騒々しいアイドル達とプロデューサー お前ら皆落ち着け。    作:べれしーと

30 / 36
信じるより疑う方が物事は容易である。しかし疑うより信じる方が物事は成功する。



太陽と月

11月16日、夜。ひっそりと佇むラーメンの屋台にてあたしと兄さんは麺を啜る。

 

何度も食べた筈のラーメンの味は妙に新鮮に感じた。

 

「周子。今度こそ、今度こそいけるよな。」

 

食べながら、暗い面持ちでそう発言される。

 

二十を越えるループであたしは勿論、兄さんやアイドル仲間も疲弊しきっている。

 

ぼんやりとした明晰夢から抜け出せなくて、だから恋に逃げだしていた。

 

そのことに対して兄さんも頭を抱えている。

 

今の世界では誰とも関係を持たない様に努力してくれたが。

 

地獄のような血と死を癒してくれる至高の悦楽から抜け出してくれたが。

 

でも前の世界でアイドルに手を出した記憶は残っているらしいのだ。自分じゃない自分が、聖域を汚した記憶。

 

加えて悦楽に反抗するどころか溺れて喜ぶアイドルの子達。加蓮ちゃんは顕著だった。

 

幼い頃のトラウマの再起に耐えきれず、簡単に壊れた彼女。

 

兄さんと加蓮ちゃんは前の世界で互いに依存していた。

 

いやにリアルな死の()()から逃れたくて、ひたすらに慰めあっていた。

 

「誰も、加蓮も美穂も、死なないよな。」

 

「……大丈夫。成功させるから。」

 

兄さんはどうやら加蓮ちゃんと美穂ちゃんが恋愛的に好きらしかった。

 

美穂ちゃんは特別好きなようで、四回くらい前から兄さんは彼女を()()()()()()()ようにしていた。

 

俺の太陽を巻き込みたくないのだと。

 

そのため、この世界で美穂ちゃんの事をはっきりと知っているのは智絵里ちゃんとあたしと兄さんの三人だけだ。

 

彼女はアイドルになっていないのだからそれも当然である。

 

しかし()()()()()()()()()()が抜けた事により、他の子が恋愛的に濁り易くなったのも事実だった。

 

美穂ちゃんがいなくなってからの事務所は野性的で醜い争いが絶えない。

 

混沌を極めている。

 

例外無く、皆狂ってしまっていた。

 

殺人を止める以前の問題として自殺が増えた。

 

自傷も増えた。病んだ。鬱になった。エトセトラ。

 

それを食い止めようと過去へ戻ればうっすらと残っているその記憶にまた皆が病む。

 

もう一つしか方法は無くなっていた。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

ご飯を食べ終わり、二人でマンションの志希ちゃんが借りている部屋へ向かった。

 

そこには準備をして待っていた志希ちゃんと晶葉ちゃんがいた。

 

いつの時からかはもう覚えていない。志希ちゃんが晶葉ちゃんを仲間に引き入れたのを。

 

志希ちゃんは色々な手段で説得して工学系に詳しい彼女を巻き込んだらしい。

 

……一回目の時から、晶葉ちゃんを巻き込まない様にしてたんだけど。

 

運命の強制力みたいなのってあるんだね。

 

 

 

 

 

奥の部屋には見飽きたあの機械が立っていた。

 

「ははっ。夢とおんなじ……」

 

兄さんの力の無い笑い声が響いた。

 

空気も、気分も、何もかもが晴れやかではなかった。

 

そこからはてきぱきと進んだ。

 

隣の部屋に入り、兄さんをベッドに寝かし、腕と脚を拘束する。

 

麻酔で眠らせた後、病院でよく見るワッペンの様なものを彼の体に貼っていく。

 

志希ちゃんがヘッドホンとパソコンを使い、記憶を弄る。

 

今までの記憶を機械に入力し、忘れさせてから、兄さんの中に僅かに眠る妄想を元として作られた新しい記憶を兄さんの脳に埋め込む。

 

その作られた記憶の中に()()()()()()()()等の感覚を入れておく事も忘れない。

 

(流れとしてはこうだ。)

 

先ず、兄さんを妄想の世界に今日と明日の間閉じ込めておく。

 

そして明日の夕方頃に目覚めさせ、1()0()()2()0()()1()7()()3()6()()、つまり志希ちゃんが起こしたあの騒ぎの日にタイムリープさせる。この時に記憶を戻してはいけない。失敗する。

 

それで次の日誰も死ななければタイムリープは成功。誰か一人でも死んだら失敗。

 

失敗ならもう一度あたしは戻るだけだ。

 

他の子には任せられないあたしだけの任務。

 

誰の代わりにもならない兄さんだけの任務。

 

完璧に遂行しきり、そこで初めて、終わりを迎える事が出来るのだ。

 

「ねえ、周子ちゃん。ちょっと話いい?」

 

作業が終わり、晶葉ちゃんが休んでいると、志希ちゃんがあたしにひそひそ話しかけてきた。

 

肯定の意を伝えると彼女は親指を外に向けた。一旦出よう、ということだ。

 

「おけー。」

 

晶葉ちゃんにバレないようそっと家を出た。

 

 

 

 

 

秋とはいえ現在は夜。肌寒い。マンションだからか余計冷える。

 

と、彼女が口を開いた。

 

「何周目?」

 

その問いに仕方なく答える。

 

「……二十三。」

 

「……あたし、これ前も訊いた?」

 

確めるように訊いてくる志希。

 

「十回かそこらかな。」

 

「わー……まじか……」

 

彼女のその返答にも決まった返しをする。もう何度も繰り返したものだ。

 

「うん。この後は励ましのエールと助言。」

 

「「どの世界だってあたしがついてるから。」」

 

一字一句違う事はない。聞き飽きた。

 

「……そっか。それで失敗を続けて今は二十三なんだ。」

 

……?

 

あれ。この志希ちゃんの台詞はこの世界が初めてだ。

 

「似通った風に歴史を準えて、こんなんなんだ。」

 

聞いたことの無いその発言にあたしは多少の驚きを感じた。

 

その感情が顔に出ていたのだろう。

 

あたしを見た志希ちゃんはちょっとの笑いを堪えながら言った。

 

「その様子だとこれはまだ言ってないんだね。よしよし。それじゃあ伝えておきましょう。」

 

彼女は周子の瞳をじっと見据えて、また言った。

 

「排外的にやってみるのも、一つの手じゃないかな?」

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

何かあった訳でも無く、やはりこの世界も失敗に終わった。

 

文香ちゃんと加蓮ちゃんが自殺した。

 

兄さんも後日、ファンに殺された。

 

あたしは志希に頼んでもう一度やり直す。

 

(排外的に、か。)

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

11月16日、夜。二十四周目の世界にて。

 

()()()()()()()()()()()()()お茶をすすっていた。

 

極力誰かと関わらないようにしてきた。

 

本当に、極力、独りでここまでくるようにした。

 

排外的に接してきた。

 

兄さんの誘いにのってアイドルになり、翌年の六月デビュー、他の子とそこそこの付き合いを維持しながらこの日を迎えた。

 

今までと変え、兄さんの家へ居候ではなく女子寮での居住。

 

様々な事柄を変化させた。

 

これまでと()()()()()。成功するかどうかは分からない。

 

けれど試す価値はある。だって志希ちゃんの言う事だもん。

 

(しかし懸念事項。)

 

兄さんはどう行動するのか。

 

志希ちゃんはどう行動するのか。

 

晶葉ちゃんはどう行動するのか。

 

云々かんぬん。

 

あたしの予想では恐らく。

 

(今まで通り。)

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

マンションにて、あたしの部屋をノックする音。

 

居間にいる晶葉ちゃんもその音に気付き、顔を上げる。

 

「志希。予想通り来たんじゃないか?」

 

ふざけた様に煽られる。

 

それをあたしは聞き流しながら玄関に向かう。

 

(まあ、この記憶と周子ちゃんの言う通りなら……)

 

到着し、あたしはドアノブを捻った。

 

(そして彼の心情を推し量ると……)

 

そこには、

 

「ループを終わらせに来たぞ……っ!」

 

相も変わらずプロデューサーがいた。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

二十四時にシンデレラは何を思う。




晶葉と加蓮の境遇とかはある程度想像に任せます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。