私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
学校が普通にお休みの日。
柄にもなく頑張る事を決めた私は運動出来る格好でかっちゃん家のインターホンを押した。
「かっちゃーーーん、遊びましょ━━━じゃなかった。特訓しましょー!」
そう呼び掛けるといつものように光己さんが玄関を開けてくれた。
「おはよー双虎ちゃん!今日は朝から早いわね!なになに~デート?」
「いえいえ。体育祭近いから体動かさなきゃなんですよ!それでかっちゃんに付き合って貰おうと思って」
「あら、それは残念。勝己ーー!!いそいそ準備してた事キャンセルして双虎ちゃんに付き合いなさーい!!」
「うっせぇぞ!!クソババ!!!!」
おおう。
かっちゃんは朝から元気な声だすなぁ。
元気さに感心してると、光己さんが笑顔で「ちょっと待っててね?」と家に戻っていった。
ちょっとがどれくらいか分からないので、用意していた運動してても落ちないお高いイヤホンで音楽聞いて待つ事にした。音質がね、違うんだよねぇ。全然。うん、多分ね。高かったんだぁ、これが。
少しして背もたれにしてた玄関が開きかっちゃんパパが現れた。イヤホンは勿論外す。良い子だからね。
「双虎ちゃんおはよう」
「おはようございまーす。かっちゃんパパ、今日は休みなんですか?」
「はは、そうなんだよ。最近休みもまともにとれなかったけど、仕事の方に漸く目処がついてね」
かっちゃんパパはなんやかんやと忙しい。
いる時はいるんだけど、いない時はほんとにいない。
ここ最近かっちゃん家にきても全然顔を見てなかった。
「今日は勝己とお出掛けかい?いやね、登山にいく時は大体一人で行ってたから珍しいなって・・・」
「登山?かっちゃん今日登山いくつもりだったんですか?」
「ああ、聞いてなかったのか。成る程」
かっちゃんはアクティブな男で、好きな事とか聞かれて登山とか言っちゃう人なのだ。中学の時、学校の行事で山登りを覚えてから稀に山登りするようになった事は聞いていたけど、出くわすのは初めてだ。
「最近いってなかったから随分と久しぶりで、その上に双虎ちゃんが来たっていうから、そういう事かと・・・」
「そういう事?」
「いや、こっちの話さ。━━あ、そうだ、もし勝己が駄目だったら私と光己とでお出掛けしないかい?ドライブにでもいこうと思ってたんだよ」
「おぉ、それは━━━あーでもなぁ、運動しなきゃなんだよなぁ~」
「そっか、それは残念だ。お昼はバイキングにいこうと思ってて・・・良かったらと思ってたんだけどね」
「バイキング!!」
なんという素敵イベント!
これは、これは、いかないのは逆に失礼なのでは?
ぶっちゃけ、体動かすのは放課後でも出来るし、てか既にやってるし、休みの日一日潰してやったからといって成果が出るものでもないし・・・。
「いやぁね。光己が好きそうなお店を見つけてね。有名ブランドのケーキが食べ放題のところで・・・あ、勿論他の物も品質に拘ってて━━と、誘惑するような事言っちゃ不味かったね。ごめんね」
「いえいえ。あ、でも、かっちゃんが駄目だったら行きます!」
「そっか。それは良かった。光己も喜ぶよ」
バイキングで何を食べるか考えていると、かっちゃんパパの後ろからしかめっ面のかっちゃんが現れてしまった。何となく、バイキングが遠退いた気がした。
「クソジジィ!!何してやがんだ、こらぁ!!引っ込んでろっ!!」
「おお、怖い怖い。ん?登山は止めないのかい?」
「━━っんで俺が馬鹿女の為に止めなきゃいけねぇんだよ!!着いてきたきゃ勝手についてくりゃ良いだろ!!」
「一緒にいくのか?でも双虎ちゃん登山する道具なんて持ってないだろ」
私、登山するのか。
やだな。面倒臭い。
てか、バイキングしたい。
「っせんだよ!!登山ってもルートがあんだよ!!馬鹿が死なねぇルートにすりゃいんだろうが!」
「ああ、成る程な。ハイキングみたいな。けどなぁ、春とはいえ山は寒いだろ?双虎ちゃんの格好で山歩きするのはなぁ」
「行きくれぇなら上着羽織ってりゃ問題ねぇだろ!!どうせ足が痛ぇだの文句つったれて、帰りはロープウェイとかになんだからよ!おらぁ!!」
顔面に上着を叩きつけられた。
痛い。何すんだこの野郎。
投げられたそれを手にとってみると、けっこうフカフカないいやつだった。多分登山用のやつだと思うけど・・・ナニコレ、欲しい。冬場、ちょっと出掛けるのに着るやつとかに欲しい。
お願いしたらくれないだろうか。くれるな。
結局かっちゃんと登山にいく事になった私は、光己さんとかっちゃんパパと今度バイキングにいく事を約束してかっちゃんと山に向かった。
元から運動するつもりだったから別に登山でもなんでも良いけど、いきなり過ぎる舵取りに双虎ちゃんはびっくりである。━━え、いや、いくよ?行くけどね?うん。
かっちゃんが登ろうとしていた山は電車を乗り継いで30分程した所にあった。登山初心者から中級者向けの山らしく、登山道はそんなに険しくなくて、なんなら帰りはロープウェイで帰ってこれるというお優しいお山様だそうだ。山道の掲示板調べ。
行き掛けに買ったスポドリを飲んだり休んだりしながら登る事三時間程、漸く頂上が見えたーと達成感たっぷりに背伸びしてたらロープウェイ乗り場が見えた。ぞろぞろと観光客が降りてくるロープウェイを眺めながら、何とも言えない気持ちになる。
本当、なんだろうこの気持ち・・・切ない?
「かっちゃん、ロープウェイ」
「ああ?んだ、もう帰りてぇのかよ」
「いやぁ、切ないと思って」
「・・・んなもんだ」
そっか、んなもんか。
その後、展望台の所にレストランがあるというので、お昼も近かった事もありご飯にする事にした。
勿論かっちゃんの奢りである。
「・・・旨いけど、切ない」
「だったら、食うな。ボケ」
「いや、食べるけどさぁ」
眺めのいいレストランでご飯を食べてると、本当に登山しにきたのか怪しく思えてきた。運動がてらと思ってたけど、なんだこれ。
動いてるより、まったりしてる時間のが長いんですけど。
私の思ってた登山と違う。
もっとこう、登山といったら断崖絶壁をピッケルぶっ刺してロープ張って、人差し指しか引っ掛からないような出っ張りを頼りにクライムしてく感じかと思ってたのに。途中で熊に出会って死闘したり、猪が襲ってきて返り討ちにして食べたり、そんな感じかと思ってたのに。
なんだこれ。
「さっきっから、なんだよ。文句があんなら言いやがれ、クソが」
外のせいか、かっちゃんが怒鳴らない。
悪口は言われるけど、これがまたしっくりこない。
なんか調子が狂う。
うーん、なんだろ。
「文句って程のことじゃないんだけどさ」
「あ?」
「なんか登山って感じがしないんだよね」
「はぁ?」
なんだろ、これ。
うーん、上手い表現方法が・・・ああ。
「そうだ、かっちゃん!これじゃデートだよ!登山デート!山登りっていったらこう過酷━━━」
「━━っごふっ!!!」
「かっちゃん!?」
気管支に変な物でも入ったのかかっちゃんが苦しそうに噎せた。なんか死にそうな程だ。あまりに苦しそうに噎せているので割りと本気で心配になった。
大丈夫かぁぁぁぁ!!
ゆさゆさ揺らしながら安否を確かめると「止めろや!!」と怒鳴られた。おおう、それでこそだかっちゃん!!もっとこう、火がついた爆竹みたいに行こうぜ!!なっ!
「クソが!!だ、誰がっ、てめぇなんかとデートするかっ!!勘違いしてんじゃねぇぞオルァ!!」
「してないんだけど・・・まぁ、いいや。でも、良かったじゃん?今度誰かとデートする時に使えるって分かったんだからさ」
「は、はぁぁぁぁぁ!?」
かっちゃんにそんな人が現れるとも思えないけどね。
どれだけ奇特なんだよって話だもん。
常に怒鳴ってて、爆発してて、ムードとかへったくれもない男だよ?誰が付き合うの?そんな人がいるなら教えて欲しいよ、わたしゃ。
「私もそういう人出来たら連れてきて貰おうっと。夜とか夜景綺麗そーだもんねぇ」
「━━━っ、ち!夢みてんじゃねぇぞゴラァ!!誰がてめぇみたいなっ、見掛けだけの馬鹿女と付き合うんだ!!んなもんいたら、正気を疑うわ!!」
「よく言った、爆発小僧。その喧嘩、買ってやる」
それから近くの空き地で、日が暮れるまで殴り合いの喧嘩をした。個性なしの喧嘩だったけど、ぎり私が勝った。正直、負けるかと思っただけに勝利の余韻が凄かった。
お土産を買ってから最終のロープウェイに乗って帰ると、結局夜景を見る羽目になってしまった。
かっちゃんとというのが不本意だが、まぁ、今回は良かろうと思う。勝ったから。負けてたら、こうは思えなかったよ。負けてたらね。
「かっちゃんや、かっちゃんや」
「っんだよ、クソが!!」
他にお客さんがいなかったせいか、かっちゃんがいつも通りに怒鳴ってくる。慣れてる私としてはこっちのが安心するので、それに文句は言わないでおく。
「そっちにいると見えないからこっち来なよ?ね?」
「・・・けっ」
クソ生意気にも無視してきたかっちゃんの頭を掴み、隣の席に無理矢理座らせてやる。
「ほら、見てみ?」
「っせ!ほら、見たろ!!離せや!!」
「見てないでしょ?ほれほれー」
「あがっ!?」
そっぽを向いてしまうかっちゃんの顔を無理矢理窓の外へセットし、私もそっちに顔を向ける。ふむ、綺麗な物は誰と見ても綺麗だなぁ。
「かっちゃんや、かっちゃんや」
「・・・んだよ」
「かっちゃんに彼女がいなくてさ、私も彼氏がいなくてさ、それでまた二人共暇だったらさ━━━」
「━━━また、こよーね」
「・・・気分がのったらな」
「うん」
それからどうやって帰ったかは分からない。
ロープウェイでウトウトしてた事までは覚えているけど、そっからさっぱりだ。
母様からかっちゃんがおぶって連れてきた事は聞いたけど・・・よくあの距離を運んできたなと思う。
今度あったら褒めてやろ。