騒々しいアイドル達とプロデューサー お前ら皆落ち着け。 作:べれしーと
今は平日の朝で、会社にいる。そして俺は誰かというと、アイドルのプロデューサー。最近、『問題児係』のルビがプロデューサーなんじゃないかって思いだしている24歳の男である。そんな冴えない男の、こうなった要因を簡潔に説明する。
元々興味のあった芸能業界に入ったら、無法地帯でした。
なんだよね。
いやね、俺はこう、なんていうの?
仕事に追われて忙しいながらも、そして紆余曲折ありながらも、努力をして一所懸命なアイドル達の補佐を行い、彼女らをキラキラとした星の様な存在にする、という感じのものを想像していたんだ。
でも実際は子守りね。なんだよここ。いや、皆頑張ってるんだよ?それは知ってるからいいんだけどさ。こいつら、自由過ぎじゃね?そろそろ死ぬよ、俺?
死因『H.A.の全力タックル』とか実現しちゃうよ?時事ネタとかじゃなくて本当に。関係無いけど監督よりも理事長の方が怖かったです。
×
俺は事務仕事に一旦けりをつけ、彼女を呼んだ。
「おーい、文香ー。こっち来てくれー。」
暫し後、本を読んでいた文香はその本を閉じ、それをしまってからこちらに来た。二人で隣の部屋に移動して、ソファに腰掛ける。扉側に文香、窓側に俺の位置だ。……文香から紅茶の香りがする。少し前まで雪乃と一緒にいたねこれは(名推理)
「急に呼び出して悪いな、文香。すまない。」
そう言って俺は軽く頭を下げた。
「いえ、構いませんよ。気にしないで下さい。」
「ありがとう。そう言ってもらうと助かるよ。」
ウチの事務所のアイドルって野蛮だからね。謝っておかないと後で干されちゃう可能性あるの。
「……あの、すみません。ちょっと一つ伺ってもいいですか?」
「ん?ああいいぞ。何だ?」
「端で蹲っている志希さんは一体何をしているのでしょうか……?」
窓側の角で死んだ顔をした志希が蹲っていた。
「ああ、気にしないで。不名誉を被ったからね。受けるべき罰だよ。」
幸いにも文香は志希のターゲットになっていなかったらしい。いや、あんなん文香が見たら卒倒すんぞ……見てなくて良かった。でもそんな文香もちょっと見てみたかったかも。はい。嘘です。
「よく分かりませんが、理解は出来ました。」
物分かりがよくて助かる。本当に文香は良い子だなあ。
…………一つの点を除いたら、だが。
「そういえば、理解と云えば、理を解する、という風に解釈ができる気がするんです。ですから、『わかる』ということとは少し違うと私は考えています。理を解するとは数学的に云うと未知の公式化、と、言えませんか?不明な事柄を、他者の扶助により、明確な事柄にする。これこそが理解であり、『わかる』とは、不明な事柄でなくとも共感や同調のために使われ、自己的に事柄を消化するもの、だと私は思っています。したがって、理解と『わかる』はノットイコールである。……あ、そういえば、ありすちゃんがですね、いち」
「落ち着け文香。止まれ。つーか、黙れ。おけ?」
「そういえば、何故、『黙』という漢字は『里』と『犬』と『れっか』で出来ているのでしょうかね。黙る事と里に相関関係なんてないと思うのですが……閑散とした感じを静寂ととったのでしょうか。なら、酷いですね。別に里は全てに於いて限界的ではないのに。犬もそうです。というよりも犬に至っては静けさの真逆をいってませんか…?咆哮なんて耳障りでしかないのに何故…いえ、犬は好きなんですけどね。可愛らしくて、人懐っこい。あ、猫も好きです。ありすちゃんにそっくりです。ふふ。……あ、そういえば、ありすちゃんがですね、いち」
「聞こえてますかー。おーい。耳ありますかー。」
「……あ、忘れてました。今日発売される本何時買いにいきましょうか……明日いこうかな……でもお仕事で行けないし……ありすちゃんと一緒のお仕事……ふ、ふふ、一緒……良い、響きです。叶うのならば、ずっと一緒がいいです……一日中、一月中、一年中……見ていたい、聴いていたい、嗅いでいたい、触れていたい、味わいたい……愛らしいその姿を、可愛らしいその声を、甘ったるいその香りを、柔和で滑らかなその身体を、ぷるりとしたその小さな唇を……私だけ、私だけが……どうすれば私だけになるんでしょうか。うーん……あ、そういえば、ありすちゃんがですね、いち」
「鷺沢の持ってる芥川の小説全部捨てるぞ。」
「ごめんなさい。あの知性的で古典的で緻密な文章は宝物なんです。捨てないで。」
これだよ。鷺沢さんこわい。てかありすの事好きすぎじゃね。ヤンデレだよ。もうこれヤンデレだよ。
×
文香ちゃん癖が強すぎません?(白目)
「いいか文香。夜の仕事についての話だ。」
「その言い方はそこはかとなくエロティックな感じがします。」
「アイドルがそんな事言わない!」
「すみません。」
「テレビ出演だが分かってるな?」
「……りか」
「理解と分かるの違いはもうええねん。」
「はい。嘘です。」
「…………生放送だし、緊張もする。でもあんまり考え過ぎんなよ。自然体でいい。ありのままの姿を見せ」
「……」ペラッ
「本を読むな。それ捨てるぞ。」
「ごめんなさい。耽美で倒錯的なこの文章は宝物なんです。捨てないで。」
「エロ本じゃねーか!なに読んでんだよ!」
「小説に年齢制限はありませんよ?」
「あ、そうなの?」
「はい。勉強になりましたね。」ペラッ
「……いや、文香が今読んでるそれ漫画じゃね。」
「……ち、ちが」
「燃やすぞ。」
「……ごめんなさい。どうぞ。」
「ったく。女の子がこんなの読むんじゃない。」
「もしかして家でそれを使って自慰行為に耽るんですか?愉しそうですね?しゅっしゅっ、って?」フフッ
「鷺沢の持ってる太宰の小説全部捨てるぞ。」
「ごめんなさい。あの崩壊美と独自性のある文章は宝物なんです。捨てないで。」
「……はあ。あのね?今日、もうすぐ、生放送。オッケー?理解してます?」
「I'm okay.」
「……」ムシ
「Oh,I'm very sorry.」
「……緊張しないの?」
「ありすちゃんと話す時の方が緊張しますよ!!プロデューサーさんはそんな事も分からないのですか!?」
「え、何で俺は怒られてんの?」
「怒られて当たり前です!ありすちゃんこそが正で善!そうでしょう!?」
「……そうだね。」
「返しが雑ですね。きちんと聞いていますか?」
「そうだね。」
「……」
「そうだね。」
「……かわい」
「そうだね。」
「シュワシュワするものは?」
「そうだね。」
「seeの過去形」
「そうだね。」
「……」
「満足したか、鷺沢?」
「はい。」
「俺はお前が心配になるよ……大丈夫かしら……」
「私はプロデューサーさんの髪の毛の方が心配です。」
「鷺沢の持ってるプラトンの小説全部捨てるぞ。」
「ごめんなさい。あの二元論的世界観から成る理想主義的文章は宝物なんです。捨てないで。」
「……」
「……」
「……兎に角言いたかったのはな、生放送頑張れよって事。初めてなんだしさ。」
「……えと、その、ありがとうございます。ちゃんと、真面目に、頑張っていきます。プロデューサーさん。」
「…………ん、そうだな。」
急に真面目になられて、少し気恥ずかしい。それに、赤く染められた頬を見せられてドギマギもした。やっぱ文香って可愛いわ。くそっ。可愛いは正義なのか……っ。可愛さのもとではさっきの痴態や阿呆は消え失せるのか……っ。悔しい男の性……っ。
×
「プロデューサーさん、生放送の時の私の衣装凄く露出が多いのですが……ご趣味ですか?変態なんですか?」
「鷺沢の書いた小説全部皆に公開するぞ。」
「それはマジで止めて。」
「…………え?」
「あ、えと、ごほん。
……それは少し恥ずかしいので止めて下さると嬉しいです。」
可愛いけれど、彼女は癖が強すぎる。
んー、麗しさを表現出来た気がしますねえ。