人魔大戦が終結し、俺は帝国に帰ってきていた。
久しぶりの帝国は、人魔大戦の後始末と俺の急な帰還で混乱していた。
特にクソリオン砦の陥落の衝撃は大きかったのだろう。
俺はその混乱に乗じて帝国の上層部を洗脳した。
うん、そう、洗脳した。
唐突だが、反省も後悔もしていない。
俺は帝国の王子で、大きな権力を持っているが、それでも、政治にはあまり関われない。
なので、これからしたいことを考えると、帝国を自由に動かせるほどの権力……ですら足りず、洗脳して完全に支配下に置く必要があったのだ。
洗脳は普通なら時間がかかるが、膨大な魔力系ステータスでごり押すことで手早く洗脳し、すぐに帝国を掌握することができた。
……人族一の大国も、今の俺にかかったらこんなもんだ。
この世界の人族は外道耐性が低い。
外道魔法のスキルがカンストすると禁忌のスキルに派生するから、教会が外道魔法の取得を禁じているのだ。
この世界の人間で、禁忌のスキルをカンストさせた人間は、一部を除いてろくな死に方をしていない。
異世界からの転生者で、部外者な俺や蜘蛛子にシュンでさえ不快な思いをしたのだ。
当事者であるこの世界の人間ならどうなるかはお察しだ。
だから、神言教教皇は、禁忌の内容を人々から忘れさせた。
それは正しくもあったが、外道攻撃からの脆さを生んだ。
だからこうして簡単に俺に乗っ取られる。
俺がやったとはいえ、俺の生まれた国の惨状に、少し虚しい気持ちになった。
だが、立ち止まる時間はない。
すぐに準備を終える必要がある。
洗脳した上層部を使って、大規模な軍を編成する。その数、およそ8万。
軍の指揮に据えるのは、
下っ端の兵士たちの多くは無関係で、善良な人間も存在するが、
これより、編成した帝国軍を使って、エルフの里を攻める。
だが、エルフのロボ……グローリアには兵士たちでは歯が立たないだろう。
だから、兵士たちの役目は
この軍の役目は、蜘蛛子たちと魔族軍が進軍するための囮と、
帝国軍とエルフたちには俺の経験値になってもらう。
そのための帝国軍だ。
毎度のこと外道極まりないが、
俺の悲願は近い。
もうすぐ全てが始まり、全てが終わる。
だが、必要な準備はまだいっぱいある。
帝国での準備がひと段落したら次に行こう。
帝国での準備がある程度終わったので、シュンとカティアの母国であるアナレイト王国に来た。
俺がアナレイト王国に来たのは、王国の人間を洗脳しておくためだ。
……うん、また洗脳なんだ。すまない。
まあ、身もふたもないけれど、それが一番手っ取り早いから、そうするだけだ。
そもそも、なんで王国の上層部を洗脳するのかというと、時が来たら、王国の上層部の人間を殺して、王国を転覆させるためだ。
……うん、異論は認める。
上層部を殺して王国転覆とか、クレイジーな行動に聞こえるだろう。
けれど、王国は一度転覆させる必要がある。
なぜなら、エルフの族長であるポティマスが王国で暗躍した結果、王国の上層部の人間の魂には、ポティマスの魂の欠片が寄生していて、ポティマスの意思一つで彼らの魂を侵食して乗っ取れるようになっている。
これをどうにかするにはもう殺すしかない。
外道魔法で剥がすのはリスクが大きすぎるし、一つ魂を剥がしたら、他は全員乗っ取られてポティマス軍団が誕生するだろう。
なので、王国でクーデターを起こし、上層部の人間を一気に皆殺しにする。
ポティマスに思考を誘導された国王が、シュンを次期国王にするつもりなことに不満を抱いていた第一王子と王妃を、思考を誘導しつつそそのかしたら、クーデターに乗り気になってくれた。
原作では、蜘蛛子に洗脳された
このクーデターは蜘蛛子にとっても都合がいいからおそらく黙認するだろう。
蜘蛛子の動きに合わせて動き……そして最後でひっくり返す。
さあ、終わりを始めよう。
アナレイト王国王城の訓練場では、シュンが剣を振っていた。
勇者ユリウスが戦死したことで、新勇者に選ばれたシュンは、学園にも通わず、ずっと城で訓練に明け暮れているそうだ。
今シュンは何を考えているのだろうか。
ユリウスのことを考えているのだろうか。
これからのことを考えているのだろうか。
わからない。
俺は何かを振り払うように訓練に打ち込んでいるシュンに、話しかけずにこっそりと眺めていた。
だが、あいつが一息ついた後、厳しい顔をして俺がいる方を見てきた。
俺が隠れていることに気づいたらしい。
隠れるのは苦手とはいえ、隠密系のスキルはカンストしているし、見つけられはしないと思っていたが、思ったよりシュンは感知能力が高いらしい。
隠蔽を解き、シュンの前に出る。
「……ユーゴー!?」
出てきたのが俺だと気づくと、シュンはとても驚いていた。
おそらく、シュンの頭の中には、どうしてここにいるんだとか、どうやってここに忍び込んだんだとか、なんで容姿が変わってるんだとか、いろいろな考えが渦巻いているだろう。
それが顔に出ている。
「……シュンとはここ最近会ってなかったな」
「ああ、そうだな」
こうしてシュンと直接相対すると、わかるものもある。
鑑定を使わなくても、シュンが強くなっていることがわかる。
それは、勇者の称号を得てステータスが強化されたのもあるが、きっと、俺がいない時も厳しい鍛錬を積んできたのだろう。
俺には決して及ばないとはいえ、能力値はおそらく五千以上、スキルも豊富かつ高レベルだろう。
今のシュンは、きっと、原作よりも強い。
けれど悲しいかな、いずれ出会うであろうソフィアやラースには届かない。
今から鍛えても、この短期間では辿る結末は変えられない。
だが、それでも……
「シュン、構えろ」
「え?」
「これからしばらくの間、徹底的に鍛え直してやる」
これからシュンにとてもひどいことをする俺に、そんなことを祈る資格は決してないけれど、それでも、どうか、この友人に幸あれ。