逆位置悪魔は星屑と踊る   作:大岡 ひじき

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この話を読む前に言っておくッ!

あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ!
『おれは、前後編の後編を書いていたと思ったら、いつのまにか中編を書いていた』
な…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。
頭がどうにかなりそうだった…。
駄文だとか稚筆だとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

というわけで前中後編になるらしいです。
笑えよフグ田くん(意味不明)


中編

「やかましい!うっおとしいぜっ!!」

「キャー!あたしに言ったのよォ!!」

「あたしよぉ!!」

「……やれやれだぜ」

 今日も通学路に男の怒号と、女の子の黄色い声がこだまして1日が始まる。

 私達の利害は、完全に一致したとは言えなかった。

 私に関して言えば、空条が私の『彼氏』になった事で、変な男に付きまとわれる事はなくなったのだが、空条は私の存在があろうとなかろうと、取り巻きの女の子の数が減る事はなかったのだ。

 まあ、女の子は逞しいってことなんだろう。

 これが私でなければ嫌がらせのひとつもされていたのかもしれないが、彼女たちは『悪霊憑き』にわざわざ話しかけては来ない。

 私がそばに居る時は、一斉に散って遠巻きに見守っているが、居ない時には変わりなく、空条の周りに侍っている。

 

「おはよう、『承太郎』」

「…おはよう、樹里」

 ひとまず自分の仕事を全うすべく、彼と挨拶を交わす。

 周りに誰かが居る時には名前で呼び合うというのも契約のひとつ。

 かつて、私にそんな友達がいたのは7歳以前の話だ。

 

「やっぱ、アンタが居る方が落ち着くぜ」

「居ない時には力が及ばなくて申し訳ないわね」

「なら、おれの家に引っ越してこい。

 部屋なら幾らでも余ってる」

「遠慮しておくわ」

 いつの間にか、こんな軽口も叩き合えるほど気安い仲になれた。

 これならば偽の恋人関係を解消しても、いい友人として付き合っていけそうだと…思っていた。

 この時は、まだ。

 

「帰りは迎えにいくぜ。教室に居ろよ」

「ん?何か用事?」

「本屋に寄る。せっかくだから付き合え」

「あ、ひょっとして、前に言ってた海の写真集?」

「ああ。入荷したって、昨日電話が来た」

「ほんと、好きなのね。わかった。

 …私も、星の本でも探しに行こうかな」

「星?」

「そう。海みたいに千変万化しないけど、それでも常に動いてる。

 私達の目に届いている光は、何億年も前の輝きで、その星自体今はもう存在しないかもしれなくて、もしかしたら明日にはもう見えないかもしれない。

 ならば、それが見えている今を大切にしないといけないって思えるの」

「…海にも、星はあるぜ。しかも生きてる」

「あはは。そうね。

 泳いでる姿はロマンチックじゃあないけど、あれはあれで可愛いわ。

 …そういえば、空条にも星があるのよね」

「ん?」

「ここ。

 これ、痣?結構きっちりした星形よね?」

「ああ、それな。生まれた時からあるらしい。

 おふくろも同じ場所に、同じ形の痣がある」

「マジ?なんかそれ、凄い」

 

 …こんな他愛もない会話が、今思えばとても暗示的だった。

 その星が見える今を大切にすべきと言っておきながら、その星が目の前から消える可能性を、まだ考えていなかった。

 高校生活3年間で、初めて友と呼べる人を得て、きっと私は浮かれていたのだ。

 そして忘れていた。

 自分が『悪霊憑き』であるという事を。

 そして空条が、男であるという事を。

 

 ☆☆☆

 

 その日は夕方から雨が降っていた。

 終わったばかりの試験の答え合わせを頼まれて、二人で図書館へと足を運び、先輩面で教えている間に本降りになった。

 私の折り畳み傘しかなく、空条に持たせて歩いたら、空条は傘の大きさが足りず肩が、私は空条との身長差で全身雨に濡れる羽目になった。

 図書館から一番近いのが空条の家の方だったので、彼を送り届けた後、自分の傘をさして帰ろうと思ったのだが。

 

「一人で帰せるわけねーだろ。

 雨が上がったらおれが送っていくから、上がっていけ」

 と言われて、その大きな邸に普通に入っていく空条に、引っ張られるように上がり込んだ。

 

「まあぁ!

 承太郎が女の子を家に連れてくるなんて、幼稚園以来だわぁ!!

 しかも、なんて綺麗な子!!お名前は!?」

 ずぶ濡れの私を空条から引き剥がしてタオルを差し出して質問責めにし、その後シャワーに放り込み着替えまで貸してくれた(私達は背丈や体格が同じくらいだった)彼のお母さんは、茶に近い金髪と青い瞳の、テンションの高い美人だった。

 しかも日本語超上手い。

 

「樹里ちゃんは三年生なの?

 じゃあ、承太郎よりひとつ年上なのね!?

 キャー!承太郎ったらやるじゃないのぉ!!

 ねえねえ、いつから付き合っているの?

 どっちが先に告白したの!?

 ママすっごく興味あるわぁ!!」

「やかましい!うっとおしいぞ、クソアマ!」

「…お母さんに対して、その言い草はないと思うわよ。

 お母さんに謝んなさい」

「………すまん」

「きゃー!樹里ちゃん優しい!!カッコいい!

 そこにシビレる憧れるゥッ!!

 絶対うちにお嫁さんに来てちょうだいねぇ〜!」

 …終始こんな感じだ。

 気がついたら空条ママのペースに引き込まれて、たくさん話をさせられた。

 勿論7歳の時に起きた事の詳細は話せなかったが、家庭内の不和で両親が離婚した事や、母の恋人と合わなかった事で母との関係も悪化した事、その件から私が高校から一人暮らしだと言ったところで、空条ママは少し驚いたような顔をした後、次の瞬間には眩しいほどの笑顔で、ぱちんと手を打ち合わせた。

 

「それじゃあ、今日は泊まってってちょうだい!」

 何が『それじゃあ』なのかはわからなかったが、直視することが難しいほど眩しい笑顔で申し出たその言葉に、もう逆らう事が私にはできなかった。

 

「今夜は一緒にお夕飯食べて、部屋で夜通しガールズトークね!

 うふふ、寝かせないわよぉ〜♪

 承太郎の秘蔵アルバムも公開しちゃう!」

「……おい」

 あの、奥さん?

 息子さんメッチャ睨んでますけどいいんですか?

 

 …あと、姓が同じだと思っていた母が好きだったミュージシャンは、どうやら彼のお父さんだったらしい。

 ジャズミュージシャン空条貞夫もきっと、この笑顔にメロメロになったに違いない。

 

 ☆☆☆

 

「樹里ちゃん、食べられないもの…好き嫌いやアレルギーはある?」

「いえ、特には…あの、お手伝いします」

「まあ、嬉しいッ!

 息子は息子で可愛いけど、娘とこんな風に一緒にお料理するのも、ちょっと憧れてたのよぉ♪」

 言いながらエプロンを貸してくれる空条ママのそんな言葉に、そういえば、と思う。

 私もまだ幼い頃は、母と台所に立って、お茶碗出して、お皿出してと指示を受けながら、頑張ってお手伝いをしていた気がする。

 そうしているうちに父が仕事から帰ってきて、リビングで新聞広げながら、微笑ましげに私達を見ていて。

 私はパパもママも大好きだった。

 けど今となっては遠い、二度と戻らない光景。

 私の父は離婚した後酒浸りになり、肝臓を患って、どうやら去年亡くなったらしい。

 私にあんな事が起きなければ、もっと生きられたのだろうに。

 とか思っていたら、椅子にやはり新聞広げてどかりと座って、それなのに何故かこちらを見ている空条と一瞬目があったが、すぐに逸らされた。

 

「うふふ。どうやら樹里ちゃんのエプロン姿に興味津々みたいね〜」

 いやそんなんじゃないでしょ…本物の彼女ならともかく、私は単に便宜上の恋人なのだし。

 

 私は材料を切ったりするくらいしか手伝えなかったが、その切り方が上手いと褒められた。くすぐったい。

 生活費が親掛りで一人暮らしをしている関係上、あまり贅沢もできないから、自炊は一応しているし、毎日お弁当も作っているけど、食べるのが自分一人の生活では、どうしても手のかからない献立に偏りがちになる。

 誰かに食べてもらうものという意識は、料理の腕を磨く為に、一番必要なものなのだろう。

 そんなことを思いながら3人分の配膳(お父さんは仕事の関係で不在がちなのだそうだ)を終え、いただきますと両手を合わせる。

 献立は炊き込みご飯、しじみのみそ汁、さばの味噌煮、おからの炒め煮、白菜の漬物といった、純和食。

 どれも美味しく、そしてどこか懐かしい味だった。

 そもそも誰かと食卓を囲む自体が、最後がいつだったか思い出せないくらい久しぶりだ。

 そういえば、初めて空条と屋上で一緒にお弁当を食べた時も、なんだか久しぶりだとか思っていたっけ。

 思えば空条は私に、色々な『久しぶり』を与えてくれている気がする。

 

「……樹里?」

「まあっ!どうしたの樹里ちゃん!?」

 と、なにか目の前の親子が、私を見て驚いた表情を浮かべているのに気づいた。え?なに?

 

「歯でも痛いの?ほっぺたでも噛んだ?

 それとも、泣くほど美味しくなかった!?」

「それはねえ。味はいつも通りだ。問題ねえ」

 言われて、頬がなにか冷たいことに気づく。

 よく考えれば先ほどから、妙に視界がぼやけていた。

 どうしたわけか、私は美味しくご飯を食べながら泣いていたらしい。

 

「違い、ます。全部、美味しいです…。

 なんか…美味しかったから、感動、して」

 味だけじゃなく、誰かが側にいるという事実にも。

 私は、今まで当たり前だと割り切っていた1人の生活を、どうやら自分で思っている以上に、寂しいと感じていたらしい。

 自覚してしまうと止まらなくて、えぐえぐとみっともなくしゃくりあげた。

 

 …ふわり。

 突然、柔らかくていい匂いのするものが、私を包んだ。

 驚いて視線を上げると、空条ママに私は抱きしめられていた。

 

「…いっぱい我慢してきたんだものね。

 偉かったわね。

 ほんとのママの代わりに、あたしがいっぱい褒めてあげちゃう」

 優しい手に頭を撫でられ、背中をぽんぽん叩かれて、私は完全に決壊した。

 

 ・・・

 

「…ヤヴァイ。恥ずかしくて死ぬ。恥ずか死ぬ。

 18にもなって人前で号泣するとか軽く死ねる」

「…少しは意識してんのかと思ったのに、恥ずかしいってそっちかよ」

 いいだけ泣いて泣き止んで、ご飯を食べ終わった後で、私は何故か空条の部屋で、畳の上に座り2人きりで向かい合っていた。

 それはそれとして、こいつは何故家の中でも帽子を被ったままなんだろう。

 まあそんな事はどうでもいい。

 冷静になればなるほど、先ほどの醜態が自身で許容できず、私はずっと『恥ずかしい』を繰り返していた。

 

「おふくろはそんな細かい事気にする性格じゃあねーぜ。

 むしろ頼ってくれたって、喜んでる。

 …寂しいって思うなら、今度からいつでも来りゃいい」

 普段とあまり変わらないが、心なしか優しげに、空条はそう言う。けど。

 

「ひとさまのお家にそんな迷惑はかけられないわよ。

 私が高校を卒業したら、そこで切れる関係でしょう。

 もともと、そういう約束なんだから」

 私が首を横に振ると、空条はため息をひとつついてから、やけに真剣な目をして、言葉を発した。

 

「それなんだが、樹里。

 …おれたちは、本物にはなれねーのか?」

「は?」

「つーか、形だけでも恋人同士って体裁を整えて、外堀を固めていけば、なし崩しに本物になれるだろうとタカをくくってた。

 他の女と比べても意味はねーが、アンタはマジで難敵だ。

 本当に、おれに全く魅力を感じねーのか?」

「…それって…どういう……」

 何を言われているのかわからなかった。

 そんな私に、空条が追撃する。

 

「おれは、本気で樹里に惚れてる。

 …改めて申し込むぜ。おれの女になれ、樹里」

 気がつけば、息がかかるくらいに近くに、空条の顔があった。

 大きな手が、躊躇いながらも頬に触れる。

 高い鼻梁が、私のそれを掠める。

 驚いて思わず距離を取ろうとしてバランスを崩し、私の身体は畳の上に、仰向けに倒れ込んだ。

 そこを更に距離を詰めてくる空条の両掌が、私の倒れている畳の、両肩の上につけられている。

 上からのしかかる体勢で私の身体を囲い込む空条の、やけに熱を持った緑の瞳を見上げた瞬間、それまで彼に対して一度も感じなかった恐怖が、一気に湧き上がってくるのを感じた。

 そして。

 

「………ッ!!?」

 空条の額、左眉の上あたりから、突然に赤いものが飛び散った。

 何かで薄く切りつけたような傷が、そこに一筋、走っていた。

 傍らには、私達を見下ろす、私の『悪霊』。

 それが指先を、驚いて傷を押さえる空条に向けており、やはり空条にはそれが見えていない。

 

「駄目よ!やめてェッ!!」

 私は咄嗟に空条を押しのけると、彼と『悪霊』の間に、両腕を広げて立った。

 こいつが本当はなんなのか知らない。

 けどひとつだけ、絶対と言える事がある。

『悪霊』は決して、私を襲うことはない。

『悪霊』はしばらくそのまま動かずにいたが、やがて現れた時と同じように、スッと消えた。

 

「樹里…」

 後ろから聞こえる空条の声に、ハッとして振り返る。

 その額から流れる赤い血に、自身が浮かれていた事を、嫌という程自覚した。

 

「…わかったでしょう。これが『悪霊』よ。

 私が少しでも『恐怖』を感じた瞬間、『悪霊』は、それを与える者を攻撃するわ。

 それが私の大切な人でも、どんなに好きな相手でも関係ない。

 私と一緒にいることは、こんな危険を常に背負うことよ」

 私はこれ以上、好きなひとを傷つけたくない。

 そう言いかけた自分に今更気がついた。

 私もまた、空条の事を、本気で好きになってしまっていた。

 だからこそ。

 私はこのひとから離れなければいけない。

 

「…帰るわ」

「送ってくって言ったろう」

「心配しなくていい。もう()()()()でしょう?

 あれに勝てる人間はいないと思わない?」

 言いながら、無理矢理笑ってみせる。

 

「…ありがとう。さよなら、『承太郎』」

「樹里ッ……!」

 私は泊まるはずだった部屋に入り、まだ湿ったままの制服に袖を通して、空条ママに急用ができたと謝ってから、その大きな邸を後にした。

 

「残念だわぁ。絶対、また来てね!」

 その約束が果たせない事はわかっていたけど、それを告げる事は出来なかった。

 自宅に戻って、完全に1人になったその瞬間、初めて知った切ない感情に、こみあげた嗚咽が夜中まで止まらなかった。

 

 約束を待たずに空条との恋人関係は解消されたが、それ以降の私は、異性トラブルに巻き込まれる事はもうなくなった。

 彼の顔に少しの間残っていた傷が、「あのジョジョですら」という憶測を生み(いや、事実だけど)、私に近づく男がそれ以降も居なかったからだ。

 彼女でなくなった後もまだ空条に守られて、私はそれから数ヶ月後、無事に高校を卒業した。

 

 ☆☆☆

 

 失恋の傷も癒えて、特筆することもない大学生活にも慣れた頃、寝ぼけまなこで朝一番のコーヒーを淹れていた時、家の電話が鳴った。

 ここに電話をかけてくるのはまず母以外にはおらず、少し躊躇った後、意を決して受話器を取った。

 

「もしもし…」

『樹里……か?』

 聞こえてきたのは母ではない、男の声だった。

 

「…どちら様ですか?」

『…おれは『悪霊』なんて、信じてなかった。

 あの時だって、きっと何かの偶然だと思ってた。

 おまえが何を恐れていたのかわからなかったし、わかろうともしてなかった。

 …今なら、解る。おまえが何に怯えてたのか。

 なんでおれから離れてったのか…』

 聞き覚えのある低い声が、まるで泣きそうに、言葉を紡ぐ。

 その持ち主が誰であるかようやく理解できたのは、電話の向こうのその人の声が、悲痛に訴えてきたのと、同時だった。

 

『助けてくれ……樹里』

「空条ッ!!?」

 思わず呼びかけた瞬間、電話の向こうで相手が、息を呑むのがわかった。

 そして…電話は、そこで切れた。

 

「空条!?………承太郎ッ!!」

 呼んだ名前に答えるのは、ツーツーと響くビジートーンのみだった。

 

 ・・・

 

 私はしばらく呆然としていたが、ふと我に返ると以前使っていた手帳を探し出して、アドレス帳のページを開いた。

 恋人同士のふりをしていた頃、何度かかけた番号を、躊躇なく押す。

 

『…はい、空条でございます』

 柔らかな声音が、どこか震えて聞こえ、嫌な予感に胸が痛む。

 

『……もしもし?』

「あ…失礼いたします。

 私、更科と申しますが、空じょ…承太郎さんは、御在宅で…」

『樹里ちゃん?樹里ちゃんなのね!?

 ねえ樹里ちゃん!大変なの!!

 承太郎が…承太郎が牢屋に入れられちゃったのよォ──ッ!!』

 …受話器の向こうから響く絶叫に、私はまた呆然とその場に立ち尽くした。




せっかくなのでネタ挟みました。
それ見つけながら最終話をお楽しみに。

あと、ジョジョを読み込んでいる方にはもはやこれは常識ですが、ジョジョ界における『何をするだァ──ッ!!』と『うっおとしいぜ!!』は誤字ではありません(爆
念のため。
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