私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
ちょっとだけだから、ちょっと、ほんとに、ちょっとだけだから!ねっ!
テレビ画面に映された雄英体育祭のクライマックスシーン。一年の部で表彰台の最も高い所に立つのは、うちの子、爆豪勝己。
本来二位にいる筈の双虎ちゃんの姿はない。
準決勝で個性を使い過ぎたせいで、寝込んでいるからだ。幸いな事に後遺症などの心配はなく、暫く眠ったら自分の足で帰ってこれる程度の症状らしい。
念のために学校から車を出してくれるとの事で、迎えにいくのは取り止めた。
オールマイトによる閉会式にて終わりを迎えた体育祭の光景を眺め終えた私は、もう一つのクライマックスへと視線を向けた。
「引子さーん!しっかりぃぃ!終わりましたよ!体育祭、終わりましたよー!」
「あわわ、わ、ふた、ふたこ、ふた、ふたた、ふたこがぁぁ」
私はそっとその場を立ち台所へ向かった。
取り合えずお茶でも入れようと思う。
今日は普段から付き合いのある緑谷さんも誘って、我が家で体育祭を観戦していた。
緑谷さんも一人で見るつもりだったとの事で、それなら無駄にデカいテレビがある我が家にと妻が誘ったらしい。
元々二人で仲良く観戦するつもりだったらしいのだが、私も丁度仕事が休みだったので参加させて貰っている。
お邪魔する代償として今日一日家事係に任命されたりしたが、まぁ、たまにはこういうのも悪くない。
緑谷さんは大人しくおっとりとした人で、気持ちの上がり下がりの激しいうちの妻とは正反対の人物だ。
一見すると合わなそうな二人なのだが、相性が良いのかよく一緒に出掛けているらしい。
最近だと何かのコンサートに行ったとか・・・。
まぁ、なんにせよ、友人が出来るのは良い事だ。
大人になるとそういった親しい者を作るのは難しい。
それを大人になってから見つけられた妻を私は少し羨ましく思う。
そうして始まった体育祭観戦。
それは当然始まった。
一年の部、第一種目障害物競走。
個性を使ったなんでもありの障害物競走でなんとも見応えのある競技だった。開始直後の攻防など一瞬だったが、手に汗握る開幕戦だったと言える。
緑谷さん以外にとっては。
緑谷さんはスタート直後、双虎ちゃんが火を吹く姿を見て卒倒した。なんでも人様の子供に怪我をさせたんじゃないかと、気をもんだらしい。
そういう競技だから大丈夫ですよ、と言うとなんとか元気を取り戻し観戦を再開したのだが、綱渡りにて双虎ちゃんが他選手妨害の為にカメラをぶん投げ始めた所で電撃に打たれたように倒れた。なんでもカメラの代金を考え、勝己や轟くん?に物をぶつけた事に対して、とても気をもんだらしい。
そういう競技ですから大丈夫ですよ、カメラの代金も請求されませんよ、男の子に怪我なんてつきものですよ寧ろ勲章ですよ、と頑張って説得すると、なんとか元気を取り戻し観戦を再開したのだが、双虎ちゃんが踞った所で涙を流しながら本気で泣いてしまった。とても心配したらしい。
その後、大したアクシデントでないことを知ると、掌を返したように怒り狂っていたけど。
紅茶を入れ居間に戻るとさっきより少しだけ顔色の良くなった緑谷さんと、その緑谷さんの背中を心配そうに擦る妻の姿があった。
「緑谷さん、お茶入れてきました」
「すみません、気をつかわせてしまって」
「いえいえ、その分、いつも勝己がお世話になってますから」
「それは、どちらかと言えばうちの馬鹿娘が・・・」
緑谷さんは大人しい人だけど、双虎ちゃんに関しては少々厳しい。
まぁ、双虎ちゃんのあの奔放さがそうさせると思うのだけども。
紅茶で一息入れた緑谷さんを横目に、私は録画した映像を巻き戻した。
ちゃんと録れていたか確認したかったのだけど、双虎ちゃんのシーンがたまたま映ってしまい、緑谷さんが再びソファーに沈んだ。
「あんた!!」
「ご、ごめんっ!?いや、わざとじゃないんだよ?それより緑谷さん大丈夫かい?」
「大丈夫だったら文句は言わないわよ」
視線を落とし緑谷さんの顔色を見てみると、見るからに顔色が悪かった。なんかふたふた言ってる。重症だった。
それから一人、録画した映像を私が確認し終えた頃、緑谷さんはヨロヨロしていたが立ち直っていた。
チビチビとお茶飲む姿がどこか小動物を思わせる物がある。緑谷さんの旦那さんは多分こういう所にやられたのではないかと思う。
ふぅと、一息つくと緑谷さんは暗い顔をした。
「今更ながら、雄英に行かせたのは失敗したのではないかと思ってしまいます」
緑谷さんの気持ちを考えればそれは頷ける。
大切に育ててきた子だ。それも女の子。
傷を負わせるような学校行事━━━━
「あんなにノビノビと個性使って!いつ誰を怪我させるかっ!!考えただけでも怖い!!」
━━━あ、うん。そっちかぁ。
「大丈夫よ、引子さん。そこら辺は、ほら、双虎ちゃん上手くやるわよ!中学の頃も上手くやってたじゃない!巷じゃ、折寺の裏番グリーンタイガーなんて呼ばれてても、悪いことはしてないし、実際何もなかった訳だし、ね?」
「上手くやれば良いと言うわけではないんです!ああーもう!あの子ときたら!!私、未だに折寺の中学生に挨拶されるんですよ!?」
「あはは、まぁまぁ」
妻に慰められた緑谷さんは怒らせていた肩を落とした。
そしてはぁ、と重い溜息をつく。
苦労してるのが目に見えてくるようだ。
「たまに、あの子は私が鋼の心臓を持ってると思ってるような気がするんです。なんていうか、私なら大丈夫でしょ?みたいな・・・」
「はは。どっちかっていうと、引子さんは心配性ですもんねぇ」
「そうなんです!光己さん!分かってくれますか!」
「分かります、分かります」
涙目で妻の手を握った緑谷さんは続ける。
「勝己くんと最初に会った時だって、どれだけ心臓がバクバクしたか!あの子、馬乗り!馬乗りになってボコボコにしてたんですよ!?もう私、あの光景を見たとき本当に死ぬかと思ったんですから!!」
「懐かしい話ですねぇ。あはは、あの時は驚いたなぁ。誰にやられたの?って聞いても全然教えてくれなくて。まぁ、子供の喧嘩だと思ったんでそこまで気にしませんでしたよ。まさか同い年の女の子にボコボコにされてたなんて思いませんでしたけど・・・」
「その節はすみませんでした」
「良いんですよぉ。それより暫くして、女の子家に連れ込んできた事の方がびっくりしましたよ。ちっちゃい頃の双虎ちゃん天使みたいに可愛くて、よくやった馬鹿息子って思いましたよ!」
「・・・見掛けだけは、ええ」
懐かしいなぁ。
初めて会った時『いつも子分がおせわになってます』とか言われたんだっけか。あれは笑ってしまったっけな。
「それからもご迷惑お掛けしっぱなしで・・・」
「捨ててあったボート乗って海まで流されてたのは笑いましたね」
「笑いごとじゃないですよ」
あの時は大変だったなぁ。
本当。
「あ、あとあれも!ほら、いつだったか。海浜公園に遊びにいった時、双虎ちゃんが落ちてた本持ってきて━━━━」
「「どうして男の人と男の人がくっついてるの?」」
「━━って、あははは!!あれはっ!ね、あはは!」
「恥ずかしい・・・」
双虎ちゃん多分覚えてないだろうな。
私はあの双虎ちゃんと隣で不思議そうに首を傾げてた勝己が忘れられないよ。
どうやって誤魔化したっけ?
「あれは光己が誤魔化したんだっけ?」
「あんたでしょ」
「そうだっけ?んー?」
あ、思い出した。
あの時双虎ちゃんにかっちゃんパパも男の人とくっつくのって聞かれて・・・・。
「こういうムキムキした人だけだよって教えたんだっけか・・・」
「あんた、全国の筋肉質な男達に謝りな」
「いやぁ、あはは」
あんな純粋な目で見られたら、ねぇ。
「あ、そうだ光己、この間貰った喫茶のサービス券あったろ?この後皆で少しお茶しに━━━」
「あ、誤魔化した」
妻よ、今は何も言わないで欲しい。
何か罪を背負わされそうに思った私は、二人の背中を押して車へと向かわせた。緑谷さんの気分転換にもなるだろうし、何かあった時そのまま車で向かえるから丁度良いと思ったのだ。
出掛ける準備をしながら、ふと先程見ていた体育祭で気になる場面を何となしに思い出した。
二位に双虎ちゃんがいないのは納得したが、もう一人三位の子が見当たらなかったのだ。
三位決定戦をしないので、本来なら表彰台に登るのは四人の筈なのだが、そこにあったのは二人のみ。
うちの勝己と轟くんだけだ。
「えーと、なんと言ったかな。ああ、飯田くん」
ご家族の都合でと先生は仰っていたが、うちの子が怪我をさせたからではないか?
そんな心配をしながら、私は車のキーを手にした。
◇◇◇
「!!あっ、ちょっと!廊下は走らないで━━━」
明日、体育祭だってな。
頑張れよ。
「は、はい!?あ、それでしたらこの先の━━━」
会場にはいけそうにないけど、応援してるからさ。
時間さえあればテレビとか見るし。
「天哉・・・!こっちよ、この━━━」
はは、そんなに緊張すんなよ。
大丈夫だって。
「あ、まだ駄目よ!マスクもしないで━━━」
天哉は頭も運動神経も、俺よりずっと上だからな。
一生懸命やればちゃんと結果出せるって。
「兄さんっ━━━━━!!!」
おう。
頑張れ、天哉━━━━━。
「━━と、ご家族の方ですか?先程、麻酔が切れて目覚められた所で━━━━━」
「━━━意識がまだ朦朧と━━━━」
「幸い命に別状は━━━━━━━」
天哉が憧れるっつーことは俺、すげぇヒーローなのかもな。ハハ。
「━━━━あ、ああ、ああぁぁぁぁ!!あああ!!」