私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
さぁ、歓喜せよ( ノ*・ω・)ノ!
視界の中で炎が空気を焼いて、氷が周囲を冷やし地面を走っていく。
怒声と共に宙を駆ける友の姿も。
熱と冷気が渦巻き、友の姿が交差するその中で、鈍い光を放つ刃が飛び交う。
刃は一切の躊躇なく友の命を脅かし、赤い鮮血を周囲に散らしていく。
「どうしてっ・・・!」
そんな言葉が出た。
思わず、考えてもみない、言葉が。
こんな時になって、僕はやっと分かった。
心に沸き上がる感情。
怒りなんかではない。
もうそこにあるのは、ただ、ただの後悔。
「何故・・・」
君達が戦う。
「二人とも、何故だ・・・」
僕の身勝手に付き合う。
「やめてくれよ・・・!」
僕の代わりに傷ついていく。
それは僕が負うべき物なのに━━!
「兄さんの名をっ、継いだんだ。━━僕がやらなきゃ、そいつは僕が・・・!」
もう見たくないんだ。
兄さんみたいに壊される人を見るのは。
必死に投げ掛けた言葉に、轟くんが僅かにこちらを見た。
「━━━継いだのか、おかしいな」
返ってきた言葉は、疑問だった。
轟くんの足元から巨大な氷柱が現れる。
ヒーロー殺しを狙った一撃だったが、容易くかわされてしまう。
「俺が見たことあるインゲニウムは、そんな顔じゃなかったけどな。お前んちも裏じゃ色々あるんだな」
そう言うと、轟くんはヒーロー殺しに肉薄する緑谷くんの援護をするために炎を放った。直撃こそしなかったが、その炎は確実にヒーロー殺しの身を焦がしていく。
すかさず、炎に気を取られたヒーロー殺しの横っ面へ緑谷くんの拳が振り抜かれる。
「━━━あいつに、緑谷に、言われた事だ。鏡見たことあるかってよ。どの面下げて、ヒーローになる気だってよ」
炎と氷で援護を続けながら、轟くんは続ける。
「俺は━━━━忘れてたよ。ずっと。なんでヒーロー目指したのか、どうしてあんなクソ親父の言うこと聞いてまで、辛い特訓に耐えてまで、ヒーローを目指したのかを。ずっと忘れてたんだ・・・!俺は!」
炎を裂いて現れたナイフが轟くんの腕に突き刺さる。
けれど轟くんは歯を食い縛り炎を噴出し続けた。
「もうっ、分かってんだろ!!飯田!!」
分かってる。
もう、分かってる。
けど、僕は道を間違えた。
あいつの言うとおり、僕はヒーロー失格だ。
兄の名前を受け継いだのに、僕がしたことはただの復讐。誰も助けやしない。
笑顔を守ってきた兄の名を、汚すだけの愚行。
どうして今更、それが言える。
「━━━緑谷!!」
言い淀んでいた僕の耳に、轟くんの悲鳴のような声が聞こえた。
顔をあげると、力なく空中から落ちる緑谷くんの姿があった。
「だいっ、じょうぶ!!けど、やられた!」
それが何を意味してるのか、轟くんも僕も直ぐに察した。ヒーロー殺しの個性を受けたという事だ。
ヒーロー殺しの動きを抑えていた緑谷くんの脱落は、こちらへの接近を許す切っ掛けになる。
どうしてか緑谷くんはヒーロー殺しから、殺すには惜しいと評価されている。ならば、たとえ動けなかったとしても殺される可能性は極めて低い。
けど、轟くんは違う。
ヒーロー殺しは残忍な犯罪者だ。
邪魔するなら子供でも平気で殺す。
僕に殺気を向けたように。
「━━━━━やめてっ、くれ!逃げてくれ、僕はいい、僕は・・・もう」
君だけでもいい、生きて欲しい。
こんな僕の為に、道を間違えた僕に、犠牲にならずに。
どうか━━━━━━。
「やめて欲しけりゃ立て!!!」
なのにどうして、君はそこにいるんだ。
どうして、そんなに、期待するように声をあげるんだ。
「なりてぇもん、ちゃんと見ろ!!」
轟くんが作った氷壁を切り裂き、ヒーロー殺しの姿が現れた。不気味に笑う、憎いヒーロー殺しの姿が。
「俺もっ!緑谷もっ!諦めてやれねぇぞ!!絶対だ!!だからっ、立て!!!」
幼い頃、僕にとってヒーローは当たり前の存在だった。
僕の一家は皆ヒーローだった。
両親もヒーロー。両親の両親、つまり祖父母もヒーロー。歳の離れた兄もヒーローになった。
だから、僕がヒーローになるのは当たり前で、当然の事なんだと思っていた。
ヒーローになるために勉強し体を鍛えていく内に、僕はヒーローという物がなんなのか唐突に疑問に思った。
当たり前過ぎて気づかなかったのだ、ヒーローという物が何の為に何をしなくちゃいけない人なのか、知らなかった事に。
疑問を疑問のまま放置出来なかった僕は兄にヒーロー活動を見させて欲しいとお願いした。口で説明されるより、目で見た方がずっと参考になると思ったのだ。
そんな僕に兄は頭をかきながら笑っていた。「参考になるとは思えないぞ」なんて言って。
でもそれが、僕の始まりだった。
胸が熱くなった。
危険に飛び込んでいき、華麗に人を助ける兄さんの姿に。
思わず拳を握り締めた。
悪党を前に恐れる事なく立ち向かう勇敢な兄の姿に。
僕は兄にヒーローというものを教えて貰った。
僕の理想は兄さんになった。
そんな兄さんがいつか言っていた言葉がある。
迷子を見かけたら迷子センターへ手をひいてやれる。そういう人間が一番かっこいいと。
当時の僕には分からなかったけど、今なら分かる。
『何かあったらゆうてきて!』
『心配してる。あんたが思うよりずっと━━━』
『やめて欲しけりゃ立て!』
彼女達が、彼等がそうだったんだ。
ずっと側にいたのに気づかなかった。
兄が目指していたものは、特別なものなんかじゃなかった。
当たり前の中にあったんだ。
『ヒーローが何なのかよく考えとけ、バーーーーカ』
そうだ僕は何も分かっちゃいなかった。
入学式から何も変わっちゃいなかった。
目の前の事だけ・・・自分の事だけしか、見てなかった。
ヒーロー殺しの言うとおりだ。
僕は彼女達とは違う。
どうしようもない未熟者だ。
足元にも及ばない。
けれど、だからと言って、このまま終わる訳にはいかないんだ。
僕には相応しくはない。
けれど、相応しくなくても僕には義務がある。
義務があるんだ、ヒーロー殺し。
掛けられた期待に応える義務が。
兄の言葉を嘘にしてしまわないように。
二人の傷を無意味にしないように。
轟くんに迫る刃が見えた。
命を切り落とす、殺意を乗せた一撃。
避けなければ死んでしまう、そういう一撃。
僕はそれを眺めながら集中した。
震える手足に、重い体に力を込めた。
折れそうになる心に、魂に火を灯した。
ありったけの思いを込めて。
エンジンにエネルギーを注ぎ込んだ。
全てはその為に。
「おぉぉっ、おおお!!おおおぉぉぉ!!!!」
立ち上がれ。
今、ここで。
ヒーローがどうのじゃない。
僕の後ろめたさも、間違った過去も関係ない。
ここで彼女達に応えなければ、僕は一生後悔してしまう。
今ここで立たなければ、二度と━━━━
「レシプロっ━━━━━!!!」
━━━君達に、兄に、追い付けなくなってしまう。
炎が噴き上がる排気筒。
加速する体。
流れる景色。
耳に響く風切り音。
体が、足が、僕の意思を汲む。
「━━━━バースト!!!」
弧を描いた足が、ヒーロー殺しの凶刃を真っ向からへし折った。
驚愕を浮かべるヒーロー殺しへ、追撃の回し蹴りを打ち込む。ガードされたが、しっかりと遠くへと蹴り飛ばす事は出来た。
よろめくヒーロー殺しに速攻をかける余裕は見てとれない。
それは今の僕には十分過ぎる結果だった。
「ああっ、なんて事!飯田がぁぁ!」
緑谷くんの悲痛な声に視線を下げれば、僕の足元に踏みつけられた僕の眼鏡があった。
こんな時に何をと思ったが、地面に横たわりながら僕を見上げる緑谷くんの目に、はっとさせられた。
気づかなかった。
君はそんな目で僕を見ていたのか。
ずっと・・・。
「緑谷、馬鹿なこと━━━」
緑谷くんを叱ろうとする轟くんを手で制し、僕は彼女の顔を見て返した。心を込めて。
「━━こんな時にボケないでくれ。飯田は、飯田天哉は僕だ。君は眼鏡を、なんだと思っているんだ」
僕の返しに緑谷くんの笑顔が返ってきた。
「あはは。つまんない返し!10点!」
「何点満点なんだ、それ」
轟くんと緑谷くんが言葉を交わす姿を横目に、僕は今は噛み締めた。
生きている事を、立ち上がれた事を。
「ハァ・・・、感化されたか。だが、無駄だ」
不意にヒーロー殺しの声が聞こえた。
そこへと視線を向ければ、折れた刀を手にしたヒーロー殺しの姿がある。
「取り繕おうとも、人間の本質はそう易々と変わらない。おまえは私欲を優先させる、贋物にしかならない・・・!英雄を歪ませる、社会の癌だ。誰かが正さねばならないんだ」
さっきよりずっと素直に聞けた。
そうだ、僕は紛い物だ。
ヒーローに憧れていただけの、ただの子供だった。
「時代錯誤の原理主義だ。飯田、人殺しの理屈に耳貸すな」
そう庇ってくれる轟くんの言葉はうれしい。
確かに極端な言い方だ・・・けれども、本質的な所は間違っていない。
「いや、言うとおりさ。僕にヒーローを名乗る資格など・・・ない」
ただそれでも。
「折れるわけにはいかない」
もう、受け取ってしまったから。
兄さんや、君達から沢山。
それに僕は応えなくちゃいけない。
「俺が折れれば、インゲニウムが死んでしまう」
沢山の気持ちを受け取ってきた、その名が。
誰かを勇気づけてきた、その名が。
僕の憧れた、その名が。
「論外」
論外で結構だ。
どうせ僕にはどちらの肩書きも相応しくない。
けれど、それでも名乗ろうと思う。
分不相応でも情けなくても。
何故ならそれはもう、僕の名なのだから。
「聞け、ヒーロー殺し!」
それは沢山の人達に親しまれた━━
「僕は、最高に立派な兄さんの、ヒーローの弟だ!!」
━━━愛されてきた━━━
「兄に代わりおまえを止めに来た!!」
━━━僕が憧れた━━━
「僕の名前を生涯忘れるな!!」
━━最高にかっこいい、兄さんに託された名だ。
「インゲニウム!!お前を倒す、ヒーローの名だ!!」
今度こそ誓おう。
兄に、緑谷くんに、轟くんに。
この名を愛してきた全ての人に。
僕はヒーローになる。
この名に相応しい、兄さんのような誰よりも立派なヒーローに。
そして今度こそお前を止める。
兄と同じ、一人のヒーローとして。