私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
皆、意外と色んなもん食うてんやねぇ。
沢山のご教授、ありがとやでー( *・ω・)ノ
轟と轟母は少し微妙な関係だ。
今でこそ轟母が入院してる病院へお見舞いに行くようになったけど、何年もの間会う事はおろか一切の連絡をしなかった関係だったらしい。
そうなったのも理由があって、事の発端は轟の幼少期にある。
轟が5歳を過ぎた頃、轟母は糞ハゲのせいで精神的に大分やられてしまっていて、ひょんな事から轟に手をあげてしまったのだと。轟が言うには、はずみのような物だったらしい。
でもそれは、轟の顔に一生消える事のないだろう火傷の痕を残す程のものになり、轟母はその負い目から精神を更に病み、まともな生活を歩めない状態になってしまったのだという。
それ以来、轟母は病院へと隔離され、現在に到るまで療養生活を強いられている━━━というのが私の聞いた話だ。
何かしら面倒な物を抱えているんだろうなとは思っていたけど、ここまで重たい物だとは思わなかった。私の人生において、聞いて後悔した話ベストスリーに入る重い話である。
うへぇ。
「━━━そんな轟母が私に会ってみたいと言うのだけど・・・どうしようか?」
『っんで、それをこのタイミングでしてきやがんだ!!こらぁ!!昼間に妙な雰囲気してると思いやぁ・・・つか、昼間に幾らでも時間あったろうが!!2時過ぎだぞ!!てめぇと違って暇じゃねぇんだよぁ!それ以前に、そういうのはよそに喋るんじゃねぇ!!』
時刻は土曜日、深夜2時。
電話越しに今夜も元気な怒号が響いてくる。
なんか、めちゃ怒ってる。
「誰にでも話すわけないでしょ。近い事は知ってそうだからさ・・・それに、こういう話するのなんて、かっちゃんだけだもん」
『だもん、じゃねぇんだよ!!そういうのは黙っとけ馬鹿が!!』
最近聞き分けが良くなったと思っていたけど、やっぱりかっちゃんはかっちゃんみたいだ。うるさい。
がーがー吠えるかっちゃんの声を聞きながら、抱き寄せたヌイグルミをもふもふし待っていると、少し落ち着いたのか『それで、なんだ・・・』と優しげな声が返ってきた。聞く気になったみたい。
「会いに行った方が良いかなぁ?」
『・・・それはてめぇが決めろや。何、迷ってんだ、ああ?』
「迷ってる訳じゃないけど、私が会いに行く意味あるのかなぁって。轟はさ、私に感謝してるみたいだから、きっと良い感じに私の事伝えてると思━━━いや、私は本当に良い女なんだけどさ」
『自分で言ってたら世話ねぇわ』
そうは言っても仕方ないよね。
事実だもんね。それは。
「・・・でもね、少なくともさ、私はあの時、たいした事したつもりはないんだよね━━━━」
私はあの時、轟に何かしてやるつもりはなかった。
かっちゃんに言ったみたいに、本人が自分で気づくのを待つつもりだった。何か大きな間違いをする前に声を掛けてあげるくらいのつもりはあったけど・・・少なくともあの時に何かしてあげるつもりは全然だったのだ。
あの時私がやったのは、ムカついたからぶん殴るとか、そういう短慮からの行動だ。結果的には轟にとってプラスに働いたのかも知れないけど、一歩間違えたら轟が気づくチャンスすら潰していたかも知れない。
「━━━もし、それが理由でさ、呼ばれてるなら行かない方が良いのかなぁって。変に期待とかされてたら、あれかなぁってさ。私はそんなに轟の事考えてなかったし」
釣り合ってないと思うのだ。
轟の気持ちとか、轟母の気持ちとかと。
私の気持ちが、全然。
あの時私が考えていたのは、ずっと別の事だったから。
ベッドの上でゴロゴロして返事を待ってると溜息が聞こえてきた。
『紅白野郎も、お前に何か期待してる訳じゃねぇ。あいつが感謝してんのも、あいつの勝手だろ。てめぇが気にかける理由はねぇだろうが』
「そうかなぁ・・・」
『はぁ・・・行きたくねぇ訳じゃねぇんだろ』
行きたくない訳ではない。
轟がようやく歩み寄ってきてくれたから応えたいとは思ってる。
ベストフレンドを名乗る身としては、挨拶くらいしときたいとは思ってる。
「うん」
『んなら、いきゃぁ良いだろうが』
「良いんだ、行っても?」
『はぁ?』
少しだけど止められると思ってた。
多分だけど、かっちゃんは轟の事嫌いだと思うし。
前も仲良くしてたら、ブチキレられたもんね。
職場体験から何処と無くすっきりして見えたのは、精神的に成長してたからなのかも知れない。私の知らない所でってのが、ちょっとむかつく。
「━━ううん、なんでもない。話聞いてくれてありがと」
『はぁ、たく。・・・・で、いつ行くんだ』
「うん?来週の日曜日」
電話が突然無音になった。
間違って切っちゃったのかと思って画面を見たけど、通話中になってる。
はて?
「・・・かっちゃん?」
『来週は駄目だ』
「・・・?何が?」
『用事がある』
「そっか?うん?」
なんだろう、話が噛み合ってない気がする。
「ごめん、かっちゃん。何言ってるか分かんない」
『はぁ?行けねぇって話だろ』
「誰が?」
『俺以外、誰がいやがる?』
ううん?
「かっちゃんもくるの?」
『はぁ?そういう話だろうが』
なんでそうなったのか分からないけど、かっちゃんはそのつもりだったみたいだ。私はそんなつもりはなかったんだけど。
普通に轟と行くつもりだった。
その旨を話したら全力で止められた。
絶対行くなとの事。
その言い方が完全に命令口調だったので、私の中に怒りとムカツキを司るイラァー神が降臨する。
きさん、なんば言いよっとかぁぁぁぁ!!
結局、母様が怒鳴りこんでくるまでの間一時間。
私とかっちゃんは持ちうる全ての罵詈雑言を駆使して戦った。母様に邪魔されてしまったので勝敗はつかなかったけど、私的には百二十パーセント勝ちだと思ってる。
思ってるぅぅぅぅ!!
◇◇◇
土曜日の朝。
私の目を覚まさせたのは、けたたましい電話のコール音だった。
寝ぼけ眼を擦りながら出てみると、酷く興奮したニコちゃんの声が聞こえてくる。
話を聞けば昨日の夜、というかつい数時間前、爆豪くんとやり合ったみたい。寝て起きたらまたその怒りが再燃したとかなんとか・・・。
「そう・・・なん?」
『そうなの!!まぁあ!でも勝ったけどね!!勝ったんだけどね!!だから良いんだけどさ!』
全然良くなさそう。
何をそんなに怒ってるのか聞いていると、轟くんの事がどうのと言うより、爆豪くんがニコちゃんに自分の用事について何も教えんかった事が一番許せないみたい。
そういえばと、職場体験の時もそんな事があって怒ってたのを思い出す。
『自分はさ!何処に行くのも勝手なのにさ!!おかしくない!!?私はさ!別に!行く気はないんだけどさ!でもさ何処に行くくらいは教えてくれてもいいんじゃないかなって思うんだよね!ね!』
「せやねぇ・・・うんうん、せやせや」
『今日も明日も、なんかそこに行くみたいで!!折角だからついてこうとしたら、また怒鳴るんだよ!!関係ないってさ!!何なのあいつぅぅぅぅ!!いやさ、関係ないよ!確かにさ!かっちゃんもかっちゃんで、色々ある事くらい分かるよ!でもさ、だったらさ、私も自由にしてて良くない!?ねぇ!』
「うんうん、せやねー。せやせや」
『あったまきた!!なんか、思い出したらムカつきまくってきた!お茶子ん家、今から行くからよろしく!!話聞いて!!』
「うえっ!?ちょ、え、ほんま!?」
本当かどうか確認しようとしたら電話が切れてしまった。かけ直そうかと思うたけど、藪から蛇になりそうやったので止めておく。
それよりと、爆豪くんの番号をプッシュした。
何度かとコール音。
不機嫌そうな『おう』という声とともに繋がる。
「あー、爆豪くん?おはよ」
『ああ?んだ、丸顔。朝から電話なんざしてくんじゃねぇ。切るぞ』
「もしかして電車?」
『ちっ、んだっつんだ。・・・今改札出た所だ』
時間はまだ八時。
平日の学校の時ならまだしも、休みの日にしては早い時間から電車を乗り降りしている所から、本当に何か用事があって出歩いとるのが分かった。
「電話してても平気やったら聞いてくれへん?」
『だから、話せってってんだろが』
「ニコちゃんとまた喧嘩したやろ」
『・・・は、だったら、っんだっつんだ』
少し動揺が見えた。
喧嘩したこと自体は悪いと思ってるみたいや。
これでけろっとしとったら、電話ぶちきって着信拒否する所なので、そうならなくて安心する。
「怒っとったよ」
『・・・・』
「私が言わんでも分かるでしょ。私より付き合い長いもんね。・・・じゃれあいの喧嘩やったら、私もなんも言わんけど━━これはちゃうやろ」
最近の二人の喧嘩。
今までと毛色が変わってきている事には気づいとった。
最初は勘違いかと思ったけど・・・ニコちゃんの様子を見て、爆豪くんの様子を見て、今ではちゃんと確信しとる。
「私はそんなに鋭い方ちゃうけど、それでも爆豪くんがニコちゃん大切に思っとる事くらい知っとる。なぁ、今爆豪くんのしとる事、ニコちゃんに教えてあげられんの?」
『・・・・・・うっせ』
子供みたいな言葉に、流石の私もカチンときた。
「そんなんやったら!轟くんに持ってかれるで!!あほ!!」
『なっ!!?紅白野郎は関係ねぇだろぉが!!』
「関係あるわ!!爆豪くんと違ぅて、轟くんは言葉にする大切さ、ちゃんと知っとるわ!!」
『んなっ、ことっ』
「なんも言わんでも分かって貰おうなんて甘い!!」
だから、私は声に出した。
「分かる事もあるかも知れん。━━けど、言わんと分からん事ばっかりやろ!」
だから、私は声に出したんや。
でも、届かんかった。
「━━それでも、伝わらん事だってあるんや!」
あの時、ニコちゃんのお陰で飯田くんに言葉を伝えられた。けど、結局飯田くんはあの場所で、あのヴィランと対峙していた。それが何を意味してるのか、分からん程お子様でもないつもりや。
ニコちゃんも、轟くんも、飯田くんも、爆豪くんも、あの事件について碌に話してくれんかった。
ようやく聞き出したそれも、嘘なんは直ぐに分かった。
本当の話を聞かなきゃいけないと思った。
知らなければいけないと思ったから。
私がしなきゃいけないこと、友達が背負ってるかもしれんと思ったから。
でも、ニコちゃんはそんな私に笑ってくれた。
何でもないって、大丈夫だって言ってくれた。
私の為に、嘘をついてくれた。
だから私は━━━
「爆豪くん、一つだけはっきりさせておくからね。私は、ニコちゃんの味方や。ニコちゃんが笑っていられるなら、それが間違った事でない限り、何処に行ったって応援する。全力で」
「そうして格好だけつけたいなら、いつまでもつけとったらええ。でもね、そんな爆豪くんの隣でニコちゃんが悲しむようになったら、その時は私が意地でも引き離すから」
「ニコちゃんの事、本当に大切にしたいんやったら、ちゃんと話し合って。ちゃんと爆豪くんの気持ち伝えて。それが出けんのやったら、私はもう爆豪くんの事、応援せんから」
━━━そう言うと爆豪くんは静かになった。
でもその静けさが、了承した物でない事はなんとなく分かった。
『━━━てめぇに、何が分かりやがる』
呟くように、けれどはっきりとした声が聞こえた。
どんな気持ちが込められているのか知らないけど、簡単に言えるような事じゃないのは分かった。
切れた電話を見ながら思う。
二人の間にある何か。
私に出来ることがなんなのか。
直ぐに答えは出せんとは思うけど、それでも考えていこうと思った。
それが、これからの私に最初に出来る、たった一つの事だと思うから。
ピンポーンと鳴った玄関へと行く。
待っているだけなのにドアの向こうはもう賑やかだった。ガサガサ音がなってる。きっとお菓子とかジュースとか、色々買ってきたんやろうと思う。
「お茶子ー!遊びましょー!」
元気な声に、私は笑顔を浮かべてドアを開いた。
「いらっしゃい!迷わんでようこれたね、ニコちゃん!」
大切な友達を迎え入れる為に。