騒々しいアイドル達とプロデューサー お前ら皆落ち着け。 作:べれしーと
酩酊感から解放され、視界が開けていく。共に手元の重みが増していく。
その方を見れば見慣れた志希の姿。俺は彼女の首根っこを掴まえながらプロダクションの廊下を歩いていた。
足を止めて手も離す。念のため体を見渡すが異変はなく、自分自身の体であった。
早速レッスンルームへ、妹の元へ歩を進める。
と、今度は俺が彼女に首根っこを掴まれた。
「ぐえっ……何すんだ志希ィ!」
振り返り声を荒げる。
じっと俺を見据える彼女。その漂う威圧感にたじろぐ。
だがそれは霧消していき、
「仕返し。」
舌をぺろっと出して謝られる。あざとい。
「仕返しってお前、」
俺はそれに抗議するため口を動かす。が、その途中、俺の文言は遮られた。
「過去を変えたら一気に記憶戻ってくるからそこだけは留意しててね。」
そう言って彼女は俺をレッスンルームの方へ押し出した。
「知ってるのか!?」
驚きに声をあげる。
「さあ?あたしは用事あるから。」
「おい!?」
しかしながらそれは無視され、そそくさと猫のように彼女は何処かに行ってしまった。
(……留意しとくよストレッサー。)
×
あの時と変わらない様子のレッスンルームの扉を開ける。
「おっ!いらっしゃーい。待ってたよー兄さん?」
そこには勿論、塩見周子がいた。ご満悦な様子である。
「よお。黒幕。」
開口一番。扉を閉め、周子に近づきながら発言する。
「黒幕て大袈裟な。こんなの遊びじゃーん。」
「遊びねえ。」
さきまで見ていた報告書。未来の志希の部屋にある報告書。あれには
立派な風貌でたてつけてある癖に、中身は俺の知る志希らしい、おちゃらけた口語文で書かれたエッセイだった。
周子についても記してあった。
この遊び、暇潰しの提案者であり仲間。首謀者だ。
丁度良い所にある憎たらしい兄を標的とした。
でかいドッキリ。周りを騙す事になるしプロデューサーには多大な迷惑をかける事にもなる。
まあいいか。兄だし。
こんなものだ。
俺が言いたいのはこの扱いだとか評価だとかではない。
そんな今の俺にはさっぱり記憶にない事などどうでもいい。
やはり直感、というより予感なのだ。
何よりそんなものが無くてもおかしく思うだろう。
「回りくどいんだよ。」
何故こんな面倒臭い遊びをするのか単純に分からない。
「志希ちゃんもあたしもプロデューサーも。皆が楽しむ為にはこれしかなかったんだ。許せ。」
志希を真似ているかの如くちゃらけておどけて。そうやって暈して答えられる。
「回りくどいのはこの遊びに対して言ったんじゃねえ。お前の事だ周子。」
「……」
百八十度。途端、無表情で沈黙される。
けれど俺は構わず話し続ける。鬱憤を晴らすように。
「なんかさ。俺、ここに来るのが決まってたみたいに思えてならないんだわ。」
「今までの流れがまるでこの結末に収束するためだけに存在していたようにさえ思えるんよ。」
「途中、いや、最初からだった。ずっと予感があった。例えばここ。最初の話では志希がここにいることを知ってた。他の部屋には目もくれず、だ。例えば乃々。全くもっての偶然も今になれば分かる。予感だった。予感から見つけ出せたんだ。」
「例えば遡行理由。何が起きても遡り続けた。止まっちゃならない予感からだった。ひたすら、マグロみたいに。」
「習慣。それか経験済みなんだよ。」
「何度でも言うぞ。回りくどい。」
「言いたい事があんなら率直に言え。そこだけは志希を見習った方が良い。」
「腹の内。見せてみいや周子。」
言いたい事を言い終える。周子はやはり無表情で俺の顔を見つめていた。
それに反抗する。
「「何見てんだ。」」
「「同じ事を……」」
「「時間稼ぎ……おい、一言一句違わないなんてあり得ないだろ、って、は?」」
……周子は俺と同じ事を言い出した。タイミングを被らして、間も完璧にして。
(なんだ。どういうことだ。何故分かる。)
俺が理解不能な現象に戸惑っていると、突然周子はニッコリと笑顔を作った。入室時とは違う不気味な笑顔を。
そして両手を目一杯広げその手を自身の顔の前に持っていく。
「なーんだ。」
質問される。
(……?)
「「分からん。」」
「「またか!!いい加減に……っ」」
唖然とする。まただ。また全部同じ事を。
心が見透かされてるようで俺は戦く。
「あのね兄さん。
最中、彼女が感情を露にして言葉を紡ぎ出した。
「あたしに
「あたしに
「あたしに
「分かった?」
「ほら返事はどうしたん?」
アイドルらしく笑顔は絶やさず、しかし、アイドルらしからぬ笑顔を携え続け、周子は俺の返答を促してくる。
「……はい。」
その言葉を俺は肯定しなければいけない気がした。やはり予感は止まない。
そして彼女はまた理解不能な事を言い出した。
「……ここまで予定調和だから。
「……え?」
×
面白い物語が好きだった。
悲しい物語や頭を使う物語なんかよりも好きだった。
明快で、気分が晴れる。
そんな面白い物語が好きだった。
いつか俺もそんな物語を書きたいな、なんて夢想した。
小さい頃、俺はアイドルに出会った。
輝いていて、夢を与える存在に出会ったのだ。
感動した。子供心に重く響いた。
そんなアイドルを育て上げるプロデューサーという職種には特に感動し、憧れた。
まるで面白い物語を作る作家さんみたいだ。
俺も、輝く物語を作ってみたい。
そう思った。
×
「待て。なんつった。二十四周目?は?」
俺の疑問にすらすらと周子は答えていく。
「うん。
「……?…………??」
頭が痛い。何を言っているのだ?
「知らない反応……やった……漸く、漸くここまで来れた……」
周子は貼り付けられた笑顔を外し、床に倒れ込む。
「やったよ晶葉ちゃん……
ボソボソと言葉を呟く彼女。聞こえない。
(二十四周目……何が?どういう?)
分からない。
(結局大事な事は何もわかんねえままじゃ……っ!)
突然の頭痛に思考が止められたからだ。
「それに__も__ちゃんも救えた。」
俺も周子と同じく床に倒れ込む。頭を抱えながら、痛みに悶えながら倒れ込む。
「___だ。もうあたし____」
目の前が暗くなっていく。
音が消えていく。
床や服を感じなくなっていく。
自分の汗の臭いが消えていく。
__
____
______
×
『キミが覚えてる最も昔の記憶は?』
小学生の頃、テレビを見てた。夢中になってた。そこに映ってたのはアイドル。輝くアイドル……
『家族の名前』
『自分の家の住所』
『お給料』
あんま言いたくない。それくらいは許してくれよ。
『自分の名前は?』
塩見英一。妹にアイドルの塩見周子がいまーす。
『夜ご飯』
11月16日に周子とラーメン。あいつのやつだけメンマがサービスされてた。贔屓羨ましい。
『りょーかい。』
……そろそろな感じ?
『意識転移の実験がってこと?』
うん。
『そうだね。もう準備万端だし。』
うい。
『……よく了承してくれたよねプロデューサー。』
そうか?
『危険性については充分話したでしょ。』
ああ。それか。いいんだって。
『そっか。』
どうせ今より酷くなるなんてあり得ないし。
『……そっか…………』
おう。もう疲れたわ。
『うん……ごめん……ごべん……ぐずっ』
泣かんでも……
『だっで……』
ええんやて。誰のせいでもないんやし。
×
いつの事かは思い出したくもない。
けれどもその事自体は俺にとって凄く大切な事なんだ。
みくと李衣菜の二人はコンビとしてポテンシャルを秘めていた。
俺には二人の大成する道が見えた。
アイドルとして少しずつ世に知られ出して、直ぐ。
行動に移した。
結果は思惑通り。アスタリスクは期待の新グループとなった。
個人の実力もぐんぐんと伸びていった。
李衣菜は着実に広い層を。みくは堅実に深い層を。
アイドルとして活躍していた。
しかしそれも終わりがくる。
Masque:Radeの発足により、アスタリスクを含む全てが狂っていった。
騒々しいのが好きだった。静寂は嫌いだった。
今では、真逆となってしまった。
×
杏はいつもぐうたらしている。やる気のやの字もない。
とても手をやいていた。それに困ってもいた。
スカウトは間違いだったかもしれないなんて考えたほどだ。
しかし事務所の皆に愛されてるのを見ると、やはり間違いではなかったなと安心する。
緩和材として彼女は君臨していた。
彼女自身、その事を誇りに思っているらしい。そんな誇りは捨てて仕事をしてくれ。
まったく世話の焼ける奴だ。
そんな評価も昔のこと。
今となっては感謝しかない。
何故なら緩和材だからだ。
数少ない、緩和材だからだ。
ありがとう。ありがとう。ありがとう。
杏、ありがとう。
×
なあ周子。
俺生きるの疲れたよ。
もういいよな。
24年も生きた。
そろそろ死ななきゃ示しがつかねえ。
こんな人生。
疲れたよ。
なあ周子。
先に父さんと母さんのとこで待ってるから。
それじゃまた。
次からやっと物語の本筋に入ります。長かった……