私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
もちゃこ「パターン青!使━━━シリアスや!!
ふたにゃん指令「うむ、きたか。━━ととろきりょん!かっちゃりおん!発進!!シリアスを殲滅せよ!」
ととろきりょん「分かった」
かっちゃりおん「っざけんな!何やらせてやがんだ!ごらぁぁ!!」
「ふんふーん、ふん、ふんふふーん」
昔、お友達に聞かれた事を思い出します。
『━━ちゃんは、何色が好き?』
小さい頃だったから頑張って考えました。
いつだって真剣なのです。
「あっ、ああ、やめてっ、やめてくれよぉ!」
沢山悩んで悩んで、思いました。
『私は赤が好きです』
赤が素敵だと思うのです。
だって赤は血の色です。皆に流れてる、生きてるって証の色です。怪我をすると溢れる血は素敵だと思うのです。生きてるって気がするので好きです。
だから、私はお手伝いをしてあげるのです。
素敵な色に着飾るお手伝い。
相手も素敵になって、私も幸せになって、皆幸せになれる。
「なんでこんな事するんだよ!!」
不意に着飾ってあげていた男の子の声が聞こえてきました。不思議に思ったようです。それもそうかも知れません。普通の人はナイフを人に刺したりしませんから。
うん、教えてあげましょう。好きな人にはちゃんと知っていてもらいたいですからね。
「好きだからです」
貴方の事が好きなのです。
「優しくしてくれる所が好きです。お洒落な所が好きです。お話を聞いてくれる所が好きです。笑う顔が好きです。面白い冗談をいう所が好きです。触りかたが好きです。撫でてくれる所が好きです。私を見てくれる所が好きです。気にかけてくれる所が好きです。友達が多い所が好きです。こまめに連絡してくれる所が好きです。名前を可愛く呼んでくれる所が好きです。考え方が好きです。声が好きです。目の色が好きです。少しクセのある髪が好きです。焼けた肌が好きです。見た目より逞しい体が好きです。耳の形が好きです。大きな掌が好きです。柔らかな唇が好きです。」
こんな言葉で表せられない程、貴方が好きなのです。
「好きです、好きなんです。私は貴方が大好きです。もう、寝ても覚めても貴方の事を考えちゃう。いつも側にいたいです。離れたくないです。一緒になりたいです。好きです。沢山幸せになりたいです。貴方も私のこと好きだって言ってくれたじゃないですか。やったぁ、両思いです。好き同士ですね。なら、良いじゃないですか。私の側にいてください。ずっと近くで」
だからもっと好きにさせて下さい。
私を貴方に夢中にさせて下さい。
「私は思うのです。赤って素敵ですよね?血の臭いのする人ってとてもそそられますよね?だから、沢山、沢山、着飾りましょう?私が好きな物は貴方も好きですよね?だって好き同士ですね?分かり合えるって素敵ですね。素敵です、ふふふ!」
「っひぃっ!?やめっ、ふぇっ!!!」
ナイフが肉を抉る感触。
飛び散る赤。
むせかえる鉄の香り。
彼の悲鳴のBGMも合間って、とてもロマンチックです。
あ、でも声はあまりいけませんね。
前に声を聞いて邪魔しにきた人がいましたから。
生きにくい世の中です。
私達はこんなにお互いを好き合ってるのに。
彼の口の中にハンカチを詰め込んであげれば、くぐもった声だけになりました。苦しいかも知れないけれど、我慢して欲しいものです。
んー、でも、これも素敵です。
可愛い声です。
「ああ、好きです、好きです。とても好きです。いい臭い。ゾクゾクしちゃいます。私、もっと貴方を好きになります」
うーうー言って何を言ってるのか分かりません。
でも、きっと喜んでいるに決まってます。
こんなに素敵な色になったんですから。
「知ってますか?人って沢山血が流れてるけど、ちゃんと場所を選んで刺せば、思ってるよりずっと死なないんですよ。安心して下さい。私はちゃんと知ってますから。だから、少しでも長く私と、沢山、沢山、いいことしましょう?ドロドロになって、好き合いましょう?」
ああ、好きです。
彼の怯えた目が、好きです。
鉄の香りに混じる尿の臭いも素敵です。
いいですね、本当にいいです。
突き刺して、突き刺して、突き刺して。
赤くなってく彼。鉄の香りがする彼。
どんどん素敵になっていきます。
どれだけそうしていたのか、気がついたら彼は酷く弱々しくなってしまいました。
弱くなった目の光。あるかないか分からないうなり声。抵抗としようと強ばってた体は力が抜けてます。
そろそろ時間ですね。
悲しい事です。
楽しい時間はいつもあっという間に終わってしまいます。もっと好き合いたかったのに。もっと熱くなりたかったのに。残念です。
血の滴る彼の首もとを舐めれば、濃厚な命の味がしました。生きている味です。
近くで力なく私を見る彼に、安心するように声をかけてあげました。きっと優しい彼の事ですから、心配している筈ですからね。
「━━━大丈夫ですよ?貴方が死んでも、私が貴方になりますから。貴方がいなくなっても、私が代わりにいますから」
彼の喉が動きました。
「貴方の事は覚えました。沢山見ましたから。沢山話しましたから。沢山一緒の時間を過ごしましたから。だから大丈夫です。沢山ちゅうちゅうしてあげます。いつでも貴方になれるように。沢山持ってる貴方、優しい貴方なら心配ですよね?貴方がいなくなって悲しむ人の事。大丈夫ですよ、私が貴方になりますから。だから安心して死んでください。貴方のお友だちは私のお友だちです」
そう言ってあげると、彼が目を見開いた。
きっと私の言葉に感動してしまったのでしょう。
うなり声が聞こえます。
「安心して下さい。貴方の代わりに沢山好きになってあげます。貴方にしてあげたみたいに、沢山の好きをあげます。沢山、沢山、沢山」
だから、もう良いですよ?
おやすみなさい。
大好きな貴方。
振り下ろしたナイフが、彼の胸に突き刺さりました。
あばらを抜けて、赤が沢山詰まってる心臓へと。
『俺を殺していいのは、オールマイトだけだ!!』
数日前からお気に入りになった、素敵なステ様の声をイヤホンで聞きながら彼の血を貰っていると、その音に雑音が混じってきた。片方のイヤホンを外して耳を澄ませば、通路の奥から足音が聞こえてきます。
カツカツ・・・高いお靴の音ですね。
きっと大人の男の人です。
見られると面倒なので、私は隠れて隙を伺う事にします。
少し待っていると、煙草を咥えたおじ様がやってきました。直ぐに分かりました。お友だちですね。
「━━━あー、こりゃまた派手にやったもんだな。近くにいるだろう、トガヒミコちゃん?通報なんて野暮なマネはしねぇから、出て来てお話しようじゃないか━━」
「お話は好きです!しましょう、お話!」
おじ様の首筋にナイフを当ててあげれば、両手があがりました。降参の合図です。
「おっと、早速後ろ取られたか。噂なんてあてになんねぇな。おじさん困っちまう」
「それがお話ですか?」
「まぁ、まぁ、落ち着いてくれよ。お楽しみの邪魔したのは悪かった。君に楽しいお仕事を紹介してあげたくってな。ほら、トガヒミコちゃんはお金ないだろ?」
お金はそうですね。
あんまりないです。
でも困ってもないです。
「なくても大丈夫、なんて言わないでくれよ。あった方がいいよお金。こういう遊び続けるなら、お金がかかるよ?」
遊びと言われ少しムカついてしまいます。
これは遊びなんかではないのですから。
「・・・いままで、そんな事ありませんでしたよ?」
「そりゃ、まだ警察もヒーローも碌に動いてねぇからな。本格的に動き始めたら、誰かのフォロー無しじゃ好きな事もできなくなっちまうよ?良いのかい?楽しくもない追いかけっこで時間潰して、君のしたい事ちゃんと出来なくても?いやだろ?俺ならいやだね」
それは嫌ですね。
私はもっと沢山の人と好き合いたいです。
今はステ様が一番ですけど。
「お話聞きます。なんですか?」
「はは、ありがとよ。━━━まぁ、お金関係なしに、もしかしたら興味持ってくれるかも知れないけど」
「?」
なんの事かと思ってると、おじさんが教えてくれました。
「おじさんね、わるーい知り合いがいるんだ。その知り合いがね、人手を探してるみたいなんだよね」
「人手ですか?」
「そっ。その知り合いってのが、今話題になってるヒーロー殺しが所属してた組織なんだけど・・・」
「━━━ステ様の!」
「おう?いい食いつきだな」
それはとても良いこと聞きました。
お金も貰える上に、ステ様と同じ場所にいけるなんて。
今は捕まっていますけど、もしかしたらステ様に会える機会もあるかも知れません。
これは素敵な事です。
やっぱり世界は素敵です。
少し生きにくいけど、こんなに沢山幸せな事があるのですから。
「おじ様!おじ様!私、そこに行きたいです!連れていって下さい!」
私のお願いにおじ様が頷いてくれます。
「分かった、分かった。少し落ち着いてくれ。条件とか色々お話しようか」
「難しい事は分かりません!いい感じにして下さい!」
「いい感じね・・・。おじさんは人が頗る良いからちゃんとしてあげるけど、そういう事は自分で考えなきゃ駄目よ」
「おじ様イイ人ですね!私、少し好きになっちゃいました!」
「それは困るなぁ、はは」
直ぐに連れていく訳にもいかないみたいで、日時等が決まり次第おじ様が連絡してくれる事になりました。
連絡先を交換し終えたおじ様は動かなくなった彼を見ます。なんでしょうか?
「・・・サービスで後片付けのお手伝いしてあげるけどどうだい?」
「大丈夫です。まだ沢山ちゅうちゅうしてあげないといけませんし、お別れはちゃんと二人きりでしたいのです」
「そうかい?なんだったら、全部終わった後で人よこすけど?」
終わった後なら・・・ありがたいですね。
「それじゃお願いします!終わった後で連絡すれば良いですか?」
「そうしてくれ。あーーついでに人払いもしといてあげるよ。折角紹介出来る子が捕まるのは、宜しくないからねぇ」
それだけ言うとおじ様は通路の影に消えていきました。
人払いしてくれるという言葉も嘘ではなかったみたいで、周囲から人の気配が遠ざかったような気がします。
イヤホンを着け直し、ステ様の素敵な声に耳を傾けながら彼から血を啜らせて貰う。
温かい命の味。
これが私の中で溶けて混じり、私はようやく彼になれる。大好きな彼と、私は同じになれる。私達はもう二人じゃない。一人だ。なんて素敵。
「はぁ、濡れちゃいます。本当に素敵」
会いたいな、ステ様。
知りたいな、ステ様。
話したいな、ステ様。
どんな顔するかな。
どんな事言うかな。
血の似合う貴方。
素敵な香りがしそうな貴方。
「きっと好きになってくれるよね?私がこんなに好きなんだから」
そして、私と一つに━━。
『━━━ニコちゃん━━━必殺━━』
「・・・・・」
設定を間違えたのか、例の子の声が聞こえてきました。
同じように血の似合う可愛い子。
なのにどうしてか、いまいち好きになれない子。
別にステ様を捕まえたからが理由ではないです。
でもなんとなく、好きでないのです。
「不思議です」
私はもう一度かかるそれを設定しなおし、ステ様の素敵な声に耳を傾けました。
そしてゆっくり、彼との最後の時間を過ごします。
ゆっくりと。