私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

276 / 282
ヒロアカの暗黒帝王先生はいつも楽しそう。
ここでもそう、この人いつも楽しそう。

はい、という訳でバッドエンドifルートです。
引き返すなら、ここやで。
注意したからね、しかたからね!


闇の帝王な先生の気がうっかり向いちゃったルートなifの巻き

「・・・・・ふがっ!?」

 

ガタン、という大きな物音に私は重い瞼を開けた。

視界に映り込むのは飴色のカウンターテーブル、空になったパフェの入れ物、氷の浮いた薄くなったコーラ━━━それと電源の落ちたスマホだった。

最後に見えたスマホを手にし起動させれば、寝る前にやってたアプリの中断画面が液晶に浮かぶ。画面の端っこには17時の表示も見えた。

 

どうやら一時間以上寝てたらしい。

 

欠伸をかきながら体を起こせば「おや?」という男の声が耳に響いてきた。視線の声の方へ向ければ、バーカウンターの奥で静かにグラスを磨く頭が黒モヤな黒霧ことキリりんの姿があった。

私には何が面白いのか分からないけど、相変わらずキュッキュッ楽しそうにしてる。

 

「お目覚めですか、セブン」

「んー、んーーーふにぃぃぃぃっ、はふぅ。はぁーーーおはよ、キリりん。なんか飲み物ちょーだい」

「そう言われても困るのですが・・・コーラで良いですか?」

 

キリりんの言葉のせいなのか、カランと私の残した薄いコーラが自己主張してくる。ぬるくなった分際で生意気な。

 

「えーなんかやだぁ。あーあれにして、ほら、あれ、なんとかのなんとかドライバー・・・・パイルドライバー!」

「本心からお望みとあらば、技の一つでも二つでもお掛けしますが・・・・スクリュードライバーの間違いではありませんか?」

「なにその必殺技みたいなの?」

「貴女のリクエストこそ必殺技なのですが。それと、スクリュードライバーはお酒なので駄目です。若い内から飲むと馬鹿になりますよ。どうぞ、ウーロン茶です」

 

嗜めるような言葉を告げた後、キリりんは氷が沢山入ったウーロン茶を差し出した。キリりんの揺らがぬ意思を感じた私は渋々それを受け取り口をつける。

冷たくて、んまい。

 

「それはそうとさ、ちょっと良いキリりん」

「はい、何でしょうか?弔なら━━━」

「あ、そっちはどーでも良いよ。さっきガタンって鳴ったのなに?びっくりしたんですけど」

 

不満気に頬を膨らませてそう言ってみると、なんか凄く残念な者を見るような視線向けてきて、呆れたような脱力感の籠った溜息を吐かれた。

 

「貴女が寝惚けて勝手にガタンってやったんですよ」

「うっそだーー。私ほど寝相良いやつはいないよぉ?」

「それは奇遇ですね。私も貴女ほど寝相の悪い人を知りませ━━━━」

 

キリりんが言葉を言い終わる寸前、入口のドアがガチャリと音を立てた。足音の軽さやリズムから陰気臭いのが帰ってきたのが分かり、私は手元にあるウーロン茶から氷を一つ取り出して、引き寄せる個性でそいつ目掛けて飛ばした。

 

パァン、と乾いた音が鳴る。

だけど苦痛の声は聞こえない。

どうやら不意討ちはミスったらしい。

 

「━━━おい、何すんだ」

 

不機嫌そうなその声には僅かに殺気が滲んでいた。

こっちも相変わらず短気で困る。

肩越しに様子を見れば、やっぱりやつがいた。

 

顔面に手のマスクをつけた猫背の痩せた男。

私と同じ姓をつけられた死柄木弔。

何か買ってきたのか手にビニール袋をぶら下げてる。

 

「一人で楽しくお出かけですかぁ?良いご身分で御座いますねぇー?私を置いてさぁー?お土産はー?」

「何で俺が、お前みたいな馬鹿の土産なんて買わなきゃならないんだ。面倒臭い。・・・・それに、お前が謹慎なのは、お前の責任だ。馬鹿。俺に突っ掛かってくるなよ、この馬鹿」

「おう待て、何回馬鹿っつったよ?おん?この天上天下唯我独尊で傾国の天才美少女な私を捕まえて、何処が馬鹿だっての?なに?喧嘩売ってんの?上等だよ、このお手々シコシコ野━━━━━」

 

拳を握り締め、肺に空気を取り込み、即行で臨戦体勢を取った━━━━━のだが、それより早くビニール袋が飛んできた。すわ、目眩ましかと警戒したが、肝心の弔に戦う気がないように見えたので、私はそのままビニール袋をキャッチした。手でサワサワしてみれば、何か柔らかい物と固い物が入ってるのが分かる。

 

「むむ?なに?」

「開ければ分かるだろ。黒霧、何か出せ」

 

私の隣にドカリと座りながら、弔はキリりんに横柄な態度で命令する。そしてやっぱり私に攻撃する気はないらしい。

 

「弔もですか・・・・何かと言われても困るのですが」

 

ブツブツ言いながらも何かを用意し始めたキリりんを横目にビニール袋を開けてみた。するとコンビニで買ったらしいシュークリームとケーキが入ってた。投げたせいでシュークリームからクリームが溢れ、ケーキはプラスチックのケースに崩れた状態でくっついてる。

なんやかんやとバーを出られない私の為に買ってくれたのは察したが、それならそれで何故投げたのか問いたい。

 

「買ってくれたんなら、普通に渡してよ・・・・馬鹿なの?それともツンデレ?弔みたいな根暗がやっても、ぶっちゃけキモいだけで効果ないよ?」

「うるさい黙れ、もしくは死ね。いらないなら捨てろ」

「いや、食べるけどさ。勿体ないし」

 

貰ったそれを食べ始めると弔がテレビをつけた。

現在の時刻は17時ちょっと過ぎ。つまりはニュースというこの上なくつまらない番組だらけの糞みたいな時間。

なのでさっさと衛星放送に切り替えてドラマチャンネルに回せと言ったのだが、弔には完全に無視された。

腹立ったのでショートケーキのイチゴを頬に押し付けてやる。即行で塵にされた。

 

「━━━━お、やってるな」

 

チャンネルを回すのを止めた弔からテレビに視線を移せば、難しい顔したおっさんが偉そうに何か喋ってるニュース番組。何をペチャクチャしてるのかとよくよく見れば、一昨日に私達がやった雄英襲撃事件の特集をしていた。私が謹慎を食らう羽目になった、あの忌々しい事件である。

 

「流石に、オールマイトのあれについては触れないな。残念だ、面白いニュースが見れると思ってたんだけどな」

「それはそうでしょう。雄英にとっても、そして協会にとっても宜しくない情報です。可能な限り秘匿する筈です。少なくとも彼が引退するか死ぬまで・・・・もしくは後釜が見つかるまで、といった所でしょうか」

「メディアに出れば、それだけでバレるのにな?ヒーローってのは馬鹿ばっかりだな」

 

楽しそうに話う二人を見ながら思う。

オールマイトって誰だっけと。

いや、先生から聞いてた名前だから覚えてる。ぼんやりとだけど、その名前は確実に知ってる。知ってるんだけど、どうも顔が出てこない。代わりに矢鱈インパクトの強かった金髪のボンバーヘッドが出てくるんだけど。

 

「ねぇねぇ、あのさ、オールマイトってどれだっけ?あの黒い眠たそうな目の人?」

 

「「・・・・・」」

 

またしても残念そうな目を向けられた。

解せぬ。まったく以て解せぬ。

 

「何で忘れられるんだ・・・・いや、最初から覚える気がないな。お前」

「コメンテーターの背後のモニターにでかでかと浮かんでる金髪の大男ですよ。貴女がキモいと言った筋肉ムキムキの奴です」

 

言われて見てみれば、笑顔を浮かべる濃いムキムキのおっさんの映像が目についた。

 

「ああ、ガチホモか。そうならそうと言ってよ。知ってる知ってる。弔のあれで腕がぶぁーってなって、崩壊が届く前にそのまま腕取っちゃった人でしょ。あれは怖かったわーマジで」

 

「ガチホモ・・・ですか。恐らく、世界で貴女だけですよ。そんな呼び方をする人は」

「天下のオールマイトの肩書きも、あの馬鹿の前だと形無しだな」

 

あれだけ準備して殺しきれなかった男。

忘れる訳がない━━━━名前と顔は一致しなかったけど。

 

「弔がビビってなければ、殺れてたかも知んないのに・・・・はぁ、脳無一体パァにしてこれで、何で私より怒られないのかね?」

「おい、ふざけるなよ。俺はビビった訳じゃない。前情報より動ける事が分かったから警戒しただけだ」

「はっ、良く言うよねぇー。結局、虚勢張ってるだけの死にかけだったじゃん。あれだけ殺す殺す息巻いて、取れたのが腕一本ってどうよ?」

 

使い捨てとはいえチンピラ共を捕らえられ、先生から借りてた脳無を叩き潰され、挙げ句の果て生徒の一人も殺せてない。重傷者はいたらしいけど、殺しにいってそれなら落第点としか言えない。何よりの狙いであったガチホモの命だって取り損ねてる。先生は十分だと言ってたけど、私はそうは思わない。

言われた事をやれるだけの余裕はあった。ギリギリではあったけど、あの一瞬弔が迷わなければ、他のヒーローの妨害を受ける事なかった。それこそ私の援護もなしに、腕一本と言わず確実に殺しきれたのだ。

 

「それを言うなら、時間になっても集合ポイントに来ないで、ふらふら遊び歩いてたお前にも原因があるだろ」

「ぬぐっ・・・・そ、それは、いやだってさ、あんなにしつこいとは思わなかったんだって。あの、あれ?そういや名前聞いてないな?あの金髪爆発頭」

 

雄英襲撃時、ガチホモの所に突撃した弔と別行動していた私は、A組生徒の中でも要注意人物と言われる連中と遊んでいた。予定ではさっさとあしらって弔達と合流する事になってたんだけど・・・・私が相手したそいつらは要注意人物と言われるだけあって、厄介極まりない奴等だった。

 

特に目付きの悪い金髪爆発と頭が紅白饅頭な氷マン。

個性自体が強個性だった事もあるけど、それ以上に戦闘センスが他の連中と比べて明らかに飛び抜けていた。チンピラ達に押し付けてなかったらタイムリミットまで粘られた可能性は高い。まっ、それでも負ける気は微塵もしないんだけどもね。

 

「いやぁ、中々だったよ?つおかったもん。あれだよ、キリりんとか弔じゃぁ、やられてたかも知れないよ?それをね、私は一人で抑えてた訳!だから━━━━」

 

『おや?僕がこの間聞いた謝罪は、何かの間違いだったのな?セブン』

 

「ぴゃぁ!?」

 

いきなりテレビ画面から飛び出してきた魅惑のハスキーボイスに、私のチワワ並みの貧弱な心臓が張り裂けんばかりに高鳴った。

勿論、悪い意味で。

 

「せ、先生ぇ!!違うんですぅ!!私は悪くないんですっ!弔が!弔がそう言うように誘導したんですぅ!!」

「おい、適当な事をいうな」

 

慌てて振り返るとテレビ画面からニュース映像が消え、真っ黒な背景を背負った先生の映像に変わっていた。先生は相変わらずの白いシャツに黒いジャケットというシンプルな格好で、椅子に凭れ掛かりながら楽しそうに笑い声をあげてる。

 

『はははっ、仲が良さそうで何よりだ。セブン、先日の件はそろそろ反省出来たかな?僕としては君の謹慎を解いてあげたいんだが』

「反省してます!!もう、作戦中にネットに居場所がバレる系の画像をアップしません!!」

『別にSNSを使うなとは言わないけれど、時と場合は考えようね。驚いたよ。「雄英襲撃ナウ」ってコメントとピースサインしてる君の写真がSNSにあげられてるって聞いて。・・・・けれど、良く撮れてたよ。今回の為に作ってあげたマスクも良く似合っていたし、とてもキュートだった。思わずイイね押してしまったくらいさ』

「あざぁぁぁぁす!!新しいスマホもあざぁぁぁぁす!!それで先生!物は相談なんですけど、アプリのセーブデータとかこっちに移せませんか。コードとか覚えてなくて」

『それは少し難しいな。君の前のスマホの情報は警察に掴まれてしまったからね。お小遣いをあげるから、また課金でもして初めからコツコツやりなさい。当分は外に出られないだろうしね』

 

先生はそう言うとキリりんに視線を向けた。

キリりんは何とも言えない顔で懐からカードを取り出す。見たことない高級品漂う黒いカードだ。凄いお金の臭いがする。

 

差し出されたそれを受けると、先生が機嫌良さそうに口を開いた。

 

『上限は1,000万。当分追加を与えるつもりはないから、それを上手く使いなさい』

「やったぁぁぁぁ!!先生大好きぃ!!今度のバレンタイン楽しみにしてて下さい!!めっちゃ、良いチョコ贈りますね!!ひゃっほーーー!!」

『ははは、楽しみにしてるよ』

 

お小遣いが調達出来たので、私は早速出前のメニューを手に取った。お寿司か、うなぎか、ジャンクにピザか。ラーメンも蕎麦も良いな。かつどんという手もある。迷う。

 

「弔は何にするー?」

 

親切にそう聞いてやったが、弔は顔をしかめるだけ。

そして不機嫌そうに先生の方へ向いてしまう。

仕方ない、うな重頼んでやろ。キリりんはピザかな。

 

「・・・・先生、良いのか」

『構わないとも。セブンにあげたお小遣いだ。どう使おうと彼女の勝手さ。弔、君も欲しいのかい?』

「金は必要ない・・・それより情報をくれ。正確な雄英のスケジュールだ。手駒もいる」

『情報と手駒ね・・・・良いだろう。スケジュールについては現在分かってる範囲のデータを纏めて送ろう。手駒に関しては知り合いに声を掛けてみるよ。目ぼしい者がいれば黒霧から連絡が行くようにしておく。それで良いかな?』

「ああ・・・・待っててくれよ。先生、次は確実に殺してやる」

『そうかい?それなら期待しているよ、弔』

 

なんか物騒な話してる。

根暗コンビは今日も仲良しやなって。

なんであれで盛り上がれるんだろ?謎だね。それより建設的にスイーツの話しようぜ。

 

あ、もしもし?出前お願いします、はい、はい、住所は・・・あっ、そうです。先日はすみません。かっぱ巻きが入ってるから、ついエキサイティングしちゃって。今日は一番高いやつお願いします。大トロ入ってるやつ。はい、大トロが。そうです、大トロのやつです。えっ、好きなネタ乗せられるんですか!?じゃぁ、かっぱ巻きは全部抜いて下さい!代わりにイクラとかウニとか・・・・えっ?!カニ?!生カニなんてあるんですか!?

 

「キリりん!弔ぁ!!あと五カン好きなネタ乗せられるんだって!!何が良い!?ねぇ!!何もないなら大トロ乗せるけど!!!ねぇぇぇ!!!」

 

「大トロ、大トロ、うるさい。餓鬼か。先生と連絡してるの見えないのか」

「はぁ、まったく・・・・そうですね、まだ空きがあるのでしたら、コハダとエンガワをお願い出来ますか」

「おい、黒霧。お前・・・・・」

 

『あははは、楽しそうだなぁ。久しぶりに僕達も出前でも取ろうか。ねぇドクター』

『はぁ、先生はどのみち食べられんじゃろうが。しかし、寿司か。最近は食べとらんな。たまには良いか』

 

「なっ・・・・!?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『先生見てますー!?ほら、大トロですよ、大トロ!!凄くないですか!?テッカテカ!油でテッカテカですよ!?はぁぁぁぁぁ、マグロの匂いがするぅ!高そうなマグロの匂いがぁ!!ごちでーす!』

 

楽しげな彼女の声を聞きながら、僕は昔の自分のささやかな気紛れに感謝した。よく彼女を手元におく事を決めてくれたね、と。

 

彼女を拾ったのはほんの気紛れだった。

実際怯える事しか出来ない彼女に、当時の僕は何の興味も持っていなかった。良いところ脳無にするか、その容姿と頭の良さを使って工作員として育ててみるか、弔の遊び相手にするか、精々思い付いたのはその辺り。

ところがだ一度懐に入れ育ててみれば、これが中々面白い。彼女はまさに才能の塊だった。

テストをすれば身体能力・思考能力や常に同年代の者と比べてトップクラスの成績を叩き出し続けた。戦闘を経験させればその学習能力の高さと非凡な戦闘センスを以て他者を圧倒する。空間把握能力に至っては常軌を逸した才覚を持っていた。

 

彼女が増長するのも無理はない。

僕さえいなかったら彼女は間違いなく僕と同じ道を自ら歩み出した事だろう。まぁ、もっとも、そんな彼女も今や僕の後継者候補の一人なのだが。

 

「先生、あれをいつまで甘やかすつもりかね」

 

楽しそうに夕食を食べ始めた彼女の姿を眺めていると、不意にドクターがそんな事を聞いてきた。足元にいるペットに寿司を与えながら、ドクターは何処か不機嫌そうに続ける。

 

「今回の一件、あの娘が余計な事をしなければ達成出来た筈だ。他のヒーローが間に合う事もなく、少なくとも半数の生徒を殺し、あのオールマイトをも殺し切れた筈だ。あの男の個性の減退は我々の予想以上だった。違うか」

 

可能性だけの話をするなら、ドクターの話も間違ってはいない。だが現実は計算通りにはいかない物だ。

僕が半死半生で情けない姿を晒しているように。

 

「ドクター。可能性だけでいうなら、僕はこうなっていないさ。オールマイトと対峙したあの時、勝算は僕にあった。だが、結果はこの様。忘れたのかい、世の中は不確定要素に満ちている。それを考えれば上出来さ。弔も彼女も無事に帰ってきた」

「脳無を失ったぞ!先生!あれを調整するのにどれだけの手間が掛かったか!!」

「ははは、結局はそこに行き着くんだね。そうだろうとは思ったけれど、まったくドクターは」

 

僕が笑うとドクターは益々不機嫌になっていく。

 

「それにじゃ、あの甘さが気に入らん!わしは!」

「甘さ?」

「そうじゃ、あやつ未だに誰も殺してなかろう!先生の後継者でありながら、あの腑抜けたあり方は許せん!これもそれも先生が甘やかしてるからじゃろう!違うか!また無駄に小遣いなど渡して・・・・まったく・・・あれだけあれば機材のひとつも・・・・かぁ、まったく!」

 

随分と不満が溜まってたようでドクターはブツブツ言いながら寿司を乱暴に口に突っ込んでいく。

最近ドクター自ら『歳を取った』などと力なくぼやく事が増えたが、この調子なら当分気にする事はなさそうだ。これからはたまに彼女をぶつけるとしよう。

 

「しかし、甘さねぇ・・・・」

「なんじゃ、何か言いたげじゃな」

「いや、何でもないよ。それより足元の彼、ドクターの手元に釘付けだよ。放っておいて良いのかい?」

「うむっ?おお、すまんジョンソンちゃん。忘れてた訳ではないんじゃよぉー!おーよしよし!」

 

ドクターは少しだけ勘違いをしている。

確かに彼女にはドクターの指摘通り甘い部分が残っている。弔と同じ様に候補止まりな理由がそれだ。

 

けれど、それと彼女が殺しをしないのは別の問題。

彼女は殺せないのでなくて殺さないだけ。

これまで死ぬよりも残酷な私刑を、彼女は敵対者に対して幾度も行っている。僕が教えた技術で壊し尽くしてきた。その結果がどうなるか理解しながら。

実に、恐ろしい事だ。

 

しかしまぁ、彼女にとって殺しという行為が、特別な物になりつつあるのは事実だろう。それまでは何となく殺しという行為を避けていたようだったが、今では意図的に避けている節がある。

僕の見立てではそれは甘さというより美学に近い物なのだろうと思う。今回の件でも彼女はチャンスを得ながら、弔にオールマイトを殺させるように動いた。ターゲット以外の犠牲を最小に抑える為に、ああして他のヒーローを呼び寄せた。ゲームでもしてる感覚なのだろうか。まったくもって面白い。

 

「セブン・・・・いや、死柄木ナナ。君にそういう相手が出来た時が楽しみだ」

 

己の美学を無視しても殺したい相手。

それを自ら殺した時、君は完成に近づくのだろう。

今から本当に楽しみだよ。

 

「━━━何か言ったかね、先生?」

「いや、ただの一人言さ。そう言えばさ、ドクター。セブンを見た時のオールマイトは見ものだったねぇ。誰と間違えたのか、本当おかしくておかしくて。あははは」

「先生は本当に良い趣味しとるよ。あんな荒い画像でよく楽しめるものだ・・・・よもや、また見るのかね?」

「いや、映像を捉えるのは神経を使うからね。今夜は音だけで楽しませて貰うよ」

「楽しそうで何よりじゃよ、先生」

 

側に掛けてあったヘッドフォンを付け、手元のボタンを操作すれば直ぐにその声が聞こえてきた。

あの男の苦痛に喘ぎながら、聞き覚えのある名前を弱々しく呟くその声が。

 

僕の頬は自然と吊り上がっていた。

 




◇ろうや先生◇

せんせー「━━━━ん?ああ、夢か。僕とした事が随分とおかしな夢を見たものだなぁ。でも、そういうのも悪くなかったのかも知れないね。ふふふ」

かんしゅ『こらぁ!!犯罪者!!何を笑ってる!!撃ち殺すぞ!!』

せんせー「おっと、怖い怖い。何でもないよ、何でもね・・・・ふふふ」




何か思い付いたら、また書きます。
多分、きっと、めいびー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。