私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
おかしいな、予定だと、もう終わってたのにな。
なげぇぇぇ。
人生って儘ならないもんだね(*ゝ`ω・)
てか、前書きかいてるやないか、ぼく。
『演習場Bへ集合』
突然クラス全員に送られてきた相澤先生からのメール。
ある種の違和感を持ちながらも、俺達は演習場へと向かう事になった。
「緑谷さん、まだお帰りになりませんわね・・・」
八百万の言葉通り、そこに緑谷の姿はない。
呼び出されたまま戻って来ていないのだ。
何かあった可能性はあるが、それが何かまでは分からない。何か知ってそうな爆豪や麗日が何も言わない所を見るに、急用の類いである可能性は高いが。
「けろっ。相澤先生が戻って来ない所を見ると、それと関係があるのかも知れないわね」
「さぼってないのでしたら、それで良いのですが」
八百万達の会話が本当なら良いのだが、何となく嫌な予感がした。
「轟くん、歩きながらで構わない聞いてくれ」
不意に飯田が神妙な顔つきで話し掛けてきた。
「どうした、飯田」
「集合場所の変更についてだ。少し妙だと思わないか?相澤先生は確かに無駄を嫌う方だが、最低限必要な事は伝える方だ。しかしメールは場所の変更を伝える一文のみ。急な変更であれば、その理由について述べると思うのだが」
「生徒に言えねぇ理由があるのかも知れねぇぞ」
「それなら尚更だ。通常通り予定を遂行出来ないのであれば、それこそ授業参観自体の見直しすらありえるだろう?」
飯田に言われて改めて思う。
妙だと。
移動する他のクラスメートを見れば、やはり何人かは怪訝そうな顔をしている。
なんのかんのと頭のキレる爆豪を始め、八百万や蛙吹、障子が何処と無く漂う嫌な雰囲気を察しているように見えた。
「一応警戒しとけ。USJの事もある」
「もう一度あれが起こると?授業参観という事を考えれば、以前とは比にならないセキュリティーレベルに設定していると思うが・・・」
「そのセキュリティーも、前回完全に突破されたろ。時間制限はあったみてぇだが、一度出来たならニ度目がねぇとはいえねぇだろ。・・・緑谷の言葉を鵜呑みにするつもりはねぇが、もしあいつが前に言ってた通り、USJ事件で碌に調査が進んでねぇなら、前回と同じかそれに近い方法で侵入する可能性もある」
俺がそう言うと飯田は頷いた。
「ああ、確かにそう言ってたな。クラスの殆どが冗談だと思っているようだったが、嫌に真に迫った言葉だったのを覚えてる。彼女の事だ。何かしら当たりをつけての発言なのだろう。・・・常々思うが、彼女は生き方を改めた方が良くないだろうか」
「それは俺も思う・・・けどな」
俺が今こうしていられるのは━━━そういうアイツのお陰だからな。
言葉には出さなかったが、飯田には分かったようで何も言わず、ただ苦笑いを浮かべていた。
倒壊したビル群風の造りになっている演習場Bに着くと、あまりにガランとしていた。
普通の訓練の時でさえ機材やらなにやらが置かれているというのに、あまりに物が無さすぎたのだ。
特に今日は授業参観という部外者を招きいれて行う特殊な授業。何も無いのは違和感しか感じない。
何か起きている可能性を感じ始めた頃、破裂するような音が周囲に響いた。
視線をそこへ向ければ、黒いマスクをしたガタイの良い男の姿が目に映る。
「雄英高校ヒーロー科、1年A組ノ諸君。御機嫌ヨウ。皆オ待チカネ、授業参観ノ時間ダ」
機械によって変えられた声は無機質で、異様な雰囲気を醸し出していた。
その雰囲気に圧されたのか、何人か後ずさる。
「オット、逃ゲルノハ止シタ方ガ良イ。君達ノソノ選択ニハ大キナ代償ガ伴ウコトニナルゾ?」
黒マスクはそう言うと、右手を持ち上げるような仕草をした。
すると地響きと共に地面が割れ、何かが迫り上がってくる。大きな音と共に地上に現れたのは、黒色の檻とその中へ入れられている保護者らしき人達。目を凝らせば姉の姿も見えた。
「━━━━はっ、お父ちゃん!!」
麗日の言葉を皮切りに全員が捕らえられている人物が自らの為に学校へ来た保護者である事を理解し、ただならぬ緊張感が皆を支配した。
助けに飛び出そうとする者もいたが、冷静に状況を把握してる者達によってその足も止められる。
「分カッテ貰エテ何ヨリダ。流石ハ雄英高校ヒーロー科生徒」
「何が分かって貰えてだ!!てめぇ、相澤先生どうしやがった!!」
男の軽口に切島が怒鳴り声をあげる。
俺達は皆、担任である相澤先生からのメールでここに来ている。状況から考えれば分かる事ではあるが、直情的な切島には理解していても聞かずには入られなかったようだ。
「彼ニハ退場シテ貰ッタ。今頃瓦礫ノ下ダロウサ」
女子達の誰かが圧し殺した悲鳴をあげる。
様子を見れば、信じる者信じない者は半々くらいだ。
最悪の状況を想定した俺はそこまで悲観しなかったが、さっきの言葉だけで折れかけた者もいるだろう。それほどまで、相澤先生への信頼は厚い。USJでの勇姿はまだ皆の記憶に新しいのだから。
そこまで分かってそう言ったのなら、目の前のヴィランはかなり厄介な存在になる。俺達と担任の関係性を調べ、効果的に配した情報を公開した。
それが何を意味するか・・・・。
「全員敵から目ぇ逸らすな!!」
咄嗟にあげた声にどれだけのクラスメートが顔をあげるか分からねぇが、それでも何もしないよりはマシに思えた。
黒マスクのヴィランはそんな俺達を見て、愉快そうに笑い声をあげてくる。
「HAHAHA!ソウコナクテハナ!ヒーローノ卵達!!マズハ自己紹介ト行コウ!!私ハ・・・・スーパーヴィラン!!!昨今ノヒーローヲ真ニ憂ウ者ダ!!」
その言葉に合わせ男の背後からゾロゾロと黒タイツの怪しい奴等が現れた。姉の入っている檻の方にも、同様の奴等が見張りとして姿を見せる。
「我々ハ憂イテイル!昨今ノヒーローノ脆弱サニ!ヒーローニ敗北ハ許サレナイ!何故ナラヒーロートハ、安心ヲ与エル者デナクテハナラナイカラダ!最近ソレヲ理解セズヒーローニナルモノガ多イ。タダノ職業ノ一ツトシテ、何ノ覚悟モナクヒーローヲ名乗ル者バカリ!私ハソンナ世界ニ、憤ッテイルノダ!!」
妙なポーズを決め叫ぶヴィラン。
何処と無くオールマイトがしそうなようなポーズに、オールマイトシンパだったヒーロー殺しの顔がちらつく。
感化された者、という可能性が出てきた。
「━━━━故ニ今日ハ君達ヲテストスル事ニシタ!!全国デモ有数ノヒーローノ卵デアル君達ガ、次代ニ相応シイヒーローニ成レルカ、ソノ、テストヲナ!!」
「━━でしたら!人質など取る必要はありませんわ!!強さを測りたいと仰るのでしたら、お好きなように試せば宜しいでしょう!!私達は逃げも隠れも致しません!!」
「関係のない人質を解放したまえ!!罪が重くなるだけだぞ!!」
八百万と飯田の言葉に、スーパーヴィランを名乗った男が大きな笑い声をあげた。
「イヤ、ソウイウ分ケニハイカナイ!何故ナラ、ソレモテストノ内ダカラネ!!トウ!」
スーパーヴィランが跳躍する。
常人では有り得ない高さに。
そして、ようやく気がついた。
もう一つ、気づかなければならなかった者に。
「━━━━━っで、てめぇが!!」
爆豪の絞り出すような声。
俺と同じ様にそれを見つけたらしい。
スーパーヴィランが跳躍して降り立ったビルの屋上。
そこには今朝まで元気だったクラスメート、俺とお母さんを繋げてくれた緑谷の姿があった。
距離があって分かりずらいが、鉄骨に縛りあげられた緑谷の項垂れたまま動かない様子や服に染み付いた赤い染み、あらぬ方向へと曲がった腕を見れば無事であるようには見えなかった。
理解した直後、俺の中に灯ったそれが急激に加熱していくのが分かった。体育祭の時ともヒーロー殺しの時とも違う、どちらかと言えばかつて親父に向けていたような、あの纏わりつくような淀んだ感情。怒り。
「サァ始メヨウ!!卵達!!ドチラデモ好キナ方ヲ救イタマエ!!私ハ、君達ガ選択シタ一方ノ救出ヲ認メル!!タダシ!選バナカッタ方ノ命ノ保証ハナイゾ!!悩メ卵達!シンキングタイムダ!!」
再びスーパーヴィランが手を持ち上げる仕草をした。
直後、俺達全員を覆うように石の壁が迫り上がる。その光景に熱くなっていた頭が僅かに冷えた。
「んだよ!!これ!!まるで、セメントス先生みてぇじゃねぇかよ!!」
切島の声を聞いている間も石の壁は延び続け、ついにはドーム型の石壁に俺達は閉じ込められた。
閉じ込められてから暫しの静寂が訪れる。
状況を把握出来ないものが、理解するために頭を働かせているのだ。
そして理解した者が声をあげ始めた。
「っべぇよ!!なんだよあれ!!なんであんなの入ってきてんだよ!!セキュリティー仕事しろよ!!」
「うわぁぁぁぁ!!最悪だぜ!!何だってオイラ達ばっかりこういう目に遭うんだよぉーー!!」
上鳴と峰田の嘆きがドームに木霊する。
その直後、闇に包まれていたドームが明るく照らされた。そこにあったのはランプを手にした八百万と、ロボットみたいに腕を動かす飯田の姿が浮かんだ。
「落ち着きたまえ!!二人とも!!取り乱してどうなる!それよりも、人質をどうするか考えるべきだ!!」
「い、いえ!飯田さん、先に救助を呼びませんと!試しましたがスマホの電波が立ちません!上鳴さん個性を使って連絡を!」
「あ、そ、そうだな!待ってろ試してみる!!」
飯田達が動き始めたが、まだクラス全員がという訳ではない。親や緑谷のあの姿を見て、動揺したまま動けない者が多い。
「と、轟くん!」
震える声に振り返れば、今にも泣きそうな麗日がいた。
麗日は緑谷と仲が良かった。そうなるのもおかしくはない。
麗日の姿を見ていると、俺の中の熱がまた下がっていくのを感じた。取り乱す人間をみると逆に冷静になるというが、初めて理解出来た気がする。
「ニコちゃん、平気やろか・・・ホンマに相澤先生がヤられたんやったら、もしかして━━━」
「大丈夫、とは言ってやれねぇ。けどな、確認するまで何も分からねぇだろ。諦めんのは早ぇ」
「そ、そうやね・・・ごめん」
麗日と話してる間、他にも冷静さを保ったままの奴等が取り乱す奴等のフォローし始める姿が見えた。
そんなクラスメート達を見て、不意に一人放っておくと不味い奴がいた事を思い出す。俺の直ぐ後ろで絞るような声をあげたそいつを。
「━━━━━━爆豪っ、落ち着け!!」
慌てて制止する為に声をあげて振り返る━━━が、振り返った先にいた爆豪は一点を見つめたまま身動き一つしていなかった。その横顔は見たことのないほど怒りに満ちていたが、不思議と目だけは冷静さを保ったままに見えた。
「耳たぶ女!!」
爆豪の脅すような声に耳郎の肩が大きく揺れる。
「っんだよ!いきなりデカい声出すなってば!」
「っせぇ!!周囲の音聞け!!敵の正確な数と位置割り出せや!!」
「っ!?わ、分かった、やってみる!」
「他の奴等は黙ってろ!!」
鬼気迫る爆豪の声に全員が固まる。
少しして壁からイヤホンを外した耳郎が敵の数を告げた。敵の数はスーパーヴィランを除いて十二人。スーパーヴィランが降り立ったビル内に三人。ビルを囲むように五人。保護者達の周囲に四人だという。
「ぶっちゃけ、個性で隠れてる奴までは分かんないよ。飛んでる奴とか、特殊な移動法がある奴とかもね。ある程度近ければ、心音だったりとか別の音で何とか把握出来るけど今の状態じゃ無理。それに野外だから余計にね。室内だったら話は違うんだけど」
話を聞いた爆豪は目を瞑った。
「敵の武装、覚えてる奴いるか・・・」
その言葉に皆が皆自分が見たものを告げる。
あげられたそれはどれもまともな武器ではなく、ヴィラン連合に近いチーマー集団である可能性が出てきた。
ただ、そのチーマー集団に雄英のセキュリティーを突破できるかという問題も顔を出す。そして誰もがそこにいきつく。そのチグハグさが、前回の連合と同様なのだと。
爆豪もそれを察したのか、一つ舌打ちを鳴らす。
「・・・チームを分ける。救助2、陽動1、避難路確保1の4チームだ」
突然の爆豪の提案にクラスが静まりかえる。
「救助に透明女、ポニテ、ブドウ、モブ筋肉、尻尾、瀬呂、切島、カエル、眼鏡、常闇。陽動に俺、耳たぶ、麗日、アホ面。避難路確保にタコ野郎、芦戸、無口、紅白野郎。今から動き説明すんぞ、聞けボケ・・・」
「いや、ちょっと待てー!!」
流れるように説明に移ろうとする爆豪に切島が驚愕の顔と共に声をあげた。
「んだ、時間がねぇ黙ってろや」
「いやいや、黙っていられるかよ!なにトントン拍子で話進めてんだ!何も決まってねぇぞ!!勝手に話進めんなって!それに救出前提っての待て!つかよ、下手に動かねぇ方が良いだろ!救助要請優先で動こうぜ!気持ちはわかっけどよ!」
切島の言葉に何人か賛成を示した。
こんな状態なら意見も分かれる。
「けろ、そうね。下手に動かない方が犯人を刺激しないでしょうし」
「そうですわ!ここは救助を待つべきです!」
「っせぇ、ボケ」
反対の声に暴言を吐いた爆豪は続けた。
「あの糞ヴィランの言葉が何処まで本当なのかは別にして、あの糞ヴィラン達に時間がねぇのは事実だ。USJの時、てめぇらはわかったろ。雄英のセキュリティーは糞じゃねぇ。止められたとしても、別のセキュリティーが動く。そうなりゃ、USJより校舎に近ぇここなら直ぐに救助がくるだろ」
「だったらよ!!」
「それを理解した上で、今回の奴等が入ってきてる可能性が高ぇっていってんだ。ボケが」
それから爆豪が話した見解は、概ね俺が抱いていた物と近い物だった。
USJ同様警報を鳴らす事なく、大勢のヴィランを侵入させ、電波の妨害まで行っている。
目的こそ違うが、手口に似たような点が多い。
「何も知らねぇやつが、ここまで上手く入れるかよ。おまけに、ご丁寧に設備の使い方まで把握してやがる。あの檻は持ち込まれたもんじゃねぇ。どう考えても施設の設備だろが」
「まじかよ・・・」
「テストなんて、ほざいてやがったな。あの糞ヴィランはよ。ならよ、その糞テスト、選択以外にも見てる部分があってもおかしくねぇだろ」
爆豪の言葉に飯田が神妙に頷く。
「それが、時間か・・・・確かにありうるな。どれだけ迅速に行動に移せるかもヒーローとして必要な資質。ある程度時間が過ぎればペナルティとし━━━━ん、待て、そうなると、閉じ込めたのは本当に考えさせる為なのか?!馬鹿な!」
「ふざけた事にな。耳たぶ女、動きはねぇか」
爆豪の声に耳郎は首を横に振った。
「何考えてるか知らねぇが、そっちがその気なら乗ってやるだけだ。死ぬほど裏かいてな。━━━糞親も、馬鹿女も助ける。糞ヴィランは全員ぶちのめす。時間がねぇ、やる気のねぇ奴は失せろ。チーム組み直す」
いつになく冷静な爆豪の言葉に、誰ともなく頷いた。
その目に光を灯して。
「━━━皆。キラメキ隠せない、僕の事忘れていないか?凄くナチュラルに、忘れてないかい?」
「っせぇ、すみで黙って死んでろ。カス」
「すみでっ!!?」
「お前なら、滅茶苦茶言って突っ込むと思ったんだけどな」
作戦の概要が説明された後、一人準備する爆豪に俺は声を掛けた。
陽動チームの爆豪はここに残る事になるが、避難路確保チームの俺は直にここを離れる。最悪を想定してるつもりはないが、作戦が始まる前に少し話しておきたい事があった。
話し掛けた俺に、爆豪は僅かに視線を向け舌打ちした。
「・・・っせ、ボケカス。喚いて何か変わんなら、そうしてるわ」
「そりゃ、そうだけどな」
それでも爆豪はそうすると思ってた。
緑谷が爆豪にとって、そういうやつだと思っていたから。
俺の視線に何かを思う事があったのか、爆豪は渋い顔で続けた。
「・・・分かってんだよ。俺がガキみてぇな事やってんのは。てめぇがほざく理由も」
「・・・爆豪?」
「けどな、それで引いてたら、馬鹿女を守れねぇだろうが」
守る為ならそうなんだろう。
きっと間違っていない。
けど、俺はお前達の関係をそう思わない。
「あいつは、お前の後ろじゃなくて、隣が良いんだろ」
「・・・・あぁ?」
「俺はずっと、そのつもりでお前らの事、見てきたつもりだったんだけどな」
だから、それを羨ましく思ったし、俺もそうなりたいと思って緑谷と接してきた。
体育祭の頃から・・・いや、その前からずっと。
他の奴等がどう見てるのか分からないけど、少なくとも俺は爆豪達をそう見てきた。
「体育祭、色々あったけどな。俺に進む道を気づかせてくれたのは、“お前ら”だと思ってる」
「何言ってやがる、俺はなんもしてねぇだろ」
「騎馬戦。お前にぶっ飛ばされた事、俺は忘れてねぇぞ」
それだけは伝えておきたかった。
これから何があるか分からねぇ以上、悔いだけは残したくなかった。
ただ一言。
ずっと言えなかった、言いそびれてた、この言葉を。
「ありがとな、爆豪」
目を丸くして驚く爆豪を背に俺は俺のやるべき事をやるために歩き出した。
誰も彼も救って、またいつもの日常に帰るために。