俺がダンジョンでミノタウロスに襲われるなんてまちがっている。 作:ねこps
あいつに背負わせるわけにはいかなかった。
だから、退場させた。自分が認めたライバルを――汚い手を使って。
あの日、俺とあいつが決別した日。
それが、長きに渡る"俺"の戦いの始まりだった。
16層の最奥にて、大きく反響する轟音。
ルノアが宙を舞い、その拳でミノタウロスを吹き飛ばしたところで、昼過ぎから続いていた二人の訓練は、終わりを迎えた。
ハチマンはというと、少し前に最後の一匹を切り倒し、今は物陰で休憩中である。それにしても、クラウ・ソラス、随分と彼の手に馴染んできたようだ。
数時間前から、ハチマンとルノアは17層にて戦闘訓練を行っていた。
二人が出会ってから丁度1週間と少しが経った日のことである。提案したのはルノアで、昨日の夜に"明日は身体空けといて。昼過ぎからでいいから"そうハチマンに伝えて置いたのだ。
ハチマンとしては、まさかダンジョンに潜るとは思わなかったが、ルノア曰く、久しぶりに思い切り身体を動かしたかったのだそうだ。
因みにハチマンは、昨日もベルに誘われてダンジョンに潜っている。"あの"食い逃げ事件以降、何故か自分のに懐いているベルに困惑しつつも、戦い方を教えて欲しいというベルの頼みを断りきれず、時間がある時は付き合ってあげていた。
ただ、レベル差はどうしてもあり、ベルと一緒の時は上層での探索限定になるから、ハチマンとしては全く消耗しないのだが。
「ふう。やっぱり定期的に動かなきゃダメだね。少し、鈍ってる気がするよ。」
「いやいや、これで鈍ってるってどんだけなんですか......」
複数のミノタウロスを相手に暴れ回ることが出来る"純粋"な強さ。攻撃を掠らせもしない"俊敏"さ。そして、硬いと言われるミノタウロスの肉を破壊する"強力な拳"。
いずれも今のハチマンには持ち合わせていないもので、これ以上となると、彼は恐れすら感じてしまう。まぁ、今でも充分に恐怖を感じているのだが。
いや、恐怖というよりは憧れと言った方が正しいだろうか。命を救われたその日から、ハチマンはルノアに憧れている。今はまだ、強さという一点においてだが。
「ま、昔はもっと凄かったってことよ。尊敬するでしょ?」
「尊敬というか普通に怖いです。」
ルノアはケラケラと笑いながら答える。たまにしか見せない笑顔。ど身体を思い切り動かすことができて、彼女は上機嫌だった。
「さてと、結構暴れられたし、そろそろ目的地に向かおうか。」
上り階段の方に視線を移しながら、ルノアはそう言う。
そう、今日のメインイベントは、何もミノタウロスを相手に暴れ回ることではない。ハチマンとルノアさんはこの後、"ある場所"を訪れることになっている。まぁ、9割方ハチマンのためだから、彼は一応、というか、かなり感謝はしている。
豊穣の女神、デメテルを主神とする、デメテルファミリア。そこが、ハチマンとルノアの目的地である。
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オラリオ北部に位置している、デメテルファミリアのホーム"麦の館"に到着したのは、夕方になってからだった。現在、俺とルノアさんはその一室にて、女神デメテルを待っている。今日の彼女は用事があってオラリオに出かけているらしく、生憎というか、入れ違いだったというわけだ。
「レベル、あがってるといいね。」
のんびりとベッドに腰掛けたルノアさんが、俺に声をかける。
「言っても期待はしてませんが。というか、寛ぎすぎでしょ......」
「そこは期待しろよ。......まぁ、私のもう一つのホームみたいなものだからねぇ。」
女神デメテルとルノアさんはそれなりに付き合いが長いらしく、聞くところによれば、気のおけない間柄らしい。というか、この人にもそんな相手がいたのな。
豊饒の女主人の人達以外に繋がりがあるとは思わなかったので、正直意外である。
そんなことを思っていると、不意にドアがノックされ、俺とルノアさんはそちらに目線を移す。ほどなくして、美しい女性が顔を出した。
「ルノア!?貴女から来るなんて珍しい......あら、あらあらあら!」
女性は、ルノアさんを見て驚いた表情を浮かべた後、俺の方に視線を送りながら、目を輝かせる。
「あぁ。女神よ感謝します。この子にもようやく運命の出逢いが......それで、式はいつ挙げるの?」
なかなか愉快な女神様のようである。
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「なるほど。それじゃ君はルノアの婚約者じゃないのね。」
「......違います。」
「デメテル様......流石にハチマン君に失礼だよ。」
ルノアは女神デメテルに呆れた表情を向ける。ただ、その雰囲気はどこか柔らかで、いつもの彼女とは少し違う気がする。そして、失礼なのは自分にではなく、ルノアに対してだと、ハチマンは思った。
ルノアはハチマンについて簡単な紹介をした後、恩恵を授けて欲しい旨を説明する。当然、彼自身も頭を下げた。
だが、デメテルは眉間に皺を寄せて考え込んでしまった。
「事情はわかったわ。でも、君の主神はアシュタルテよね?」
「あぁ、それなら問題ないとは思います。恩恵......消えてたんですよね。」
ハチマンはアッサリと答える。いつの間にか、恩恵は綺麗さっぱり消え去っていたことに、彼が気づいたのは昨日のことだった。
「え?そんなことあるわけ......」
「当の俺が言うんだから間違いないですよ。なんなら、確認してみます?」
「お願いします。私は外に出てるから。」
ルノアは立ち上がり、部屋を出ていく。単純に興味がないのだろうが、ハチマンは正直助かると思った。
「......本当だ。綺麗さっぱり消えてるわね。一度預けた恩恵をそんなに簡単に取り消すなんて......」
「ま、見限られたってことでしょうね。あの人からは嫌われてましたし、こうなるのも当然っちゃ当然かもしれません。」
デメテルは信じられないといったように驚愕の表情を浮かべている。だが、ハチマンとしては、実際、嫌われていたから仕方ないと思う。初めはそうでもなかったが、徐々に当たりが強くなり、ユキノやユイと行動を共にするようになった辺りから、自分への当たりは格段に強くなったと思う。まぁ、たまたまなのだろうが。
「わかりました。それなら、私が君に恩恵を与えましょう。」
「え?いやいや、そんな簡単に決めるのは......」
デメテルは首を二回縦に振り、ハチマン自らの指先を針に触れる。
「いいのよ。ルノアの紹介だから無下にはできないし。それに、神様の当てもないんでしょう?」
「......そうですけど。」
「そう。それなら問題ないわね?」
「はい......」
優しさに満ちた彼女の表情に、ハチマンはそれ以上反論出来なかった。
女神デメテルは慈愛に満ちている。それは、ルノアはよくよく知っているが、ハチマンは生憎、そんな神に出逢ったことがなかった。だからこそ、耐性がなかったというか、言われるがままにしてしまったのだが。
椅子に座って晒しているハチマンの背にデメテルは針を刺した指先――神血を落とした。瞬く間に
ハチマン・ヒキガヤ
Lv.2→Lv.3
(Lv.2最終ステイタス)
力:A888
耐久:D559
器用:SS1098
敏捷:SSS1301
魔力:D561
耐異常:I
«魔法»
«スキル»
【
・早熟する。
・"人"を憎めば憎むほど、疑えば疑うほどステータス向上。
【真実の愛】
・???
・憎想夢幻が効力を保っているうちは無効。
・特定の条件を満たせば解放。
「......」
自分のステイタスを確認して、ハチマンは溜息を吐く。レベルアップは喜ばしいしことだし、新たな魔法も増えているが、未だに余計なスキルは消えていない。恩恵が消えたから、もしかしたら、と思ったのだが、抜か喜びだったようだ。
「レベル、上がってますね。」
「そう......なのね。」
ハチマンは淡々とレベルアップしている旨を告げる。だが、その表情に感情は感じられず、デメテルの表情も冴えない。
早速、デメテルがステイタス更新を行ったところ、見慣れないスキルが二つ並んでいた。だが、一つは内容が全くわからなかった。通常は条件が整い次第、スキルというのは顕現するものなのだが、彼のスキルは順序が逆なのである。ただ、もう何年も前からステイタスに記載されているとのことなので、ハチマン自身は使用を諦めているとのことだった。
そして、もう一つは、
「本来、レベルアップして喜ぶところだと思うけど、ごめんなさい......」
デメテルは申し訳なさそうに、謝罪の言葉を述べる。彼女の表情は相変わらず曇っていた。
「謝らないでください。デメテル様のせいではないので。」
「悪趣味なスキルと言わざるを得ないわね......」
「本当に。まぁ、俺にピッタリかもしれませんが。」
窓の外を眺めながら、独白を落とす。
「友人、同僚、ファミリア、全部自分には縁がありせんでした。」
帝国の属国化に伴う戦争に際し、両親を失った彼は物心ついて直ぐに路上生活子となり、何者の庇護もなしに生きなければならなかった。窃盗、喧嘩、路上生活子同士の縄張り争い。日々の生活は生傷が絶えることはなかった。
幼いながらに友人が出来たと思えば、紛争の中で命を落としていった。自分達の命を奪うのは、いつもハチマンよりも年上の大人達だった、
だが、初めて入ったファミリアは、同僚達は、人身売買をして日銭を稼ぐようなクズどもだった。
そこで、彼は
色んなファミリアを転々とした後、偶然入ったファミリアは思いの外居心地もよく、信用できるかもしれないと思った人達に出会えた。だが、居続けられると思った矢先、仲間だった奴らに裏切られて、挙句の果てには殺されかけた。
そこで、彼は
痛みは感じなかった。自分の人生なんてなんてそんなものだと思っているから。だけど、恨みはするし、憎みもする。
ハチマンは自らの"歴史"を語っていく。
こんな人生を送ってきた自分だから、こんなスキルが顕現してしまったのだろう、とも付け加えた。
「だから、このスキルも俺にはお似合いって......デメテル様!?」
デメテルは、ハチマンのことを包み込んだ。聖母のように、我が子を慈しむ心優しき母親の様に。
「大丈夫よ......。貴方はまだやり直せる。きっとやり直せる。だから、そんな顔をしないで?」
本当に優しい人なのだろうと、ハチマンは思った。こんな
「......ステータスが上がってレベルか上がる度に、自分のことをどんどん嫌いになっていくんですよ。だけど、強くならなきゃ生き残れない。」
ポンポンと二回ほど、彼は、頭に柔らかな感触を感じた。
ルノアといい、ベルといい、デメテルといい、自分の存在を否定することはない。当たり前のように接してくれる。もっと早く、自分がここまで捻くれてしまう前に、こんな人達に出逢いたかった。彼は心からそう思った。
そして、いくら良くしてもらえど、疑心暗鬼に陥っている自分が嫌いだと、ハチマンは改めて思った。
強くなればなるほどに、周りのことを信じられなくなっていく地獄。どれほど取り繕っていても、自分の負の感情はステイタスとして明確に現れてしまう。
それこそ、彼が、本物の関係......本物の仲間でも見つけない限り、この地獄は続くのだろう。
これが、ハチマンが眷属となった女神が与えた"恩恵"。
彼のステイタスが上がる度に、気持ち良さそうに笑っていた"女神"が与えた、逃れられない"鎖"だった。
「......うちには、たまに手伝いに来てくれるだけで構わないから。そういう子も何人かいるから問題ないわ。その代わり、何か困ったことがあれば助けてくれればいいわ。」
その提案はデメテルなりの心遣い。まぁ、ルノアにしても、ホームにはほとんど顔を出さないから、それこそ数ヶ月間訪れなくても問題でもはないのだが。
「そういうことなら......」
自らの腕の中で頷いたハチマンを見て、デメテルは満足したように笑顔になる。
「あぁ、あとは言わなくてもわかると思うけど、ルノアのこと、宜しくね。」
先程、息子になったばかりの、目の前の男の子。そして、本当の娘のように気にかけてきた少女。デメテルにとっては、等しく大切なのである。
「むしろ宜しくされるのは俺の方だと思うんですが......」
「そんなに歳も違わないんだから、大丈夫でしょ。」
なんとなくルノアと雰囲気が似ている少年。同じような経験をしなければ、決して気持ちはわからない。理解しようとするのと、感じることがでるのは別なのだ。デメテル自身、そのことについて何度も何度も心を痛めてきた。彼女には、どん底を見た子供達の気持ちは、本当の意味でわからない。
それに、久しぶりに会ったルノアの雰囲気は、すこしだけ柔らかくなっていた気がした。恐らく、付き合いが長く、彼女のことを気にかけているデメテルだからこそ気づいたことなのだろう。そして、ハチマンについては、ルノアのことを良くも悪くも色眼鏡で見ていないのがわかった。
そんな姿を見て、思わず、デメテルは色々なことを期待してしまった。
願わくば、二人が、互いに傷を癒し合えるようになって欲しい。彼女は心から、そう思った。
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同日夜、帝国領 海都ウェンジー
「トベ......覚悟は変わらないんだな?」
港に佇む影が二つ。そのうちの一人、ハヤト・ハヤマは嬉しさ半分、不安と寂しさ半分といった心境だった。親友が自分の真意に気づいてくれた。だが、そのせいで、自分の前から去ろうとしている。
「あぁ。今までさんきゅな、ハヤト君。それから、ごめん。自分勝手なことばっかして。」
「......いや、謝るのは俺の方だ。」
トベに非はない。ハヤトと本気でそう思っていた。まぁ、ヒナに対して暴走気味だったことには、正直頭を悩ませたものだが、それを差し引いても、色々と自分を助けてくれた。
「色々びっくりしたけどさ、ハヤト君なりに、何とかしてくれようとしたんでしょ?そんで、ヒキガヤ君も。俺もあれから、馬鹿なりに色々考えたんよ。」
ハチマンを"退場"させたことまでは、ハヤトの計算通りだった。まぁ、自分の預かり知らぬところで、ヤマト達が彼をダンジョンに置き去りにしたことについては、正直かなり焦ったのだが。ただ、肝心のハチマンについては、ロキファミリアに助けを求めることで、大事には至らなかったから、軌道修正は出来たと言える。
あの旅行でハチマンを"退場"させることはハヤトの計画の内だった。そして、イレギュラーはあったものの、自分が指示したということで話は纏めたし、現在進行形で、ハチマンは存命だ。自分たちのファミリアから遠ざけることに成功し、彼も生きている。充分すぎる結果だと、ハヤトは思っている。
「トベ......」
正直、告白云々については、自分が止めても良かった。ただ、ヒキガヤを追い込めば"何かしらの自己犠牲"でユキノやユイの反感を買うことは予想できていた。だから、敢えて放置した。ユキノとユイから引き離し、彼をオラリオに置き去りにするチャンスを見つけるために。
「それにしても、ハヤト君も考えたもんだよな。ヒキガヤ君を死んだことにして、オラリオに置き去りにするなんて。」
「それしかやりようがなかったんだ......。」
アシュタルテは危険な主神だ。自分たちのことを"目的達成"の駒としか見ていないのは明らかであり、尚悪いことに、帝国を司る神達の中でも発言力は随一だ。そして、彼女の目的は、オラリオに住まう神々への復讐......。
ハヤトがアシュタルテから取引を持ちかけられたのは、昨年末のことだ。
ユキノとの将来を約束する代わりに、やがてやって来るオラリオへの侵攻の準備を手伝うこと。それが、彼が主神から提示された取引......もとい命令だった。
そして、ハチマンをダンジョンに置き去りにしたことをトベが聞きつけ、ハヤトに食ってかかったのは数日前の出来事。そこで、オラリオに戻ると言って聞かなかったトベにだけは、真実を打ち明けたのだ。
アシュタルテの企みの裏をかいて、彼女を天界に追放しようとしていること。
ハチマンは生きていること。
ハチマンが近くにいれば、間違いなくアシュタルテに利用されること。
だから、ハチマンを引き離したこと。
ユキノとユイ、その他近しい仲間達についても、頃合を見計らって、ファミリアから遠ざける算段であること。
「それは、わかってるよ。ロキファミリアに拾ってもらうことは出来なかったけど、代わりにめちゃくちゃ強いお姉さんに拾われたんでしょ?」
「あぁ。黒拳......かつてオラリオを震撼させた元賞金稼ぎだ。」
うおお、と、トベは身体を竦める。ハヤト自身も、彼女と相対した時は正直、恐ろしくて仕方がなかった。
「そこだけ聞くと恐ろしいわ......。でも、そのままにしてきたってことは、信用してるんよね?」
「あぁ。これでも彼女のことはしっかり調べたつもりだ。今の彼女は信用に足ると思う。それに、かつての"あの"ミア・グランドの酒場だ。いい隠れ蓑になるだろ?」
ハチマンが、黒拳......ルノア・ファウストに拾われたのは僥倖だった。今の彼女はフレイアファミリアのかつての主力"ミア・グランド"が営む酒場、豊饒の女主人の店員であり、周りの同僚達も達人揃いと聞いている。特に、"黒猫"と"疾風"、そして"
「確かに。そうそう手は出せないよねぇ。ま、帝国から外に出した時点で一応は安全なんだろうけど。」
トベがうんうんと頷いたところで、出航のアナウンスが流れる。間もなくこの船は帝国を離れて、自らの海路に向かうようだ。
「まぁね。......寂しいけど、これでお別れか。」
トベはハチマンの力になりつつ、こちらがどうしようもなくなった時は、必ず二人で戻って来てくれるとまで言ってくれた。あんな別れ方をしてしまったが、彼のことは心配だし、何より、自分が失敗したら、アシュタルテはオラリオへの侵攻を始める。それこそ、帝国の他の主神を巻き込んで。
大きな金が動くオラリオは、他の主神にとっても大いに魅力的なのだ。そして、帝国領には"欲の強い"神が多い。何より、思慮が浅い愚かな神達が立場を固めている。その神たちをあの女神が唆すなど、容易なことだ。
だからこそ、アシュタルテを止めなければならない。オラリオから追放された恨みを心に灯しながら、自分達、人間の負の感情を目の当たりにすることに喜びを覚える、あの狂気じみた女神を。
「また会えるよきっと。それじゃハヤト君、くれぐれも気をつけてくれよな?」
トベとハヤトは力強く抱擁を交わす。
ハチマンとハヤトは今でさえ対立派閥となってしまったが、数年前までははトベと合わせて"若き帝国の三銃士"などと言われて、将来を渇望されていた彼らである。そして、ハヤトはそんな二人に対して、思い入れは人一倍あった。
「あぁ。トベもな。たしか、西から迂回してオラリオに向かうんだよな?」
「うん。アルテアで妹ちゃんを拾ってから、ヒキガヤ君に会いにいくよ。少し時間はかかるけど、その方がヒキガヤ君も喜ぶっしょ。」
トベは魔法国アルテアにて、ハチマンの妹であるコマチ・ヒキガヤと合流してから、オラリオに向かう予定である。紛争が激しかった頃に、安全な場所に隔離するという意味で、ハチマンは親戚のいるアルテアにコマチを送ったらしい。
自分達とハチマンが知り合った後、ハチマンに会いに帝国に訪れた際、トベもコマチとは一度だけ会ったことがあるから、顔を見ればすぐにわかるだろう。
「シスコンだからな、あいつは。」
「んだ。間違いねぇ。」
ハヤトとトベは笑い合う。ハチマンのシスコンぶりは、ファミリアの中では有名な話である。
「それじゃ、今度こそバイバイだな。」
「うん。ヒナのこと、宜しく頼んだよ。」
抱擁を解き、トベは巡航船へと歩みを進める。
「任せろ。俺の命に変えてもみんなのことは守ってみせる!」
昔と何ら変わることのない、ハヤトの