私のヒーローアカデミア~わんほぉー、わんほぉーなんだってけかをお断りし続ける私の楽しい英雄物語~ 作:はくびしん
正直、間に合わないと、おれは、思ったけども!!
今回、死ぬほどごちゃごちゃしてるから、先に、謝っておく。ごめん(*ゝ`ω・)!!
酷い物を見た。
それに尽きる事が私の目の前で起きた。
私は私から不自然なまでに目を合わさないガチムチの背中を見た。
そして言ってあげる。
「すーぱーびぃらんーすまーっしゅ!」
ガチムチの肩が跳ねた。
「す~ぱ~びぃらん~すま~~~っしゅ!」
「分カッタ!分カッタカラ!!止メテ!安直ナ技名デ悪カッタヨ!!ゴメンネ!」
私の名演技を台無しにする失態。
本当に一歩間違えたら、即終了レベルの失態だ。
謝れば済むという問題ではない。
双虎!今回という今回は、激おこプンプンなんちゃらかんちゃらなんだらぁー!
「私がここまでお膳立てしたのに、救出する前に終了とかありえます?メイクして、ギミック取り付けて、友達を騙すような真似をして、お手紙まで書いて頑張ったのに・・・・結果、ガチムチのミスでバレ終了とか、ありえますぅ?口調も変えないし、ポーズだって普段のガチムチだし━━━だから、小学生でも気づくって言ってんじゃないですか?聞いてませんでした?それになんですか?ちょいちょい掛ける優しさ溢れる言葉。悪党なら悪党らしく、『人質の女の腹かっさばかれて、内臓バラ売りされたくなかったら、大人しく言うことを聞くだがやー!』くらい言えないんですか?馬鹿なのん?ねぇ、禿げるのん?ハゲ2なのん?」
「怖イ事サラット言ウネ?!ソシテ、イツニナク辛辣!!オジサン、ガチデ泣イチャイソウダヨ!」
「泣けば許されると、本気で思ってますぅ?ハゲて下さい」
「君ハ弱イ者ニトコトン強イナ!オジサン君ノ将来ガ割ト心配ダヨ!」
まったく。
「・・・それにしても、梅雨ちゃん達吹き飛ばして、どうするんですか?助けさせて終わりだったのに」
「ウーン。マァネ。シカシネ、コレモ訓練ノ一環ダカラネ。簡単ニクリアサレテモ教訓ニナラナイダロウ?」
一理はあるかも知れないけど、あれを見て再度アタックを仕掛ける人はいないと思うんだけど・・・。
そこら辺は考えてんのかな?
「ソレシニテモ、イヤァー優秀優秀。チャント避難シテルネ!日頃ノ教育ノ賜物ダネ!HAHAHA!」
考えてないな、多分。
ガチムチはヒーローとしては優秀なのかも知れないけど、教師としては本当に駄目だな。入学前からの付き合いだけど、ミジンコ二匹分くらいしか成長してない。
大人として大丈夫なのかな?
そもそも、この演習色んな所に不備がある。
挙げていったらキリがないから言わないけど・・・いや、本当に挙げてったらキリがないんだってば。幾らあんのか分からないもん。
ガチムチの地が出ちゃってる糞演技もさることながら、手下ヴィラン役のへっぽこさ加減も無理のあるシチュエーションも、もう何もかもが学園祭のお遊戯レベルを出てない。それでも全体的になんか上手くいってるのは、絶対に私のお陰だと思う。
どれだけ幼稚でどれだけ適合性がなくても、暴力を振るわれた人質がいるという事実は、見ている人に否応なく緊張感を与える。主犯が言葉だけ割とまともな事を言っていれば、そのチグハグさが余計に見ている人を不安にさせる。
事実、そういった歪み加減を見て、皆このふざけたスーパーヴィランを犯罪者だと思って真面目に取り組んでいるのだ。
しかしなぁ・・・。
「かっちゃんくらいは見抜くと思ったのにな・・・」
「君ガココニイナケレバ、ソウダッタカモ知レナイネ」
ふと呟いた言葉に、ガチムチが言葉を返してきた。
「君ハ優秀ダヨ。ケレドネ優秀ダカラコソ、見テイナイ物ガアル」
「はぁ・・・そうですか?」
「ソウダトモ。私ガ君ニ・・・教エラレタヨウニネ」
それだけ言うとガチムチの視線はドームの方を向けられた。ガチムチの視線を追うとこちらに真っ直ぐ向かってくるかっちゃんの姿が見える。
「分カッテイルト思ウガ、君ハ人質。彼ヘノ助力ハ禁止ダゾ!」
「━━━しないよ。当たり前でしょ」
分かってるっての、まったく。
「・・・ソウカ、ソレナラ良イ。ナラバ、ヨク見テイルトイイ。誰カノ為ニ戦ウ、ヒーロー足ラントスル者ノ姿ヲ!!」
そう言って構えたガチムチに爆炎が空気を焼きながら迫る。普通の人からすれば脅威だが、ガチムチにはそよ風と変わらないだろう。
現に焦りの色は欠片もない。
ガチムチは迫る爆炎に向け、拳の一振りを放つ。
放たれた豪拳は空気を巻き込み爆風を生み出す。
生み出された爆風は、目前に迫った爆炎を容易く霧散させた。
爆炎が晴れた先には鬼の形相をしていたかっちゃんの姿が見えた。いつもより、ずっと鬼気迫る顔をした、かっちゃんの姿が━━━━。
「クソヴィラン!!面ァ、貸せやぁぁぁ!!」
「来イヨ、ヒーロー!!」
◇◇◇
爆豪少年が現れて、僅かだが緑谷少女の気配が変わった。
良く見てなければ気づけない程、僅かな違いでしかないが確かに変わった。
彼にとって彼女が特別であるように、また彼女にとって彼は特別だという事なのだろう。
その関わり方がどうであれ、表情を変えさせるだけの力がある。
現に爆豪少年を見る彼女の目は、それを物語っている。
やはり、彼だったか。
「ごらぁぁぁぁ!!余所見なんざ、してんじゃねぇぞ!!」
繰り返される激しい爆撃の連打。
入試をヴィラン撃破ポイントだけで突破しただけの事はある。流石に優秀か。
しかし、青い。
「若イ!!嫌イデハ、ナイガネ!!」
軽く払えば爆豪少年が体勢を崩す。
そこに蹴りを放てば爆豪少年の体がビルの外へと吹き飛んだ。
その爆豪少年を見て、緑谷少女の顔が心配そうに歪む。
普段ならそう気にならない筈だ。笑顔すら見せるだろう。軽口も叩く筈だ。
でもそれは、彼を信用しているからじゃない。
その彼の隣にいるからだろう?
君なら助けるだろう。
迷う事もなく飛び込むだろう。
彼と共に戦う事を選ぶだろう。
それが君には出来る。
いや、それを出来るようにしたのだろう。
努力してきたは何の為だ。
ただひたすらに前を向いてきたのは何の為だ。
恐れを乗り越え、それでも歩むことを止めなかったのは何の為だ。
誰かを救うため?
夢があるから?
違う。
君は恐れたんだ。
ただ見守る事を。
「っざ、けんなぁぁ!!」
戻ってきた爆豪少年に拳を叩きつける。
勿論手加減はしたが、自らの爆破による加速のせいで倍以上の威力になっている事だろう。
拳を受けた爆豪少年の顔色を見れば分かる。
苦しむ爆豪少年を投げ飛ばし、そっと緑谷少女を見る。
そこには想像した通りの緑谷少女がいた。
緑谷少女、君は、本当の意味で誰も信用していない。
君は恐怖を乗り越える為に、他人ではなく己にそれを求めた。強くあればと。
勿論それは間違ってはいない。
事実だ。
けれどそれは、私が歩んできた道そのものなんだよ。
君が恐れた、私の道なのだ。
私は自らが間違ってるとは思わない。
けどな、君は私の道を追うな。
君には君の道があるのだろう。
この道はあまりに孤独だ。
君は一人になるな。
君が私のそれに気づいたように。
君ももっと周りを見る事を学びなさい。
君が無理をする度、いま君が感じているものを周りに与えているんだと気づきなさい。
爆豪少年がどうして君にここまで固執するのか、理解しなさい。
全部君が、私に教えてくれた事なんだぞ。
「私ガ君ニ送ル、レッスンソノ1ダ!!」
本当に誰かを思うのであれば、君はもっと自分を大切にする事を覚えなさい。
「スーパーヴィランーーー、す、す、スカッシュ!!」
拳が起こした爆風に揉まれ、悔しそうに顔を歪める爆豪少年に。
それを歯痒そうな表情で、掌を握る緑谷少女に。
私はその少年少女の姿に、心から願う。
君達の道の先に、私がいない事を━━━。
◇◇◇
体が重い。
息が苦しい。
心臓が張り裂けそうに痛い。
でも足は止まらなかった。
私は馬鹿だと思う。
きっと正しいのは、光己さんや麗日さん達の方。
私がいたら邪魔になることくらい、言われなくても分かってる。
きっとこういうのが、テレビとかで後ろ指さされる、どうしようもない奴の行動なんだと、そう分かってる。
でも、私の足は止まらなかった。
止められなかった。
だって私には分からないから。
光己さん達みたいに、大丈夫だって言える気持ちが。
初めてあの子が笑った日を覚えてる。
初めてあの子が喋った日を覚えてる。
初めてあの子が立った日を、歩いた日を覚えてる。
叱った日も、イタズラした日も、我が儘言った日も、プレゼントをくれた日も。
全部ちゃんと覚えてる。
私の初めては全部あの子がくれたから。
小さい頃のあの子はずっと大人しくて、あまり笑わない子だった。一人遊びが好きで、部屋の中でも外でもいつも一人きり。幼稚園に行ってもそれは変わらなくて、迎えに行くといつも角で一人遊ぶ姿をみた。
不安だった。
聞いてた話と違くて、私は沢山悩んで考えて色んな事を試した。少しでもあの子が、他の子と同じように出来るようにって。
けれど、あの子は全然変わらなくて、他の子と違うあの子を見て、何度も夫に泣きついていた。
いま思えば怖かったのかも知れない。
普通の子と違うあの子が。
いまならそれがあの子の個性だと胸を張って言えるけれど、あの頃の私にはそれが酷く恐ろしく見えて、どうしたらいいか分からなかった。
育児に悩んでいたそんな時、あの子を公園に連れ出した事があった。どうしてそうしたのか分からない。他の子の真似でもさせようと思ったのか、それとも私自身が部屋で一人で遊ぶあの子を見ていられなかったのか。
今はもう思い出せない。
けれど、その日だった。
何もかも変わったのは。
「や、やめ、ろっ!こ、の!ふばっ!!?」
少し目を離した隙にいなくなった娘を探していた私の目に入ったのは、一人の少年を馬乗りで殴り付ける娘の姿だった。
びっくりした。本当に。
心臓が口から飛び出るという気持ちを、私は初めて知った。
急いで少年から娘を引き剥がし、私を不思議そうに見上げる娘を叱った。本当なら少年に謝るのが先だったのだけど、その時は気が動転していて兎に角にも、娘を叱らなくてはと思っていたのだ。
叱られた事のなかった娘は私の怒鳴り声に一瞬きょとんとしたけど、直ぐに意味が分かったのか初めて大声で泣きだした。赤ん坊の頃しか聞かなかった、本当に大きな泣き声で。
そして気がついた。
大粒の涙を浮かべながら辿々しい言葉で謝ってくる娘の姿を見て、やっと。
何をそんなに恐れていたのかと。
この子の何がそんなに違うのだと。
そっと抱き締めたあの子の体温がいつもよりずっと温かくて、私はその温もりを感じながら泣きわめくあの子と一緒に沢山泣いた。涙がかれるまで、沢山。
それからはあっという間だった気がする。
殴り飛ばしてた子と何故か仲良くなったあの子は、その子を引き連れてあっちへこっちへ行くようになった。少し前まで大人しかった事が嘘みたいに、目を離すととんでもない事ばかりするようにも。
その度に叱るけど反省するのは叱った後少しだけ。全然へこたれなくて、結局また何処かで大暴れ。
だからよく苦労してる?なんて聞かれるけど、そんな事当たり前。当然でしょう。そもそも苦労しない親なんて、いる訳ないじゃない。
皆色んな事を悩んで、一生懸命育てるの。苦労するのなんて決まってる。それが子育て。
でもね、今の私なら胸を張って言える。
そんな事ないって。
だってね、それよりもずっと沢山のモノ貰ってるから。
形になんか出来ないし、誰かに分かって貰えるようなモノでもないけど━━━確かに両手なんかじゃ抱えきれないほど沢山のモノを貰っているの。
だから━━━━━
息を切らして階段をあがった先に、黒いマスクのヴィランの姿が見えた。
直ぐ隣にあの子の姿も。
そしてあの子を助けようとする、ボロボロの勝己くんの姿も。
良かったと思う。
正直私一人じゃ何も出来なかったと思うから。
あの子になら、任せて大丈夫だと思えるから。
私を見つけ驚く勝己くんに、目で合図を送った。
簡単な合図。
ただ娘の方を見つめただけの。
けれど、勝己くんにはその意味が分かったのか、一瞬悩んだみたいに見えたけど、直ぐに真剣な目で見返してきてくれた。
恐らく私に出来る最後の親としての仕事。
拳にありったけの力を込める。
悔いを残さないように。
「━━━っ!?アレ、何故ココニ!?」
ヴィランが私に気づいた。
けれどもう遅い。
もう手が届く。
引き寄せる個性でヴィランを引き寄せながら、拳を振り抜いた。何もかも込めた、渾身の力で。
あまり手応えはなかったけど、当たり所が良かったのかヴィランの体が前屈みになる。どうしてだか、煙も昇ってる。
「母様!?」
娘の声が聞こえた。
少しだけ振り返って見れば、顔は酷かったけど元気そうに見える。流石にあっちこっちで無茶するだけあって頑丈。わが娘ながら呆れる。
何かを伝えたかったけど、上手く言葉が見つからない。
言いたい事は本当に山とあるけど。
けれど、そうだ。
一つだけ伝えるなら。
「貴女の母親で本当に良かった。ありがとうね双虎」
ヴィランの足を持って、全体重を掛けながら思い切り力を込めて押し込む。体勢が崩れていた事もあって、私でもその巨体を押すことが出来た。
「アッ、チョット待ッテ、緑谷少女ノオ母サン!!今、本当ニ不味イカラ!?時間ガっ!!」
「貴方に!!お母さん呼ばわりされる筋合いはないわよ!!うちの娘にちょっかい掛けた事!!地獄で後悔させてやるからね!!」
「本気ダネ!!コレ!!ア、不味ッ━━━!!?」
ヴィランの姿が消え、直ぐに私の体も浮遊感に包まれた。
遠くなる空を見た私は、目を瞑った。
ただあの子の事を━━━━━━。
「母様!!!」
その声に思わず瞑っていた目を開けた。
そこには居る筈のない娘の姿。
「あん、た!!なんで!」
「大丈夫!!大丈夫だから!!」
そう言って笑顔を浮かべ手を伸ばす娘。
引き付けられるように、体が娘の下へと浮く。
私の体を抱き締めるように抱えた娘は、もう一度呟くように言った。
「━━━━大丈夫だから」
僅かに震える体、声に。
安心感はない。
けれど━━━━。
『大丈夫、怖くないわよ。こんなのただのテレビじゃない。ヒーロー特集が終わったら直ぐにあなたの大好きなの始まるわよ?ほら、お天気かいじゅうみないの?がおー』
『こわいもん。や。ちがうのにして』
『それで前に見逃して泣いたじゃないの。ほら、お母さんと一緒なら大丈夫。ね?おいで』
『まこと?』
『ふふ、なにそれ?今度は何処で覚えてきたの?まことまこと。ほらおいで。大丈夫』
『だいじょーぶくないぃ』
『大丈夫。大丈夫だから━━━』
そっか。
もうそれは、貴女が言う言葉なのね。
「うん、分かったわ━━━」
私は娘の体を抱き締めて、そっと目を瞑った。
大きくなった娘の体の、確かな温もりを感じながら。