これからはさらに更新ペースが落ちると思います。
気絶した岡ちゃんに、シュンが回復魔法をかける。
全くの無防備というわけではないが、敵を前にしてその行動はあまりいいとは言えない。
……それとも、俺はその隙を突くような奴じゃないと思われているのだろうか。
実際、岡ちゃんのHPが回復していくのを、俺は何もせずに眺めていただけだった。
シュンが一人で先行して来たのか、シュンの仲間たちが来たのは、シュンが来てからかなり遅れてだった。
今のシュンの強さは周りとは隔絶していて、あいつの速度について行けていないのだ。
今のシュンは、原作よりも強い。
「あー、岡ちゃんがいるならお前もいるよな」
「ああ。お前を倒すためにな」
「出来ると思っているのか?」
「……それでも、俺はお前を止める」
無理だ、と顔に書いてある。
本当の全力をシュンに見せたことはないが、模擬戦の時にはかなり手を抜いていたことには気づいているだろうし、俺との実力差を薄々察しているだろう。
それでも、シュンは退かない。
エルフを、ひいては人々を守るために、あいつは立ち向かうだろう。
俺は火龍剣を鞘に収め、闇龍剣をシュンと同じように構える。
「行くぞ」
「来いよ」
俺に向かってシュンが踏み込んで来る。
シュンは一気に俺との距離を詰め、手加減抜きの全力で斬りかかってきた。
聖光魔法による強化によって、手に持つ剣は光り輝き、シュンがエルフの里への道中で通った、エルロー大迷宮にいた地龍を倒して手に入れた龍力のスキルも加わり、その剣速は以前相手をした時よりもさらに速くなっている。
俺はシュンの剣を正面から受け止める。
二人の剣がぶつかったことで、甲高い音が鳴り、衝撃が澱んだ空気を吹き飛ばした。
シュンの攻撃から一拍遅れて、カティアとスーから魔法での援護が飛んでくるが、俺は防御も回避もせずにそのまま受ける。
「嘘でしょう……!?」
「なっ……!」
魔法を放った二人は、ノーダメージな俺を見て一瞬固まったが、これを予測できていたであろうシュンは、動きを止めることなく、時折拳や蹴りを織り交ぜながら斬撃を放つ。
さらにシュンは、並列意思のスキルを用いて至近距離で攻撃魔法を放ってくる。
これは原作のシュンではできなかったことだ。
少し嬉しくなった俺は、その魔法の術式を読み取り、光属性には闇属性、水属性には火属性の魔法で相殺していく。
幾百もの剣戟と魔法が交わされ、金属音と爆発音が辺りに響く。
戦いは激しさを増し、シュンの仲間はその間に割り込めない。
ぶつかり合う光と闇の刃や魔法からは、ある種の不思議な美しさを感じた。
それはきっと、お互いに殺意がないからだろうか。
戦いの中で俺に殺気がないことを感じ取ったのか、
まあ、要するにいつもの
王国の崩壊という極限の状況に加え、戦場という極限の環境と、俺というシュンの知る中で最強の敵との戦いによって、シュンの集中力は限界以上に高まり、今、この瞬間も、シュンは成長しつつあった。
剣で肉を斬り、蹴りで骨を砕き、炎で皮を焼き、闇で体を削った。
それでもシュンは、倒れても立ち上がり、魔法で傷を癒し、体力と魔力を振り絞って、何度も何度も俺に挑んだ。
そして、体も装備も傷だらけになり、エネルギーの底が見えてきた頃には、その消耗に反して、戦う前よりも明らかに強くなっていた。
鑑定でシュンのステータスを見ると、戦う前よりも数値が伸びている。
剣の天才は剣の英雄に、思考加速は思考超加速に、予見は未来視に、それぞれスキルが進化していた。
強化系スキルや、基礎ステータス系スキルもレベルが上がり、それによってステータスも少しだが上昇している。
この成長は、
シュンが強くなっていくのを見るのは、不思議と心地よかった。
けれど、シュンのエネルギーは無限ではなく、また、時間にも限りがある。
万里眼で戦場を見張っていた並列意思の一人が、
少し名残惜しいが、状況を次の段階に進める事を決める。
抑えていた速度を一段階上げる。
それにシュンは対応しきれなくなり、俺の剣はあっさりとシュンの体を貫いた。
「シュン!」
「兄様!」
急所は外したが、HPはかなり削れている。
MPが残り少ないシュンでは、HPを完全に回復することはできないだろう。
勝負ありだ。
そう思い、シュンの体に突き刺した剣を引き抜こうとしたが、その瞬間、動作が止まった。
シュンの左手が、俺の腕を掴んでいた。
そして俺が硬直した隙を突いて、シュンは右手に握った剣を俺の体に振り下ろした。
「……驚いたな」
シュンの剣は、俺の体の表面で止まった。
神龍結界。
物理と魔法の両方を防ぐ、格下殺しのスキル。
シュンの攻撃力では、この結界を破ることはできない。
俺が無理やり剣を引き抜くと、シュンは悔しそうな顔をして、倒れた。
「……終わったか」
シュンの仲間達は固まって動かない。
皆、俺がここにいる全員よりも強いと理解している。
だが、俺が倒れたシュンを見て剣を振り上げると、シュンを助けるべく動き出した。
俺は仲間たちが近づいてくるのを一瞥しつつ、
「さよならだ、シュン」
瞬間、極大の気配と殺気を感知。
思考を限界まで加速。
天鱗、重甲殻、神剛体のスキルを発動して、皮膚を硬化し、鱗を纏い、体の一部に甲殻の鎧を構築する。
さらに
振り返り、俺に向けて振るわれた
剣を受け止めたとは思えないような轟音と衝撃が発生する。
互いの動きが止まり、衝撃が過ぎ去ると、斬りかかってきた相手の姿をはっきりと捉えることができるようになった。
それは、鋼のような筋肉と、剣のような鋭い雰囲気を持つ、長身の男だった。
額には二本の角が生えていて、白い着物を着ているその姿は、日本の伝説に出てくる鬼そのものだ。
そして、
さらに、視線を少し離れた所に向けると、儚げだが、どことなく残念な雰囲気の美少女が佇んでいた。
彼らこそ、魔族側についた転生者にして、憤怒の支配者と嫉妬の支配者。
「久しぶりだな。笹島、根岸」
ユーリ/
ユーリ「あんまりだよ!」