私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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バッドルートとして書いてるけど、本当何もかもバッド方向に進むなぁ。
こうして書いてみると、デクくん不在というか後継者なしのA組ってキツイ所あんねんなって。ヤクザ編とか、ヒーロー側全滅するんちゃうの?怖い。


あっ、前回のコメで眼鏡へのリアクションが多かったから、はくびしんも反省と共に追悼してくね。南無南無。すまんかった、眼鏡。でも助けてくれる人おらんねんもん。


闇の帝王な先生の気がうっかり向いちゃったルートなifの巻き③

楽しい楽しい三度目の襲撃作戦を始めて少し。

あっちこっちから戦闘音が聞こえる森の中で、私は無線を手に各所に連絡をとっていた。

 

『こちらアルファ1、俺のコピーがやられた。教師連中が動くぞ。オーバー』

『おい、荼毘心配しろよ!!教師なんざ目じゃねぇ、直ぐに荼毘3号作って送ってぶち殺してやるぜ!!』

『おい、名前呼んでんじゃねぇ。馬鹿。なんの為のコールサインだと思ってんだ』

 

無線機の向こうから聞こえてくる元気な声を聞きながら、私は足元のそれを足でグリグリしながら頭の中で状況を整理した。確かに予定より教師達の解放時間は早い。けれど色々と考えてみたが、それで生じる問題もない気がする。

 

「OK、OK。オメガりょ。スカエンとジンジンはそのまま予定通りやっといて。こっちもマスオが駄目だったらそのまま回収して一旦下がるから、何かあったら連絡ちょーだい。オーバー」

 

『了解しねぇよ!またな、セブン!!』

『だから、お前ら、コールサインを使えっていってんだろ。何の為に決めたんだ。はぁ・・・まぁ、良い。アルファ1了解、アウト』

 

無線を切ると同時、足元のそれが動いた。

軽く足をあげて踏みつける。靴底に硬質な感触が走るが、何度かそうして足踏みしていれば肉を打つ鈍い感触へと直ぐに変わった。僅かに聞こえる呻き声と鼻をつく鉄の臭いで、また何処か軽く切った事も何となく分かる。

 

「やっ、やめろっ・・・・!」

 

そんな声に視線を移すと、荒い呼吸をあげながら這いつくばってるオレンジの髪をサイドテールに纏めた女の子の姿があった。中々に勇ましい表情をしてるのだが、その様が様なので何とも言えない感じ。立ち上がろうと腕に力を込めれどその体は一向に地面から離れなくて、やっとこ体が少し浮き上がったかと思えば、バランスを崩して直ぐに倒れてしまう。根性は認めるけど、無駄なことするなぁとどうしても思ってしまう。

無駄に頑張らせるのもアレかと思って、引き寄せる個性で地面に叩きつけておいた。呻き声と共にグシャリと音がして、今度こそ動かなくなった。

 

そうこうしてると足元のそれが靴底を押し上げ始めた。

視線を落とせば血塗れになったボロボロの男が、歯を食い縛って起き上がろうとしていた。血で滑って踏んでる部分がずれると、その腫れ上がった瞼の奥に潜んでいた怒りに燃える瞳と目が合う。

 

「お前っ━━━!!よくも、拳藤をッッ!!」

「けんどー?ああーあっちの女の子のこと?もしかして彼女だったとか?あちゃー、そりゃごめんねぇ。でもお互い敵同士な訳だし、それにあんたらもウチの雑魚太郎のことやってくれちゃったんだからさぁ、おあいこって事で勘弁してよ」

 

申し訳ない気持ちと共に軽くペコってしたが、足元のそいつは余計に目をギラギラさせて起き上がってこようとする。

 

「ふざけるなっ!!何がっ、おあいこだ!!仕掛けてきたのは、てめぇらだろ!!うちのクラスメートが、A組の連中がっ、どれだけ苦しんでると思ってんだ!!」

 

思ってんだぁっ、て言われてもな。

出来れば全員ぶっ倒れててくんないかな?と思ってるくらいだから、多ければ多いほどヨッシャァ!って感じなんだけど。言ったら怒るよなぁ。うん、言わないでおこ。

 

対話を諦めた私は靴底と男の顔面、男の後頭部と地面を対象にして引き寄せる個性をフルスロットル同時発動。

もはや金属化の気配も見せず、男の頭は地面と靴底に挟まれて嫌な音を立てる。男の手足から力が抜けるのを確認してから足をあげれば、お気にの靴はすっかり血塗れになってしまっていた。ショックである。

 

 

「━━━━っつぅ、ってぇ」

 

 

男をぶちのめした音に、アホ面下げて倒れてたマスオがヨロヨロと起き上がった。顔でもぶん殴られたのか、涙目で頬を押さえて踞ってる。

それから恐る恐るといった様子で周囲を見て、私に気づくと肩を強張らせた。

 

「せっ、セブンさん!?あ、あの、すみません!でもこれは違うんです!!俺はっ━━━」

「ああ、良いって。それより体大丈夫?大丈夫そうなら、もう一踏ん張りして欲しいんだけど?」

「━━━でっ、出来ます!こんな怪我なんて事ないです!」

 

飛び上がるように立ち上がったマスオはヘルメットを被り直して落ちていた銃を拾い上げる。大人しく仕事に戻るかと思ったんだけど、何を思ったのか銃口をついさっきまで私が踏んでた男に向けた。そのまま引き金を引こうとするので━━━━即座に引き寄せる個性で銃を地面へと叩きつけた。暴発した弾丸が近くの木に音を立ててぶつかる。

 

何故か驚いた反応を見せる馬鹿に、私は軽く視線を送った。余計な事はするなと。マスオは私の視線の意味を理解したようだけど、納得いかなかったのか「どうしてですか?」と聞いてきた。びっくりだ、こいつ私の話を聞いてなかったらしい。

 

「最初に言ったでしょ、故意には殺すなって」

「でもっ、こいつは俺を・・・・!」

「だから、なに?」

 

ゴーグルの赤いレンズの先、マスオの瞳を見つめながらもう一度だけ言った。マスオはびくりと体が揺らしてゆっくり息を飲み込む。

 

「別にさぁ、人殺すの反対とか言ってる訳じゃないの。寧ろ、ウチらってそういうイカれた連中の集まりだから、殺したり殺されたりってよくある話でしょ。気にしないって。だからぶっちゃけ、これが死のうと、そっちのが死のうと、あんたが死のうとどうでも良いの。興味ない」

「えっ・・・・どうでもっ、ひぃ!?」

「でも、今回は駄目。私の立てた作戦で、私の指揮の下で、余計な損害を出すのも、余計な損害を与えるのもね。何でかって?理由はまぁー、色々とあるにはあるけどさ━━━━━私がオヤツの時間押して考えたペキカンな作戦を、あんたみたいな考えなしの馬鹿に崩されるのメチャクチャ嫌だから・・・ていうのが一番の理由。それでも納得いかないならご自由に。私もそれなりの手段をとるだけだから」

 

そう言ってツンとオデコを指でつつけば、マスオは物凄い勢いで何度も頷きガスを撒き散らし始めた。足元に転がる連中にはもう目を向けない。

私は転がってる連中を近くの木に吊るして、マスオに周囲の注意を怠らないよう警告してからその場を離れた。位置的にプロヒーローがこっちまで来るのに時間掛かるだろうし、こっから先はあんまりイレギュラーな事起こらなさそうだから警告必要なかったかもだが。

 

目的地に向かって木々の間をピョンピョンしてると、目標を発見したと報告のあった場所から大きな地鳴りが響いてきた。見れば黒い鳥みたいな化け物と刃物の塊みたいな謎化け物が大怪獣バトルを始めていた。

見晴らしの良い岩場へと着いた私は改めて大怪獣バトルの様子を確認してみた。刃物の方は歯の奴がブースト薬使った結果なんだろうと思うけど、その相手してるのはなんなのか?体育祭は見たけど、あそこまで派手なのは・・・・あっ、分かった。鳥頭のやつだ。大きさ違うけど、他は一緒だもんな。ふーむ、あの金髪ボンバーヘッドだけ捕まえれば良いかと思ったけど、あれはあれでちょっと欲しいな。個人的に。

 

人が計画を崩すのはあれだけど、私が自らやるのは良し。なので、Mr.コンプレスことコンさんに『コンさん、出来たら今暴れてるのも回収ヨロシク!』とだけ伝えておく。コンさんからは『ガンマ了解、善処するよ』と苦笑気味に返事が返ってくる。善処で十分。

さて、向こうの二人はまだ生きてるかな?

 

「あー、しもしも、こちら美人が過ぎる神話生物もかくもやなヴィランランキングナンバー1のオメガ。ベータ1、ベータ2状況報告シクヨロ!オーバーー」

『こちらベータ1!こっちはちょっと手こずってるわ!きゃっ!?もぉ、乱暴なんだからん!』

『こちらベータ2ぃ!悪いがっ、連絡してる余裕はない!!オーバー!!』

 

プロヒーロー相手組は苦戦中、と。

やられてないなら十分だ。

活きの良いオカマとトカゲに引き続き頑張るよう伝えて通信を終える。すると直ぐにトガっちから連絡がきた。なんぞなもし。

 

『こちらトガです。ナナちゃん、こっちは目標達成しました。時間に余裕ありますけど帰った方が良いですか?あと一人くらい行けそうな気がするんですが。ええっと、おーぶん?』

 

おっ、仕事が早いね。

 

取り敢えずトガっちには合流ポイントまで下がるように指示を出しておく。トガっちは帰りの手段が限られてるし、何より単独行動してるから無理はさせられない。

ハウスするんだ、おーぶん。

 

そんな風に連絡してたらMr.コンプレスことコンさんから『目標確保!』との連絡が来た。即座に全員へ撤退指示を出し、待ちくたびれてるであろう筋肉兄弟へ通信を繋げば『こっちも、ようやく友達が来てくれた所だ』と楽しそうに笑い声を返してくる。

 

「こっちが完全撤退するまで、ゲストは一人も通さないでよ?その道以外からくる連中はガン無視で良いからさ」

『ああ、了解だ。ここからは一人も通さねぇよ。その代わりといっちゃなんだが暫く自由に遊ばせて貰うぜ。なぁおい、確認なんだがよ、故意じゃなきゃぶっ殺しても良いんだよなぁ?』

「えぇーー・・・その聞き方って絶対わざとやるやつじゃん」

『しねぇっての。後でてめぇに死ぬほどネチネチ説教されんのも、喉焼かれんのも俺はごめんだ。ただよ、流石に俺もマジのプロヒーロー相手に加減してる余裕はねぇからな』

 

そういう事ならとOKを出し、私も合流ポイントに行こうとしたら何か物音がした。場所は近くの岩の物陰、大人が一人隠れるのがギリギリといった様子の場所だ。

その岩の上へ向けて細かい炎を吹き出し、雨のように降らせてみれば悲鳴と共に男の子が出てきた。赤い帽子が特徴的な目付きの悪いチビッ子だ。

 

「やっ、こんばんは。近所に民家もキャンプ場もない筈だけど、一体何処の子かな?お父さんとお母さんは?」

 

笑顔を浮かべて頭に手を伸ばしたけど、チビッ子は地面を転がるように逃げ出した。ただお間抜けにも逃げた方向は逃げ道のない崖っぷちという、考えられる中で最悪の選択。勝手に追い詰められたチビッ子は体をブルブル震わせながら青い顔で私の方を見てくる。

なんかちょっと可愛い。飼い始めの猫みたい・・・・いや、飼ったことないけど。

 

「大丈夫、大丈夫。何もしないよーちっちっち」

「こっち来るな!!撃つぞ!!お前っ、お前ヴィランだろ!!聞いたぞ!!俺はっ、騙されないからな!!」

 

真っ青な顔をしたチビッ子は眉間にシワを寄せて、右を翳しながら大きな声で怒鳴り声をあげる。だが残念な事に翳された右手にも、その本人にも迫力はない。その必死さだけはよーく伝わってきたけど。

しかっし、このシャァーって感じの怒り方ますます猫みたいだなぁ。野良猫かな。

 

なつかせてみたくて色々考えてたら、不意をつくようにチビッ子から水流が放たれた。子供にしては水量も勢いもあるけど、それでもお遊戯レベルは越えない。

だから心情的には当たってあげたい所なんだけど、個性で作られたそれが普通の水でない可能性もあるので華麗にかわしておいた。無駄に冒険するのもどうかと思うの。うん。

 

避け切った後は引き寄せる個性を発動。

対象は勿論、私に攻撃を避けられて目を見開いて動揺するチビッ子。チビッ子は大した抵抗する暇もなくこっちへぶっ飛んできて、そのままポスっと腕の中に収まる。

 

「あ、ああっ、あ・・・・」

 

私に捕まり絶望の表情を浮かべたチビッ子。

私はそんなチビッ子を左手でがっちりホールドしながら、徐に頭の上に向かって右手を伸ばし━━━━

 

「よーしよしよしよしよし!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

━━━━撫でまくってやった。

 

ついでにぎゅうぎゅうに抱き締めて、頬擦りも一杯しておく。最近ムサイくて愛嬌もない殺伐とした連中とばっかりいたから、こういう可愛いモノに死ぬほど飢えていたのだ。はぁ、本当可愛い。可愛いは正義だよね。マジで。プニプニスベスベの頬っぺたとか、いつまでも頬擦りしてたい・・・・はっ!気絶してる!?いつの間に!?

 

可愛がり方の難しさをこれ以上ないほど痛感しながら、救助隊が発見しやすそうな所にチビッ子をリリースした私は、今度こそ寄り道せずに皆が待つ合流ポイントへと向かった。集合時間まであと少し。何事もなければ良いんだけどなぁ━━━━んにゃっ?!なんだろ、寒気がする。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

『オールマイト落ち着いて聞いて欲しいのさ。今しがた合宿場から緊急連絡が入って━━━━━』

 

その一報を受けて私は己の不甲斐なさを呪った。

校長から罠の可能性があるため待機するようにと言われたが、私はいても立ってもいられずヒーローコスチュームに身を包むと直ぐに自宅を発った。

 

どうして無理を押してでも参加しなかったのか。

どうしてもっと近くにいなかったのか。

敵の影に奴の気配を感じながら、それでも私は何処か状況を甘く見ていたのだろう。奴は既に倒した筈だ、と。

 

『━━━━わぁお、痛そ。ヒーローってみんなそんな感じなの?ひくわー』

 

USJ襲撃の際、楽しげに私を揶揄する彼女を、セブンと呼ばれたあの彼女の姿を見た時から・・・ヤツ特有の底意地の悪さを感じた。彼女がヤツに似ていたという訳ではない。彼女自身からは子供染みた無邪気さすら感じた。まるでゲームでやっているかのように。

私がそれを感じたのは師匠を彷彿とさせる呼び名、髪型や衣装といった━━━見せつけるかのように、態とらしく飾り付けられたそれらだ。

 

一瞬、迷ってしまった。

ヤツの気配を感じた時点で、彼女が師匠の血縁者ではないかと脳裏に過ってしまったからだ。後日調べた結果、無事であってくれと願った師匠のご子息は行方不明となっていた。彼に関連する記録の多くが意図的に消された形跡があり、何処に住んでいたのか。何をしていたのか。家族がいたのか何も知る事は出来なかった。ご子息の周囲で何かあったのは間違いないが。

そしてそれと同時に、彼女が師匠の血縁者である可能性も、未だ否定出来ない事となってしまった。

 

あの迷いで片腕を失ってしまったが後悔はない。

もし彼女がそうであるなら、拳を振り切る訳にはいかないのだから。私には彼女を救う義務がある。平和を、力を、師匠に託された者として。それがどれだけ辛い戦いになろうと。

 

だが、それはあくまで私の事情だ。

生徒達は何も関係がないのだ。

私がいる事で今何か起きているのなら守らねばならない。飯田少年の身に起きた悲劇を繰り返す訳にはいかない。たとえこの命に替えてでも。

 

そうして強く空気を蹴り飛ばし、更なる加速を加える。

数度繰り返し合宿場近くの山間に差し掛かると、崖沿いの道に赤いランプの群れを見つけた。加えて立ち上る黒い煙や地を這う砂埃、何かを砕くような破壊音も誰かの悲鳴も。

 

拳圧で方向をねじ曲げ、空気を蹴りそこへと飛び込んだ。いま正に警官を押し潰そうとする、玩具のように空を駆けるパトカーの元へと。

 

「テキサスッッ━━━━スマッシュッッッ!!」

 

力を込めて拳を振り抜けば、爆風が生まれパトカーを押し飛ばした。きりもみしながら飛んだパトカーはガードレールを突き破り崖下へと転がり落ちていった。

直ぐに大きな爆発音が鼓膜を揺らす。

 

「っ、お、オールマイトだ!!」

「オールマイト!!」

 

歓喜の声を背に受けながら、私の目がしっかりとそれを捉えた。眼前に佇む二人の男達を。どちらも仮面をしていて顔は分からないが、二人共随分と立派な体格をしている。恐らく肉体強化系の個性持ちだろう。

 

「━━━私がきた!!悪いが、私は少し急いでいる!!大人しく投降するのであれば手荒な真似はしないが、そうでないのなら加減は期待するな!!」

 

腹の底から怒号を放ったが、仮面をした男達はお互い顔を見合わせた後、どちらも首の後ろをかく仕草を見せた。まるで面倒だと言わんばかりに。

 

「聞いてねぇぞ、こいつが来るなんてよ。せっかく人が楽しんでたっつーのに」

「はぁ、まだ連絡きてねぇってぇのによ。おい、どうすんだ。これ。流石に手に余んぞ」

「仕方ねぇだろ、セブンに連絡入れろ。ちと早ぇが、俺達はここで解散だ」

 

セブン、という言葉に思わず息が止まった。

脳裏に師匠の笑顔が過り、血が沸騰したように熱くなる。そして直ぐ、喉の奥から声が溢れていった。

 

「貴様らっ!!あの子の事をっ、セブンが何処にいるのか知っているのか!!」

 

二人は僅かに肩を揺らし動揺を見せた。

しかし、それも一瞬だけだった。

もう一人を庇うように仮面の男が前へ踏み出し、拳を力強く構えてくる。

 

「そうだとしてよぉ・・・・それをあんたに教えると思うか?俺らヴィランだぜ?個人的な友達でもあるめぇしよ。なぁ、ナンバーワンヒーロー。それより遊ぼうぜ。俺が何処まで出来るのか、あんたで試してみたかったんだ!!」

 

ピンク色の繊維に包まれて急激に膨張した腕が地面を殴り飛ばす。瞬間、コンクリート道路に巨大なヒビが入り、砕けたコンクリート片が土埃と共に舞う。

拳圧でそれらを吹き飛ばせば、全身をピンク色の繊維で包んだ仮面の男がクラウチングスタートの体勢で構えていた。

 

「あんた相手なら加減はいらねぇよなぁ!!マックスだ!!バラバラになりな、後ろの雑魚と一緒によォッッッッッ!!」

 

爆撃でもされたかのような爆音が響く。

肉の弾丸は風を切り裂き真っ直ぐに迫ってくる。

その速さと全身を包む繊維の多さから、先程地面を叩いたものとは威力は比にならないだろう事は簡単に予測出来た。背後には警察や消防隊員達がいる。避ける事が出来ない以上、選択肢は一つだけだ。

 

「デトロイトッッッ━━━━」

 

背後へと引き絞った拳を、私は眼前のそれ目掛け振り抜いた。

 

「死ねよ!!クソヒーローッッッ!!」

 

何かが弾けるような音が響く。

鈍重な手応えが腕に走る。

全身に衝撃が駆け抜けていく。

 

片腕を失った事でバランスが悪くなり、パンチの威力は全盛期と比べるべくもなくなってしまったが━━━それでも私の拳は望む威力を叩き出してくれた。

 

「ッッッッッつ!?お、おお!?くそっ、マジかよ!?これがナンバーワンの━━━」

「━━━━━━スマァァァッシュッッッッッ!!!」

 

腕を完全に振り抜いた瞬間、パァンと男が弾け飛んだ。

一瞬殺してしまったのかと思ったが飛び散ったそれは赤い血でも肉でもなく、ただの泥でしかなかった。

 

「オールマイト!!もう一人がいません!!」

 

背後から掛かった警官の声にハッとした。

辺りを見渡してみたがそこには瓦礫が残るのみでヴィランの姿はない。

 

「すまない!もう一人が何処に行ったか分かるか!」

「あっ、みっ、見ました!オールマイト!!一瞬だけでしたが、先程崖下に何か落ちて行ったのを!!人かは、分からなかったのですが」

 

言われて崖下へと視線を向けた。

闇に紛れて分かりずらいが、何かが無理やり通ったように木々の枝が折れてる部分を見つけた。がたいの良さを考えて先程のヤツである可能性は高い。

 

私はその場を警官達に任せ、男の後を追い崖下の森へと飛び込んだ。すると直ぐに抉れた地面を見つけた。駆け出す為に強く蹴ったのだろう。木々の隙間から覗く月の明かりがそれらを淡く照らす。

それを辿り駆けること数秒、それが目に入った。

 

 

「━━━━━セブンッッッ!!」

 

 

私の声に黒いモヤの側で佇んでいた彼女は目を丸くさせた。隣にいる仮面の男は舌打ちを鳴らし、近くにある黒いモヤの中へとさっさと入った。そして彼女も足早にその中へと歩んでいってしまう。

 

 

「待ってくれ!!君はそこにいるべきではない!!君には━━━━━」

 

 

彼女は酷く冷たい目で私を見ながら、静かに闇に消えていった。ただの一言もなく。僅かな淀みもなく。

それが当然であるかのように。

 


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