私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~   作:はくびしん

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おかーさぁーん!シリアスさんがまたきたよー!またお土産持ってきてるよー!カニだって、おかーさぁーーん!

え、なに、赤くなってんの?おかあさんは、もう!
早くお鍋の準備してきてよ!こっちは任せて!

・・・最近、おかあさんはよく笑ってます。お父さんの事でずっと落ち込んでたのが嘘みたい。
・・・おかあさん泣かせたら、許しませんよシリアスさん。

次回予告

第6話シリアスさん、転勤。



(;・ω・)何書いてんねんやろか、ぼくは


だってだってなんだもん!やらないと、いけないんだもん!閑話しないと、駄目なんだもん!の閑話の巻き

連続殺人犯ヒーロー殺しステインの逮捕。

それはお茶の間を大きく賑わせた。

 

超人社会の中で指折りの犯罪者の一人である彼の逮捕、話題になって当然なのかも知れないが、それは必要以上な盛り上がりを見せていた。━━━というのも、その逮捕のされ方があまりにインパクトがありすぎたのだ。

 

今も動画サイト内を調べれば出てくる、問題のステイン逮捕の瞬間。見つけたそれをクリックすれば、咆哮するヒーロー殺しと彼女の姿が映される。

 

『ニコちゃん108の必殺技、投げっぱなしフランケンシュタイナー!!』

 

流れるような動きでヒーロー殺しにプロレス技を仕掛ける緑谷少女。恐れられた殺人犯の呆気ない最後。

それらが人々の関心を集めてしまった。

 

「これは・・・褒めるべきか、叱るべきか」

 

パソコンを眺めていた私の手は、気がつけば頭を抑えていた。

私も若い頃には、これと似たような事はしていた。

その度に無茶をするなと師匠には怒られたものだ。

そんな私が何を言ったらいいのか。

 

「難しいなぁ」

 

ネットの評価は賛否両論。

やりすぎだと騒ぐ者も入れば、良くやったと手放しで褒める者もいる。どちらともとれない言葉でその場を濁す者も。

これでは参考にもならない。

 

どうするべきかを悩んでいると、電話が鳴った。着信をみれば見たことのない電話番号。なんとなく無い筈の胃が激しく痛んだ。

 

恐る恐る通話ボタンをタッチすれば、相変わらず元気な老人の声が聞こえてきた。

 

 

『おう、俊典!出やがったなこの野郎!』

 

ううん、キリキリする。

 

「こ、これは、グラントリノ。ご無沙汰しております。その今回は爆豪少年が━━━」

『おう?ああ、かまいやしねぇよ。あげた功績が功績だ。けっこうな情状酌量あって、俺が負うのは減給と半年間の教育権剥奪程度だ。どうせ趣味でやってるようなヒーロー業だ、大した影響もねぇよ』

「そ、そうですか・・・お眼鏡には適いましたか、彼は」

『まぁな。爆発小僧なら問題ねぇだろ。あれぁ、俺が思ってるよか賢い餓鬼だったぞ。何より戦闘に関しちゃ天賦の才がありやがる。切っ掛けはくれてやった。後は本人の気持ちと、実戦と訓練しだいだぁな。━━━それより緑谷双虎の方だ!大馬鹿野郎!』

 

その名前に心臓が縮み上がった。

 

「は、はい、彼女が何か・・・あ、いえ、ネットのup画像は見ましたが・・・」

『後継に据えるつもりなら、もっとしっかり指導しやがれ!!物の見事にてめぇの若い頃だろうが!おめぇ、自分の時、俺がしこたま怒ってやったの忘れてやがるな!?馬鹿タレが!てめぇの失敗そのままやらしたら、てめぇが指導してる意味ねぇだろうが!』

「そ、それは、はい、申し訳ありません。私の指導不足で・・・て、え?」

 

グラントリノの言葉に違和感を覚えた。

何故なら、グラントリノは彼女を後継だと口にしている。

 

「何故それを・・・!?」

『・・・おめぇ、俺がボケ老人か何かだと思ってやがるな?分からねぇ訳ねぇだろ。舐めんなよ』

「しかしこの間は・・・」

『からかっただけだ!!』

 

お人が悪い。

なにもそんな事でからかわなくて良いのに。

あの時の悪い意味でのドキドキを返して欲しい。

 

『まぁ、今更説教しても仕方ねぇか。しかしな、緑谷双虎。面白い奴見つけてきたな。多少危うい所はあるが、 間違いなく逸材だろうよ。おめぇの後を継がせるのに、あれ以上の適任はいねぇかもな。聞いた話が大半だが、その精神性、判断の能力の高さ、類い稀な身体能力、周囲に与える好影響、個性の扱いも同世代では群抜いてるだろうよ』

 

会った時間は短いだろうに、私より彼女を理解していそうなグラントリノの言葉に申し訳なくなる。

 

『けどな、俺が一番気になんのは、あの時のあいつが動いた事だ。俊典よ』

「あの時、ですか?」

『そうだ。お前ならまだしもな。あの時、あいつだけがヒーロー殺しに立ちはだかった。あの時、あいつだけがな』

 

そう言われ漸くその映像が頭を過った。

ヒーロー殺しに止めを差した、あの映像だ。

 

「ヒーロー殺しの、ですか」

『ああ、そうだ。実際に相見えた時間は数分もないが、それでも戦慄させられた』

 

想像は出来ない。

私の中のグラントリノは圧倒的なまでに強者で、常に傲岸不遜に暴力を振るう先生だったから。

 

「グラントリノともあろう者を戦慄させるとは・・・。しかし、もうお縄になったのに何が・・・」

『察しがわりいな、てめぇは。緑谷ならピンときてたろうによ。そこは似てねぇな。・・・俺が気圧されたのは恐らく強い思想・・・あるいは強迫観念からくる威圧だ。誉めそやす訳じゃねぇが、俊典お前が持つ平和の象徴観念と同質のソレだよ』

 

私と同じと言われ、テレビ越しの存在だったヒーロー殺しの正体が見えたような気がした。間違った思想にせよ、私と同質だというなら、それは最早狂気と言っていい。

私自身、私の抱くそれがまともとは思ってはいない。

 

『安い話”カリスマ“っつー奴だ。ネットに流れる画像は大分お間抜けに見えるだろうが、分かる奴には分かるだろうよ。あいつの異常性がな。━━━そうなってくるとな、あいつが動けた事は普通か?』

「━━━っ!?は、それはっ」

 

グラントリノに言われるまで、私も気づかなかった。

私もただの視聴者の一人として、彼女の活躍ばかりに目を奪われていた。ヒーロー殺しなど、二の次にしか見ていない。

 

『あの時、誰よりもヒーロー殺しの側にいたあいつが、誰よりも早く対峙するのは当たり前か?誰よりもその圧迫感を感じたであろう、誰よりも死の恐怖を感じたであろう緑谷双虎が、経験豊富なナンバー2や俺を差し置いて、得体のしれねぇヒーロー殺しに立ち向かったのは当然か?違うだろ、なぁ俊典よ』

 

鈍感などといった理由ではない。

彼女の側にいた時感じた雰囲気、彼女とかわした言葉を考えれば、彼女がそうでない事はよく分かる。

 

『おめぇ、あいつを何処で見つけてきた。あいつは何知ってる。分かってるだろうが、普通じゃねぇぞ。おめぇみてぇな平和馬鹿ならまだしも、あいつは考える事が出来る奴だ。リスクもな。━━━なら、ちゃんと理由がある。あいつがそれでも動けた理由が』

「動ける理由・・・」

『ちゃんと見てやれ。いいな?』

「はい」

 

まったくもって頼りない先生だな、わたしは。

こんな事にも気づけないとは。

 

何が褒めようか、叱ろうか、か。

それ以上にやることは山積みじゃないか。

 

『・・・まぁ、取り敢えず緑谷の事はお前に任せる。もう余計なことぁ言わねぇよ。それとは別件でな、気になる事がある』

「は、はい。気になる事ですか?」

『ヴィラン連合だ』

 

ニュースにあったそれは把握している。

USJを襲撃した同様の者が保須を襲った事。ヴィラン連合とヒーロー殺しの関係性が話題になっていた事。

 

『繋がりが示唆される状況。ヒーロー殺しのカリスマに気づき、それにつられた連中は、間違いなくその足跡を追うぞ。辿り着くのは今まで見向きもされなかったチーマー集団、ヴィラン連合。嫌な流れだ。バラバラだった悪意が集まっていく。一夜にしてヴィラン連合は今をときめく犯罪集団だ━━━ここまで言えば分かるだろ。この外堀埋めて、己の思惑通りに状況を動かそうという、クソみてぇなやり方をよ』

 

忘れもしない、奴の得意なやり方だ。

生きているかも知れないとは思っていた。

あの怪我でよもやとも思わない事もないが、ここまで状況証拠が出てくれば信じざるを得ない。

 

『俺の盟友であり、おめぇの師・・・先代ワン・フォー・オール所有者“志村”を殺し、お前の腹に穴をあけた男』

 

『オール・フォー・ワンが、あいつが再び動き始めたとみていい』

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『ニコちゃん108の必殺技、投げっぱなしフランケンシュタイナー!!』

 

年端もいかない子供に論破され、投げ飛ばされるヒーロー殺しの姿に僕は思わず笑ってしまった。

これほど痛快だったのはいつ以来だろうか。

まったくもって彼女は面白い。

 

画像を見返しているとドクターが訝しげにこちらを見ている事に気づいた。

 

「どうしたのかな、ドクター」

「嫌に楽しそうだったのでね。興味深かっただけだ。それほど面白いかね?」

「ふふ、そうだねぇ。退屈を紛らわせるには十分かな」

 

今の世の中はつまらな過ぎる。

勝手に崩れていくヒーローの姿も、憎きオールマイトの活躍も僕の心を満たしてはくれない。

どれも予定調和過ぎるのだ。なるべくしてなる。面白くもない。

 

その点彼女は違う。

ビックリ箱のように、毎回僕を楽しませてくれる。

 

思わず溢れた再びの笑みに、ドクターが眉を顰めたのを感じた。

 

「のんきに笑ってる場合かね。また、先生の自慢の生徒殿がやらかしているのだがね」

「ん?ああ、許してくれよ、ドクター。失敗もまた経験せねば成長は望めないよ。必要経費だよ。また一つ、彼は成長したさ」

「そうだと良いんだがな」

 

深くはかれた溜息。

そろそろ、ドクターにもご褒美をあげないといけない時期かも知れないな。ただでさえ、彼に任せてる仕事は多いのだから。

 

「ドクター、たまには息抜きに食事にでもいこうか?」

「冗談もほどほどにしてくれ。何が楽しくて先生といかねばならん。それなら人形でも置いておいた方がましだ」

「酷いなぁ。さしもの僕でも傷つくよ?」

「傷ついとるやつはそんな事言わん」

 

それもそうだ。

 

「━━━ああ、先生。頼まれてた映像の加工は終えて、もう各所に流しておいてあるぞ。もう止められんだろうよ」

「ふふふ。ありがとう、ドクター。・・・さて、お膳立ては済ませた。後は彼の仕事だ」

「どうなる事だかな・・・はぁ」

 

聞いた話では既にいくつかの大物が動き始めている。

闇のブローカーを始め、なりを潜めていたネームド、密かに注目を集め始めた新鋭のヴィラン達。

散らばっていた悪意が一つの道標に従い、彼の下へと集っていく。

 

更なる破壊を求めて。

更なる悲劇を求めて。

更なる血を求めて。

 

「“プルス・ケイオス”だよ、死柄木弔。君の真価を見せてくれ」

 

君ならそれを背負える。

歪みきった君なら、この僕の代わりに。

さぁ、魅せてくれ。

 

可愛い僕の生徒。

 

目を覆いたくなるような、世界を。

退屈のない、世界を。

 

この僕に。

 


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