私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
調子がでねぇぜぇ!!
太陽の馬鹿野郎ぅぅぅ(゜ロ゜)!!
ヒーローになるのが夢だった。
テレビに映る、オールマイトのようなヒーローになるのが夢だった。
『私がきた!━━━』
金も名誉も名声も関係なく、ただ誰かを救う、オールマイトのような、人の為にあるヒーローになるのが夢だった。
『私がき━━━━』
現実に蔓延る、真実を知るまでは。
『私が━━━━━』
「━━━ここで宜しいでしょうか、ヒーロー殺し・・・いや、ステイン」
ワープゲートの男に言われ辺りを見渡す。
見慣れたビル街や道路を確認すれば、確かに俺の知る保須市である事が分かる。
「違いはない。ここでいい」
「それは良かった。貴方も今は協力者。何かあればご連絡下さい。幾らでも足をお貸ししますよ」
そう言って笑うワープゲートの真意など見え透いている。
ただより高い物はない、つまりはそう言う事だ。
「ハァ、その対価に何をやらせるつもりだ。つまらん交渉はするな。気に入ればやる、気に入らねばやらん。それだけだ」
「考えて頂けるだけで結構ですよ。光栄です、ステイン」
ワープゲートから視線を外し、何処へと向かうか考えていると足音と共にワープゲートから死柄木が「保須市って・・・思いの外栄えてるな」と呟きながら現れた。
何処を見ているか分からない男は俺を見た。
何をするのかと問うように。
その表情にあの時みた片鱗はない。
「ハァ。・・・この街を正す。それにはまだ犠牲が要る」
そう言うと分からないと言うように死柄木が首を傾げた。
「先程仰っていた『やるべき事』というやつですか?」
それに比べワープゲートは物わかりがいい。
既に俺が何をするのか見当がついているのだろう。
そもそも、俺がヴィラン連合に興味を持ったのはコイツを見たからだ。
「おまえは話が分かる奴だな」
「滅相も御座いません」
ワープゲートに掛けた言葉に「いちいち角立てるなオィ」と死柄木のぼやきが聞こえたが、構う理由がなかった為無視して話を進めた。理解のあるワープゲートなら、俺のなすべき事が分かると思ったからだ。
「ヒーローとは、偉業を成した者にのみ許される『称号』。多すぎるんだよ・・・英雄気取りの拝金主義者が!」
そう言えばワープゲートは黙ったまま俺を見つめ、死柄木はつまらなそうに首を掻いた。
ワープゲートならばと思ったが、少し難しかったようだ。そもそも立場も目指す場所も違う相手。少し理解されたからと、欲張り過ぎたかも知れない。
まぁ、元より、簡単に理解されるとは思っていない。
世界は酷く歪で、正しさを知らぬ者が遥かに多い。
目の前にいるヴィランの二人もそうであるし、眼下に蠢く群衆もまた同じだ。
だからこそ、誰かが示さなければならない。
その身を、命を、名誉を犠牲にし。
堕ちた世界に、不変の正しさを。
「この世が自らの誤りに気付くまで、俺は現れ続ける」
二人をその場に置き去りにし、俺は再び都市の影へと飛び込んだ。
表をゆく者達の喧騒を聞きながら、薄暗がりの影の中を息を殺し進む。
この影は歪みを呼び、歪み達は闇を作り出す。
幼き日、ヒーローを志していた頃はこの場所を酷く嫌悪していた。いつか、俺の手で終わらせようとも。
今となっては笑えもしない話だが。
ヒーローを粛正し続けた対価に日の光を浴びる権利を失った今の俺にとって、この闇だけがたった一つの居場所なのだから。
喧騒を聞きながら、俺はかつての俺を思い出した。
理想に燃えていた、あの懐かしき灼熱の時。
心で訴えた、社会の歪さを。
魂で叫んだ、真のヒーローの姿を。
だが、声が枯れるほど叫んでも、魂が磨り減るほど嘆いても、誰も応えてはくれなかった。
言葉では誰も分かってくれなかった。
何故だ。
どうして。
いつも考えていた。
どうすれば分かって貰えるのか。
どうすれば皆気づいてくれるのか。
そうして何日も考え、そして俺は気づいた。
痛みのない経験に、人は鈍感であると。
革命の裏には常に血が流れてきた。
その血が多ければ多いほど、それを乗り越えた人々は大きな事を成し遂げてきた。
そうだ。
俺に足りなかったのは、犠牲だ。
五体満足で語る痛みになんの意味があるのかと。
平穏無事に暮らす人間の言葉にどれだけの重みがあるのかと。
だから、俺は剣をとった。
世に蔓延る悪を切り殺した。
ヒーローを歪める偽物共を切り殺した。
殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。
殺し続けた。
代償は軽くなかった。
戦いの中で顔の面は原型を失い、身体は隙間がないほど傷でおおわれた。
名前も過去も名誉も、持っていた全て、何もかも失った。
だが、その代わり得た対価は確かな物だった。
あるものは言った、俺が犯罪者を抑止すると。
あるものは言った、ヒーローが正しさを知ると。
それは対価と比べれば微々たる成果。
褒められたものではない、僅かな報酬。
なれど、ただ声を上げていた時とは比べ物にならないほど、世界を変えていった事も事実だった。
ならば、これで良い。
俺一人の犠牲で世界が目を覚ませば、それだけで良い。
真のヒーローがそこにあれば、それで良い。
日が降り始め、街中の影がその闇を深めていく。
じき、影を生きる者達の朝が来る。
影に生きる者達の目覚めが始まる。
鼓動が、息遣いが、蠢く。
何処からともなく声が聞こえた。
緊張感の欠片もない、若い男の声が。
そこを物陰から覗けば、一人の男がいた。
服装からヒーローである事が分かる。
拝金主義者の紛い物か、もしくは俺が望んだヒーローに相応しい存在か。
「・・・・試してやろう」
力なき正義に意味はない。
理想なき力に価値はない。
力を持ち、理想を掲げる。
対価を望まず、名声を求めず、他が為に命を懸ける、悪に屈しない強き者だけがヒーローだ。
お前にその肩書きが相応しいか、俺に答えを示せ。
ヒーロー。
◇◇◇
「ステイン・・・やはり彼だったか。懐かしいね」
僕の呟きにドクターは顎を擦った。
「先生、嫌みかね。はぁ、まさかあの彼だったとは・・・変われば変わるものだな。以前の彼とは大違いだ」
ドクターは彼を変わったと思っているようだ。
確かに姿形は大きく変わったが、私からすれば彼はそう変わった訳でないと思っている。
その考えも、その思想も、その行動も。
いずれも以前の彼のままだ。
「━━ただ、そうだな。以前より面白い男にはなったかな?」
「先生、何か言ったか?」
「いや、こっちの話さ。ドクター」
以前の彼から感じられなかった物を感じた。
僕の好みの気配だ。
悪くはない。
敵に回るなら一思いに殺してしまおうと思っていたが、幸いな事に彼は弔と共に歩む事を約束している。
それなら問題はない。弔にはこれを機会に存分に学んで貰うとしよう。
彼に足りないそれを。
「しかし乱暴なやり方だな、先生。彼は本当に育つかね?いまだ言動から子供が抜けきらぬ。癇癪を起こし、考えも浅はか。今回も、なんの考えもなく腹が立つからという理由で、折角の脳無を三体も出す羽目になった。・・・頃合いではないかね。そろそろ、別の者に目を向けるべきではないか?」
「ははっ。ドクターの言うことは尤もだね。でもまぁ、もう少し長い目で見てやってくれよ。これからだよ、彼は」
彼の歪みは本物だ。
彼以外に後継に座るに相応しい者はいない。
僕になるためには経験が足りない。
けれど、そうだな。
一人心当たりがない事もない。
僕はドクターに貰った一枚の写真を手に取った。
目の見えない僕にも分かるように凹凸のついた、一枚の写真だ。
指でその写真に描かれた人物の表情をなぞりながら、思った事をそのまま口にする。
「もし君が、その道を踏み外す事があれば、僕は喜んで歓迎するよ」
そうしたら、彼はどんな顔をするのだろうか。
導くべき君が、彼ではなく僕の下に来てしまったら。
守るべきだった者と、拳を交えなければならなくなったら。
「それも悪くないなぁ。ねぇ、━━━━━」
僕の呟きは誰の耳に響く事なく宙に溶けていった。