少し夏の暑さにやられて、体調を崩してしまいました。
この頃とても暑いので、読者のみなさんも、夏バテや熱中症には気をつけましょう!
クソリオン砦を更地にした俺たちは、旅をしていた時に作った隠れ家に転移した。
人里離れた場所に作ったこの空間は、近くを高い感知能力を持つ者が通るというかなり運が悪い事態にならなければ見つからないと思う。
かなりの時間をかけて構築した超広域魔法で戦場を更地にした結果だが、俺のレベルは99まで上昇した。あと一つでLV100になる。
戦争の前は92だったのだが、このレベル帯で7も上がったと言うべきか、傲慢があっても7しか上がらなかったと言うべきか……
まあ、殺したのが精鋭なのもあるのか、強欲のスキルはステータスをかなり伸ばしたので、いい結果だと言えるだろう。
そして生き残りをブレスで消し飛ばしたユーナとユークも、結構レベルが上がっている。
ユーナのレベルは45、ステータスは平均七千まで伸び、火龍に進化したユークのレベルは19、ステータスは平均三千になった。
俺と比べたら低いように見えるが、龍であることを考えるとそれなりのレベルで、スキルも豊富だし、ユークはまだ幼いことを考えたら驚異的だ。
ユーナとユークは強くなった。
俺の望み通りに。
……
……
……迷っているのか、俺は。
「いいですよ」
「え……?」
今更になって躊躇している俺の耳に、ユーナの澄んだ声が聞こえてきた。
だが、いや待て、今ユーナはなんて言った……!?
「ご主人様の好きなようにしてください。それが私の幸せです」
そう言う彼女には色欲の気配は無く、瞳には知性の光が宿っていた。
その理性的な言動に違和感を感じ、彼女を鑑定して、愕然とした。
ステータスから魅了の文字が消えている。
想定外の事態に一瞬呆けてしまったが、慌てて召喚スキルのメニューも確認すると、忠誠度のパラメータも0%になっていた。
これが意味するのは、彼女にかけていた洗脳が解けているということだ。
ユークの方も確認したが、ユーナと同じく洗脳が解けている。
俺はユーナとユークが反逆することを覚悟したが、彼女たちは動かなかった。
「ご主人様になら、殺されても構いません」
ただ、俺の目を見て、そう言った。
……俺がユーナを育てたのは、最終的に殺して
まさに外道の所業だ。
けれど、情が湧いてしまい、悩んだ。
俺は彼女に罪悪感を感じていた。
けれど彼女は、俺に殺されても構わないと言った。
なんで気づいたかとか、なんで魅了が解けたかなんて今はどうでもいい。
どうせギュリエあたりの仕業だろう。
「なんで……」
なんで、自分を洗脳し、虐待じみた鍛錬を強要した相手に、好意を向けることができるのか。
「だって私は、あなたを愛していますから」
……
「参ったなぁ……」
告白されたのは、前世を含めても始めてじゃないだろうか。
こんな自分勝手で、ひねくれた俺を好きになってくれる女性がいるとは思ってもみなかった。
ユーナを見た。
俺が育て、この第二の人生の半分近くを共に過ごした龍。
夜空の化身のような少女の姿をした彼女は、美しい黒曜石のような目で俺を見つめている。
そしてユークの方を見た。
ユーナが拾い、成り行きで育てることになった竜。
今は龍になった彼女は、まだ幼いからか、幼女の姿をしている。
ユーナの影響か、その人化した時の姿は、炎のように赤く短い髪と翼以外はユーナにそっくりだ。
ユークはまだ喋れないため、会話に参加していなかったが、俺とユーナのやりとりを理解しているのか、透き通ったルビーのような無垢な瞳で俺を見ている。
『私も同じだよ』と、言っているような気がした。
彼女たちはもう、とっくに覚悟を決めていた。
彼女たちは生まれてすぐの時からずっと洗脳されたまま過ごしてきたし、特にユークはとても幼い。
俺の影響を受け過ぎていて、スキルとか関係なく洗脳したようなものなのかもしれない。
それでも、この選択は彼女たち自身の意思で決めたものなのだろう。
彼女たちを殺すのはとても辛いけれど、もう止まることはできないし、なにより、彼女たちの想いを無下にしたくない。
俺は、彼女たちを殺す覚悟を決めた。
「ありがとう」
俺は最後にそう言って、ユーナとユークの頭にそれぞれ手をつけた。
「支配者権限発動。支配者の要請により、支配者専用スキル発動。発動の合意を」
「合意します」
スキルが発動し、ユーナとユークの魂が俺の魂に取り込まれ、二人は糸が切れたように倒れた。
強欲の支配者専用スキル『征服』の効果は、強欲発動時に対象の魂全てを吸収すること。
俺はその効果を少し改変し、生きたまま二人の魂を取り込んだ。
抵抗は一切無かった。
俺はするすると二人の魂を飲み込んでいった。
二人の魂は甘く、そして少し苦かった。
魂を取り込むことで二人の人格や想いが俺に混ざりかけ、しかし、混ざらずに引っ込んで行った。まるで俺に全てを委ねるかのように。
俺の目から涙が零れ、そして俺は、二人の魂を飲み干した。
《熟練度が一定に達しました。スキル『神性領域拡張LV6』が『神性領域拡張LV8』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『並列意思LV8』が『並列意思LV10』になりました》
《条件を満たしました。称号『味方殺し』を獲得しました》
……
《個体、ユーゴー・バン・レングザントに個体、闇龍ユーナが統合されました》
《個体、ユーゴー・バン・レングザントに個体、火龍ユークが統合されました》
《ステータスが統合されました》
《スキルが統合されました》
《スキルポイントが統合されました》
《称号が統合されました》
《経験値が一定に達しました。個体、ユーゴー・バン・レングザントがLV99からLV100になりました》
《各種基礎能力値が上昇しました》
《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》
《スキルポイントを入手しました》
《条件を満たしました。個体、ユーゴー・バン・レングザントが進化可能です》
そして、ユーナとユークの存在が俺に統合された。
ステータスを確認すると、能力値が大幅に伸び、ユーナとユークが持っていたスキルが俺のステータスに追加されていた。
さらにレベルも上がり、レベル100になったことで進化が可能になったようだ。
……だが、ユーナとユークはもういない。死んだ。俺が殺した。
寂しい……なぁ……
無性に、誰かに慰めて欲しい気分だ。
《ザ、……ザー、…ザ、ザー、ザー、……》
ん? 何だ?
《ザー、ピン!》
《要請を上位管理者Dが受諾しました》
《種族龍人を構築中です》
《構築が完了しました》
……ああ、Dからのプレゼントってわけか。
確かに誰かを慰めるのにプレゼントを贈るのはよくあることだが、随分とユニークでシュールなプレゼントだ。
だが、無機質なシステムメッセージを聞いて、とても沈んでいた気分が少し落ち着いた。
《進化先の候補が変更されました。次の中からお選びください。
龍人》
……選択肢が一つしか無い。
人族の本来の進化先であると思われる選択肢が消えている。
それでも、この新しい進化先は悪くなかった。
龍の要素を持つこの進化先からは、ユーナとユークを感じることができた。
元々の進化先の選択肢が残っていても、こちらの進化先を選んだだろう。
俺はほんの少しだけ、Dに感謝した。
《個体、ユーゴー・バン・レングザントが龍人に進化します》
状態異常無効のスキルを持ち、眠らないはずの俺は、意識を失って眠りについたのだった。