生と覚醒のグリムガル 作:umaru
頭の中を駆ける文章。この世界が「灰と幻想のグリムガル」だと言う事を表していた。
「もしかして、誰かいる・・・?」
「あ、うん」
「・・・います」
「ああ」
「・・・やっぱり」
「何人いるんだ?」
ーーーーーーー
次々と放たれる言葉が脳内の情報と一致する、なら・・・
「俺は・・・誰だ・・・?」
誰に聞かせるでもない、自分に対する疑問。口から出てしまったらしい。
その言葉は暗闇の中、人の間に響き渡る・・・
「・・・おいおい、オレ名前しか覚えてねぇんだけど」
「俺も」
「俺もだ」
同意の声が上がる。どうやら記憶喪失という奴らしい。
いや、本当にそうか?
俺は知っている、ここは物語の世界だ。モンスターが跋扈し、自分達がそれを倒す義勇兵になる。それは分かる、だが【他の記憶は無い】
物語の知識だけは鮮明に思い出せるのに、自分が何をしていたのか思い出せない。そこは他の人と同じということか。
自分は異物だ、「灰と幻想のグリムガル」に、自分の存在はない。いるはずの無い13人目だ。どうすればいいのだろう。自分は居てはならないのか?まず何故自分だけに知識がある。おかしい、異物、存在しないはずの自分ーーーー
「じっとしてたってしょうがない」
意識が引き戻される。
どうやら、先導する者が現れたようだ。名前はレイジ、この塔を出た後も自分の才覚でのし上がっていく。物語と同じルートを辿っている、ひとまずはここを出るのが先か。自分がなぜこの世界に居るのかは分からないが、ここで考えたとしても何か事態が好転する訳でもなし。
レイジの後に金魚の糞のように続く人影、みな不安なのだろう、押し黙っている。そういう自分も、他の者とは違う方向にだがが、やはり不安を抱えている。静かになるとどうしても考えてしまう。今俺の頭に流れている物語、消えてしまう部分を除き確かに覚えている部分は、小説でいう1巻の半分程度。まだ、続きがあった気がする。思い出そうとすると薄れて消えてしまうが。何か、悲しい事があったようなーーー
ガシャァァァン!
また、考え込んでしまったらしい。2つ目の鉄格子に鍵が掛かっていて、人を呼んでいるシーンだ。鎧の・・・男?が鍵を開け、脱出を促す。
「出ろ」
この男は、何故か中に残りそのまま出てこなかった。生き物なのだろうか?分からない。とりあえずは、ここを出るしかないだろう
夕暮れ時、あかね色に染まる空、そして、赤い月。
「ああ・・・本当に、来たのか・・・」
そう呟く俺の心に走った感情は、不安でもなく、希望でもなく、薄らと、今にも消えてしまいそうな、喜びだった。