁ別に良いけどさ?それよりさ、この後の事なんだけど━━━━」
情報交換が一段落ついた所で、これからの行動方針について話しあった。幸い私もかっちゃんも元の世界への帰還を第一として考えていたから話し合いは割とスムーズに進んだ。それで決まったのは明日から本格的に帰還方法について調査を開始する事、その際ここの皆と敵対しないようにする事、こっちの先生達の協力を取り付ける事の三つ。
かっちゃんはこっちの皆を信用出来ないと、協力を取り付ける事に対して終始顰めっ面だったけど「一週間もねっとりじっとりしっとり観察してきた私の目が信用出来ぬのかぁ!!」といえば、一応は納得したのか「けっ」と言ってくれる。え?それで納得してるのか?してる。かっちゃん用語的に、この「けっ」は不本意ではあるけど一応納得したという「けっ」なのだ。因みに納得してない「けっ」もあるのでビギナーは気をつけて欲しい。見分け方としては、言葉を言い放った後の表情を見るのがコツだ。眉間のシワがちょっと深くなるのだ。
一通り話す事を話し終える頃にはすっかり0時を回ってしまっていた。ボチボチ解散かな?と、帰りのルートを考えつつ窓から他の部屋の様子を伺ってたら、かっちゃんが「おい」と呼び掛けてくる。
何か言いたげな顔したかっちゃんに「なんじゃろほい?」と首を傾げれば、凄く真面目な顔で「何も企んでる事はねぇだろうな?」と再確認してきた。この期に及んで疑うとはとんだクソ失礼野郎である。
「はぁーまったくもう、心配性だなぁ。大丈夫だってば、今は帰る事だけ考えてるから・・・ていうか、それ以外考えてる余裕ないし。だって帰り方どころか、こっちの世界にジャンプしてきた原因もまだ不明なんだよ?それなのにもう一週間も無駄にしちゃってさぁー、いやぁまいったよね?」
そう言って笑ってみせたけど、かっちゃんは表情も変えずに真っ直ぐ私を見ていた。疑ってるんだろうなと思ってたけど、その目は何処か心配そうで━━━━気づけば、その言葉が口から溢れていた。
「━━━正直ね、帰れると思わなかった。それ以前に、帰る場所があるのか半信半疑だった。平行世界に飛ばされました~なんて、幾ら個性みたいな不思議パワーがあってもあり得ないでしょ?精神操作系の個性でそういう記憶入れられました、って方がまだ納得出来るって」
嘴まつげにやられた時、出久の部屋に意識だけ飛んでしまった事はあった。あれも大概おかしな出来事だったけど、夢として片付けられたあの時と比べれば、今回のそれはあまりにも現実感があり過ぎた。
壁を殴った感触も、身体を動かした時の違和感のなさも、個性発動時に頭に走る手応えも、感じる物全てが疑いようもないくらいリアルそのもので━━━だから、私は疑った。目の前にいた出久より、自分の事を。
この一週間ずっと確かめていた。
出久達を鍛えるっていう名目を盾にして。
私の頭の中にあるものが私の物で、私が私の意思でここにあるのか・・・まぁ、それも今朝終りにしたけど。
だって、悩む必要がなくなっちゃったから。
何処かの誰かさんが教えてくれた。
いつもの仏頂面で。
「もう迷わないよ。私は帰る為に頑張る。帰る事だけ考えるから・・・・向こうで皆待ってるだろうしね。だから大丈夫だよ」
「・・・・はぁ。たくっ、てめぇは」
呆れたような声と共に何故か頭が撫でられた。
随分と乱暴な手つきでわしわしされて、気づけばすっなり髪がグシャグシャになってしまう。別にセットとかしてないし、寝る前だからテキトーに結っただけのヤツだけど・・・・ちょっとイラッとしたので睨んでおいた。
「はぁ、かっちゃんさぁ・・・・乙女の髪をなんだと思ってんの。手入れとか大変なんだからね」
「はっ、うるせえ。つまんねぇ顔でつまんねぇ事ほざくからだ。賭けても良いっつんだよ。てめぇは何処にいようと誰に頼まれなくても、ボール投げられた犬みてぇに尻尾振って面倒事に首突っ込むに決まってんだ。帰る事だけ考えるだぁ?てめぇにんな殊勝な真似出来るか、馬鹿が」
「そんな事ないと思うけ━━━━ふぎゃ!?ちょっ、犬じゃないんだからぁ!こらぁ!あふっ!撫でるなって、ふにょぉあ!?」
私の悲鳴を無視して一頻り髪をワシャワシャしたかっちゃんは何処か満足げに手を離した。グシャグシャになった髪を指ですきながら恨みを込めて見つめてやったが、あろう事かこの金髪爆発頭鼻で笑ってくる。
「てめぇはただ一言、俺に謝っときゃ良いんだよ。迷惑掛けるってな。四六時中てめぇがいなくてもな、帰り方の一つや二つ俺が見つけるわ・・・・だから、好きにやれや。後始末は俺がやってやる」
偉そうにそう言うとさっさとベランダへと押し出された。言外の帰れコールだ。腹立つ。
でも、その乱暴さは私の良く知るかっちゃんらしくて、思わず頬が弛んでしまった。
「じゃぁ、おやすみ。明日から頑張ろうね」
「おう、さっさと行け。先公共に勘づかれて変に勘繰られるのは面白くねぇ」
「ねぇ、かっちゃん?」
「あ?」
「そこまで言ったんだからさ、もし私があれして何か起きちゃって帰れなかったら・・・ちゃんと責任とってよ?私ね、にゃんこ飼える庭付きの一軒家が良い。あんまり田舎じゃなくて、駅から徒歩十分くらいの交通の便が良いところね」
「あ?・・・・・・あぁっ?!」
かっちゃんを盛大にからかってから、私はベランダを飛び出して真っ直ぐ部屋へと帰った。当分、あのポカンとした顔は忘れられない気がする。
特に何もなく部屋へと戻った私はワクワクしながらやる事をメモにまとめ、さっさと布団に潜り込む。全ては明日に備えてだ。やる事は幾らでもあるのだから。
「━━━━━━むむむ!?」
◇◇◇
「・・・・爆豪さん、顔があの、もしかして寝不足ですか?目の下の隈が凄い事に━━━」
「っせぇ、クソナード。朝から不快なモブ顔晒してんじゃねぇ。ぶっ飛ばすぞ」
「━━━かっちゃんだ・・・・やっぱりかっちゃんだ」
馬鹿が馬鹿な事言った翌日。
何故か起こしにきた出久とかいうクソモブと共有スペースへ行くと、妙な人だかりが出来ていた。
先公の相澤と女共全員、それと今現在起きてる男共といった所だ。
「あっ、きたよ」
丸顔がそう言うと全員の視線がこっちへと向いた。
向けられた視線が少し不躾であり、腹が立ったので睨み返すと相澤の野郎が何とも言えない顔で近づいてきた。手には二枚の紙が握られてる。光に透けてうっすら文字が見えるが、その内容ははっきりしない。
「・・・・君は緑谷双虎の、彼氏の方の爆豪か?」
「おい、待てごら!誰が彼氏だ、誰が!」
「そのようだな。一応先に聞いておくが昨晩の事、君は何か知ってるか?」
そう言われて密かにやってきた馬鹿の顔が浮かんだ。
舐めてた訳ではないが、雄英高校のセキュリティは思ってたいた以上らしい。だが、聞き方が曖昧な所を見るに、肝心の話の内容まではバレてなさそうだ。
なら、しらばっくれる方が良いだろう。
「何の話だ、俺は一晩中部屋にいたわ。疑ってんなら廊下の監視カメラで確認しろや」
「ああ、いや。それは確認済みだ。少なくとも廊下の監視カメラに君は映ってなかった。警備システムにも何の反応もなかった。まぁ、夜間の見回りをしていた教員がA組寮に人サイズの化け猫が壁を駆け上がってる姿はみたそうだが・・・・まぁ、それは幻覚だろう。しかし、そうか、君も何も知らないか。取り敢えずこれを見てくれないか。それを見た上で、君に聞きたい事がある」
そう言って差し出された白い紙には文字が書かれていた。見慣れた筆跡で『ニコちゃん式、完全攻略チャート11月まで』とあった。仮免許の事や白ガキの事、ヤクザヴィランやヒゲヴィランの事もあれこれ書いてある。そして二枚目━━━━。
『きた!なんか、帰れそうな感じき』
俺は頭の悪そうな文字から相澤へと視線を移した。
俺の視線に相澤は何も言わず女共を見る。つられるようにそこを見れば、黒目女が「あのね」と話始めた。
「昨日の夜、というか朝方さぁ、なんかニコの部屋がある方が凄いガタガタしてさ。ニコ寝相悪いから、それかなぁって思ってたんだけど・・・」
黒目女に続き、丸顔も口を開く。
「起こしにいったらいなかったの。それと来た時と同じ服と下着が消えてて・・・で、あの手紙が床に」
非科学的極まりない話だが、俺達が来た時と同様に常識の範疇を超えた消失。この手紙にしたって脅された様子がない。それらの点を踏まえて状況を考えれば、おのずとその答えは出た。
「あの、馬鹿女っ・・・・・巻き込むだけ巻き込んで、先に帰りやがったのかぁ!!!」
何となく全部あいつのせいな気がしてた俺は、それを言わずにはいられなかった。
それから馬鹿の残した攻略チャートに目をつけたネズミ校長に付き合わされ、持ち得る情報をありったけ吐かされ、こっちの馬鹿共の特訓に最後まで付き合わされた。
一週間したら、なんか帰れた。
◇戻ってきた二人◇
ふたにゃん「なんか、凄い怖い夢みた気がする。よにきみょ的な。あっ、かっちゃん。聞いてよー・・・って、なんか疲れた顔してんねぇ、どったの?って、ででででで!?なんで頬っぺたつねんの!?痛いっ、痛いんですけど!?なに!?」
かっちゃん「なんか、少しな・・・・ムカつく」
ふたにゃん「なんで!?」