私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
残念だったな!更新だ!
ふははははは!!ごふぁっ(゜ロ゜)
燃え尽きたぜぇ・・・。
はぁい、皆のスーパーハイグレードスペシャルアイドル緑谷双虎です。ハゲとの一悶着の後、観客席へ戻ってきた私が見たものは落ち込む尾白と、同じく落ち込む瀬呂だった。
元気出すように焼きたてホヤホヤの大判焼きを押し付け「元気だして、負けワンコ達(はぁと)」と声をかけたのだが、何故か泣かれた。そのせいでお茶子と梅雨ちゃんに軽く怒られた。解せぬ、可愛く言ったのに。
大判焼きを皆に配り終えた後は皆で試合観戦。
第三試合であるあしどんVS常闇を見守った。
途中までは大人しく見ていたのだが、常闇の圧勝という下馬評を覆したあしどんの熱い戦いで心がヒートになってしまう。
そのせいで我慢出来なくなった私は暇なB組女子達とポンポン持って応援した。包帯先生から怒られた。
結局試合は常闇の勝ちで終わったが、善戦したあしどんには沢山の拍手が送られた。きっと指名も来るだろう。良かったねぇ、あしどん。
第四試合は眼鏡VS発目。
内容はテレフォンショッピングだった。
ある意味発目が勝ったが、試合は眼鏡の勝ち。
そのあまりの試合の酷さに、瀬呂と尾白が心からの安堵を感じたのは眼鏡には言わないでおこうと思う。
この二人に同情されるとか、眼鏡が泣くわ。
あ、もしもし、発目?五番目のやつ頂戴。モニタしてあげるから、タダでおくれ。
第五試合はかっちゃんVS切島。
内容は一方的な爆破祭り、かっちゃんが勝った。
個性的な相性で短期決戦を挑んだ切島は間違いなく英断をしたと言える・・・けど、相手はあのかっちゃん。試合内容的に三枚くらい上手だった。
切島が勝つには時間をかけず懐に潜り込み、個性の強みを活かしてガチンコに持っていくしか無かったのだが、かっちゃんはその接近から許さなかったのだ。
エンジンを掛けておいたのか、初っぱなから特大の爆撃。その牽制を始まりに、中遠距離からの止まる事をしらない爆撃連発で切島は見事に完封された。
まぁ、ポンポン持って応援していた身としては?かっちゃんが勝って良かったんだけど・・・もうちょっと苦戦してくれても良いのにと思わずにはいられない。私は、こう、逆境に陥った所で、天上の女神たる私の声援を受けて覚醒して、新必殺技とか出して劇的に勝って欲しかったのだ。残念でならない。
━━━との事をお茶子に言ったら本気で嫌がられた。
「ニコちゃんが言うと洒落にならん。ホンマに覚醒しそうやもん。ちゅうか、ホンマに覚醒したとして・・・次戦うん、私やん。私、本気で嫌」
あ、そうだね。
めんご。
忘れてた。
『お待たせしまくりましたぜ、エヴィバディー!!色々あったが!雄っ!!英っ!!体育祭っ!!一年の部、最終種目、第二回戦第一試合!!いよいよ始まるぜぇい!準備はOK!?俺はOKだぁっぜ、YEAAAAAA!!』
かっちゃんの荒らした試合会場をコンクリ先生が直した後、スタジアムにはラジオのおっちゃんの声が響き渡った。
『解説は相変わらずのクールガイ!!ミイラマンこと、イレイザーヘッドだぁー!!』
『俺、いるか。本当に━━━』
『さぁ、それじゃ選手の入場いっちゃうぜーー!!!』
『━━━きけよ』
包帯先生も大変だなぁ。
大人の厳しさを知った、春。
染々と包帯先生の苦労を思っていると、肩をちょんちょんされた。誰かって?勿論、隣の梅雨ちゃんだ。
「けろっ。緑谷ちゃん」
「どったの、梅雨ちゃんや」
「どったの、じゃないわ。二回戦第一試合って、緑谷ちゃんでしょ?いいのこんな所にいて」
・・・OH!そうだったにょ。
「てへぺろ!」
「てへぺろしとる場合ちゃうから!呼ばれる前にはよいって!!また相澤先生に怒られたいん!?」
『第一回戦をシードで通過!!障害物で断トツなのに二位通過!騎馬戦では手当たりしだいぶっ潰しておいて二位通過!!すげぇ記録と、馬鹿な記録が混同しまくりなダークホース!!今大会屈指のじゃじゃ馬娘え!!自称、最強無敵な超絶美少女!!ヒーロー科、緑谷双虎ぉぉぉ!!』
「誰が自称だぁ!!私はいたって最強無敵な超絶美少女だ、こらぁぁぁぁ!!」
「爆豪くんみたいに言うてる場合ちゃうから!!ほら、軽くするから、いって!!」
そう言ってお茶子がタッチしてきた。
お陰で私とってもカロリーヌ。
ひとっ飛びで試合会場のど真ん中へ天女の如く降り立つと、歓声が鳴り響き緑谷コールが起きた。
隠せない美少女オーラが吹き荒れたのだろう。
仕方なし。
私はミッドナイト先生に視線を送った。
マブダチなミッドナイト先生は直ぐにその視線の意味を直ぐに理解し、マイクを投げてくる。
私はそれを引き寄せる個性で華麗にキャッチ。
口元に近づけた。
「あげてこうかーー!!」
ワァァァァと歓声が一段と盛り上がった。
私のスターオーラが溢れまくっている。
流石産まれながらのスーパーアイドル、称えるがよい愚民共!!
「へいっ!ラジオ先生!ミュージックスタート!!」
『OK!それじゃ一曲、最高の奴を━━━だっ!?』
ラジオ先生の突然の悲鳴に会場が静まり返った。
私も思わず息を飲んだ。
察した。
『・・・緑谷、まだやるか』
「さっせん、したぁぁぁぁ!!!」
取り合えず土下寝したら『汚いから立て馬鹿』とお許しの言葉を頂けた。双虎にゃん、失敗だにゃん!━━━っぶねぇ。やばかった。包帯先生、ガチキレしてたよ。あれ。
会場がやんわりと暖かくなった頃あいを見計らい、ラジオ先生がもう一人の入場者の説明を始めた。
『誰がこいつがここにあがってくるのを予想出来た!?少なくとも、俺は予想外だったぜ!普通科、心操人使ぃぃぃ!!』
『短いな』
『ぶっちゃけ、よくわかんないぜこいつ!!』
『差別すんな』
会場から全身で歓声を浴びていると、「馬鹿面だな、あんた」というちゃちい挑発がきた。
言い返すのは簡単だったけど、こいつの事はみんなから聞いている。個性がどういう物かはっきりしないけど、こいつと相対したクラスメイトから事情を聞いて、言葉を交わしてから異変が起きた事は既に把握済み。
だから、話すつもりはない。
私の様子に気づいたのか、心操が顔を歪めた。
「━━━ちっ。やっぱり、騎馬戦の時に上がっておきたかったな。俺の個性は、タネが割れちまうと意味がねぇ」
そう悔しそうに言った心操に、私は少し同情した。
だから優しさを込めて━━━━人差し指を立てて頭につける。きょとんとする心操に向かってクルクルと指を回し、掌をパーにした。
双虎にゃん108の必殺技の一つ、お前の頭クルクルパーである。
数瞬の間をおいて、歯軋りする音が心操の方から聞こえてきた。冗談だったのに、思いっきり成功してしまった事実に双虎困惑。挑発に弱すぎるYO。
『そんじゃ早速始めて貰うぜ!!スタート!!』
ラジオ先生の声を合図に心操が駆け出してきた。
私を女と思って力押しにきたのかも知れない。
ふ、甘い、甘い、甘すぎる!ガトーショコラより甘い考えよ!!
私は向かってきた心操の顔面を右斜め下から拳で突き上げる。そう、右スマッシュである。
鈍い感触と共に心操の顔が痛みと衝撃で歪み、次の瞬間には背中から石畳に落ちた。
流石に一撃必殺とはいかず、鼻血を流しながら立ち上がる心操。私、ちょっと感心。根性あるじゃんね。
「くっそ、全然見えなかった!それが引き寄せる個性って奴かよ!良いよなぁ!!誂え向きの個性に生まれて!!あんたみたいな、顔と体しか魅力のない、馬鹿な人間だって、スターになれる!!」
よく分からない事を言いながら、心操は拳を掲げてフラフラになって向かってきた。全然脅威を感じないので、カウンターにラリアットしておく。
心操はまた石畳に背中を打ち付けた。
「━━━っそ!!くそっ!!こんな個性でさえなけりゃ!!俺は!!俺だって個性に恵まれてりゃこんなんじゃなかったんだ!!あんたみたいに恵まれたやつには、分からないだろうけどさ!!」
文句を言いながらフラフラになりながら立ち上がる心操の姿に、会場から何故かブーイングが起きた。
どうしたと思って周りを見渡せばおテレビなカメラとマイクが見えた。スクリーンに声ごと出ちゃってたみたいだ。
となれば心操の口の悪さにみんなオコなのだろうけど、なんでこの姿に何も思わないのか不思議だ。
「きけよ!ほら!これが俺だ!!こんな、こんなやり方でしか、あんたに勝てねぇ!!なのに、それも駄目って、どうすりゃ良いんだよ!!━━━言えよ!なんか、言えよ!!」
言ったら終わるので何も言わない。
代わりに手話を返しておいた。
「は、はぁ?手話なんてわかんねぇよ!!」
安心しろ。
私も分からん。
因みに気持ち的には、お前の母ちゃんデベソと送ってるつもりだ。
「くそ!馬鹿にしやがって!!」
伝わったやん。
ヤケクソ気味に向かってきた心操に、私は右脇腹へ回し蹴りをお見舞いし、体勢が崩れた所に左フックを顔面に叩き込み、ふらついた所に二度目の右スマッシュを叩き込む。
今度こそ効いたのか、心操の目が虚ろになる。
私はその隙を逃さず、心操の腕を掴み渾身の力を込めて場外へと投げ飛ばした。
空中をきりもみで飛んでいく心操。
私はきっと上手いこと着地して立ち向かってくるんだろうなと準備していたのだが、様子が変だった。
投げた心操からさっきまでのヤル気を感じなかったのだ。
不思議に思いながら見つめていると、地面に何度かバウンドしたと思ったら、呆気ないことにそのまま場外へと落ちていってしまった。
・・・おいおい。
私の見せ場は?
しん、と静まり返るスタジアム。
不意に視界の中に、私に手を向けるミッドナイト先生が入ってきた。
「緑谷さん、準決勝進出!!」
私の見せ場は!?
え、あれ、終わった!?終わった!?
本当に?本当に?れありー?
包帯先生にマイクで聞いたら『終わったから控え室に帰れ』と言われてしまった。
どうやら、私の初戦はそれで本当に終わったらしい。
え、ええ、えぇぇぇ・・・解せぬぅ。
◇◇◇
『すげーな、心操!悪いことし放題じゃん』
誰でも悪用を最初に思い付く。
『私には使わないでねー』
そりゃそうだ、俺もそう思う。
『はは、よく言われるよ』
でも━━━━━━━
気がつくと熱気の冷めたスタジアムじゃなくて、静かな白い天井が見えた。クラクラする頭を擦りながら起き上がり辺りを見渡し、ここが医務室である事と負けた事を知った。
「おや、気づいたかい?」
声に顔をあげれば、リカバリーガールがそこにいた。
「は、はい」
「何処か痛い所はあるかい?結構強めに頭を打ち付けたみたいだからね。痺れとかは?」
自分の掌や足先の動かし、感覚を確かめる。
頭がクラクラする以外、問題はないような気がした。
「大丈夫です」
「そうかい。ま、何かあれば言うんだよ」
「はい、ありがとう御座います」
「おやおや、丁寧な言葉もちゃんと使える良い子じゃないか。あの子も怒る筈さね」
あの子という言葉に疑問が浮かんだ。
身に覚えは無かったから。
「あんたも、ヒーロー志望かい?」
「は、はい。一応」
「一応なんて括弧をつけなくて良いさね。夢があって結構だよ。頑張りな」
そう言われて心が痛んだ。
そんな実力も個性も持っていないから。
「そんな顔するもんじゃないよ。良い男が台無しさね」
「良い男ですか?はは、そんな事言われたのは初めてだな━━━━」
ポタっ、何かがシーツに落ちたのが見えた。
それは次々に頬から落ちてきていた。
手で触れてみて、漸く分かった。
それは、全部目から溢れでていたって事に。
「何処か痛い所があるのかい?」
リカバリーガールの声に目頭が熱くなっていった。
「違っ、違うんです。痛い所なんて、別に。ただ、俺も分からなくて、なんでこんな━━━」
考えていた訳じゃない。
ただ、不意に自分の口から何かが溢れでくる感覚がきて、それで気がついたら声に出していた。
「リカバリーガール。俺はヒーローにはなれませんよね」
リカバリーガールの暗い顔が見えた。
「個性も、こんなだし、弱いし、皆の前であんな事まで言って、でも、なりたかったんですよ。俺だって、ヒーローになりたかったんだ。でも、俺は、俺は━━━」
「あの子が言ってたよ、根性があるやつだってね」
再び出た言葉に、俺はリカバリーガールを見た。
「あんたは覚えてないかも知れないけど、あんたが担架で退場する時ね、酷いブーイングが飛んだらしいんだよ」
「それは・・・はは、仕方ないですよ。俺は。その」
「それに一番早く噛みついたのが、あんたと戦った緑谷だよ」
「っは、はぁ・・・?」
リカバリーガールは近くにあるテレビの電源を入れた。
録画していた映像を巻き戻し、あるところで再生を押した。それは丁度、俺が退場するシーンだった。
飛び交う罵声。
皆の好き勝手な言葉が、胸に突き刺さった。
辛かった、目指していたものと違いすぎる自分の姿を見るのが。
それでもリカバリーガールは俺の様子を窺いながらもじっとテレビ画面に視線を送り続ける。俺に見るように言うかのように。
『うるっさいわ!』
不意に緑谷の声が聞こえてきた。
カメラの映像が切り替わり、緑谷の姿が映し出される。
『ピーチクパーチク!!文句言っていいのは、私の本気の拳骨受けて立っていられる奴だけだ!!バーーカ!!お、やるのか!?やんのか、こらぁ!降りてこーい!私の見せ場をつくれこらぁ!』
凄い目茶苦茶な事言ってる緑谷に思わず笑いが溢れてしまった。正直、もっと良いこといってるのだと思っていた。リカバリーガールの様子を見て、勝手にそう思っていた。けれど、そこにいた緑谷は俺が体育祭で見てきた緑谷そのものだった。
『寧ろ褒めてやれぇ!私の本気の拳骨で起き上がってきたんだぞ!根性あるだろ!この私の超絶パンチに耐えたんだぞ!なにか、私のパンチが弱いと思ってんのか!?舐めんなぁ!━━━は、悪口?私も言ったわ!手話で!』
「あれ悪口のつもりだったのか・・・」
俺当たってたのか。
「ま、ここまでだね。この後CMが入ってる間にイレイザーヘッドに連れてかれたみたいでね」
「あいつ、馬鹿なんですかね」
「まぁ、馬鹿なんだろうね。でもね、わりとあんたの事は認めてるみたいだったよ。さっきも様子見にきたしね」
「様子、ですか?」
何をしにきたのだろうかとリカバリーガールの返答を待ったが、何故か返答が返ってこなかった。不思議に思ってると、呆れたような溜息と共に愚痴るように言った。
「なんでも『貧弱負け犬をディスりに来ました!』とさ。まったく言い方ってもんがあるだろうにさ。追い返しといてやったよ」
「それは、はは」
酷い。
そうとしか言えなかった。
でも、同情されるよりずっと嬉しかった。
わざわざそんな事を言って貰える関係でもなかったから。
「・・・それでもね、伝言を一つ預かっておいたよ。『体を鍛えてから出直せ、小僧』だってね。私にはね、あんたがヒーローになれるか分かりゃしないよ。・・・でも、覚えておきな。少なくとも一人、あんたがヒーローになれると思ってる子がいるのを」
続くリカバリーガールの言葉に、俺はまた目頭が熱くなった。
「あんたの本気、ちゃんと受け止めてくれる子もいるんだ。次、もっと頑張んな」
「・・・・・はい」
スタートラインはまだ見えない。
けれど、その日、その影が少しだけ見えたような気がした。