騒々しいアイドル達とプロデューサー お前ら皆落ち着け。    作:べれしーと

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人はそうそう変わらない。ただ一つの()()()()方法をとらない限り。


不安定な人格

一つ残されていた椅子に俺は座る。

 

俺の左前にもう一人のオレ、つまり機械人格が座っていて、右前には周子が座っていた。

 

オレが微笑む。

 

『お疲れ様。どうだった。今までの旅路は?』

 

嘲りのみえるその声に俺は怒りを感じた。

 

「最高だよ。くたばれクソ野郎。」

 

『ひゃー。怖ー。』

 

オレが足を組む。余裕気だ。

 

『俺はこれからどうすんの。誰も死ななかったから元の世界に戻るか。ん?』

 

「ああそうだよ。だから周子を返せ。」

 

俺の返答を意ともしない態度。組まれた足はプラプラと揺れていた。

 

『待て待て。なんでオレが俺をここにまた連れてきたと思ってる。さっきまでので終わりなわけねーだろ。』

 

「知らねぇよ。機械は機械らしくヒト様に傅いてろ。失敗作が。」

 

ふざけた態度の怒りから俺は思い切り言葉を吐き捨てる。

 

すると打って変わって真剣な顔をし、真面目な声色で、オレは俺を見つめ始めた。

 

『オレは俺だって事、分かってる?そっちの人格を元に造られた機械人格がオレなんだから、当然一心同体な訳で。』

 

()()()()()()()()()()()……それが自分に対するホントか。自己評価か。』

 

『お前は周子の事を家族として好いてる。でも同時に劣等感があるんだろ?底なし沼レベルの深い深い劣等意識。分かるよ。お前はオレでオレはお前で……あははっ。』

 

『家族に恵まれず、他人に恵まれず、いざ仕事に価値を見いだそうとすればやはり人間関係で何もかもが崩れ去った。失敗作の人生。ゴミだ。』

 

『だからたった一人、純粋に好いてくれる家族の周子が大事であって、憎い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その人格的なところ。対比してみりゃ、どっちがゴミなのか明白だ。』

 

『オレからすれば別に今周子を返しても良いんだけどさ……そしたらお前はどうする?』

 

『自殺するんだろ。』

 

『感じる必要のない劣等感と罪悪感で死のうとするんだろ。』

 

『分かるか。俺が変わんねぇと駄目なんだよ。』

 

オレの組んでいた足は既に解かれていて、ぴっちりと揃地面に揃えられていた。

 

逆に俺の足は収まりがつかず、無意識に揺さぶられている。

 

周子はなにも答えず、微動だにしない。

 

……

 

何も言えない。

 

見破られていた劣等感、未来。

 

《生まれたくて生まれたんじゃない。

 

お前らの勝手で俺は生まれたんだ。

 

なのにお前らは俺を憎むのか?

 

父母を憎む子の気持ちも今なら分かる。

 

頼んでもねぇのに傲慢なクソ人間。

 

早く死ねよ。》

 

心の歪み。

 

自己の嫌悪。

 

他者の恐れ。

 

弱者。

 

現実に戻っても俺は俺として変わる事はない。

 

……実際、あるにはある。

 

()()()()()()()()

 

それが自殺という反社会的行動に帰結するのも考えられなくはない。

 

しかしなんだと言うのだ。

 

どうしようもねえだろ。

 

俺と全く同じ顔をした男が目の前にいて。

 

そいつがお前は今すぐ変わらないと死ぬって言って。

 

変われんのか?

 

「無理だ。」

 

「変われねぇよ。」

 

「自己評価は変わらない。ゴミがゴミである事に変わりはない。」

 

「大丈夫だろ。俺が死んでも。つーか、そんな保証ねーし。」

 

「ただのプロデューサーだ。変えはきく。」

 

「彼女達の恋や俺の思いも勘違いだ。本当に自分が気持ち悪い。」

 

「こんな人間が好かれるなんてことはほぼ有り得ない。周子だけだ。例外は。」

 

「憎いけど、()()だから。俺は知ってる。周子がどれだけできた人間なのか。」

 

「妹を救えりゃ、お返しさえできればもう俺に存在価値なんてねぇよ。」

 

「兎に角、返せ。疲れた。休ませてくれ。」

 

そう言うと、オレがゆっくりと周子に触れた。

 

すーっ、と、煙の様に体が消えていく。

 

顔には翳りが根差していた。

 

『……ほらよ。』

 

周子の姿が完全に消え去った後、ふてぶてしくそう呟かれた。

 

(まあいい。これで、やっと全部、)

 

『おい。』

 

突然大きく怒鳴られる。

 

見れば、その揺れる瞳には意志が宿っていた。

 

『そうじゃねえだろ。周子だけじゃ、ねえだろ。』

 

怒気を孕んだ声は自分の声と一寸も似つかないものだった。

 

『さっきまでの贖罪を思い出せ。』

 

真剣さに満ちた表情。

 

『ホントを思い出せ。』

 

雄弁に語る口舌。

 

『それ以外にも、お前の彼女達に対する態度を思い出せ。全部だ。』

 

そこには一筋の焦りが垣間見えた。

 

『本気じゃねぇだろ。本気で自分を無価値の塵芥だなんて思ってねぇだろ。』

 

『醜くても、汚れてても、一所懸命に彼女達と過ごした時間でお前は欲深くなった。』

 

()()()()()って思うようになった。』

 

『知らない感情。信じられない感情。純朴な感情。好きな人からもらえる感情。親からもらえる感情。なのにやはり知らない感情。愛なんだよそれは。』

 

『自己愛も知らず生きてきて、今の俺は矛盾の塊だ。気づいてるんだろ?』

 

『色々あって、人生疲れきって、死にたくなって。でもあいつらと過ごした時間は充実してただろ?』

 

『眩しい笑顔が、太陽が、その陰影を取り払おうと人生かけた一番星が、そんな皆が俺の愛と笑顔を待ち望んでるんだ。』

 

『小さい頃からアイドル最優先の俺なら、プロデューサーらしくぶつかれよ!』

 

『くよくよして恋とか勘違いとか語ってんじゃねえ!』

 

『愛を知って、変われ。自分のことを分かってくれ。』

 

『死んだら悲しむ人は、誰にだっているんだよ……!』

 

彼は滝のような量の涙を流していた。

 

椅子は知らぬ間に消えていて、どうやら俺もさっきから立っている状態らしい。

 

自分の状態すら分からなくなるくらい、彼の話に熱中していたようだ。

 

……アイドル達と。

 

……プロデューサー。

 

……愛か。

 

俺は徐に口を開く。あの日を回想しながらゆっくりと。

 

「11月16日の夜さ。」

 

話したくなった。込み上げるものがあって、吐露したくなった。

 

『……ああ。』

 

「周子とラーメン食べに行ったんだよ。」

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

『ああ。』

 

「何故かあいつのラーメンにだけメンマがサービスされてて。不平だーっておっちゃんに言ったんだよ。屋台だったから。」

 

バラエティな事務所が昔の孤独を忘れさせてくれた。

 

『そうだったな。』

 

「妹さん可愛いからお兄さん許してって言われて。びっくりしたんだ。初めて会うのに一発で兄妹だと見抜かれたわけだからさ。」

 

周子が、皆が、こんな俺に優しくしてくれた……

 

『……』

 

「泣きそうになってよ。俺と周子に似てるとこなんてあったんだって。」

 

「目元が似てるらしい。はは。家族だからそりゃ似るわな。今更すぎ。」

 

「……あそこの塩ラーメン旨かったなあ。」

 

『……そんで?』

 

「知っている。俺と周子が家族であることを、俺は知っている。」

 

「でもふと頭の片隅までそれが追いやられることがしばしばある。」

 

「そんな時に俺は孤独を感じる。」

 

「おっちゃんはさ。俺以上に俺と周子の繋がりを知っていたんだ。初めて会ったのに。他人なのに。」

 

「なんとなく。なんとなく、そこに愛の片鱗を感じた。」

 

「愛は塩辛かったよ。」

 

地面を見るとそこには小さな小さな水たまりができていた。

 

透明度が高くて、純粋に見えた。

 

()()()()()()()()()()()()()?」

 

俺はオレに訊く。

 

()()()()()()()()()()()()()()。』

 

オレは俺に返す。

 

二つに増えていた水たまりは光を屈折させていた。

 

(……光?)

 

そんな疑問を浮かべるには遅すぎた。

 

地が、いや世界が崩壊を始めていた。

 

あの機械も異常音をたてながら液を放出していく。

 

壁にひび割れが入っていき、天井が落ちていき、甲高いノイズ音が空中に広がっていく。

 

「な、なんだよ!?どうしたんだ一体!?」

 

前触れも何もなく、ただ会話をしていただけで世界が崩れていっている。

 

前と比べて脆弱すぎる。そう思ったのだ。

 

『最後が来た。それだけだ。』

 

彼の冷静な声。諦念や煩悶を感じさせない平静。

 

それで俺は悟った。

 

根拠もなく、直感で悟った。

 

「お別れか。」

 

『ああ。』

 

彼の姿が消失していく。周りの風景と同様に。

 

『忘れるな。本質と愛を。』

 

俺の足下が崩れ出す。

 

体勢が揺らぎ、体が地面に打ち付けられる。

 

『事象根因が全てを救う。』

 

『下らないものが、皆を救ってくれる。』

 

『託したぞ。』

 

『機械のホントを…………』

 

「……ああ。」

 

世界にただ一人が残されて直ぐ。

 

世界が崩壊を終えて直ぐ。

 

俺は___

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

周子の意識が途絶えて二十分弱。

 

彼女は目を覚ました。

 

皆で彼女を抱き締めて、良かった死んだかと思ったなどと言い、泣きあった。

 

志希も電話越しに喜んでいた。

 

涙声が珍しい。

 

……ふう。

 

(機械に細工しておいて正解だったな。)

 

どうやら助手は意識の最下層へ入ったらしいし。

 

(任せたぞ、プロデューサー。)




人は矛盾だらけ。
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