私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
「「「「「「個性把握テストぉ!?」」」」」」
コントのように皆の声が重なる。
え、私?私は普通にスマホってたから混ざってないよ。やるわけないじゃん。私芸人じゃないんだよ?あ、ちょ、先生待って、取り上げないでっ、十連ガチャが熱いんだって、今キャンペーン中で熱いんだって。 あ、この野郎、アプリ消しやがった!?ID控えてないんだぞぉぉぉぉ!!
アプリを消された私が悲しみに暮れていると、縁起悪子が「入学式!?ガイダンスは!?」と声をあげているのが聞こえた。
私は悲しみから立ち直り、縁起悪子に向き直る。
「ヒーローにな━━━━」
「馬鹿っ、縁起悪子の馬鹿ぁぁぁ!折角包帯先生がど忘れしてるんだから、教えないでぇ!!出たい?!校長の馬鹿みたいな長い話とか、よく分からない来賓のおっさんの話聞きたいの!?」
「そ、そう言われると、あんまし行きたくないかも」
パカパカーンと二つの良い音がなった。
痛みと共に私と縁起悪子の知能指数が3は減った。
包帯先生は気を取り直して「ヒーローになるならそんな悠長な時間はない」と改めて言い直した。
どんだけそれ言いたかったんだ、この人。
「雄英は自由な校風が売り文句━━━」
自由。
その言葉に私は真っ直ぐ手をあげた。
心底嫌そうな包帯先生の視線が私に突き刺さる。
「なんだ、緑谷・・・」
「自由とは、何処までも許されるのでしょうか!?」
「例えを言ってみろ」
「登校しなくても卒業させてくれますか!?」
「最低限学校に来ることは前提にしろ」
私は絶望した。
自由って言ったのに、登校する事を前提としなければいけないなんて、と。
だってこんなの詐欺だ。
自由って、自由の事なのに。
こんなの全然自由じゃない。
「先生の嘘つき」
「お前は社会を舐めすぎだ」
それから包帯先生の説明があれこれあったり、かっちゃんが個性を使ってボールを投げたりしてた。
なんかトータル成績最下位は除籍処分にするらしい。
へぇ。そうなんだ、へぇ。
ま、私普通に身体能力高いし、負ける気しないから関係ないけどね。
てか、これで除籍処分にされたらお母様は許してくれるだろうか・・・・あ、や、駄目だな。殴られる。ちゃんとやろ。
そんな訳で挑んだ個性把握テスト。
普通に挑んだ私は普通に良い成績で終わった。
真ん中よりは上くらいかなと思っていたけど、かっちゃんより一個下の四位の成績だった。
あと除籍処分はなかった、合理的虚偽だった。先生の嘘つきぃ。
私に勝ったかっちゃんは端から見てもご機嫌で、今まで見たことがないくらい嬉しそうだった。普通にやったら私に勝った事がないから、相当嬉しかったのだと思う。
不覚にもそのひっそりと喜ぶ姿が、ちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
ふふふ。仕方ない、今日は私が奢ってやろう。皆大好きうめぃ棒を。一本だけな。
それにしてもテストが終わって包帯先生が私の事をガン見してきたのは怖かったなぁ。あれは完全にエロの目だった。私が可愛いのは分かるけど、生徒に恋慕を抱くのは勘弁してもらいたいものだ。
まぁ、ファンクラブの開設は許す。
ふははは、上納金を捧げたまえぇ。
「なに気持ち悪ぃ薄ら笑い浮かべてんだ糞ビッチ!着替えて帰んぞおい!」
おっと。上納金で左うちわする妄想に浸ってたら、かっちゃんからラブコールをされちった。
まぁね。面倒な事は終わったし、さっさと帰るが吉だもんね。
でもさ、お前糞ビッチはないわ。
わたしゃプンスコだよ、プンスコ。
処女だかんね、私。清楚の塊、清浄の神であらせられる処女神だかんね、私。
そんな私を糞ビッチとは、この罪は重いぞ。
━━━うん、決めた。うめぃ棒は半分しかくれてやらない。食べかけで涎びちゃびちゃのやつをその悪口製造機にぶちこんでくれるわ。
「分かったよ、糞素人童貞!ちょっち待って!」
「てめぇ!?誰が素人童貞だこらぁ!?てめぇこら、糞ビッチ!!」
「ーん、だぁかぁらぁ、私は処女ってんだろボケぇ!!ビッチじゃねんだよボケぇ!見てみるか、見せつけてやろうか、あぁん?!燦然と輝く処女膜をよぉ!!」
「っば、馬鹿が!!見てたまるかぁごらぁ!!」
「うわぁ、凄い話しとるぅ・・・」
「な、なんと破廉恥なっ、ぐっ」
「すげぇー女だな、あいつ」
「アオハルだねー!」
「葉隠さん、それで全部説明出来ると思ったら大間違いですわ」
「いや、でもあの生き方はパンクだわ」
「妬ましいぃぃ」
(((峰田こぇぇ)))
◇◇◇
「相澤君のウソつき!」
校舎へと帰ろうとしていると、オールマイトにそう声を掛けられた。理由は分かる。俺の受け持つA組には、オールマイトが推薦した女生徒『緑谷双虎』が在籍している。
去年、俺がやった事を知って心配して見にきたのだろう。
どうしたのかと尋ねれば案の定、去年、俺が受け持ったクラスの話になった。全員を除籍処分にしたあの時の話だ。
「実はさ、心配で教室から覗いていたんだ。あの時君は彼女に退学を告げたね。あそこに微塵も嘘はなかった筈だ。君はあの時、彼女をゼロだと思ったんだろ?見込みゼロだと判断すれば迷わず切り捨てる、そんな男が前言撤回っ!それってさ!」
オールマイトの人指しが俺を差した。
「君もあの子に、可能性を感じたからだろう」
成績順から見れば、オールマイトのいうあの子は優秀だと言えた。今回のテストではほぼ個性なしであの成績だ。未来はあるだろう。
だが、ひとつだけ、俺には気にくわない所がある。
「・・・・・・随分と肩入れしてるんですね。流石に推薦しただけの事はある。でも先生としてどうなんですか?」
「うっ!?」
「確かに優秀でした。身体能力だけなら、クラスでもトップでしょう。個性を鍛えてあるなら尚更。ですが━━」
言葉の端々で感じる、ヒーローへの嫌悪感と不信感。彼女はオールマイトが望むであろうそれになる事を、欠片も望んでいない。
「━━━━俺は彼女を無理にヒーローにするつもりはありませんよ。彼女が望むのであれば、今すぐにでも普通科に落とします」
望まないでヒーローに成ること程危険な事はない。
覚悟がなければ、ヒーローなど務まる訳がない。
本来なら、その時点で落とすべきなのだろうが・・・どうもその気にもなれない。
魅せられた訳じゃない。
だが、そこまでヒーローに対して反発的な意思を持っている彼女がここに来た理由が知りたかった。
だからまだ━━━━。
「まだ、彼女自身思うことがあるのでしょう。俺はそれが定まるまで見守るつもりです。」
━━━なんのために、ここに留まるのか。その答えを聞くまでは、ゼロではないと思う事にした。