騒々しいアイドル達とプロデューサー お前ら皆落ち着け。 作:べれしーと
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あの兄の電話の後、あたしは東京に住む事となった。
アイドルをやるためである。
そして、皆を救うためである。
京都にいるままでは行動できない。
一ヶ月で準備や別れを済ましてあたしは東京に発った。
「俺ん家に移住してくんなよ。」
兄さんが呆れ声で言う。
「ごめんごめん。」
こんなやり取りも嬉しく感じて、気持ち悪いくらいニコニコして返答してしまった。
「えらい素直な……」
兄さんも苦笑していた。
では早速、京都から引っ越してアイドルだ!
って訳にもいかなかった。
突然過ぎて上からNGをくらったのだと。
それは兄さんも予想外だったらしくて、あたしのデビューは来年の六月になるそうだ。
つまり美嘉ちゃんと同時期デビュー。
その時が来るまであたしはレッスンを受けたり色々な説明を受けたりといったように生活していた。
間、アイドルの皆とも仲良くなった。
兄さんの話によく出る二人は、まあ、兄さんの好みっぽいわーっていう感想だったよ。
途中の二月にあったミニライブ、といってもそこそこの規模のライブではバックダンサーとして参加した。
一言で言い表せば、唖然を超えた唖然。
凄絶な生命の輝きを感じた。
まるで、
見えたその景色はどうしても現実の様に思えなかった。
(アイドルって中毒にも似てる。)
ライブ終了後、仲間全員で成功を祝福しながらそう感じた。
六月。あまり特筆すべき点はない。
というか殺人関係の出来事など当たり前だが全く起きない。
どうやらあたしは、あまりに昔へ来てしまったかもしれない。
そう考えていたが。
少し変化があった。
兄さんの、慕われる事に拒否反応が出ているという癖が原因で起きた変化だ。
アイドルで結託して何とか機械的なプロデューサーを励まそう、というものだったのだが……
結果、そこに歪みが出来てしまった。
避けて通れない、
その歪みが特に分かりやすかったのは智絵里ちゃん、加蓮ちゃん。
その数ヶ月後に兄さんの担当となったまゆちゃんも分かりやすくその歪みに堕ちていた。
濁った恋情が浮き彫りになってあたしには見えた。
(あの事件を解決するだけじゃどうにもならなさそうだ。)
今度は演者として参加した二月のライブ。
前は星の輝きを感じた癖に。
今回は何も感じなかった。
そんなこんなで訪れた最悪の日。11月17日。
絡まった思慕は解けないまま来てしまったこの日。
あたしは行動に移した。
既に美穂ちゃんには一週間の休みをちひろさんに頼んで入れてもらった。
プロデューサーさんは遅めの出社にしてもらった。
二人の殺人を止められれば、あとはまゆちゃんをどうにかすればいいだけ。
まゆちゃんは現在ドラマ撮影の為、東京にいない。
これで恐らく大丈夫な筈。
今日を乗り切れば何とかなる。
(これで晶葉ちゃんと志希ちゃんの無念を晴らせる。)
心の底から安堵した。
……なんて。
あたしはなめていた。
×
翌日の朝、うるささに目を覚ますと兄さんが血相変えて準備をしていた。
……なんの準備?
訊くと返ってきた答えは。
「……文香が、昨日、」
殺された。
頭を鈍器で殴られた方がマシ。
そんくらいの痛みがはしった。
そこであたしは気付いた。
(考えてやんなきゃ。)
と、冷静に。
客観的に。
他人事のように……
兄さんが何処か向かうのを、そして何か叫んでいたのを無視して。
服装も髪型も気にせず。
時間も場所も気にせず。
頭を空にして、走った。
数分後、辿り着いたのは彼女の家。
ドアホンを押すと、朝のくせ、珍しく彼女は起きていた。
全てを無視してあたしは言葉を捻り出す。
「志希ちゃん……時間戻させて……っ!」
家の中、二人きり。
造形の同様な、荘厳であるソレを前に志希ちゃんは喋る。
「二周目、ね。」
あたしの説明を聞いた彼女は珈琲を嗜みながら訝しむ。
「使わせて。」
あたしは無理矢理お願いを押し通そうとするが。
「いや駄目でしょ。」
小馬鹿にするよう却下された。
「なんで。」
「信じてないから。」
「なんで。」
「未来から来ました。はい、信じます。な訳あるかー。」
おどけて返される。
続けて志希ちゃんに、
「周子ちゃん、もしかして文香ちゃん死んでおかしくなった?」
心配してなさそうな様子で訊かれる。
そんな
あんな
(……面倒臭い。)
今だけは志希のこの、平常の奔放が鬱陶しい。
そう思わざるを得なかった。
だからあたしは強行手段に出る。
「使わせてくれないの?」
「当たり前でしょ。なんで使わせる必要あると思うの。」
「そ。」
分かったよ。
そう思い、あたしは一枚の紙とペンを渡す。
「え、何。ホントに周子ちゃんどしたの。」
「あたしに秘密にしてる事ここに書いて。」
「はえ?」
不思議そうに、そして可哀想な子を見る目付きを向けられる。
が、それに耐えて。
「いいから。」
睨みながらも求める。
「はいはい……えーと……」
「書いたよ。ほら。」
そう言ってペンと紙を彼女は乱雑に机へ放った。
そこには……
「独占欲なんて
摩訶不思議な事の書かれた一枚の紙があった。
「秘密なんてありませーん!それにあったとしても教えませーん!シューコちゃん独占欲強すぎ!にゃはは~。」
志希ちゃんはそう言って部屋を出ていった。
「トイレー!」
廊下側から彼女のそんな声が響いてきた。
(……早速効果出たね。)
あたしは手に持つ
そして機械の元まで行き、それを操作する。
(こうだっけ。えっと、こうだ。)
使える状態までもっていき、近くに掛けてあったヘッドホンを頭に付ける。
(…………もう一度。)
あたしはパソコンのエンターキーを押す。
そこに感慨は無かった。
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今度はまゆちゃん達が兄さんの担当になった、事件から数えれば一年と二ヶ月前にあたしは戻っていた。
調節の仕方が分からなくてそこは適当にやったからまあしょうがない気もする。
せめてあの論文さえ有ればどうにかなるものを。
あたしは事件の日までひたすら一人で暗躍を続けた。
誰も死なせない様に頑張った。
けれどもやっぱり駄目だった。
また文香ちゃんが殺された。しかも美穂ちゃんもだ。
……そことなく、それをあたしは予想していた。
あたしは不器用だ。多分失敗する、と。
だからこそ、前に伏線を貼っておいたのだ。
家の中、二人きり。
造形の同様な、荘厳であるソレを前に志希ちゃんは喋る。
「二周目、ね。」
少しだけ嘘を織り混ぜた。
あたしの説明を聞いた彼女は珈琲を嗜みながら訝しむ。
「使わせて。」
あたしは無理矢理お願いを押し通そうとするが。
「いや駄目でしょ。」
小馬鹿にするよう却下された。
「なんで。」
「信じてないから。」
「なんで。」
「未来から来ました。はい、信じます。な訳あるかー。」
おどけて返される。
そう。ここまでは前と同じだ。
ここから説得するしかない。
志希ちゃんを、この天才を味方にしなきゃ誰も救えない。
「分かった。」
あたしはそう言って、一枚の紙とペンを渡す。
「え、何。周子ちゃんどしたの。」
「あたしに秘密にしてる事ここに書いて。」
「……え?」
心配するような表情で彼女はあたしを見つめる。
が、段々とその視線を机の上のそれにスライドしていき、渋々といった様子で筆を走らせ始めた。
珈琲は暗い色を纏っていた。
「書いたよ。ほら。」
そう言ってペンと紙を彼女は乱雑に机へ放った。
その紙を見ないようにして手に取り、ぐちゃぐちゃに丸め、床に放る。
「…………志希ちゃんの書いた事でもあてんの?」
御明察。
「どーぞどーぞ。」
スプーンで珈琲を混ぜながらそう言われる。
その通りにあたしは言い放ってやった。
「独占欲なんて
志希ちゃんの手が止まる。
かっ開かれた大きな目が珈琲からあたしへギロリと向けられた。
「どー?」
あたしはおちゃらけてそう発言する。
「まっじかー……」
すると志希ちゃんは立ち上がり、部屋を出ていった。
「待ってて。」
廊下から聞こえた声は初めて聞くようなシリアスを漂わさせていた。
ヘッドホンを被ったあたしは志希ちゃんが持ってきてくれた
様々な情報を全脳細胞総動員して覚えようとする。
「周子ちゃんの話から考えると……確実なのは事象根因を突き止める事かな。大分ループしなきゃいけないけど。」
読みながら質問する。
「事象根因?」
「そ。原因の原因の原因の原因の……て辿っていって、もうそれ以上辿れない根本的な原因。今回、殺人の原因ならもう分かってる。」
(
「そこを更に掘り下げて行けば必ず事象根因は見つかる。それを何とかすれば殺人どころかそれ以外の全てまで上手くいく。」
機械を操作している志希ちゃんに問われる。
「事象根因を探す?相当心やられるけど。」
勿論。
「確実なら。」
志希ちゃんが機械の操作を終え、あとはエンターキーを押すだけとなった。
「取り敢えず戻る日にちは一年前の十月、あたしがプロデューサーの担当になった頃で設定した。」
分かってる。そこで志希ちゃんを味方につけるんだ。
「その頃のあたしに別居とその論文の存在を話してあげれば協力してくれると思うから。」
そう言われて思わず聞き返す。
「……別居?」
「うん。マンションに借り部屋あるんだ。」
驚いた。数年一緒にいたのにそんなこと知らなかった。
「それじゃ、やるよ。」
「うん。お願い。」
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戻って早々、行動する。
志希ちゃんを仲間に引き入れるのだ。
言われた通りに二人きりの時、別居と論文の存在を志希ちゃんへ話すと。
「……成功したんだあれ。へー……」
消極的な反応だった。
が、しかし、仲間にはなってくれた。
心強い。
事象根因をひたすら探す。
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事象根因をくまなく探す。
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事象根因をただただ探す。
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探して探して探して。
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あれ?見つからない。
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見えるのは血ばかり。
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美穂ちゃん、まゆちゃん、加蓮ちゃん、智絵里ちゃん、文香ちゃん、それに兄さん……
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美穂ちゃん、美穂ちゃん、美穂ちゃん、美穂ちゃん……
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兄さん、兄さん、兄さん、兄さん……
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あれ……いつのまにかあたしだけ__歳だ……
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冷静も発狂も無い次元。
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あなたはなんにんめかな。
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兄さんは十人目くらい?あはは。
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うん。兄さんもそうなるのはしょうがないよ。
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血縁者だからかな。
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死体だらけで狂いそう?死ぬときの痛みで狂っちゃった?あたしはそういうの越えたとこだよ。
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《全部に絶望してるみたいで。》
《リストカットの跡、ですか?》
《やってみろ人殺しが、って。》
《ありがとう。ありがとう。ありがとう。杏、ありがとう。》
あーあ。精神病んじゃった。
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なあ周子。
俺生きるの疲れたよ。
もういいよな。
24年も生きた。
そろそろ死ななきゃ示しがつかねえ。
こんな人生。
疲れたよ。
なあ周子。
先に父さんと母さんのとこで待ってるから。
それじゃまた。
「空虚な孤独のどれだけ救われる事か。」
自殺は、ダメだよ……
あは……
……分かんない
止められない……
結局止められないんだ。
積もってくのは死体と恋情ばかり。
アイドルにもループの影響が出てる。予想外だ。
所謂ヤンデレになってる。
皆狂っちゃった。
根因なんて分かんないよ。
兄さんとアイドルは今まで以上に深い仲になってる。
まさか
それもあたしの失敗が原因なんだけどさ。
あーあ……
……
《小さい頃から苦労して、やっと夢を叶えた兄。
妹なら祝おうと思うものでしょ?》
……いやいや。
いやいやいや!
シューコの阿呆!
何諦めモード入れようとしてんの!?
(自分で選んだ道なんだからさ。)
どんだけふざけた人生でも、馬鹿げた難しさのループでも、ドス黒い血や恋情に振り回されても。
諦めんなシューコ。
(兄さんの誕生日、まだ祝えてないでしょーが……!)
なんとか。
なんとかやるしかない。
戻れ、あたし。
「ヤンデレアイドルとメンヘラ兄さん、面倒だなぁ。もう。」
自嘲気味にそう呟いた。
「あたしにそういうのは似合わないけどね。」
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夜中、俺の家。
「…………起きてるプロデューサー?」
それに俺は頭を撫でながら返答する。
「起きてるよ。どした。」
そこから少しの独白が始まった。
「……実はね、恐い夢をこの前見たの。」
「皆がいなくなっちゃう夢。遠くに行っちゃう夢。」
「孤独になるんだ。あたし独りだけになるんだ。」
「寂しさは病床で慣れてた筈なのに目が覚めた後涙が止まらなかったの。」
「ただの夢なのにね。でも嫌な程に現実味を帯びててさ。」
「ここでこうやって甘えさせてほしい。忘れさせてほしい。暖かさを感じさせてほしい。」
「誰も、どこにも、いかないでほしいから。」
ぎゅっと強く抱き締められる。生まれたままの姿で。
「大丈夫。ずっと側にいるから。」
「…………ホント?」
上目遣いで投げ掛けられた疑問に、
「……ああ。」
俺はきちんと答えた。
「う、嘘だったら許さないからね。」
「嘘じゃないって。嘘ならこんなことしてないよ。」
そう言いながらスベスベとした加蓮の肌を触る。
「ひぅっ……カッコつけんなムッツリ……」
「そこは男だから許して。」
×
「ねえ、周子さん。」
「分かったでしょ。」
「邪魔しないで?」
「素敵な共依存を壊さないでくれない?」
x=?
「あ、待って、一つ補足。周子ちゃん。」
過去へ戻ろうとすると志希ちゃんに止められた。
「考えられる可能性として誰かしらアイドルが暴徒化するというものがあるんだよね。例えば愛情故に死ぬ!みたいな。」
「この遡行装置もそんなに優秀じゃないから周辺への影響とかバリバリあるわけ。」
「そんな時はマンションの方の家に行ってほしい。」
「あっちにある遡行装置は記憶弄れるから。」
「全員救える確率は低いけど、どうしようもなくなったら、ね。」
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「なあ、兄さん。」
夜の家でゴロゴロしている彼に呼び掛ける。
「『他人に成りきって行う人生のシミュレーション』って興味ある?」
x=
『キミが覚えてる最も昔の記憶は?』
小学生の頃、テレビを見てた。夢中になってた。そこに映ってたのはアイドル。輝くアイドル……
『家族の名前』
『自分の家の住所』
『お給料』
あんま言いたくない。それくらいは許してくれよ。
『自分の名前は?』
塩見英一。妹にアイドルの塩見周子がいまーす。
『夜ご飯』
11月16日に周子とラーメン。あいつのやつだけメンマがサービスされてた。贔屓羨ましい。
『りょーかい。』
……そろそろな感じ?
『意識転移の実験がってこと?』
うん。
『そうだね。もう準備万端だし。』
うい。
『……よく了承してくれたよねプロデューサー。』
そうか?
『危険性については充分話したでしょ。』
ああ。それか。いいんだって。
『そっか。』
どうせ今より酷くなるなんてあり得ないし。
『……そっか…………』
おう。もう疲れたわ。
『うん……ごめん……ごべん……ぐずっ』
泣かんでも……
『だっで……』
ええんやて。誰のせいでもないんやし。
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「ねえ、周子さん。」
「分かったでしょ。」
「邪魔しないで?」
「素敵な共依存を壊さないでくれない?」
「あのね。」
「確かにあたしは太陽になんてなれない。加蓮ちゃんとかと違って。美穂ちゃんとかと違って。」
「でもあたしはプロデューサーの妹なんだよ。」
「家族なんだよ。」
「そんな、汚ならしい愛情と同じにしないで。」
「いい?
「
「
「
「分かりやすく言おうか?」
「
《兄が泣き崩れていた事だけは鮮明に覚えている。》
《明朗な兄の笑顔にあたしは安心していた。》
《妹なら祝おうと思うものでしょ?》
《分母がそれじゃ、ただ憎らしいだけだ。》
あたしは兄に沢山貰った。
幸せと笑顔を貰った。
そのお返しをするまで何度だって繰り返してやる。
病んだ星になどあたしは負けない。
影響すらない。
シューコの太陽を、兄を、救うのだ。
幸いにも、二十を越えるループで幾つか分かった事がある。
一つは兄を救えば、結果的に美穂ちゃんや智絵里ちゃん等のアイドル仲間が殺されない事。
一つは事件前日と当日の二日間、兄を幽閉すれば兄を救える事。
そして最後の一つは志希ちゃんがレッスンルームに来てあたしと雑談していたあの日、兄をレッスンルームに拘束する事で、スキャンダルが発生しないということである。
何の因果関係かは知らないが、最後のそれによって文香ちゃんと茜ちゃんの告白は発生しなくなるのだ。バタフライエフェクトとは恐ろしい。
さて、それじゃ。
(もう一度行ってきます。)
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結構内容が難しくなってる気する。それと周子のメンタルが鋼すぎる。