騒々しいアイドル達とプロデューサー お前ら皆落ち着け。 作:べれしーと
夢が叶って数ヶ月。プロデューサーとなった俺は今日も今日とてスカウトに励む。
社会人になった俺は大手芸能社として有名な346プロダクションに入社した。
思っていたより上司や同僚は気の合う人、優しい人が多かった。もっと殺伐としているものだと思っていたのだが、それは間違いだった。
この仕事にはやりがいがある。だってそうだろう?
これは
そんな事もあってこの仕事最高過ぎだろなんて最初俺は思っていた。
でも芸能界、やはりそこんところ全然甘くない。
お前が育てるアイドルに妥協はするな。候補生やオーディションでピンとくるやつがいなけりゃ街出てスカウトだ。
そう言われた。ピンとくる人いないですなんて口から戯れ言を溢した後に言われた。
……あ(察し)
×
(あのね!?そんなの俺には無理だよ!?だってナンパじゃんこれ!?)
街行く女の子に片っ端から声をかけていく。アイドルどう?ならない?あ、ダメ?そう……
いやいや不審者。あのね、これ不審者。交番のお巡りさんに見つかったりしたら言い逃れ不可能。
俺は知らない人と話すのがそんなに得意ではない。加えて女の子に耐性がない。そのため、スカウト中の俺をただ一言で評するなら、キモい。
アイドルプロデューサーとしてそれはどうなんだって言われたりもしたけどしょうがないだろ……モテないんだし……モテキ無かったし……
と、一人勝手に落ち込んでいるとクスクス笑い声が聴こえてきた。うおお恥ずかしいぃ。
一向にスカウトは上手くいかない。一週間やり続けて成果なしは傷付くぜ。
けれどもそもそもスカウトが上手くいかない理由は俺が会話下手だからだとかそういうものじゃないと言いたい。
ピンとくる子がいないのだ。
可愛い子、綺麗な子、清楚な子。
ここは大都会東京だ。そういう子らは沢山いる。
しかし彼女達に俺の求める輝きは感じない。
月なのだ。太陽の光を受動して光っているだけの月。
俺が小さい頃にテレビで見たアイドル。彼女達は太陽だった。
思い切り自分から光を放出する、目を焼く程の、眩しすぎる太陽。
当然、スカウトには精が出ない。ダイアモンドを掬い上げるのに必死になる人がいても、石ころを掬い上げるのに必死になる人はいないのである。
(場所、変えようかな。)
そう思って遊歩道、プロムナードを歩きだそうとした時。
「うおっ!びっくりした……」
下を向いて歩こうとしていたからか、前に
「わっ……ご、ごめんなさい。」
「驚かせてすみません……!」
手をわたわたと中空に渡らせて焦る一人。
心配そうに俺の瞳を見つめるもう一人。
二人を見て昂り、ある確信を感じた俺は呟いた。
「…………太陽は二つあった……?」
「「えっ?」」
心の昂りが、何に起因するものなのか。俺はまだ気づいていない。
小日向美穂と緒方智絵里、彼女たちは俺の最初の担当になった。
その後、北条加蓮、木村夏樹、高森藍子、多田李衣菜、渋谷凛の五人が更に加わり、計
初めの一年間は彼女達と過ごした。
「気も、力も、どっちも抜くつもりはないから。本気でやらなきゃ楽しむ事だって出来ない。」
「ロックはカッコ良さの指標じゃないよ!本気で生きてるかどうかの指標なんだ!魂の叫びって、言うもんね!」
「大切な思い出はこうやって写真に残していくんです。そうすれば未来で楽しさを反芻できますから。」
「ただの波形でしかない音が人を動かすんだ。凄いと思わないか?」
「特別じゃなかったからアタシは今ここにいる。才能がなかったからアタシは今を楽しめてる。ボンクラスターターだってスーパースターになれるんだ。」
「ここから見える太陽は熊本で見る事のできる太陽と同じ筈なのに、何故か眩しすぎるんです。気を抜けば私もイーカロスと同じ様に墜ちてしまいそう。それでも私は輝くことを止められないし、止める気もありません!」
「いつだって周りには仲間がいます。孤独じゃありません。まるで星群みたいですよね。満遍なく照らす太陽もいいけど、静かに魅せる星々だってアイドルの形だと思うんです。……ダメ、ですか?」
とても充実していた。
時には喧嘩したり、悩んだり、立ち止まったりしたけれど皆で協力して解決していった。
紆余曲折の末、2月に行われた七人のミニライブはデビュー一年未満の新人アイドルが出すことなど到底不可能な利益を会社にもたらした。大成功だった。
「よくやってくれた皆!ほんと……ほんとに……っ。」
「あっれ~?プロデューサーさん泣いてる~?」
「泣いてるね。」
「そら……こんなん泣くに決まっとるやん。からかわんといてよ加蓮、凛。」グズッ
順風満帆という言葉がここまで合う例というのはそう無いだろう。
実力が認められたとかなんとか。6月になると、前川みく、双葉杏、池袋晶葉、城ヶ崎美嘉が更に担当として加わった。
《「お疲れ様、杏。」
「お疲れー……」》
《(恵まれた猫キャラ。……好物は魚かな。ここまで猫にマッチしてくるのだからまあ間違いないと思うが……これで魚が嫌いだったらそれはそれで、)
(弄るだけだな。)》
懐かしい日々である。
(十一人の担当……少し多い気もするが……まあ、やるだけやろう。)
新しい取り組みとして俺はこの頃からユニット発足を始めた。
先ずは小さく二人組などから。
結果は思惑通り。アスタリスクは期待の新グループとなった。
だがその弊害として、失敗や心配という不安的概念を俺はこの頃忘れてしまった。そして目の前の報酬に取りつき始めたのだ。
業界人らしくなってしまっていた。
しかしながら良い仲間に出会えたもんだ。
彼女たちは再度俺に
(二つの太陽はまだ見えますか、だってよ。ポエマーかて。)
「……あと九つプラスしとけ。」
そうしてまた俺は初心へと還った。
業界人らしい利己的で無感情な機械を止め、プロデューサーらしい利他的で感情的な人間へと還った。
今になって思えばこの弊害は釈然としない。自分の身に起きた事ではあるが、一体何だったのだろうか。
ちょっとした
9月。佐久間まゆ、森久保乃々、星輝子が担当に。
《「なら熱い抱擁はいいんだな、森久保ォ!!」
「む、むぅーりぃー……」》
しかし人数以外は変わらない日常を享受する。
バカな男は歪みに気がつかない。
鈍感は
10月。鷺沢文香、日野茜、一ノ瀬志希が担当に。
《「よお、一ノ瀬ェ?どうやら『また』何かやらかしたようだなァ?」
「……えっと、あー、え?さ、さあ?志希ちゃん解んないなー……」》
しかし人数以外は変わらない日常を享受する。
バカな男は軋轢に気がつかない。
恋慕は
再度来た2月。開かれたライブは前年の数倍比の利益を収めた。特にMasque:Radeは素晴らしいパフォーマンスだった。
けれども俺は、感動なんてしなかった。涙なんて出なかった。
むしろ最低に思えた。
機械的、だった。
…………
俺はその年から周りに天才と呼ばれはじめた。
若輩者が自社、他社を問わず他を圧倒していたからだ。
……皮肉なんて、学生の時に慣れた筈なんだがな。
どうにも俺は精神が弱いらしい。
×
さて、ここから話すのは今までのようなやつとは違う。
汚くて、本質的な。
結局は抗えない。
そんな恋の話。
×
「私、プロデューサーさんの事が好きです。」
「プロデューサーの事を考えてると、その、心臓がバクバクして、えっと、つまり……す、す、好きです!!」
きっかけなんて無かった。突然だった。
10月のことだ。
文香と茜に愛の告白をされた。
脈絡もなく、しかし本気の告白だった。
勿論断った。アイドルは恋愛ご法度なのだから。
しかし彼女達は諦めてくれなかった。
アピールは強まるばかりだった。
しかもそこに加蓮と李衣菜と智絵里も加わってしまった。
(加蓮……李衣菜……智絵里……なんで……)
「アタシ、プロデューサーさんの事大好き。たまらなく。」
知らぬ間に、太陽は雲に隠れてしまった。
日に日に増すアピールはストレスになった。
あんなに楽しかった仕事でさえ作業になった。
あの時感じた歪みと同じだ。
機械だ。
俺がモテないのも当たり前か。無意識の内に自分から遠ざかろうとしてきたんだから。
その事に俺は気づいた。
そしてそんな疲れきった俺を癒してくれたのは意外にも常務だった。
部下の不調にいち早く気づき、労いを忘れない。
優しいお方だ。こんな方が自分の上司だなんて恵まれている。
(ありがとうございます、常務。)
まゆや藍子も献身的に接してくれた。
人から遠ざかる俺に、人から愛され慣れていない俺に、とてもよくしてくれた。
アイドルとプロデューサーという関係を乗り越えて、まるで友人が友人を心配するように接してくれた。
(まゆ……藍子……)
……しかしその瞳に眠る本意から俺は目をそらしていたのだ。
直ぐ二人の野性も覚醒した。
文香や茜達とは比にならない重すぎる愛に、遂に、俺は押し潰されかけていた。
(ただファンの皆様に申し訳ないんだ。俺ごときが太陽を曇らせてしまうなんて。)
自己嫌悪は毎日続いた。
そして恐れていた日がくる。
週刊誌に載ったとあるニュースに目を見張る。
「期待の新人プロデューサーの塩見英一とその担当アイドルらに熱愛発覚……何人もの女性を侍らせるゲス男……」
…………ははっ。笑えねえ。
(346のブランドを落としてしまったな。常務にどやされる。)
こりゃファンに殺されても文句言えねえな……
×
この後は予想通り。
俺は退職を余儀なくされ、しかも担当アイドルの何人かは業界を去ることに。
……とはいかなかった。
こんな予想なんかより、よっぽど醜悪だった。
×
熱愛が発覚した次の日。
頭の中は空っぽのまま歩いて仕事に向かう。
会社は俺の対応について決めあぐねているらしい。
あのゴシップが嘘である可能性が高いためであるとかなんとか。
使われた写真が合成なんだと。
……俺が担当アイドルから求愛されてる事を重役の皆様は知らない。
(嘘であってほしかったよ。俺が慕われてるなんて。)
まあどっちにしろ俺は辞職する。
ファンの気持ちから考えればそれは当然の事だ。
あの記事がウソかホントかなんて関係ない。
ウソであってもゴシップが出れば、ファンは傷を負う。
そしてアイドル達もだ。
(俺にはもうこの先どうなるかが予想できない。文香や茜達がどうするのか、どうなるのか。予想したくない。)
このような思考をしながら遊歩道、プロムナードを歩いていると後ろから声をかけられた。
「あれ、プロデューサーさん?徒歩なんて珍しいですね。」
「……ああ、美穂。」
小日向美穂。初めての担当アイドルだ。
(そういえば近くに女子寮があったか。俺の頭は大分やられてるらしい。)
「朝早いな。」
「たまたまです!」
朗らかに返答される。
……美穂はまだ知らないらしい。熱愛報道の事を。
「そうか。」
「はい!…………隈どうしたんですか?目の下真っ黒ですけど。」
無邪気な顔で指摘される。
まさか一晩中泣いてたなんて言えないし……
「あー……ただの寝不足。心配すんな。」
「ただのって。全然ただのじゃありません。体大丈夫ですか?無理してません?」
「してないしてない。」
「ホント?」
「ホント。」
「んー。信用できません。」
「えー。」
何故か、懐かしい。
こんなやり取りが懐かしく感じる。
よく分からないけど心が温かい。
「……美穂。」
「何ですか?やっぱり辛いとか」
「違う違う。」
「じゃあ……?」
訝しむ瞳は俺の瞳を焦がす程に眩しい。
太陽だ。
ブラウン管越しに見えた貴女に負けないくらい輝いてる。
「あのな。」
「は、はい。」
「俺なんかについてきてくれて、」
「え……」
「あり」
「…………っく……」ポタ
腹部に鋭い激痛が走る。見るとそこには鋭利な刃物が背中から腹までを突き破って出てきていた。
(……ああ。)
「お、お前が、お前が悪いんだ。僕達のアイドルを脅して食い物にした、お前が。」
後ろに立っている長身の男がそう呟く。
(まじかよ……っ)
「あ、あ……」
「……あれ?美穂ちゃん?なんでここに?」
男は刃物を俺の体から抜き取り、代わりに俺の首へと刃物をあてがう。そして道の端に蹴り飛ばした。
(痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い、痛い……っ!)
その連関として動脈が深く切られたらしく気管にまで血が流れてくる。苦しい。
痛い痛い痛い苦しい痛い苦しい苦しい苦しい痛い苦しい。
「ごぼっ……っ……あ……」
周りに人はいない。しかも声が出ない。
(せめて……美穂は……彼女は違うから……)
彼女は何も関係ないんだ。頼む。殺さないで。
意識が遠ざかっていく。俺が他人から遠ざかるのと同様に。
(逃げ……ろ……)
「……ああ。美穂ちゃんもこいつと寝たんだ。だからこんな早朝に一緒なんだね。なら、同罪だ。うん。同罪。ふひ。」
「や、やめ」
段々と暗転していく視界の中で、美穂は抵抗空しく男に刺されて続けていた。
何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
(な、んで……)
なんでこうなったんだ。
俺は、ただ夢の手伝いをしたかっただけなのに。
けれど、どうせこうなるんだったら、
こうなってしまうなら、
全部、何もかも全部、
最初、から………………
×
今日は11月17日。
二章で憑依した人……記憶に強く残った、忘れられない人