騒々しいアイドル達とプロデューサー お前ら皆落ち着け。    作:べれしーと

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虚構の剥がれてく音。


やってくれたな志希。

目を覚ますとそこは事務所の廊下。既に見慣れた、簡素な廊下だった。

 

すぐさま自分の身体を見回し、今の自分がどうなっているのか確認する。黒のスーツと筋肉質な腕や脚。視線の高さ。俺自身の体なようだった。

 

次に周辺を確認する。これまで通りなら必ず近くに志希がいる。と、

 

「そんなキョロキョロしてどしたの?」

 

いた。隣にいた。癖のある赤髪をゆらしながら佇んでいた。

 

「いや、別に。」

 

詰問するつもりでいたはいいが先ず何を問うべきなのかに俺は迷う。

 

(全ての元凶とはいえ、こいつはまだ何も知らないはずだ。それに脈絡もなく遡行について訊いても答えなど返ってこないだろう。)

 

色々と濁しながら原液についてそれとなく訊く、というのが得策か。なんて思考していると、

 

「あー……遡行してきた感じ?」

 

(……は?)

 

志希が爆弾を投下しやがった。

 

「ふむ。その反応は真だね。そっかそっか。成功したんだ。」

 

「な、何で知って、」

 

「え?座標設定ここにしたんじゃないの?」

 

「設定は少しずつ前に遡るようにって…………座標?」

 

「これは教えてない系かー。未来のあたし、そこは教えておいてよー。」

 

こいつは遡行に気づいてる。つまりこの時点で志希は俺を嵌めていたという事。そうか。

 

(都合良いな。くそったれ。)

 

訊きたい事が訊ける。そう思った。

 

「おい志希。正直に答えろ。この遡行の目的は?原液が盗まれたって嘘を吐いたのは何故だ?それと、座標って、座標って何だよ。ssについても教えろ。どういう意味なんだ。まだ訊きたい事はあるぞ。えっと……」

 

「ちょっとちょっと。そんな凄い剣幕で来られても。胸ぐらも掴まないで。えっちぃよ?」

 

「黙れ詐欺女。いいから質問に答えろ。」

 

「黙れって言ったのは誰かにゃ~?」

 

「アイドルを痛めつけるのは気分がのらないが、詐欺師を痛めつけるのは良い気分だろう。最初はその小賢しい事ばかり発言する口からいく。取り敢えず顎を外そう。」

 

「ま、待って待って!?そんな本気で怒るような事したの未来のあたしは!?」

 

「質問に答えろっつってんだよ。」

 

「マジか……えっと、こっちも質問していいですか?」

 

「何だ。」

 

「原液って何?」

 

「しらばっくれるのもいい加減に……!」

 

「違う違う!!ほんとに知らないんだって!!」

 

「濾過蒸留溶液ってやつだよ!」

 

「ただの水だよそれ!!」

 

「嘘を……っ!」

 

「いやいや!!名前!!名前からして水でしょ!!」

 

「……」

 

「純度の高い水を個人的に作ったの!!てかなんで存在知ってんの!?部屋に飾ってる筈なんだけど!?」

 

「……遡行の、目的は。」

 

「目的なんてないよ。」

 

「は?」

 

「え?実験でここに来たんじゃないの?」

 

「げ、原液を回収しろって言われて、」

 

「だからその原液って何?」

 

「人を本能的にする薬……」

 

「そんなのつくれる訳ないじゃん。」

 

「……」

 

「キミはここを『小説』かなにかの世界だとでも思ってるの?ねえ?」

 

覗き込むように志希は問う。

 

……違う。

 

《嘘つきには騙されるな。》

 

《志希と晶葉は信じるな。》

 

違うのだ。

 

「それにしても未来のあたしは不敬だった感じかな。実験になると自分を見失っちゃう性質なんで。てへぺろ。」

 

頬を人差し指でかきながら、目を伏せ、落ちた声質で呟く。

 

『根本』から違うのだ。

 

《「皆すっごい良い反応してくれて!楽しかった!」》

 

《「良い機会だしキミに自慢しちゃお~ってのも、確かに一つ!」》

 

「ごめんね。」

 

崩れた笑顔でそう謝られた。

 

……まるで『一ノ瀬志希の皮を被った別人』と話しているようだ。

 

信じるなと言われたり騙されるなと書かれたりするみたいに、もっと怪しくてあやふやとしていて。

 

周囲の反応を異常に楽しんだり、小さな子どもみたいに何度も自慢をしたりする享楽主義者のような女。それが一ノ瀬志希。

 

酷い評価ではあるが、彼女は人を心配しない。よっぽど大事な人でない限りは弱さを見せない。

 

フレデリカや飛鳥。彼女達と俺は志希にとって優先度が違う。俺は、下も下の最底辺だろう。

 

なのに。

 

「許してほしいな。」

 

実際と認識の齟齬と言われればおしまいだが、生憎これでもプロデューサーだ。アイドルのことは理解しているつもりである。

 

全く違う。別人である。まるで多重人格だ。

 

(…………多重、人格……)

 

《「昔陸上やってたからな。」

 

……?何で俺嘘ついてんだ?》

 

 

 

(……まさか、)

 

 

 

隣にいる志希の真上を凝視する。

 

注意して、見る。

 

 

 

すると突然、俺の目の前に『手』が現れた。

 

 

 

驚いて尻餅をつく。

 

(どうやら。)

 

再度その方を見ると、そこには、臍の緒のようなもので志希と繋がっている幽体がいて。

 

(ビンゴみてえだな……っ)

 

そいつは鬼の形相で俺の体を引っ張ろうとした。勿論幽体だから手がすり抜けて失敗した。

 

しかし何故か俺は、俺の精神は体の中から引っ張り出されてしまったようで。

 

(ちっ……!)

 

自分もまた相も変わらず幽体となった。

 

(お前が……未来の志希が……っ!)

 

憎悪を込めに込めて睨み付ける。と、幽霊の志希が発言する。それはもう嬉しそうに。

 

「ギリギリ間に合ったっ!」

 

それと同時に緒が切れて。

 

ヘリウム風船の如く幽体が空へ浮き出し。

 

「さて、プロデューサー。」

 

酩酊と眩暈を共にして。

 

「お望み通り、答え合わせをしようか。」

 

_____

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

懐かしい日々だ。六人のアイドルの担当だった頃の、実に懐かしい。

 

「気も、力も、どっちも抜くつもりはないから。本気でやらなきゃ楽しむ事だって出来ない。」

 

一番後から事務所に入った凛は殊勝な奴で。いつだって俺は彼女に支えられてた。

 

「ロックはカッコ良さの指標じゃないよ!本気で生きてるかどうかの指標なんだ!魂の叫びって、言うもんね!」

 

五番目に事務所に入った李衣菜は探求者だった。自己を常に追い求めていたんだ。

 

「大切な思い出はこうやって写真に残していくんです。そうすれば未来で楽しさを反芻できますから。」

 

四番目に事務所に入った藍子は博愛的だった。彼女が六人をまとめてくれていた。

 

「ただの波形でしかない音が人を動かすんだ。凄いと思わないか?」

 

三番目に事務所に入った夏樹は指導者だった。俺は彼女の隣に立てる事を誇りに思ってる。

 

「特別じゃなかったからアタシは今ここにいる。才能がなかったからアタシは今を楽しめてる。ボンクラスターターだってスーパースターになれるんだ。」

 

二番目に事務所に入った加蓮は等身大だった。二人三脚で彼女とはやってきた。

 

そして俺の最初の担当は。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

「まゆに隠し事してますよね。」

 

してないよ。

 

「嘘。」

 

本当。

 

「でも辛そうです。」

 

辛そう?

 

「はい。まるで、」

 

 

 

 

 

《全部に絶望してるみたいで。》

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですかプロデューサーさん……?」

 

大丈夫。大丈夫だよ乃々。

 

「でも、それ、」

 

何でもないよ。気にしないで。

 

「えっと、あ、あの、」

 

レッスン遅れるよ。ほら。行って。

 

「……は、はい…………」

 

誰にも言っちゃ駄目だよ。

 

「…………その、」

 

 

 

 

 

《リストカットの跡、ですか?》

 

 

 

 

 

「……?プロデューサーが電話越しに怒鳴ってる?」

 

もう切りますよ。輝子の送りがあるので。

 

「私の話か……というかプロデューサー、私に気づいてない……いつものことか。」

 

……あ?

 

(か、顔つきが変わった。どうしたんだろう。)

 

脅してんのかお前。

 

(脅し?)

 

そうか。分かった。

 

(…………え?聞き間違いじゃないよな?プロデューサー、今、)

 

 

 

 

 

《やってみろ人殺しが、って。》

 

 

 

 

 

×




早くコメディしたい。
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