私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
はいはい。という訳でですね、やって来ました雄英高校入学試験日。朝からテンション下がりまくりんぐですよ、本当。
まぁでもですね。母様から応援された日にゃぁ、頑張らなきゃいけませんからねぇ。面倒臭いけどやりますよ、わたしゃ。
そうしてかっちゃんに引っ張って貰ってやって来た雄英高校。あれだね、私の場違い感ぱないわ。帰りたい。
「かっちゃんや、かっちゃんや」
「それで呼ぶなっつったろ!!ぶっ殺すぞこら!!」
「じゃぁ、爆豪少年」
「どんだけ上から目線で呼んでんだこらぁ!!」
なんだよ、何言っても駄目じゃないか。
プンスコだよ、わたしゃ。
「実はさ、さっき気づいたんだけど、私ってば鉛筆と消しゴム忘れてるっぽいんだよね。恵んでちょ?」
「ふざけてんのかてめぇはよ!!!」
おおっと、今日一番のぶちギレ。
朝からテンションMAXだなや、この子は。
しかし、そんな文句と罵倒を発しながらもちゃんと予備の鉛筆と消しゴムをくれるツンデレかっちゃん。なんと鉛筆削りまで貸してくれた。みみっちい事に関して、他の追随を許さないかっちゃんは流石である。
言葉使いさえ出来てれば、嫁に欲しいくらいだよ。ほんと。
かっちゃんとお喋り(一方的に)をしながら歩いていると、幸先の悪い事にコケてしまった。
あ、これは顔面コースですね、なーむーと思っていると突然の浮遊感と共に落下が止まった。
「━━━あ?」
かっちゃんの脅すような声に顔をあげて見ると、ミディアムボブの愛嬌のいい女の子がそこにいた。
「わ、私の"個性" ごめんね勝手に。でも、転んじゃったら縁起が悪いもんね!」
そう笑顔を向けてくる女の子はカワユス過ぎた。
あまりの女子力の高さに、私は雄英の恐ろしさを知る。
私程ではないが、このクラスがウジャウジャいるとか、流石雄英。感嘆だせぇ。
女の子はそれだけ言うと個性を解除してささっと試験会場へと入っていってしまった。
え、それだけだよ?それ以上は何もないよ。
そりゃそうでしょ。
「爆豪きゅん」
「ぶっ殺すぞ、てめぇ」
「ああいうタイプどうよ?」
「━━っ!!しっ、知るか!!ボケっ!死ね!!」
さっさと行ってしまう背中から思春期特有の芳ばしさを感じる。本来なら弄り倒す所なのだが、試験前にやるのは流石に可哀想なので放っておいてあげる事にする。
ま、どのみち、試験が終わったら弄り倒すのだけどね。遅かれ早かれの問題なんですぅ。
かっちゃん鉛筆でナンとかテストを乗りきった私は実技試験会場へとやってきていた。実技は街風の訓練場に散らばったヴィランロボットを破壊してポイントをゲッチュしていくリクリエーションである。
最低1ポイントでも手に入れておけば、それを理由に不合格にはならないらしいので適当に頑張りますか。
因みに今の格好は動きやすい服と言われていたので、タンクトップと迷彩柄のカーゴパンツに着替えている。学校指定のダサいジャージなんて着ないよ。わたしゃ。
運動している内に髪がほどけないようにポニーテールのヒモを締め直し準備していると、先程の縁起悪子の姿を発見した。
ただ待ってるのも暇なんで声を掛けてみようと思って近づこうとすると、「ちょっと良いかい?」と声が掛かった。
視線を向ければ好みではない真面目眼鏡がいたので、きっぱりと断っておいた。
「ごめんない。私好きな人がいるので」
「こ、告白しようとした訳じゃない!!」
焦りながらもキッチリつっ込んでくるその姿勢は嫌いではないが、男としてはやっぱり無理なのでもう一度断っておいた。
「ごめんない。考えてみたけど、無理」
「違うと、言っているんだが!!?」
ロボットのようにカクカクとつっ込んでくる眼鏡。
割りとしつこい系なのかも知れない。
周りからクスクスと笑い声が聞こえる。おいおい、公開処刑しちゃったか、めんご。
「僕が言いたいのは、何だねその格好は!ということだ!!」
「はぁ?」
「君の格好は、破廉恥極まりない!!大体なんだその、た、タンクトップ一枚という姿は!!ズボンはまともだが上は着込まなければいけない!き、君は、その胸も、その、大きいのだから!もっとちゃんとした物をだな!わ、わ、腋も、妄りに見せたりするのも、感心しない!!僕らはヒーローになるためにここに━━━」
ガミガミとお説教をかましてくる眼鏡。
なんだろう、何がそんなに気に食わないのだろうか。
腋がどうたらってのが、試験とどう関係してくるのか。確かにおっぱいには大きさ形共に自信はあるが。
はて、分からぬ。
「よく分かんないけど、どうしろと?」
「━━━よ、要するにだ!他の受験者を誘惑するような、破廉恥極まりない格好と、動きを止めたまえということだ!!」
ははん、さてはこいつ、童貞だな?
過敏に反応して初な奴よのう。可愛い可愛い。
とか言ったら発狂しそうだから言わないでおこ。
私も処女だから、そういう異性に対するあれこれは過敏に反応しちゃうし、気持ちも分かるもんね。
「んじゃさ、上着貸してよ」
「はっ!?」
「いや、さっき着てたでしょ?ジャージみたいなのさ。それ貸して。私他に服持ってきてないし」
そこまで言うなら責任を持って貰わねば。
ねぇ袖は振れないので御座いますからね。
私の言うことを理解してくれたのか、眼鏡はオロオロしながらも上着を貸してくれた。くんくん、ちょっと汗くせぇな。やだな、着るの。
にお、にお、と訳の分からない言葉を発する眼鏡に、大丈夫だとは思うが一応確認をとっておく。
「あのさ、これ着て試験受ける訳だけど、汚したり駄目にしたりしても文句言わないでよ?そっちが要求してきたんだからさ」
多分ボロボロにして返す事になるだろうからなあ。
試験内容的にも、免れえまい。
「も、も、もももも、勿論だとも!僕、僕こそ、済まない、無理を言ったようで」
「はぁ?いや、まぁ、うん。それで良いや。じゃ借りてくわ」
眼鏡の上着羽織っていると時間が来てしまった。
縁起悪子ちゃんと結局話せなかったなぁ。
まぁ、そんなに興味があるわけでもないんだけどもさ。
さてさて、確か実技は最低1ポイントでも取れば問答無用で不合格はなかったよな。適当にロボをボコって、高みの見物と洒落混みますかなぁ。
矢鱈声がでかい人の合図から始まった試験。始まって早々、雑魚ロボットを何体か叩き潰しておいた私は余裕で走り回る受験者を眺めた。
いや、だって終わってるからさ。なんやかんや26ポイントとったもんで。あ、いや、あれは高得点の奴だったらしいからもっといって・・・ま、いっか。テストでミスってる事はないし、余裕ですもんね。
ぼけぇ、と眺める事数分。
いよいよ時間切れになりそうな頃、目の前に巨大ロボットが現れた。
確かお邪魔ロボットで、倒してもポイントにならない奴だ。そのせいか、皆華麗にスルーしていく。
「ぬ?」
それまでサボっていたツケか、巨大ロボットの足元に見てはいけない系の物を発見してしまった。
疲労困憊で動けなくなっている、今にも踏み潰されそうな女の子。朝に出会った縁起悪子ちゃんだ。
誰もそれに気づいてないのか、助けようとしない。
いやまぁ、そもそも、試験のライバルを助けようとする方が奇特か。納得納得。
しかしまぁ、踏まれたら痛かろう。
「はぁ。面倒臭いなぁ」
こんなんで試験が終わったら、夕御飯が美味しく頂けないじゃないですか。だからまぁ、やむなしだよね?
「くっ時間もないと言うのに、このタイミングでとはっ!」
「とか言いながら逃亡する敗残兵は銃殺刑です。隅っこ並んで奥歯をガタガタ言わせながら最後の時を迎えて下さいまっせー」
「はっ!?君はさっきの破廉恥女子!」
逃走する眼鏡を軽くディスりながらその横を通り過ぎ、巨大ロボットへと走ってく私。
おー、まい、くれいじー?いえす、まい、くれいじー!あーゆーおーけー?
ロボットさんに言葉責めは効かないだろうと思うので黙って走るらしくない私の姿に皆釘付け。いえーい、ピースピース・・・・こらぁ!反応しろこらぁ!!返せよ、最強にして最高、至宝の美を持つ私がピースしてんだぞ、おい!!かっちゃんばりに激しいの返してこい!!
そんな文句を心の中で発している内に、あっという間にロボットの足元に到着。下から見ると、また格別にでかく感じますなぁ。
「いっちょっ、派手にやりますかぁ!!」
息を大きく吸い込み意識を口の中に集中させ、そして一気に吐き出す。
口から飛び出たのは空の如く青い炎。
通常私が吐き出せるのは赤い温度の低い炎だが、準備時間があれば高温な青の炎を吐き出す事ができるのである。これテストに出るからなぁー。
炎を浴びた0ポイントロボの脚部の間接部分が融解する。
倒すことこそ出来なかったが、間接部分がぐちゃぐちゃになったロボの進行速度は格段に落ちた。時間を稼ぐだけのつもりだったのでこの上ない成功だ。
私はトロくなったデカブツに背を向け、縁起悪子を肩に担ぎ急いで撤退する。
鍛えてきた上腕二頭筋がうなるぜ。
「あ、あの、ありがと━━━」
「いいさ、いいさ。困った時はお互いサマーって言うじゃない?言うよね?言わなかったっけ?」
「え、あ、うん、言うと思うけど」
「じゃええやんて、なるやん」
「え、ええ、と、うん、そやね」
おお、ナチュラルに方言女子。
個性的ですね、狙ってんなこの子。
雄英ぱないわ。
ある程度撤退していくと、眼鏡が驚いた表情でこっちを見ていた。きっと走った時に揺れていた私のパイ乙を眺めていたのだろう。なんたる破廉恥。万死に値する。
それはそうと、おめぇ手が空いてるなら手伝えや。
ということで、縁起悪子を眼鏡に投げ飛ばした。
慌てながらもちゃんとお姫様だっこする眼鏡は、絶対に狙っていたに違いない。むっつりの変態野郎だろう(確定)。
「いきなり何を!?」
「喧しい。助けずに見捨てておいて。ヒーロー志望とか笑わせるな!わっはははっ!あ、笑っちゃった」
「くっ!!しかしそれはっ!」
今は私が話している時間。その間の口答えは何人足りとも許さない。
喧しい眼鏡野郎の眼鏡を素手でベタベタ触ってやる。「ぬぅわっ」と悲鳴が聞こえるが知ったことではない。
表も裏もべったりと指紋をつけてやった所で止めてやる。
「私は成り行きでここにいるけど、お前らはヒーローに成りたくてここにいるんだろ。だったら、ヒーローが何なのか良く考えとけ、バーーーーカ」
そうディスると、眼鏡が涙目になって俯いた。周囲で様子を窺っていた数人も俯いた。
流石にこれ以上追い討ちをかけるのは可哀想なので、眼鏡の肩をぽんと叩き労いの言葉を掛けてやる。
「お疲れさん」
「━━━━ッ!!!」
労い言葉を受けた眼鏡は何故か泣いた。
高校受験を受けにきた中学生とは思えないくらい、大号泣である。幼稚園児とか、赤ん坊とか、そのレベルの大号泣である。
周りからも啜り泣く声が聞こえる。
どうした、お前ら。
なんだ、この雰囲気、お通夜みたいじゃないか。
ほわい?
それから終了のサイレンが鳴るまで、眼鏡を含めた数名は泣きじゃくった。まるで、受験に落ちてしまった後のない中学生のように。
「わ、悪気が、ないのは、分かるんやけど、酷過ぎるよ」
そう告げて気絶した縁起悪子は理由を知ってたのかも知れないが、試験終わった今となってはどうでも良いので取り敢えず帰ろうと思う。
頑張ったご褒美に帰りにかっちゃんにタカろう。
バーゲンダッシュ、タカろう。