私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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ヒロアカのアニメ、二期の第2クールエンディングのファンタジーネタでぼけぼけしながら書いたった。
以外と一杯書いてしもうた。ダラダラと、すまんやで。


そして、ライジングは無事買えたけど、忙しくて観れてへんやないかぃぃ(´・ω・`)クキィィ


うわっ剣が喋ってる!気持ち悪っ!!え?聖剣?誰が?いやいや、魔剣でしょ、どう頑張って見ても。背伸びするもんじゃないよ。ね?のif巻き

その年、ユーエー王国の国王ネズッミー百三十世より国内外問わずある事が大々的に発表された。

城の大魔法使いによって、数百年前に世界を恐怖のズンドコに陥れた闇の暗黒帝王の復活が予言されたという。

そしてこの事態に王様はかつて暗黒帝王を倒した英雄の剣とその使い手である勇者を探しているのだと。

 

その話は瞬く間に広まった。狼の群れが駆ける草原を越え、死の霧漂う森を越え、ドラゴンの住まう山脈を越え大陸全土へと。そして多くの者が駆り立てられた。

腕に覚えのある者達はこの発表を受けて王都へ。

報奨金に期待して剣を探す者達は冒険の旅へ。

少年から老人、戦士、傭兵、騎士、山賊や海賊に到るまで誰もが富を、名声を、力を求めて動き出す。

そしてこれこそが、後々まで語られていく事になる━━━大英雄時代の始まりである。

 

 

「である、じゃないわよ。馬鹿娘。馬鹿な日記書いてないで早く寝なさい。さっきも言ったけどお母さんね、明日町内会の寄り合い出ないといけないから、あんた店番してなさいよ」

「えぇぇぇぇーーー。明日は暇だし、一日中寝てようと思ったのにぃぃ」

「どうしても嫌ならやらなくて良いわよ。追い出すだけだから」

「了解です!母様ぁ!!母様の留守、この私がお守りいたしまっする!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の暗黒帝王の復活が予言されてから一ヶ月。

王都の方が何か騒がしくなってる事を風の噂に聞きながら、金銀財宝に勝るとも劣らない美貌を持つ天才にして唯我独尊な私フタコ・ミドリーヤは、いつものように我が家の雑貨店で看板娘をしていた。

 

私は自他共に認める気がついたら傾国しちゃうくらい圧倒的美少女。そんな私が店番なんてすれば当然街の童貞共が黙っていない。男達は私の気を引こうとアホみたいに商品を買い漁り、お昼過ぎた頃にはお店はすっかりスッカラカンである。残ってるのは高額商品ぐらい。

本当なら、お昼まで寝てるつもりだったのだが・・・まっ、この売り上げならお小遣いも増えるし。よしとしようか。

 

『・・・・あ、あの、ミドリーヤ少女』

 

不意に、筋肉ムキムキそうな男の声が聞こえた。

視線をそこへと向けると、安売りの籠に入りっぱなしになってる外見がボロボロの剣が一本目に入った。

面倒臭いので無視する。

 

『いや!無視しないで!聞こえてるよね!?』

「あ、いえ、聞こえないです。はぁー午後どうしよっかなぁ。どーせあとは売れないし、もう店閉めちゃおっかなぁぁ・・・・お昼何食べよ」

『分かった!お昼食べながらで良いから聞いて!!お願いミドリーヤ少女!!世界の危機なんだ!本当に!えらばれし者よ剣を抜けとか、もう偉そうな事言わないから!お願い、聞くだけ聞いて!!今日だけで良いから!本当にっ、本当にお願い!』

 

はぁーー鬱陶しいぃぬぅぁぁぁぁ。

仕方ないので店を閉めてから話を聞いてあげる事にした。お昼ご飯であるサンドイッチを摘まみながらだけど。

 

今から丁度一ヶ月前。

店の隅っこに置いておいた私の愛刀ならぬ愛棒、害虫根絶丸1号が突然喋った。叩き潰してきた害虫達の怨念が溜まりに溜まり、ついに自我を持ったのか!と目の前の怪奇現象にドキドキワクワクしたのに、あろうことかこいつ自分の事を古の英雄の名前を名乗り、挙げ句その身は聖剣だと教えてくる。しかも私に向かって選ばれし者よ!とかほざいてくる。

 

王様のお触れで暗黒帝王を倒す事が出来る聖剣を探している事、それを持つ選ばれし者を探している事は聞いていた私はじっくり、腰を据えて、たっぷり、真剣に、あれやこれやと、考えに考えて、悩みぬいて━━━━自称英雄であるトッシーの話を全部無視する事にした。

 

その後はあわよくば誰か持っていかないかな?と安売りの籠に突っ込んでおいたのだが・・・結果はこの通り。一向に誰も買わない。木製の食器より安いのに。

まぁ、鞘から抜けない剣とかただの重い棒だしね。中途半端な長さだから物干し棹にもならんし。孫の手にしようにも形がかくのに適してない。しかもその鞘ときたら、到るところに害虫を抹殺した時についたシミだとか付きっぱなしで、あと長い事蔵の中に仕舞ってたせいかなんか変な臭いする。なんか買われないのも仕方ない気がしてきた。

 

『━━━━という訳でだ、私はかの戦いの果て意識の一部を剣に残して、暗黒帝王の復活に備えたという訳なんだ・・・・あの、聞いてたかな?ミドリーヤ少女』

「えっ?あ、はい。聞いてました。ですよね、サンドイッチはマスタードいれますよね。分かります」

『何も分かってないんだけど!?少なくともマスタードの話はほんの少しもしてないんだけど!?えっ、全然聞いてなかったの!?結構色々話したんだけど!?』

「あはは、まさか。ちゃんと聞いてたってば。さっきのジョーク。フタコにゃんジョーク。あれだよね、うん、分かってる。分かってるよ。うんうん。ね・・・あー、サンドイッチうまー」

『さては何も聞いてないね!?』

 

怒る剣の柄をつつきながら、私はふと思った事を聞いてみた。

 

「そー言えばさ、私は鞘から抜けるんだよね?試してないけど、中身ってどんななの?やっぱ錆びてんの?」

『いや、それはない。たとえもう百年経ったとしても、この剣"ワンフォーオール"が錆びる事などないさ。白刃については・・・使い手次第といった所か』

「使い手次第?」

 

詳しく聞いてみると害虫根絶丸ことワンフォーオールは、選ばれし者とやらが鞘から引き抜くと自動で使い手が使いやすい形に変わるらしい。今喋ってるトッシーの時は自分の身の丈程もある鉄塊みたいな特大剣で、トッシーの師匠の時はレイピアだったらしい。

そしてそんな剣を抜いた者は人並み外れた力と、古の英雄達の魔法も使えるようになるとか。この剣擬きの言う事が本当ならだが。

 

「ねぇ、選ばれしなんちゃらってさ、マジで私だけなの?誰か代役とかたてらんないの?あんこもち帝王だか、きなこもち帝王だか知らないけど、ようはそれを倒せれば何でも良いんじゃないの?」

『随分と美味しそうな名前になったね。奴が聞いたら歯軋りしそう━━━━いや、奴なら薄ら笑いを浮かべるか。あーーえーと、まずね、奴を倒すなら聖剣ワンフォーオールは必要かな。奴の元に聖剣の対になる魔剣オールフォーワンがあるからね。凶悪な魔剣なんだ。代役については・・・恐らくは無理だと思う。声を聞けた以上、君が次の後継者だ。君が亡くなるような事があれば、新たに選出される事はあるのだろうが』

 

うわぁ、回避不可ときたもんだ。

やってられないんだぜっと。

 

そのまま剣の戯言に耳を傾けながら転た寝してると、カランカランと入口から鈴の音が鳴った。寝ぼけ眼を擦りながら見てみてれば見掛けない二人組がキョロキョロしながら入ってきた。魔女っぽいとんがり帽子の女の子と、眼鏡を掛けた騎士風の男だ。

泥棒にしては間抜け過ぎるけれど、取り敢えず害虫根絶丸を手に迎撃態勢を取ってから声を掛けてみる事にした。

 

「ちゃお、泥棒ならお断りなんだけど?」

 

私の声に二人が驚いた顔でこっちを見た。

驚いたのはこっちなんだけど。

マジで泥棒なん?え?しょっぱくけど。

 

「あっ、あの、ごめんなさい!悪気はあらへんの!ただ、ここに聖なる魔力を感じて・・・」

「だから言っただろうウララーカくん!後日改めて訪れた方が良いと!!」

「せやかて、もしあれがほんまに商店にあって!今度私らが来る前に売られてたら取り返しつかんやんか!せやから確認だけしよって言うたの!!イーダくんもそれなら言うたやん!」

「それは、そうなのだが・・・」

 

なんか私そっちのけで揉め始めたので、害虫根絶丸で床を強目にひっぱたいた。大きな音が鳴る。石畳のブロック一つが砕ける。

二人はそれを見て口を閉じた。よきシャラップ。何となく目的が分かったからスパッと解決しよう。

 

「まず、クローズドの看板を無視して不法侵入してきた件を謝ること。二つめ、石畳の修理費をちょっと多目に寄越すこと━━━━あっ、多分ね、魔女っ子の探してるこの害虫根絶丸は売ってあげる。今ならスタンプ二つ押してあげる」

『もののついでに売らないで!!いや、もののついででなくても売らないで!!スタンプ押さないで!!』

 

害虫根絶丸がきゃんきゃん騒ぐのをスルーして、改めて二人から話を聞くとやはり聖剣とその使い手を探してるらしい。何でも魔女っ子のオチャコ・ウララーカの師匠は王様にあんこもち提供王の復活を予言した魔法使いで、弟子であるオチャコは師匠から直々に聖剣の捜索を任されたそうな。一緒にいる眼鏡は、とある領地持ちの貴族の次男坊でイーダ・M・テンヤという王国騎士見習いらしい。オチャコに与えられた使命を偶然聞いて正義感が爆発、いてもたってもいられずこうして付いてきたそうだ。因みにオチャコとはあくまで友達、男女の関係とかではないみたい。

 

まぁ、何がともあれ処分に困ってた物をお金を出して買うと言うのだ。断る理由は欠片もない。害虫根絶丸の猛抗議を右から左に流しつつ、全力の商人スマイルと共に二人の懐事情を探りながら交渉を始める。

オチャコの方は明日のご飯代すらままならない貧乏具合だったけど、イーダの方の懐は身分通り随分と温かい。持ち合わせがないと聞いたけど、それでもかなりの大金を持ってるようだ。流石、貴族様は違う。

貴族様の財布に合わせて金額交渉を続ける事少し、オチャコが唖然とする中で私達は握手を交わした。

 

「━━━━よし、じゃ交渉成立という事で」

「ありがとう、君の誠意に感謝する。取り敢えずこれは手つき代だ。後日使いの者を寄越すから、足りない分はその者から受け取ってくれ」

 

「・・・そら、本物の聖剣やったし、価値はあんねんけどさ。えぇ、ご、豪邸三つくらい建つんやけど」

 

いやいや、幾らなんでも三つは建たない。

土地代もあるから建っても二つが限度だって。

まっ、そもそも豪邸なんて買わないけどね。そこそこの一軒家立てて、猫を愛でながら一生ぐーたらして暮らすのだ。夢のニート生活じゃぁ。ふへへ。

 

そうして代金と交換でイーダの手に渡った害虫根絶丸だったけど、勿論静かに見守ってる訳ではなかった。

 

『みっ、ミドリーヤ少女!?ほ、本当に私を手離すつもりなのかい!?戦えるのは君だけなんだぞ!!それは、酷な話だとは思う!いきなりこんな事言われて信じる事は出来ないだろうし、戦えと言われて戦える人間がどれほどいるか!』

 

害虫根絶丸の声が聞こえてない二人の視線を受けながら、害虫根絶丸は血を吐くように叫び続ける。

 

『だが、暗黒帝王が復活すればこの街とて無事で済む保証はないんだぞ!?世界の為にとは言わない!この街の為に、君の家族の為に、君の平穏を守る為に!!私を抜いてくれないだろうか!!ミドリーヤ少女!!』

 

流石にちょっと胸が痛くなるから止めて。

母様の事とか出すの反則でしょ。

でも、まぁ、抜かないんですけども。

 

遠ざかってく姿と声へ、私は満面の笑みと共に手を振った。もう二度と帰ってくるんじゃないぞ。害虫根絶丸一号。ここは二号に任せろ。お前は気兼ねすることなく世界を救ってこい、かんば。

 

「さて、戸締まりしてお昼寝でもするかな。どーせ、母様夕飯まで帰ってこな━━━━━━むむ?」

 

剣を叩き売りしてから暫く。

店の片付けを終えた頃、面倒事も無事に処理したと言うのに、けたたましい破壊音が外から響いてきた。何かとてつもなく重い物が落ちてきたような、そんな不穏極まりない音が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しばかり気になって害虫根絶丸二号を手に店を出ると、街の広場の方が騒ぎになってた。なんか皆でわーわーきゃーきゃーしてる。はしゃいでる訳ではなさげ。

ちょっと様子を覗きにいけば、脳ミソ丸出しのムキムキマッチョな化け物が衛兵相手に暴れ回っていた。

その側にはさっき害虫根絶丸を買った二人の姿もあった。衛兵に交じり剣と盾を手に立ち回る必死な顔した眼鏡。その後ろにいる魔女の子の方は怪我でもしたのか苦悶の表情を浮かべながら、害虫根絶丸を抱え込み踞ったまま動かない。

 

この街の衛兵の実力は知ってる。

だから、放っておいても大丈夫だとは思うんだけど、このまま店の近くで暴れられるのは宜しくない。営業妨害だ。今日は兎も角、明日以降の売上に悪影響は必至。

故に、私もそのお祭りに二号を翳しながら参戦した。

何事も迅速解決が一番。私は面倒は先に終わらせるタイプです、どうぞー。

 

「くっ、この化け物なんなんだ!!こんなやつ聞いたこともなっ━━━━━ふぎゃっ!?」

「足場の提供ご苦労様でーす」

 

という訳で、衛兵の一人を踏み台に私は空へかっ跳んだ。化け物の視線は依然として周りを取り囲む衛兵達だけを捉えている。私の事は毛ほども警戒してない。

なので隙だらけの化け物の脳天目掛け、渾身の力を込めて二号を振り下ろした。

全身の筋肉を総動員しつつ全体重を掛け、果てには遠心力が乗るように放った一撃。綺麗な弧を描いたそれは鈍い手応えと共に何かが潰れ、そして砕ける音を耳に響かせた。

 

ぐらりと化け物の体が揺れ、大きな音を立てて地面へと体を突っ伏す。膨れ上がっていた筋肉が若干萎み、ギョロリとした瞳からも生気が消える。

 

「━━━━っし、とったどぉぉぉぉ!!」

 

根絶丸を高く翳すと周りから歓声があがった。

物陰から様子を見てた連中も顔を出してやんややんやと褒め称えてくる。若い衛兵達からは「ボス!」「流石ですボス!」とか言われたので、勿論おしおきした。可愛い女の子にボスってなんだ、ボスって・・・ねぇ?ねぇ、隊長?ねぇ?こっち見てくださいよ、ねぇ。

目を逸らす衛兵隊長にジト目を向けていたら、か細い声が背後から掛かってきた。チラ見すればイーダとかいう眼鏡が何か言いたげな顔で見てる。

 

「き、君は先ほどの・・・ありがとう、助かった。対峙した時からタダ者ではないとは思っていたが、まさかこれ程とは」

「なに、見惚れちゃった?よし、ならば私のファンになることを許す!毎朝、私の偉大さと可愛いさを想いながら、空を見上げて一刻ぐらい好きに褒め称えると良い!━━━━と、それより魔女っ子は大丈夫?怪我してるでしょ?そっちは大丈夫なん?」

「はっ!?そうだ、ウララーカくん!!」

 

私の言葉にハッとしたイーダは慌てて魔女の子ことオチャコに駆け寄っていった。オチャコは顔色が悪いが会話はちゃんと出来ているし、改めて見た感じ傷も深くなさそうだから大丈夫だろう。何より、この子魔女だし。時間さえあれば魔法で傷くらいちょちょいでしょう。知らんけど。

 

騒ぎを聞き付けたのか更に衛兵達がやって来た。

その中には腕利きの人もいたのでいよいよやることないかな?と二号を肩に帰ろうとしたら━━━━━何か不穏な気配を感じた。

 

「━━━なっ、なんだ、こいつは!?」

 

誰かのあげた驚愕の声に振り返れば、さっき叩きのめした脳みそ丸出しのムキムキの化け物が陸へと放り出された魚みたいにビクンビクンと跳ねていた。

化け物は口元から涎を垂れ流しながら、ぐちゃぐちゃとメキメキと不快な音を立てながら歪な形へと変えていく。腕があらぬ方向へとへし折れ、脚が千切れんばかりに捻曲がる。隆起している筋肉がそれ自体別の生き物のようにうねり、ぶつかり、混ざり、別の形へと姿を変えていった。

 

気がつけば人間のようだったそれは、四つん這いの謎の化け物にクラスチェンジしていた。

ただでさえ太かった四肢は大木のように大きくなり、その背丈も成人男性の二倍程の巨体へ、僅かに人間味を残してたいた顔は狼のような獣面に変貌を遂げた。

あと相変わらず脳ミソは見えっぱなしである。いの一番に変えなきゃいけなかろうに。頭蓋骨つけるとかさ。

 

「オオオオオオオオオオッッッッ!!!!!」

 

咆哮を一つあげると、化け物は駆け出した。

四つ足で地面を駆けるそいつは恐ろしく速かった。

獣のような低い姿勢で滑るように地面を駆け抜け、自分を囲っていた衛兵達を次から次へと蹴散らしていく。

あっという間に私の所にもやってきて、生意気にも牙を剥いてきたので━━━力一杯横っ面をぶっ飛ばしてやった。

 

ベキリと嫌な音が鳴る。

 

私へ突っ込みそびれた化け物が明後日の方向に転がるのを横目に、手元を確認してみれば害虫根絶丸二号が根元からポッキリされていた。御逝去である。元より安物だから期待してなかったけど・・・僅か一月の命じゃったかぁ。まぁ、しゃーなし。

 

柄の部分を化け物目掛け投擲。

パカンという良い音を聞きながら魔女っ子達の所まで引き返して、私は愛刀・害虫根絶丸一号を借りた。

 

「ごめんねお客さん、ちょっと借りるよ」

「えっ!?あっ、ちょっ、待って━━━━」

 

魔女っ子の手を振り切って化け物へと駆け出すと、直ぐにムサイおっさんの声が聞こえてきた。

勿論、その声は手元からだ。

 

『みっ、ミドリーヤ少女ォォォォ!!私は信じていた!君はっ、君はやってくれると思っていた!口ではあれこれと文句を言うが、君の街を見つめる目は優しかっ━━━━』

 

うるさかったのでチョップしてやった。

おっさんの声で『いたっ!?』とか悲鳴が聞こえる。

 

「ええい、喧しい!!使われる時くらい、前みたいにお口チャックしてて!!変な気をつかうの!!」

『━━━━ま、前!?そうか、君は私が目覚めるより早く既に!!分かった!今こそ真なる封印を解こう!!存分に━━━━』

「出来るならぁッッッ!!死ぬ気で封しときなッッッ!!!」

『━━━━えっ?』

 

深く息を吸い込み━━━━全力で地面を蹴った。

 

掛け値なしの本気の踏み込み。蹴り脚は地面を削り飛ばし、その反動で体は一気に加速する。

破れかぶれに振り回された剛腕を一つ掻い潜れば、化け物との距離は一瞬でなくなり、私の体は無事攻撃の射程内へと潜り込んだ。

 

「ちぇぇぇぇッッすとォォッッッッ!!!」

 

下段に構えた害虫根絶丸を、全身のバネも使って一気に振り上げる。砕けるような音が響く。加速した勢いを殺さず体ごと叩きつけた一撃は、化け物の顎を砕き顔面を強引に空へと向けさせる。

 

『うぉぉぉっ!?えっ、ちょっ、鞘のまま!?折れる!!ミドリーヤ少女!!これは剣だ!!棍棒ではなく、剣であって!叩くもッッッッ━━━━ほぉあ!?』

 

隙だらけの化け物の脚の関節に二撃目。

野太い悲鳴と共に手に硬い物を砕く感触が走り、化け物の体は頭から地面に崩れ落ちる。

トッシーは心配してたけど、私の知ってる通りに手に握り締めたソレは傷一つない。赤い染みはついたけど、それはいつもの事。

 

これを初めて物置小屋発見してから十年。

私はその名が示す通りに、害虫は勿論のこと私の敵たる物達と戦う為に幾度となく振るってきた。ゴから始まる地面を高速で掛けたまに飛ぶ害虫を滅する時。ムから始まる足が一杯あって噛みついてくる害虫を滅する時。ムカついた近所のガキを殴り倒す時。態度くそ悪い客を店から叩き出す時。近所の森で私の山葡萄を横取りする泥棒を蹴散らす時。気の迷いで私に喧嘩売ってきた熊にお仕置きする時。いつまで経ってもお子様気質で短気な幼馴染とその相棒のドラゴンをぶちのめ・・・・躾る時。

そしていつだってこの棒は壊れないでいてくれた。私の期待に応えてくれた。最高のパフォーマンスを見せてくれた。そう離れがたき相棒なのだ。

 

でも、こいつは余計な事喋るようになっちゃったし、王様が探してるしで、使ってるだけでヤバい事になる代物へと変わってしまった。故に、ここでお別れなのだ。めちゃくちゃ残念だけど。

 

「私からの手向けだよ、害虫根絶丸!いっちょ有終の美ってやつを、飾っちゃおうかぁっっっ!!」

『待って!待ってくれ!本当に!!この剣の頑丈さは心得ているが、まだ封印状態で真価が発揮されてない!!幾ら聖剣とはいえ壊れる可能性がある!!長い間封印されていたから、整備する必要もあるくらいで、だからミドリーヤ少女!!聞いて!お願いだから、振りかぶらないでッッッ━━━━ひょえ!?』

「━━━どぉりやぁぁぁぁ!!」

 

気合い一発。

怒号と共に振り下ろした全力の一撃は、再び丸出しになってる脳みそを叩いた。形容し難い炸裂音が鳴り、害虫根絶丸を握る手にこれ以上ないほどの手応えが走る。

攻撃を受けた化け物は地面へと顔を激しく打ち付け、大きなクモの巣状のヒビをそこへ作り出した。化け物は地面に顔を半分ほど埋めたままピクピクしていたが、それも少しの間だけ。直ぐに動かなくなり、空気が抜けた風船のように急に萎んで・・・・最後にはパッと消えてしまった。

生き物らしくないなぁ、と戦ってる間ぼんやり思ってたけど、どうやらマジもんの化け物だったらしい。

 

そんな風に状況を確認していたら、周囲から野太い歓声が上がった。何処から徒もなく私を褒め称える声も聞こえてくる。主に衛兵のしたっぱ共から「ボスー!」とか「姉御ぉ!」とか聞こえる。後であいつら殴る。

 

「声援ありがとーー!ミドリーヤ雑貨店!ミドリーヤ雑貨店をよろしくお願いしまーーす!まだ高額商品残ってるので、是非とも買いにきてねーー!今ならサービスポイントもう一個ついてくるーーー!!」

 

ついでに店の宣伝してると、よろよろと魔女っ子が近づいてきた。感謝は勿論だし、なんならお礼の一つも貰えるかな?とワクワクして待ってたら、徐に手首を掴まれる。

何か不穏な気配を感じて魔女っ子の顔を見ると、凄い形相で私の事を見つめていた。完全に疑ってる目である。

 

「今、聖剣使うたよね?ミドリーヤさん・・・いや、勇者様」

「え?い、いやいや、ないない。ひゃくぱー人違いだって。あんなの使った事にならないでしょ。頑丈なの良いことに、そのままぶっ叩いただけだって。あれじゃなくても出来るから」

「知らんやろうから教えるけど・・・・その剣ね、普通の人には鞘から抜けんし、振る事もでけへんの。実際、イーダくんは持つ事は出来ても剣として振れんかった。意識にブレーキが掛かる感覚があるんやて。軽く見た感じ、魔法のせいかな?剣の選んだもん以外使えんようにって、そういう魔法」

 

私はそっと魔女っ子に害虫根絶丸を握らせると、即座に愛する我が家に向かってダッシュした━━━が、駄目!さっきまで弱ってた人間とは思えない魔女っ子に高速タックル決められた。

 

「やめてぇぇぇぇぇ!!無理だって!!マジで!!やだぁ!!私は家でゴロゴロしながら、のんべんだらりと暮らしてたいのぉぉぉぉぉ!!」

「私かて!!冒険なんてせんと、家で魔導書読みながらお餅食べてたいわぁぁぁぁぁ!!お願い、ミドリーヤさん!!一回で良いから、王都きてぇぇぇ!!一回で良いからぁ!!」

「やだね!!だってそれ、一回行ったら終わるやつでしょ!?一回行ったらフィニッシュするやつでしょ!?私は騙されない!!断るぅ!!断るったら断る!!」

「くっ、なんて馬鹿力!!イーダくん!!ちょ、見てへんで協力して!!」

「いやぁぁぁぁぁ、助けてかっちゃぁぁぁぁぁぁん!!」

 

それから暫く、私達の熱い攻防は続いた。

緊急時に吹けと渡された笛の音を聞いた幼馴染とそのペットのドラゴンが、びっくりする程の早さで駆けつけるまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度は何してんだ、てめぇは!!」

「ぐわぁ」

 

「かっちゃぁぁぁぁぁぁん!!へるぷみぃぃぃぃぃ!!勇者にさせられるぅ!!」

 

「分かるように説明しろや!!馬鹿が!!」

 




続かない。




バッドエンドルートはもちょっと書くかも。

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