私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
「轟さん!ラスト30秒です!堪えて!」
八百万の声に焦りが浮かんだ。
飯田レシプロで1000万のハチマキを取る事は出来たが、それから始まった爆豪の怒濤の攻めに耐えきる余力が殆ど残って無かったからだ。
飯田はレシプロの反動で通常歩行のみ、上鳴は序盤での連続放電でキャパオーバー、八百万も体力と脂質の大半を消費済み。
それである以上、俺が堪えなければいけないのだが、それがあまりに難易度の高い事だった。
汗が爆発する爆豪の個性は、当然その汗の量により威力が増減する。つまりは体を動かせば動かす程、その威力が増すスロースターターな能力ということだ。
それは俺の冷やす個性とは真逆の特性。
俺の個性は初撃から最大出力を発揮出来る反面、使えば使う程威力が落ちる。更には個性発動時に起こる冷気で体温が低下し、それに伴って身体能力も著しく低下してしまう。
言うなれば、短期制圧型の個性という事だ。
正面からやり合えば、相性はけして悪くはない。
爆豪のエンジンが掛かる前に倒してしまえば良いのだから。だが、一度その機会を逃せば俺の勝機は限りなく薄くなる。そう今の状態が正にそれだ。
「舐めてっからだっ、紅白野郎!!」
爆撃と掌底の連打の中、爆豪の声が響いてきた。
声につられて視線を動かせば爆豪の火がつきそうなギラついた目が俺を見つめていた。
「勝つ!?ッザケンな!!半分しか使わねぇで、何寝言ほざいてやがる!!テメェみてぇな中途半端野郎に、出来る訳ねぇだろうがっ!!」
「なんだとっ・・・!」
爆豪の言葉に肌が、左が疼いた。
咄嗟に溢れ出ようとしたソレを抑えたが、完全には抑えきれず熱を帯びてしまったのが分かった。
「轟くん!それはっ━━」
「飯田、前向いてろ来るぞ・・・!」
間髪入れずに爆豪の右の掌底が飛んできた。
凍らせようとしたが、爆破され思うように止められない。
「っは!!左は使わねぇんじゃなかったのか!?アア!?だから中途半端野郎なんだ、テメェは!!」
爆豪の攻撃へ転ずる腕の回転が加速してきた。
始めの頃と比べものにならない速度と威力。
圧倒的なまでの手数の多さ。
嫌でも分かった。
それらが俺の防御を上回り始めてきた事を。
不意に爆豪の掌底がガードをすり抜け左肩を叩いた。爆音と共に衝撃が走る。前騎馬の飯田にも衝撃が届き、騎馬全体が揺れる。
「どうしたよ!!半端野郎!!勝つんじゃねぇのか!?半分でよぉ!!」
「てめぇ・・・!!」
腹が立った。
どうしようもなく、腹が立った。
元から言動の荒いこいつに良い印象はなかったが、左の事をついてくるこいつに言い知れない怒りが沸いていくのを感じた。
何も知らねぇくせに。
あいつの事も、母さんの事も、何も知らねぇくせに。
知ったような口を叩きやがって、と。
爆豪の攻撃を右手で受け止め凍らせる。
一瞬動きを止められたが、個性の使いすぎで氷結の性能が落ちていたのか爆破され簡単に逃げられた。
「威力落ちてんぞ!!ガス切れかよ!!」
爆豪の返しの一撃でガードが弾ける。
直後、爆撃ががら空きの腹にぶちこまれた。
胃がひっくり返るような一撃に、呼吸が止まる。
その間も爆豪は止まる事なく、体を弓のように引き絞った構えをとってきた。
今まで以上の一撃が来る事を瞬時に理解し、かわせない今の状態を考えて耐える為に歯を喰い縛った。
「全力も出せねぇクソ雑魚ならっ!あいつに関わんな!!俺もっ!!あいつもっ!!持てるもん、全部使ってっ!!それでもっ、足りねぇから血ヘド吐いて足掻いてんだっ!!それに勝つだぁ!?ッザケンなァ!!」
爆音が鳴る。
衝撃が空気を震わす。
加速された掌底が視界に入った。
「ナメクジ根性の半端野郎はっ!!黙って死んどけやぁ!!!!」
「轟さんっ!!」
爆豪の掌底が顔面に入る寸前、八百万の出した金属板が割り込んできた。掌底が叩きこまれた金属板は直後の爆破で吹き飛び防ぎ切れなかった爆風に煽られたが、必殺と思われる攻撃の直撃を免れただけで十分過ぎた。
「ちっ!!邪魔すんな!!変態女!!」
「へっ!?変態!?」
爆豪の言葉に八百万が動揺を見せた。
そしてその一瞬の隙を見計らったように、芦戸の溶解液が八百万の足元を溶かしてきた。注意しようとしたが爆豪の爆撃で声がかき消され、それも無駄に終る。
次の瞬間、八百万が足を滑らせ騎馬全体のバランスが崩れた。
「かみな━━━」
「させねぇよ!!!」
爆豪の爆撃が上鳴に放たれた。
突然の攻撃に上鳴が白目を剥く。
悪質な崩しは反則に当たるが、爆破の煙幕に隠れ判定がない。
「今度こそ、死ねや!!!」
「爆豪っ・・・!!!」
防御が間に合わないと思った俺は、気がつけばソレに手を伸ばしていた。
爆豪の首に下げられていたハチマキだ。
爆豪の首元ハチマキを取るのと同時に、爆豪の手の中に1000万ポイントのハチマキが握られる。
取り返そうと手を伸ばしたが、爆破で弾かれた。
「轟くん!!時間がっ!!」
飯田の声が響く。
『残り十五秒!!』
アナウンスの声が響く。
俺は━━━
「やほ!」
━━━爆豪に伸ばしかけた手を止めた。
視線が突然現れた緑谷に向く。
場違いなほど眩しい笑顔と、差し向けられた掌。
一瞬時が止まったかのような錯覚を覚え━━━間髪入れずに手元のハチマキを拳ごと凍らせた。
直後手元のハチマキが拳ごと引き寄せられた。
それは爆豪も同様で、その手に握られたハチマキが緑谷の方へ引かれているのが見えた。
「━━━っは!!すぐ調子に乗りやがる!!馬鹿が!」
爆豪がハチマキを爆発させた。威力を抑えたのか木っ端微塵にはならず、ボロボロのハチマキが手元に残る。
そしてその瞬間、強く引き寄せられていたハチマキが若干弱々しく垂れるのが見えた。
『10!!』
「テメェの個性の弱点なんざ、知ってんだよ!!瞬間的な形質の変化に弱ぇぇって事はよ!!」
俺にしてきた様に、緑谷に向かって爆豪が空を駆けた。
「っ!?引けぇい!者共━━っ!?」
「わりぃな!緑谷!!」
緑谷の肩に瀬呂のテープが張り付いていたのが見えた。
戻ろうとする緑谷の体がその場に止まる。
『5!!』
「双虎ぉっ!!」
「うわぁぁぁ!?こっちくんな変態!!」
『4!!』
爆豪の手が緑谷のハチマキに伸びた。
咄嗟に手を払おうとした緑谷だが、テープが張り付いてるせいかバランスが崩れていてまともに防御が出来ていない。
『3!!』
テープが強度の限界を超え音を立てて切れた。
それと同時に足元のワイヤーに引かれ、騎馬へと戻っていく緑谷の額にハチマキは無い。
騎馬へと引き戻される爆豪の手の中に、俺からとったハチマキ以外のもう一つが握られていた。
『2!!』
「━━━っそ!覚えとけよぉぉぉぉぉぉ!!」
『1!!』
「━━━っ!!!!」
『TIME UP!!』
終了の瞬間、爆豪は手にしたハチマキを握り締めて、口許を僅かに歪ませた。
目に見えた喜びの感情はその一瞬だけ。
だが、それがいやに眩しく映った。
ただ守る事しか出来なかった俺とは違い、最後の最後まで戦う事を考え続けた爆豪。
その爆豪が恐らく最後に手にしたであろう何かが、ひどく羨ましく思えた。