私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
ゴールしても、いいよね?
う、うん、ありがと(´ω` )スヤァ
職員更衣室に着いた私を待っていたのは、メイク道具をばっちり準備したミッドナイト先生と面白ギミックを用意した発目の二人だった。
私が二人に軽く挨拶すると、目を血走らせた発目が私に向かってきた。相変わらずの、地面を滑るような特殊走法。どうやってるのか本気で気になる。というか、教えて欲しい。
「緑谷さん!!毎回毎回、私のドッ可愛いベイビーのモニターありがとう御座います!!貴重なご意見を沢山頂き、改良が捗って捗って仕方ありませんよ!!お陰でぶっちゃけ寝る暇ないです!私!!かれこれ36時間ほど起きてます!!今日は日頃の感謝も込めた、とびっきりのベイビー用意しておきましたよ!!」
発目は私の手を掴むとブンブン振り回すように握手してくる。基本テンション高めの私ですらついてけないハイテンション発目。私は為されるがまま腕を振り回され続けた。
痛い、お手手取れそう。
「発目さん、その辺りで止めて頂戴。メイクしてる時間がなくなっちゃうわ」
「はい!了解です!発目明!己の役目がくるまで待機してます!!」
ミッドナイト先生のお陰でようやく解放された。
お手手がジンジンしてきたからベストタイミングである。これ以上ブンブンされてたら、きっと私のか弱いお手手が銀河の彼方に飛んでいってしまった事だろう。
・・・にしても、人って眠らないとああなるのか。勉強になった。
「さ、緑谷さん!ちゃっちゃと仕上げちゃうわよ!飛びっきりのやられ顔!」
「うっす!お願いするっす!ボッコボコな感じでお願いするっす!!」
今日の人質大作戦が決まってから、私は己が役目をまっとうする為、関係各所に協力を要請していた。
ミッドナイト先生しかり、発目明しかり、今はここにいないがガチムチとかもそうだったりする。
発目の参加は少し渋い顔されたが、私がどうしてもとお願いし「既に話したけど?」という事で何とかOKを貰えた。というか、仲間に入れるしかなかったんだけどね。
そして、怒られたのは言うまでもない。
今回のドッキリヴィラン退治&保護者救助作戦において、私の役目は保護者達の行動抑制。私が人質になってる画像を保護者達に見せて、人質がいるんだぞーお前らが大人しくしないと、大変な事になるぞーという感じの事をやるとのこと。
当初はただ縄で捕らえられてる姿を撮るみたいだったのだが、リアルを追求したい私はメイクする事とギミックを仕掛ける事を提案した。
包帯先生は渋い顔してたけど、ミッドナイト先生とガチムチが乗り気になり、そこにラジオ先生も悪のりし、多数決の上、本決まりになり現在に至る。
時間がない中、話し合い色々と練った結果、ミッドナイト先生によるメイクでボロボロ感を演出し、発目のベイビーを幾つか使って怪我を演出する事になった。頭から血糊が飛び出したり、義手的な物を使って骨折してる風にしたりとか、そんなだ。
私の初案では首が飛んだり、四肢が破裂したり、内蔵的な何かがはみ出したりする予定だったのだが、予算的にも技術的にも、時間的にも、倫理的にもアウトだったのでそれは無くなった。
くっ、やりたかった。
そんな事考えてる内にミッドナイト先生のメイクが終わった。確認してと言われて確認したら、思ったよりやられている感じだった。
しかし、な・・・うむ。
「それでも可愛い私!」
「凄い自信ね、緑谷さん。私ね、貴女のそういう所好きよ」
次に発目のベイビーの装着を始める。
取り付けるのは骨折風にするための義手と、血糊が飛び出すパイプと、刺さってる風になる玩具ナイフ。
「極めつけはこのベイビーですよ!!」
発目が最後に取り出したのは銃とガチムチがモチーフのペッツ容器。発目は容器からペッツ的な何かを取り出し、それを床においた。
「行きますよ!!レッツベイビー!!」
発目がペッツに向けて引き金を引くと、パァンという音と共に破裂し血飛沫が飛ぶ。
「おおー!流石、発目ー!一日でよく仕上げたな!!」
「いえいえ、余ってたペイント弾を少し改良しただけなので、そう大変でもありませんでした。たった五時間程で完成しましたよ。この黒いペッツは粘着面を下に張り付けて下さい。逆だと炸裂した時、怪我はしませんが地味に痛いですよ。これを見て貰えば分かると思いますけど」
そう言って発目は服を捲って腹を見せた。
そこには何ヵ所か赤くなってる部分があり、確かに痛そうに見える。
「自分でやったのか・・・・」
「他に誰もいませんでしたし。何事も体験してからこそですよ。用法を守って貰えば衝撃は然程ありません。ド派手に撃たれちゃって下さい!」
銃とガチムチペッツを私に手渡すと、発目は崩れるように地面に倒れた。寸での所で支えたので、頭は床にぶつけてない。
どうしたのかと顔を見れば、呼吸も絶え絶えに朦朧としていた。
「は、発目ぇぇぇ!!」
「か、かふゅー、かふゅー・・・ど、どうやら、私はここまでのようです!最後まで、私のドッ可愛いベイビー達の勇姿を見守りたかったのですが・・・ヤバイです!眠気が、はは!!なるほど!!人は限界に達するとこうなるのですね!!勉強になりました!ありがとう御座います眠気!」
「発目・・・・」
よく分からない事を叫ぶ発目。
私はそんな発目の手を握りしめた。
「・・・もう、良いよ。もう頑張らなくて良い。ゆっくり、お休み」
「そ、そう、させて貰います。い、いやぁ、良い経験になりました・・・。普段は、ヒーローのサポートアイテムを作ることに念頭をおいてますので、こういったお遊び品を作る機会は中々ありませんから・・・新し、い・・・発見しまくりで、興奮で目が・・・冴えま・・・・・・・ぐぅ」
「は、発目ぇぇぇぇ・・・!!」
発目は燃え尽きるように眠った。
それはそれは安らかに・・・・いや、そうは見えないな。なんで目開いたまま寝てるの?これ大丈夫だよね?目を瞑る余裕もなかったの?死ぬの?保健室直行?
発目の処遇についてどうするか悩んでると、溜息をついたミッドナイト先生が肩を叩いてきた。
「緑谷さん。取り敢えず発目さんはこっちで預かるから。緑谷さんはこのまま撮影場所まで行ってくれる?さっき連絡が来てね、もう廊下にセメントスが迎えに来てるみたいなの」
「あ、了解です」
発目をミッドナイト先生に預け廊下に出る。
そこには言われた通り台車を押したコンクリ先生がいた。
「さ、行こうか緑谷さん。姿が見えるといけないから、中に入って」
「ういーす」
大人しく台車の上におかれたBOXへと入り、目的地に着くのを待━━━と、不意に思った。
「コンクリ先生」
「どうしたんだい、緑谷さん」
「態々こんな面倒臭い移動しなくても、着替えとかメイクとか、全部撮影場所ですれば良かったんじゃないすかね?」
ガラガラと台車のタイヤが鳴る。
「・・・それを誰一人気づかなかったんだねぇ」
「いやまぁ、バタバタしてましたし」
「そうだねぇ。時間がないって憤慨してた、イレイザーヘッドに教えてあげたかったなぁ」
◇◇◇
娘から遅れる事一時間と少し。
私は光己さんと娘達が通う雄英高校に着いていた。
セキュリティが思った以上に凄くて、門を抜けるまで沢山の検査があった。学校内は色々と機密があるらしく、残念な事に撮影は禁止。あの人に伝える為には口頭で説明するしかないので、私は娘の活躍を見逃すまいと気合いを入れ直す。
というか、活躍だけなら良いけど・・・。
少し不安になった私の肩に、ポンと何かが触れた。
視線をそこへと移せば、光己さんが笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
「肩の力入れすぎですよ!大丈夫ですってば。双虎ちゃんなら」
「そ、そうでしょうか。活躍する姿より、何かやらかす姿しか想像出来ないんですけど」
「あはは、まぁ、それはそれでらしいですけど。良くも悪くも、双虎ちゃんは良いところ見せようと張り切り過ぎますからねぇ」
小学生の時からそうなのだが、双虎はこういったイベントを心底嫌う癖に、いざ始まると人一倍張り切って何かをしようとする。それで成功するなら良いのだけど、まともに成功したのは数える程しかない。
故に、私は朝から憂鬱だったのだ。
はっきり言って、今朝の娘は怪しすぎた。
何かを隠してる気配がプンプンしていた。
怪しく思ってそれを尋ねればおかしな事ばかり口走り、最終的は悪口に逃げるという徹底した怪しさぶり。今朝だけで一週間分のタプタプ弄りをしてきたのだ、疑うなと言う方が無理と言うもの。
授業参観へ流れそうな話題を見極め、やたらと話を逸らしてきたのも、もう分かっている。
今朝、ちょっとパンチし過ぎたのは反省している。流石にボディを攻めすぎたとは思う。
けど、今も治まらない胸騒ぎや何となく間違っていない気がするのも確かで、私は言い知れない心配で一杯だった。
光己さんと校門を抜けると他の親御さん達の姿が見えた。軽く自己紹介しながらよその親御さん達に挨拶していると、ほがらかに笑う一人の男性がこちらへと向かってくる。
「おはよう御座います。緑谷さんのお母様。わたし、お茶子の━━ああ、麗日お茶子の父です。いつも娘がお世話になっとります」
差し出された手に、私も手を差し出す。
「ああ、娘から窺ってます。お茶子ちゃんとは仲良くさせて貰ってるようで。あの子の事ですから、きっとご迷惑ばかりお掛けてしているとは思いますが━━━」
「いえいえ、とんでもない。仲良うして貰って、ほんまありがたいんですわ。━━━こっちに知り合いもおらんと、最初のうちは心配しとりましたが、双虎ちゃんと仲良うなってからたまにしてくる電話が明るうなりまして・・・。ほんま感謝しとります。どうか、これからも仲良うしたって下さい」
下げられた頭に、私も同じ様に下げ返した。
「いえ、こちらこそ」
それから他愛ない世間話を三人でしていると、慌ただしい足音が聞こえてきた。
視線を向ければ白い髪に赤いメッシュが入った若い女の人が息を切らせて走ってきている。
その人は私達の側まで走ってきて、そして止まった。
俯いて肩で息をしている。
よっぽど全力で走ったのだろう、酷く苦しそう。
「す、す、すみ、ません。バスが、事故で遅れてしまって・・・も、もしかして、お待たせ、してますか?」
尋ねるような声に光己が口を開いた。
「大丈夫ですよ。まだ何も。私達も迎えの人を待ってる所ですから」
「よ、良かったー。あ、すみません、失礼な事をっ」
「良いです良いです。親御さんって訳では無さそうですけど、どちらの?」
「あ、はい!私、その轟焦凍の姉で、轟冬美と申します」
轟、という名字に保護者達の視線が集まった。
それはそうだ。何せ轟さんの娘と言えば、世間的にも有名なヒーロー、エンデヴァーの娘さんという事になる。
私も少し驚きだ。
ここにいる保護者達は皆が皆、子供達がヒーローになることを応援している。故に、少しでもヒーローについて知ろうとしてるだろう。実際、ここに集まった保護者さん達の会話は大体がヒーローについての話し合いだ。かく言う私も先程そういう話をしていた。
その中にその現役ヒーローを親に持つ娘さんが現れればどうなるか・・・・当然、そうなる。
「わ、わわっ!?」
保護者さん達に囲まれた轟さん。
実際のヒーローについてあれこれと質問攻めにされ始めた。
あわあわする轟さんを眺めながら、私と光己さん、麗日さんは苦笑いを浮かべる。
「ありゃぁ、大変ですわな。気になるんは分かりますけど」
「まぁ、仕方ないですけどね。私も後で聞きにいこ」
「もう、光己さんまで・・・」
暫く質問攻めにされた後、解放された轟さんがヨロヨロしながらこちらに来た。質問しようと腕捲りしそうな光己さんにストップを掛け、どうするのか見守る。
「あ、あのー、皆さんから緑谷さんがこちらにと窺ったのですが・・・」
申し訳なさそうな声で呼ばれた自分の名前。
何故私なのかと疑問に思い━━━唐突に体育祭での障害物競走やバトルトーナメントでの娘と轟くんの様子を思い出した。
ふぐぅ、胃が痛いっ!
「わ、私ですが・・・」
黙ってる訳にはいかないと声をあげると、轟さんが予想に反した笑顔を浮かべて迫ってきた。
「この間は本当にありがとう御座います!!母からもよく言っといて欲しいと!!ああ、会えて良かった!!あ、これ、つまらない物ですがどうぞ!!」
よく分からないまま手提げ袋を渡された。
隙間から中を覗けば、有名ブランドの包み紙が目に入る。以前お歳暮に送ろうとして、値段見て諦めたやつだ・・・・娘よ、何をしたの?!
「い、頂けまけん!こんなお高い物!」
「そう言わずに、ご遠慮なさらず是非貰って下さい。寧ろ、こんなつまらない物しか用意出来ずに申し訳なくて・・・・」
「つまらない物なんて、そんな!十二分過ぎます!!」
「それでしたら是非!ご家族でどうぞ!」
押し付けられた手提げ袋。
雰囲気的に返す事も出来ずに、取り敢えず暫くは持つ事にしておいた。
どうしてなのかと疑問を乗せた視線を向ければ、轟さんは少しだけ寂しい顔になる。
「・・・この間の日曜日、緑谷さんがうちの母のお見舞いに来て下さいまして」
「うちの馬鹿娘がですか?!何かご迷惑を・・・」
「いえいえ、とんでもないです!母はとても喜んでました!!お見舞いの品まで貰ってしまって・・・これはそのほんのお返しです」
お見舞いの品?
あの子にそんなお小遣い残ってたかしら・・・?
まさか、使わない物適当にあげたんじゃないでしょうね・・・。
「今後とも焦凍共々仲良くして頂けるとありがたいと思ってます。どうぞ、よろしくお願いします」
「あ、はい、こちらこそ」
轟さんと握手を交わすと、後ろから変なオーラを感じた。見れば光己さんが目を真ん丸にして轟さんを見ていた。どうしたのかしら。
それから光己さんは轟さんと仲良さそうに肩を組み、少し離れた所に話しながら行ってしまった。
麗日さんも他の親御さんの下へ挨拶しに。
一人になった私はさっきの出来事を思い出した。
いつも馬鹿な事をする娘が褒められる、不思議な経験を。
それは嬉しく思う反面、少しだけ寂しい物だった。
子供の頃からずっと側にいた娘。
馬鹿な事はするけど、その分可愛かったお馬鹿な娘。
そんな娘が知らない誰かに認められているという事実は、娘の世界が少しずつ広がってる証明で喜ばしい事の筈だ。そうやって人は大人になっていく。
なのに、どうしても素直に喜んであげられなかった。
いつまでも子供ではない。
それは分かってはいるつもりだった。
けれど、そんな覚悟なんてまだ出来てなかった。
ヒーロー科に入る。
そう言ったあの娘に少しの安堵と、何故か覚えた寂しさ。
私はきっと心の何処かで、まだ━━━
それから少しして案内の先生らしき人がきた。
黒いマスクをしていて顔がよく分からないけど、ヒーローが先生なのだから変わった格好もおかしくはない。
他の親御さん達も同様の疑問を持ちつつもその案内に従って移動を開始する。
生徒達の訓練を見るために演習へ向かうバスに乗り込み始めた頃、不意に誰かが呟いたのが聞こえた。
「あんなヒーロー、先生にいたか?」
不意にガン、と金属を叩く音が響いた。
驚いて顔をあげると、先生だと思っていたその人物が、優しそうな雰囲気を暗いものへとガラリと変え、リモコンのような物を持って佇んでいた。
「皆サン、今日ハ雄英高校、ヒーロー科ノ授業参観ニオ越シ頂キ誠ニアリガトウゴザイマス。歓迎致シマス保護者ノ皆様。伺イタイコトハ山トアルト思イマスガ、マズハ此方ヲゴ覧下サイ━━━━」
機械的な声を出すその人物がリモコンのボタンをひとつ押す。
すると、バスに備え付けられていたテレビ画面に映像が映し出された。
画像は最初少し荒れたが、徐々にそれがなんなのか見えていく。
「━━━━━っ!!」
誰かが息を飲むのが分かった。
隣に座っていた光己さんも、動揺から肩を揺らす。
そしてそれは、私も。
画面に映ったのは娘の映像。
目を覆いたくなるような、無惨な姿の。
「━━━画面ヲ見テ頂ケレバ分カル通リ・・・エッ!?アレッ!?ン?!アレッ?!ドウシテコンナニ酷イ事ニ!?ココマデヤルカイ!?」
「なにゆうてんねん!おどれらがしたんやろが!!」
向かいに座ってた麗日さんが怒鳴り声をあげた。
でもそれだけ。
その映像を見させられた理由がわかるこそ、誰も動かなかった。
黒マスクは一度咳払いしこちらを見た。
「ス、少シ手違イハアッタガ、ソウイウ事ダ。サァ始メヨウ。楽シイ授業参観ノ始マリダ!!」