私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
エンデヴァー事務所のサイドキックと職員皆に、ふれーふれーって何度も言わせた歓迎会の翌日。
朝早くからハゲに呼び出されてた私はヒーロースーツに着替え社長室へと向った。途中歓迎会に参加していたサイドキック達を見掛けたので手を振ったら、皆快く返してくれた。社長と違って愛想が良い。楽しかったよね、昨日のぱーてー。今度またやろーねー。
ノーノックで社長室に入ると同じくヒーロースーツを着た轟と尊大な態度で椅子に座るハゲが向かい合ってるのが視界の中に入った。
・・・喧嘩すんのかな?
私に気づいた轟が「よぉ」と軽く挨拶してきたので同じ様に返しておく。
「・・・俺にはないのか」
ハゲがなんか言ってる。
多分私じゃなくて轟に言ってると思うんだけど、轟は何処吹く風とそれをスルー。欠片も反応しない。
可哀想になったので「はよ」っとハゲに挨拶しといた。
「・・・うむ」
うむ、じゃねぇーよ。
おはよう御座いますだろうが。
もしくはフランクにおはようくらいは言えや。グッドモーニングでも可。
まったく、このコミュ障が。
そんなだから轟に無視されんだからな。
馬鹿、馬鹿ハゲ。
その髪の毛全部引っこ抜いてやろうか。
「・・・何か良からぬ事を考えているだろう、緑谷双虎」
「ずぅぇん、ずぅぇん」
「これほど白々しい者を、俺は未だかつて見たことがないわ」
そう言って溜息をついたハゲは椅子に深くもたれ掛かった。
「貴様のそのふざけた態度に付き合ってると、こちらのリズムが崩れる。何も言わず話を聞け」
「・・・・」
「・・・返事くらいはしろ」
「はーい」
私の言葉に満足したハゲは手を組んで話を始めた。
「お前達を職場体験させるに至って、最低限のルールを設ける。一つ、ヒーロー活動中に俺の監視下から離れる事を禁ずる。これはお前達の身を守る為のルールだ、必ず守るように」
まぁ、職場体験で受け入れた生徒を怪我させたり死なせちゃったりしたら大変だもんね。
「二つ、ヒーロー活動中に私の指示は遵守すること。交戦、避難、救出。ヒーロー活動中にはこれらに関わる事になる。当然、私についてくる以上お前達の目の前でこれらが起こる。だが、私の指示なしでそれらの活動に参加する事は控えろ。どの行動をとるにしても、お前達は経験と知識が足りない。下手に手を出して場を混乱させるようなマネはするな」
基本的になんでもそうだけど、素人が下手に手を出して事態を悪化させる事は往々にしてありえる話。
別段おかしくはない。
「三つ、先程あげた二つを遵守した結果、己の身が危ういと感じた場合、特例として撤退する事を許可する。それに伴う個性使用であればそれも許可する。私がついていて、そんな事は到底あり得ないが、何事も例外は存在する。その場合は私を気にせず走れ・・・。以上、その三つだ。何か質問はあるか?」
ハゲの言葉に轟は特に反応を示さなかったので、代わりに手をあげておく。
ハゲが見るからに嫌そうな顔をした。
「・・・なんだ、緑谷双虎」
「大体分かりました。要は大人しく後ろから俺の活躍を見てなさいよ?って事ですよね?それは楽だから別に良いんですけど、三つめの自己判断での撤退って本当にこっちに丸投げなんですか?」
「ふん。それくらい判断出来ないのでは、この先はプロとして生き残れん。そもそも、お前達の実力の高さは把握している。それが出来ると思うからこそ、そう言うのだ。俺は愚図に割いてやる時間は持たん主義でな」
なるほど。
それはそれは。
「焦凍も理解したな」
「ああ」
轟が返事を返したら見るからに顔が明るくなった。
口角とか僅かに上がってる。
ま、普通の人が見たら分からないレベルだけどね。
完璧ラブリー美少女戦士双虎にゃんに見抜けぬ物などないのだ。
心の中で自画自賛してると、ハゲの社長デスクにおいてある電話が鳴り出した。如何にも緊急っぽいコール音に嫌な予感がする。
ハゲはその受話器をとり耳に当てる。
そして二言三言話すと受話器を元の場所へとおいた。
「幸先の良い事だ。これほど早く、仕事が舞い込んでくるとはな。焦凍、緑谷双虎、準備しろ。有意義な職場体験の時間だ」
それからハゲに連れられた私らは実際の現場を見ることになった。ハゲに誂えた出動車輛に乗り込み、東へ西へと大忙しに大移動。途中昼休憩に寄ったコンビニ、糖分を求めた私の為に寄ったクレープ屋以外は、何処も寄り道もせず働き通した。
サイドキックの人に聞いたら、流石に毎日これではないと言っていた。悪い意味で当たり日らしい。
一日ハゲの働きを見て改めて思ったのは、このハゲは仕事出来るハゲだなということ。
今日の相手は町中のチンピラに毛が生えた程度の連中。ハゲも全力を見せた訳ではないだろうけど、その実力は嫌と言うほど分かった。
個性の強力さもあったけど、素のフィジカルの高さも並みではなかった。間違いなく私が見てきた連中の中でもトップクラスだと思う。まともにやったら大抵の奴はまず勝てないだろう。搦め手を使えばなんとかなるかも知れないが・・・それはハゲが脳筋野郎だった場合の話。
ハゲは状況把握の早さ、判断力の高さ、圧倒的な経験値を活かした予測とそれに対した行動力を持ち合わせている。
それを考慮すれば、ハゲのナンバー2という肩書きは伊達でないのは間違いない。
加えてサイドキックの力を十全に引き出す指揮者としての能力もあって、なんでこのハゲ2位なんだろうと普通に不思議に思った。
正直、今のガチムチより、すげえーのではないか?
素直にそう言ってみたら最初は「嫌味か?」とかぼやいていたけど、本心からだと言うと目に見えて機嫌が良くなった。
チョロ親父、ここに。
これならいけると思って何処かボーっとする轟にステーキと呟かせれば、夕御飯は事務所近くにある行きつけのステーキ屋で頂く事になった。
機嫌が良かったのか「好きに選べ」とか言うので、遠慮なく一番高いものを選んだけど、そこそこの物に変えられていた。解せぬぅ。
まぁ、それでも旨かったけど。
その夜、轟が訪ねてきた。
流石に一度目の仕打ちが堪えたのか、今度はノックした後私の返事を聞くまで大人しくしていた。
「わりぃな、遅くに」
「いいよ、別に。何かしてた訳じゃないし」
立って話すのも何かと思ってソファーに座るように促してやれば「長い話じゃねぇから、このままで良い」との事。
次の言葉を待っていると、轟はゆっくり続けた。
「お前から見て、親父はどうだった?」
抽象的な聞き方でなんて言ったら良いか少し悩んだ。
轟が聞きたい事が分からなくて首を傾げれば、轟は眉を下げて言った。
「━━━わりぃ。やっぱり、もう少し時間をくれ」
それからソファーに座った轟からハゲとの確執と、その原因となったお母さんの話を聞いた。私との戦いを切っ掛けに、長年話すことも出来なかったお母さんとも話しあった事も。
重い話に、双虎にゃんぐろっきー。
ぐぇ。
反対に全部話し終えた轟は何処かすっきりした顔で私を見つめてきた。
「それで、もう一度聞かせてくれ。緑谷。お前から見て、親父はどんな奴に映った」
漸く言葉の意味を理解出来た私は、お世辞抜きでその言葉をはいた。
「ヒーロー。何年もナンバー2を維持してきた、凄い人」
その言葉を聞いた轟は「そうか」と小さく呟く。
立ち上がろうとする轟に、私は更に続けた。
「でもね、ヒーローとしてじゃなくてって言うなら、轟とどうしていけば良いか分からなくて、悩んでるおっさんに見えたよ」
人柄なんてまだ分からない。
でも少なくとも、轟との関係をどうにかしようとしてるのは見えた。
「・・・そうか。俺は・・・まだ分からない。あいつは許せない事をした。そして俺はそれを許せそうにない。けど、今日の親父の姿見て迷った」
「あいつは俺が思ってるよりずっとヒーローで、あいつに助けられた人がいることを知ったから」
「今まで見てた親父が、全部じゃないのは分かったつもりだ」
それだけ言うと今度こそ轟は立ち上がった。
「難しいな、人を知るってのは」
「そりゃ、私も分からない事あるし。そうじゃなきゃ、かっちゃんとも喧嘩しないよ」
「確かにな・・・でもお前らは・・・いや、なんでもない」
「?」
そうして二日目を終えた私はベッドに横になり、スマホを開いた。
皆から今日一日で起きた事の報告がたくさんきてた。
でも、未だにかっちゃんからはメールの一つもない。
「謝ってくれても、いいのにさ・・・」
皆に返事を済ませ、その日はかっちゃんにイタ電することなく眠った。
ちょっと寂しかったのは内緒だ。