私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
歓喜せよぉー(ノ*´ω`*)ノ
かっちゃんと仲直りしないまま結局日曜日。
私は一人待ち合わせ場所に向かっていた。
ガタガタ揺れる電車の中で不意にガラスに映る私は・・・なんか、ちょっと疲れて見える。
あれからイタ電してないせいで、どうも調子が悪い。
具体的にいうと、寝起きが悪かったり、肌艶が悪かったり、ご飯が美味しくなかったり、そんな感じだ。
むむ、無性にイタ電したくてたまらない。二時頃イタ電したくてたまらない。もう今からでもいいから、意味のない電話したい。
でも、ここでイタ電してしまえば、きっとなぁなぁになる。いつもなら別に良いけど、何となく今回は嫌なので、かっちゃんが土下座しながらシュークリームを献上してこない限りは許さない所存なのだ。ケーキつけたら、殴るのもチャラにしていい。ホールのみだけど。
て言うか、その分寝てるのに体調悪いとはこれいかに。
くそぅ、くそかっちゃんめ。
昨日やったガチャが爆死したのも、昨日母様に朝から晩までお買い物付き合わされたのも、昨日のお昼に母様に奢って貰ったハンバーガーに抜いた筈のピクルスが入ってたのも、お気に入りのCD踏み割ったのも、包帯先生に叱られたのも、着ようと思ってた服に虫食いがあったのも、皆かっちゃんのせいだ。
「はぁ」
とは思っても、そうやって文句の言える奴は側にいない。それが、少しだけ寂しい・・・かも知れない。いや、やっぱり、そんな事ないな。せいせいする。いちいち怒鳴るから耳が痛いもんね。うんうん。
・・・はぁ。
思えば、こうしてかっちゃんと険悪になったのは中学に入りたての頃以来だったな。
あの時は確か・・・ああ、落ちてるエロ本をかっちゃんの机に差し込んでおいた時か。あれは流石に私が謝ったっけ。
いや、その日の内に手荷物検査あるとは思わないじゃない?ねぇ?
「行くとこあるって言ってたけど、今頃何処にいんだろ・・・」
流れる景色を見ながら、何となくそう思った。
待ち合わせの駅につくと、普段着の轟がいた。
肩掛けのバックと腕時計以外の装飾はなく、薄手の黒の上着、白のシャツとジーパンでシンプルにまとめた感じだ。らしいっちゃ、らしい。
手を上げて挨拶すれば、「おう」といつもながらやる気のない返事が返ってきた。
「遅れるかと思ったけど、大丈夫だったな」
「ぬぅなにぃ?私が寝坊するとでも?」
「いや。普通に迷うと思った。初めて来る場所だろうしな」
まぁ、それは分かる。
スマホのナビ様がいなかったら、迷ってる自信はある。
「それにしても、普段そういうの着るんだな?」
そう言われて私は自分の姿を見直した。
今日はよそ様と会うのでちょっとお洒落にしている。
とは言ってもそんなに沢山服持ってるわけではないので、タンスの底で眠ってた白のワンピに、タンスの住人と化していたデニムシャツを合わせた適当コーデだけど。・・・バッグなんか、お気にってだけでにゃんこ柄のリュックしてる始末。コーデも糞もないよね。
ま、それでも可愛く仕上がっちゃう訳だけども!
「可愛かろう?」
「・・・ああ。イメージと違うけどな」
おお?素直に褒めたのは得点高いぞ、天然王子。
しかし、イメージとな?
「私のイメージってどんな?」
「パーカーとか着てそうだと、思ってな」
「うん、まぁ、着てるけど」
つい昨日母様と買い物中、にゃんこポンチョ買った所で、にゃんこパーカー買ったばっかりだし。
私のにゃんこグッズがいま熱いんだよね。
いい店見つけたぜぇ。後でかっちゃんを連れていかねば━━━後で。
轟と適当にお喋りしながら歩いて、バスに乗って暫く。
轟母の入院してる病院についた。
大きめの病院で外装は小綺麗。
なんかお高い臭いがする。
轟母が入ってる病棟はやっぱり少し特別みたいで、色々と手続きが多かった。殆んど轟にやって貰ったので大変ではなかったけど。
それよりも看護師のおばさんに何度も顔を見られたり、ナースステーションにいた全員の看護師に顔見られたりしたのが何だったのか聞きたい。
あれか、セキュリティー的な、あれか?うん?
手続きも済んで轟についていく。
のんびりとした歩みが、ある病室の前で止まった。
見れば轟冷というプレートがついてる。
「ここ?」
「ああ。話してあるけど、取り敢えず俺から入る。呼んだら入ってきてくれ」
「うん、了解」
私の返事を聞いた轟はドアをノックし、中へと入っていった。
待ってる間スマホの画面を使って髪型とかをセットし直しておく。あまり崩れてはいない。てか、ポニーだし。そうそう崩れないけども。
てか、あれだな。改めてみると私、超可愛い。なんだこれ、天使じゃないか。これはヤバイな。これは来る途中、何人か落としてるな。間違いない。
憐れな子羊達に黙祷を捧げていると轟に名前を呼ばれた。入ってきて良いぞの合図だ。
ノックを一つと失礼しますの一声を掛けてドアを開ける。ドアを開いた先には轟と、白っぽい髪の綺麗な女の人がいた。母様と違って痩せていた。
私の視線にその人が笑顔を返してくる。
「初めまして、緑谷双虎ちゃん。お話し、焦凍から聞いてるわ。私は轟焦凍の・・・・」
「お母さんだ」
「・・・ありがとう、焦凍。轟焦凍の母、轟冷です。今日は遠い所、会いに来てくれてありがとう。何もない所だけど、ゆっくりしていって頂戴ね」
轟母の穏やかな表情を見て、隣で分かりづらい笑みを浮かべる轟を見て、私も笑顔を返しておく。
堅苦しくしなくて良さそうなら、いつも通りするだけだ。
「初めまして!私、紅白━━━轟焦凍くんのベストフレンドやってます、緑谷双虎です!学校では軽くアイドル的存在です!にゃは!」
「まぁ、アイドルさんなのねぇ」
「お母さん、冗談だから」
◇◇◇
焦凍が病院にお見舞いに来るようになってから、度々その名前を聞いていた。
焦凍がここに来る決心をつける切っ掛けになった、その子の名前を。
緑谷双虎。
虎という漢字から、もしかしたら男の子なのかも知れないなんて思った事もあったけど、今日目の前に現れた子は可愛い女の子だった。
少しびっくりしたけど、それよりもびっくりしたのは彼女を見る焦凍の横顔。
とても優しい顔をしてる。
勿論優しいだけじゃない、私には見せない男の子の顔。
こういう顔を見ると、この子の時間がどれだけ進んでしまったのかを感じる。焦凍達と家族として一緒に過ごせなかった事に、胸が痛くなる。
それは自分の弱さのせい。文句は言えない。
けれど、どうしても思ってしまう。
あの時、どうして踏み止まれなかったかと。
そうしたら、きっと苦しい事ばかりじゃなかった。
焦凍だけじゃない、あの子達の成長もきっと見れた。学校でどんな事をしたとか、好きな子が出来たとか・・・沢山楽しい時間があった筈なのに。
それなのに、私は━━━━。
「レーちゃん、レーちゃん」
気がつくと私の顔を覗き込むように、不思議そうな顔した双虎ちゃんがいた。
「どうしたの?」
「あっ、やっぱり聞いてない!レーちゃん轟そっくり!ポヤポヤし過ぎですよー!ま、いっか。それよりほらほら、見て見て。爆笑ですよ!紅白饅頭が無表情でくしゃみしてる所」
「器用な事出来るのね、焦凍」
「おい、緑谷。ちょっとこっちこい」
焦凍に猫みたいに掴まれて部屋の端っこ行く双虎ちゃん。焦凍の影からこっちを見て、親指をぐっと立ててくる。
どういう意味か考えていると、直ぐ側のテーブルからガヤガヤとした音が聞こえてきた。ふと目を向ければ、双虎ちゃんのスマホに映像が流れている。
先生には禁止されているけど少しならと思い手にとって見てみる。そこには学校での焦凍の姿があった。
双虎ちゃんの元気な声。
あいそのない焦凍の声。
さっき言われた画像だったみたいで、本当に焦凍が無表情でくしゃみしていた。
画像から流れてくる楽しげな笑い声に、私も思わず笑ってしまう。
「━━━な、お母さん!それ」
焦凍が少し焦った様子で戻ってきた。
スマホを持っているせいか、それとも画像を見てしまったせいか分からないけれど、見たことのない焦凍の姿に笑いが溢れてしまう。
「見た見た?!爆笑ですよね!」
「緑谷━━━!!」
「うわっ!?紅白饅頭が怒った!!」
「当たり前だ!携帯は駄目だっていったろ!」
「携帯じゃなくて、ネット情報得られる電子機器全般が駄目なんでしょ?でもさ、紅白饅頭の画像だけなら良くない?レーちゃんもみたいよ、きっと。ねぇーレーちゃん?」
「そのレーちゃんも止めろ」
「えぇーーレーちゃんが良いっていうからぁ」
双虎ちゃんの助けを求める目が私に向いた。
焦凍はそれとは逆の目。
ふふ、どうしようかしら。
「━━━良いわよ、レーちゃんで。なんだか歳まで若返った気分になるもの。それと、他にもあるなら焦凍の姿みてみたいわ」
私がそう言うと、焦凍が眉間に皺を寄せて双虎ちゃんを見た。それを見て、双虎ちゃんは鬼の首でもとったかのような余裕の笑みを浮かべる。
焦凍をハエでも追い払うように押し退け、双虎ちゃんは私の前にきてスマホを指差した。
「他にも色々ありますけど、良かったらそれあげますから後でゆっくり見てください。紅白饅頭の画像入れといたんで」
「え、それは良いわよ。高いんでしょ、これ。それに私には━━━」
「さっき言いそびれてたんですけど、それスマホじゃないです。嘘スマホなんですよ」
「嘘スマホ?」
私の疑問を口にすると、双虎ちゃんはそれを私の手の中からとっていじり始めた。
そして画面を見せてくる。
「・・・冬美のスマホと違って、なんかシンプルねぇ。アイコン、っていうんでしょ?このマークの所。冬美のは一杯あったわ」
「実はこれ、タッチできませーん」
「あ、本当」
何でも双虎ちゃんが言うには友人といったゲームセンターで手に入れたパチモノで、メモリーカードに入った画像とか音楽しか再生出来ない物らしい。
「最初これをUFOキャッチーで落とした時、死ぬほど喜んだのに・・・とんだ食わせ物でした。むかつくから腹いせにぶっ壊そうとしましたけど、頑張ってとったからそれも出来なくて・・・使おうとするとあの悪夢が甦るし・・・どうしようかと」
「そうなの?でも、ただで貰うような物じゃないわ」
断ろうとしたけど、双虎ちゃんはそれを私の手に握らせてきた。
「今日お土産持ってきてないんで、それで一つ手を打って下さい!ご勘弁を!」
お願いにもならないお願い。
けれど双虎ちゃんの表情を見れば、もうそれ以上断れなかった。
頷いた私に双虎ちゃんの笑い声が聞こえてくる。イタズラが成功したような、子供のような笑い声が。
「いらない物押し付けた訳じゃ、ないんだな?」
「━━━━さぁ、今日はいい天気だねぇ」
「誤魔化しかたくらい考えておけ」
焦凍に掴まって怒られる双虎ちゃんを横目に、手にしたそれを動かしてみた。
ボタンを動かすと焦凍の姿が沢山あった。
どれも同じ様な顔。
でも、私の知らない顔ばかり。
私の知りたかった姿ばかり。
ありがとう。
そっと心の中で彼女に伝えた。心を込めて。
きっと面と向かっては受け取ってくれないから。
私にとって特別でも、彼女にとってこれは特別じゃないから。
私にもそうであって欲しくて。
態々、こんな渡し方をしたのだろうから。
私はそれを胸に抱え、二人の姿を見た。
楽しそうに話す、その二人の姿を。
そして唐突に思った。
「その紅白饅頭というのは、焦凍の学校での渾名なの?」
「はい!そうです!皆呼んでます!」
「しれっと嘘つくな。お母さん、冗談だから」
ふふ、分かってるわ。焦凍。
ふふふ。