私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
「個人面談?」
相澤くんの突然の言葉に私は驚いた。
この時期やることは多い。授業参観の準備もそうだが、期末テストと期末試験の準備だってしなきゃいけない。正直別の事にかまけている時間はないというのに、態々時間を削るような行為をしようとするのは彼らしくないと思ったからだ。
「合理的が口癖の君が、またどうしたんだい?」
「合理があろうとなかろうと、必要であるならば実行する。当然の事でしょう。とはいえ、俺は担任としてやることが多いので、比較的『暇』なオールマイト『先生』にお願いしたいのですが、宜しいですか?」
なんだか言葉のはしはしに棘を感じる。
言いたい事が分かるだけに、ちょっと泣きそうだ。
マッスルフォームの時間が短くなって、最近ますます生徒達への指導が出来てないのは、私が一番分かってる事。
実際は書類を作ったり、提出物の管理をしたり、校長の話を聞いたり、色々とやることがあって完全に暇じゃないけど、こう言われたら頷くしかないのも悲しい私の現状だ。
私が頷くと相澤くんは一枚のプリントを手渡してきた。
手元にしたそれに視線を落とせば、彼の名前があった。
「爆豪少年・・・か」
「思うところがあったなら、それです」
確かに、最近の爆豪少年の姿には少し思う所があった。
ヒーロー基礎学でしか見てないが、最近の彼はいき過ぎていたから目についていたのだ。
「体育祭以降、かな?それまで以上に緑谷少女へ・・・その、なんて言うかな、過敏になったというか・・・」
「過保護、で十分です。いや、それ以前も過保護ではありましたが、程度というものを弁えていました」
溜息をついた相澤くんが続ける。
「入学当初より見てきた個人的な見解にはなりますが、爆豪は緑谷に対して劣等感を抱いていた節があります」
「劣等感、かい?似合わないな」
「それは俺も思います。━━ま、実際はそんな簡単な言葉で片付くような物でもないのかも知れませんが・・・。兎に角、それに近い感情を緑谷に抱いていた筈です。その事に対する焦燥や卑屈になっていた部分は授業態度や普段の姿から見てとれましたし、体育祭の騎馬戦で緑谷からハチマキを奪取した際分かりやすく喜んでいたのを見れば、そこまで的外れではないでしょう」
相変わらず、相澤くんはよく見てるな。
私普通に見てたよ。もう、観客の気分だった。
・・・恥ずかしい。
「・・・ん、しかし、それならもう大丈夫なんじゃないかな?劣等感から脱して━━━いや、そうか」
「ええ、騎馬戦での勝利、体育祭での優勝、加えて例の件での逮捕協力。それらの実績は、それまで抱えていた劣等感を払拭するに足り得る物だったのでしょう。それで自信を持って良い方向に進んでくれれば良かったのですが・・・・」
爆豪少年は確かな実績をつみ、今まで無かった自信を手にした。その自信という物はヒーローにならずとも社会に出る上で強い武器ではあるが、使い方を誤れば己すら傷つける諸刃の刃そのものでもある。
「自信が過信に、そして傲慢にか」
「あれぐらいの歳の頃には、誰にでもある事ですがね。本来なら爆豪程の才能があれば、ずっと以前にそうなっていてもおかしくない筈なんですが━━━そうはならなかった」
「良くも悪くも、緑谷少女が彼の前にいたのか」
「そういう事です」
こういう話を聞く度に彼女がその気になってくれれば、とそう思わずにはいられない。
現実は彼女は拒否の姿勢を崩さないが、やはり相応しいと思うから。
「個人面談の結果次第で、例の件オールマイトに一任しようと考えてますので、そのつもりで」
「ああ、そうか・・・心苦しいなぁ」
「そこは切り替えてやって下さい。いずれ彼等彼女等が社会に出た時、その経験は大きな武器になります。中途半端が一番為になりませんからね」
「はははっ、勿論だとも。やる以上は手を抜かないさ」
去っていく相澤くんの背中を見送り、私はプリントに書かれた面談対象となっている爆豪少年の名前に視線を落とした。
中々に気むずかしい子だ。
どう話したものか。
緑谷少女の話を出す━━━のは宜しくないだろうしなぁ。あの頃の少年は色恋だとかに過敏だし。
ふふ、しかし若いなぁ。
私が学生だった頃は時代が時代だったから、そういった事はあまり興味を持てなかったけど・・・それでも気になる子の一人二人いたものだ。なんと言ったかな?彼女は確か━━━━。
「━━━と、オールマイト。一つ伝える事を忘れていました」
「うわっ!?びっくりした!え、どうしたんだい、相澤くん?!」
「・・・何をそんなに慌てているんです?それよりも一つ伝え忘れていた事言いますよ。爆豪の自信の一つから『思ったより拗れちまった。なんとかしとけ、俊典』と」
・・・・・・・。
全てを理解した私は頭を抱えた。
「グラントリノ・・・それは、ないでしょう」
「週2で通ってるようですね」
「教育権剥奪されたって言ってたのに・・・」
「まぁ、公式な物でもないでしょうから」
「私が━━━━お昼ご飯を携えて来た!」
お昼休み。
色々と話す内容を考えた私はA組の教室の扉を開いた。
殆どの生徒が食堂に行っているのか教室はがらんとしており、そこには爆豪少年の姿もなかった。
「・・・?オールマイトが何故この黄昏し祝福の時に」
「常闇少年!こんにちは!爆豪少年に少し話があって来たのだが━━━この様子だといないようだね?何処に行ったか分かるかな?」
「爆豪であれば、この時間は常に━━━そう言えば、最近は緑谷と共にいなかったな」
常闇少年の側で食事をとっていた障子少年が複製腕の口をこちらに向けた。
「オールマイト。爆豪なら切島らと共に中庭にいる筈だ。切島が購買でパンを買っていくと言ってたからな」
「そう言えば、そんな事を言っていたな・・・」
教室の二人に手を振り、私は中庭へと向かった。
途中多数の生徒に取り囲まれそうになるも、時間もあまりないのでスマイルと小粋なジョークで乗り切り中庭へのドアを開けた。
緑の芝生が敷かれたそこには小さい噴水を中心にベンチが並び、その周りを囲むように木々や茂みが見える。芝生で寝転ぶ者、ベンチにて友人と会話を楽しむ者、木陰で読書を楽しむ者など、それぞれのやり方で昼時を楽しむ生徒達の姿があった。
梅雨の中にあって、なかなかよい天候の今日。
日差しを浴びにくる者が多かったのか、中庭は盛況な様子。爆豪少年を探し見渡せば、直ぐに発見出来た。
なにせ、この麗らかな天候の下で、どんよりとした空気を漂わせていたのはそこだけだったから。
茂みに隠れたそこを覗けば、見るからに機嫌が悪そうな爆豪少年を中心とした切島少年達の姿があった。
「・・・なぁ、爆豪。何が原因か知らねぇけど、もう仲直りしろよ。もうなんつーかさ、見ててもどかしいっつーかよ。なんだろ、恥ずかしいからよ」
「・・・っせ、黙ってろ。爆殺すんぞ」
「おう、やれるもんならやってみろ。俺の硬化舐めんなよ。てか、そういうのが駄目なんだかんな?もうちょっと素直になってよー、こう、なんつーの?ああ!駄目だ!上手く言葉にならねぇ!こういう時、頭いいやつとか近くにいたらなぁ」
切島少年がぼやくと隣に座っていた瀬呂少年が焼きそばパンをくわえながら話し出す。
「ほっほふぇ、ほっほふぇ・・・。ふぁふふぁふぇ」
「瀬呂、口に物入れながら話すな」
尾白少年に嗜められ、瀬呂少年は口にあるそれを飲み込み話を再開する。
「言うだけ無駄だっつの。こいつの脳みそは鋼より固い何かで出来てんだからよ。柔軟性にとんだそんな事できっかよ。━━尾白先生ならもっと上手くやりそうだな。はい、お手本」
「どんな無茶ぶりだよ!って、切島も期待の目で見るなよ!・・・・まあ、俺なら素直に謝るけど?・・・コホン。その、わ、悪かったな、みど・・・馬鹿女。いつも素直になれないけど、本当はお前の事━━」
「はい、尾白先生のしょぱい物真似のお手本見させて貰ったし、爆豪リピートアフタミー」
「━━━わ、悪かったな!似てなくて!てか恥ずかしい思いしてや━━」
「んなだっせぇ事、誰がやるか!!死ね!!」
ダサいと切り捨てられた尾白少年が深く落ち込む。
尾白少年は全然悪くないので、そんなに落ち込まないで欲しい。
「爆豪がそれでいいならいいけどよ・・・マジな話仲直りしといた方が良いぞ?最近、轟と緑谷やけに仲良いじゃんか。今んとこなんもねぇけど、何が切っ掛けで面倒な事になっか分かんねぇぞ」
「まぁ、緑谷死ぬほどそういう方面鈍いから、当分は何もなさそうだけどな。そこんとこ、尾白先生はどう思う?」
「好きにしろよ・・・どうせ俺なんか・・・・・・仲直りでもなんでもさっさとやれよ。爆発馬鹿」
「尾白がきれた・・・!」
「尾白先生がきれた・・・!」
皆の言葉に爆豪少年は居心地が悪そうだ。
けれど、その意思に変わりはなさそうに見える。
何を口にするか見ていれば・・・。
「・・・るせっ、ほっとけ糞が」
うん、拗れてる。
凄く、拗れてる。
グラントリノ、何してくれたんですか。
・・・・はぁ。放って置いて大丈夫、とはいかなさそうだ。ここは私も腹を括るしかないか。
「私が━━━━茂みを突き破り来た!!!」
「「「うわっ!!??」」」
突然の私の登場に爆豪少年以外の生徒達が驚愕する。
それに反して驚きの少ない爆豪少年は、恐らく私の存在に気づいていたのだろう。
グラントリノが才能があるといい、そして好んで研ぎ澄ましただけの事はある。
これは自信を持っても仕方ないか。
「楽しい休み時間に水を差して済まない。少し爆豪くんに教師として用事があってね」
「ああん?んだ、オールマイト」
私を睨む爆豪少年に、大人の威厳全開で伝える。
伸ばした手に思いを込めて。
彼を見つめる瞳に力を込めて。
「来て貰おう、爆豪少年!個人面談の時間だ!!」