私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
チャレンジャーというか、無謀というか。アニメのオールフォーワンの「資格もなしに」の部分で全力で頷いてもうたがな(;・ω・)
なんやかんやと雄英体育祭まで後一日まで迫った今日。
いつもと同じようにかっちゃんと食堂に向かってると、ガチムチに道を防がれた。
「緑谷少女・・・・・・」
オノマトペを付けたらゴゴゴゴとか付きそうな気配に、かっちゃんが身構え、私はかっちゃんの貞操の危機に警戒した。
やられる、そう思った。
かっちゃんが。
ところがガチムチはその大きい体を小さくし、包みを前に出してきた。
「ごはん・・・一緒に食べよ?」
「「・・・・・」」
かっちゃんがどう思ったのか分からない。
少なくとも私は本物だと思った。
しかもこの様子から察するに、ガチムチはガチムチの癖に受け。女役の可能性が高い。
かっちゃんの処女のピンチかと思ったら、素人童貞の方のピンチだったとは。二重トラップ過ぎる。怖い。
「かっちゃん、かっちゃん」
「・・・んだよ」
「頑張れ、良いことあるって」
「なにを慰めてんだてめぇはよっ!!!」
これからを思って慰めたら怒られた。
心配してやってると言うのに酷い。
そんな私達を見て、ガチムチが神妙な顔になった。
きっと、かっちゃんとどうやってイタスか考えてるに違いない。これだからホモは。
そんな私はかっちゃんの後ろにそっと回り盾にした。
最悪、かっちゃんは諦める所存。
「本当は緑谷少女だけに話があったんだけどね、仕方ないか。爆豪少年も来てくれないか?例の件で話があるんだ」
「━━は?例の件だ?」
「ああ。本当はもっと早くに伝えるべきだったんだがね、体育祭の準備で忙しくて・・・いや、これは言い訳だな。兎に角、少しでいい時間をくれないか?」
かっちゃんとガチムチが私を見てきた。
え、私が決める感じ?まじで?
君らがどうぐんずほぐれつしようが、君らの自由だよ?私を巻き込まないで欲しいな。
そうは言っても巻き込むき満々な二人に、どれだけ抵抗出来るというのか。か弱い乙女な双虎にゃんには無理やん。ね。
なので無駄な抵抗とは思いつつも一つだけ要求しようと思う。
「お弁当買ってくれたら良いですよ」
普通に買って貰えた。
焼き肉弁当貰えた。ジュース付きだった。
言ってみるもんだ。
ガチムチに連れられてやってきた仮眠室。
備え付けのベッドを見て、かっちゃんの貞操がいよいよレッドゾーンに達している事を知りその冥福を祈った。
安らかに眠れ、かっちゃん。
ソファに座ったガチムチはかっちゃんの前だと言うのにヒョロガリに戻りお茶を入れだした。隠してた感じだと思ってたんだけど、良いんだろうか?
「ん?ああ、実はこの間、そう最初のヒーロー基礎学の時に彼と色々あってね、私のこの姿については話してあるんだ。体の事も少しね」
かっちゃんの顔を見れば忌々しそうに視線を逸らしてきた。無言のうちに肯定するの上手だね。
「じゃ、お弁当を食べながらお話聞きます、どうぞ」
「え?うん、そのつもりではあったけど、普通私から言う感じじゃないか━━━」
「頂きまーす」
「━━━はい、召し上がれ。爆豪少年も座りなさい」
「ああ」
お弁当をモグモグしながら話を聞いた。
正直お弁当を食べるのに忙しくて半分くらい聞いてなかったけど、かっちゃんがガッツリ聞いていたので大丈夫だと思う。
私が聞いた感じだと、ガチムチモードの時間が短くなったとか、なんかそういう話だった。
「それで、なんだけど・・・って、緑谷少女。話聞いてた?」
「はい?大丈夫です、聞いてます聞いてます。ガチムチの時間が短くなったんですよね?」
「え?いや、他にも色々・・・爆豪少年、何かあったときは頼む」
「言われんでもそうするわ」
「そうか、君がいてくれて良かった」
纏まったみたいだ。
よく分からないけど。
「それで話は戻すんだけど、もう一度真剣に考えて欲しい。私の後継になる事を」
「━━━オールマイト!!」
かっちゃんが突然立ち上がった。
お弁当に埃が入るから勘弁して欲しい。
文句の一つも言おうと思ったけど、かっちゃんの顔を見たら言うに言えなかった。
あんまり見たことない顔だったから。
「俺ぁ、言ったよな!?」
「それは分かっているさ。私も出来ることなら、誰かに託すような真似はしたくない。だがね、必要なんだ。私がそうであったように、次代にも柱が必要なんだよ。この超人社会全体が平和でいる為にも、悪に絶対屈しない、絶対的なヒーローって奴がね」
「それなら俺が━━━」
「すまない。気持ちは嬉しいんだ、爆豪少年。でもね私は彼女をと、そう思っている」
二人が凄い顔で見つめあってる。
雰囲気が悪い。辛い。
双虎にゃん、こういう空気苦手。
真面目過ぎるのマヂムリ。
取り合えず私の話だと思うので怖い顔したかっちゃんを座らせて、代わりに私がオールさんと見つめあう事にした。
「えっと、お断りします!」
「うん、これに関する事だけはびっくりする程に反応良いね。どれだけ嫌なのかよく分かったよ。━━━でもね、お願いだ、少し考えて欲しい。私に残された時間は少ない。故に一刻も早く、次代の育成に取り掛かりたいんだ。それは誰でもいい訳じゃない。君だからお願いしているんだ。やはり私は君にこそ継いで貰いたい」
なんで私なんだろうか。
他の人、本当にいなんいだろうか。
「理由もなく言ってる訳じゃない。君の性格、内面を見て━━━━」
「それは言わなくても良いですよ。流石に私でも分かります。それに外見で決めてたら、それはそれで引きますし」
「あ、うん、そうだよね。ごめん」
「いや、謝らなくても良いですけど・・・」
また静かになった。嫌だなぁ。
これは、話さないと駄目なやつなんだろうなぁ。
でも、正直かっちゃんの前で話したくない奴なんだよね。
仕方ないか。
「かっちゃん、ジュースが飲みたい」
「・・・はぁ?」
「私は炭酸系を所望する。直ぐに買ってくるとよい」
「なんで俺が━━━」
「お願い、かっちゃん。ダッシュでいってきて?」
「お前な・・・はぁ、待ってろやクソが!!」
かっちゃんは呆れた顔をしたけど、分かってくれたのか部屋を出ていってくれた。多分マジでダッシュして戻ってくると思うので話すことを話してしまおうと思う。
「後継の話は、お断りします」
「・・・それはどちらも、という事で良いのかな?」
「はい」
正直にいえば、誰かに期待されるのは嫌じゃない。
私自身、自分が完璧美少女だと思ってるから、期待されて当たり前だと思う。
でも、これだけは頷けない。
「━━━私はオールマイトが考えているような人じゃありません。私は私の大切な人だけ助けられれば、それで良いんです。知り合いとか、友達とか、母様とか。それだけで良いんです」
「でも、オールマイトの後を継いだら、助けなくちゃいけませんよね。ずっと貴方が守ってきた沢山のもの。テレビで見てきました。嫌でも目につくので。私はそれがやりたくないんです」
「怪我するのは嫌です。痛いのは嫌です。でも、そんな事は我慢出来ます。そうじゃ、ないんです」
「考えてたんです、ずっと。どうして、あの時の姿がどうして怖かったのか。まだちゃんと分からなくて、ちゃんと言葉に出来ないけど・・・きっと怖かったんだと思います。皆に褒められる貴方が、誰にも怒られなかった事が。命懸けで危険に飛び込んだ貴方を、誰も心配しなかった事が」
「今なら少しだけ分かります。きっとあの時、オールマイトの知り合いとか友達とか家族とか、心配していたんだろうって事。でも、あの時私が見たものに、それはありませんでした」
「一人で笑う貴方が怖いです。私は貴方みたいになりたくありません。そんなに強くないんです。だから、ごめんなさい。私は少なくとも、貴方の思うヒーローにはなりません」
それから少しして、かっちゃんが炭酸を買ってきてくれたので、そのタイミングで部屋を出た。
午後は授業出るきにならなかったので、そのままバックレた。何故かかっちゃんも一緒にバックレてた。
なんやかんや良い子にしてるかっちゃんがバックレとか珍しい。
折角なので少し遊んで、それで帰った。
明日は一日中運動する日。
かっちゃんにイタ電する気にならんかった私は、何も考えずベッドに転がりこんで、そのまま眠った。
明日にはまた、いつものようにいられるよう。
◇◇◇
緑谷少女に改めて断られた私は、一人部屋の中で彼女の言葉を反芻していた。
「一人で笑う貴方が怖い、か」
そんな事を言われたのは初めてだった。
お師匠の受け売りで笑顔をつくり続けてきて、一度も面と向かったそう言われた事はなかった。恐らくヴィランには恐れられていたのだろうが、彼女が口にしたそれとは本質から違う。
彼女は理解しているのだろう。
私が成した事と、そしてそこにあった代償も。
幼いながら、私の笑顔の裏にあるものを何となしに感じ取っていたのだ。
「偉そうに、よくもまぁ、語ったものだ」
彼女に一度笑顔の意味を説いた事があった。
重圧に押し潰されんが為の、と。
正に彼女が恐れた、それとも気づかず。
誰でも背負える物ではない。
だからこそ、この年まで後継を決めあぐねてきた。
背負うに足る、相応しい人物を探して。
そして漸く見つけた彼女に、私はただ押し付けようとしていた。一つとして彼女を知らず。
愚かな。
望む望まざるとも、彼女が一度この力を、ワン・フォー・オールを身に付ければ、間違いなく使うだろう。
口ではああいうが、彼女は生粋のお人好しだ。出来ることが増えれば、それだけ無茶もするようになる。出来ないからこそ、現状で最善の行動をとってきた。事実、USJの一件では、彼女は誰よりも早く逃げる事を選択している。結果的に無謀にもヴィランに向かってしまったが、それまでの行動とあまりに違い過ぎるそれは咄嗟だったのだろうと思う。それこそ、彼女の持つ本質がそうさせたのだ。
彼女の個性を一見すると強個性に思われるが、それは彼女が使うからこそだ。研鑽し、能力を底上げし、頭を使い、そして漸く今の位置にいる。全ては努力故の現状。ならば、彼女がワン・フォー・オールを手にすればどうなるか考えるまでもない。研く。己の血肉になるまで、研きあげる。そして手にした力を使う。生来の気質と共に。
爆豪少年は誰よりも知っていたのだろう。
掛けられる期待に応えようとする彼女を。
言葉とは裏腹に、誰よりも命を懸けてしまう彼女を。
だからこそ、私に怒鳴り散らしたのだ。
背負わせるなと。
彼女は背負ってしまうから。
迷いもなく、後悔もなく、求められるそれを成そうとしてしまうから。
「教師失格だな」
歩み寄ろうとした矢先にこれだ。
私は教育者に向いていない。
それも絶望的に。
彼女の言葉が頭を過る。
出来ないと言わなかった彼女の言葉が。
そしてやりたくないと言った彼女の言葉が。
「私は呼んでいない・・・まさにそれじゃぁないか」
あの言葉にそんな深い意味はない。
そんな事はとうに知っている。
けれど、その言葉が胸に残り続けている。
「塚内くん、先生って大変だな」
彼女に伝えられる事が私にあるのだろうか。
それだけが、グルグルと頭の中で巡っていた。