俺がダンジョンでミノタウロスに襲われるなんてまちがっている。 作:ねこps
さてさて、実は前回までが序章~第一章でした。
色々描きましたが、ハヤマ達の裏切り。ハチマンとルノアの出会い、デメテルファミリアへの加入までが主な出来事ですね。
今回から新章開始です。
時系列などは出来る限り整合性を持たせていきますが、いかんせん、オリジナル展開MAXで行きます。苦手な方はごめんなさい。
それでは、本編一発目。余談ですが、明日の君さえいればいい。という曲を聴きながら筆を進めました。自分の中での第一章におけるテーマソングですね。
あらすじにもあった通り、さがみんが物語に食いこんできます。描いてて、ヒロイン力高くね?なんて思ってしまったのも余談です。
それでは、ようやく第二章開始です。
これからもどうか宜しくお願い致します。
ねこ
2-1.赤髪少女と少年
「お前、サガミ......か?」
不定期に行っているダンジョン探索(ベルの教育)を終えた後、"豊饒の女主人"にて、ベルと一緒に食事を取っていたハチマンの目に入ってきたのは、見覚えのある赤髪の少女、ミナミ・サガミだった。
少しの間でいいからと、自ら期限を設定し、二人のパーティに入れて欲しいと嘆願するミナミ。
なし崩し的に結成されたものの、意外にも息の合った連携を見せる、束の間の
ベルの成長とミナミの潜在能力に、内心舌を巻くハチマン。全てが順調に見えた。だが、ミナミが定めた期限は、彼女にとっても、ハチマン達にとっても重大な意味を持っていて――?
「デメテル様、俺は......」
「何も言ってくれなくてもいい。でも、私は端から、契約を結んだその時から、ハチマンのことを信じている。信じ切っている。当たり前だけど、それが"親の務め"でしょ?」
これは、傷だらけの少年と、神を呪った少女の軌跡。そして、彼らを見守る母が"共"に記す、
――"
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第二章.愚者への処方箋
プロローグ.
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前衛から回復役まで、幅広く対応することができる戦闘員。その臨機応変な立ち回りから、パーティの
「おいおい、
「まぁまぁ、ミナミさんも頑張ってくれていますし。ふふっ。」
燐光に照らされながらダンジョンを進んでいるのは、5人ほどのパーティ。6層の中間あたりまで進んだところで、今日もまた、罵声が飛ぶ。
「はっ。1人でモンスターに止めもさせない。回復も中途半端、お前らだって迷惑してんだろ?こんな雑魚がいるお陰で、パーティー全体が足踏みしてるんだからよ!」
本来は苦手である筈の前衛と、仲間の回復を片っ端から行った少女に対し、先頭を歩いている、パーティーのリーダーらしき男は、苛立ちを隠そうともしない。
それに続くように、罵倒、そして、嘲笑する声が、広いダンジョンの中に反響していく。
バランスよく多彩な役割をこなせると言えば、聞こえはよい。だが、その実、その呼び名は、このオラリオにおいては"
「大丈夫ですか?
「あ、ありがと......」
少女は、仲間の一人である女性から回復薬を受け取ると、助かったとばかりに、素早く口に運ぶ。だが、口の中に広がったのは、まるで腐敗した水のような酸味。そして、なんとも言えない奇妙な味だった。
「う......ゴホゴホっ......ゲホッ......」
「あら、ごめんなさい。間違えましたわ。」
「ぶっ!お前それ、モンスター避けの魔法薬じゃねーか!わ、笑かすんじゃねーよ。くくっ......」
激しく咳き込む少女のことを、誰も気遣うことはない。
パーティは助け合い、互いの足りない箇所を補い合うもの。
少女は、そんな言葉を聞いたことがあった。
詭弁にも程がある。今の彼女は素直にそう思っている。
そんな矜持を持って冒険に挑んでいる連中が、今のオラリオにどれだけいるのだろう。
「顔は良かったから置いてやったが、中身はつまんねー奴だわ、働かねーわ、ヤラせてくれねーわ。これなら、違う奴を雇った方がマシだったぜ。」
この
"せめて、私達の盾役くらいにはなってくれると助かるわ"
"そうそう。幾ら傷だらけの身体になっても構いやしねぇ。あ、顔だけは守っとけよ?醜い顔見ながら冒険なんか後免だからな"
前方から聞こえてくる声に、痛みは感じない。いつしか、何を言われても"辛い"と感じなくなった。
――使えないんだから盾にくらいなれ。
何度も何度も言われた言葉だ。それこそ、耳にタコができる程に。
(ええ、わかってますよ。ふふ......)
激しく咳き込んだ後、歩みを進めた仲間達の後ろ姿を見ながら、思わず頬を緩めてしまった。
あの少女に感謝しなければ。素晴らしい提案をしてくれた、あの"名前も知らない"少女に。
目には目を、歯には歯を。
それが、私がアンタ達、
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じり、じり、と土を噛む音が鳴る。
四方八方を薄緑色の壁に囲まれた辺り一帯。
【ルーム】と呼ばれるダンジョン内の開けた空間にて、俺はベルの戦いぶりを観察していた。
ベルの右手には、アイツの主神であるヘスティア様から贈られたという、
名前通り、蟻の姿をしたモンスターだが、その身体はベルと同じくらいの大きさだし、くびれた腰を起点として上半身は起き上がっている。ぶっちゃけ、キモくて仕方がない。
ベルには悪いが、早く進むか、もしくは帰りたい。
思わず溜息をつく。だが、心の中はなんとも言い難い、達成感のようなものがあった。
ダンジョンに入ってから、かれこれ数時間が経過したが、俺がベルと一緒に戦ったのは初めの一時間程度である。その際に、キラーアントとの戦い方を指南したのだが、あの少年は、この短時間で危なげなく、それを自分のものにしてみせた。
目の前で次々と転がっていくモンスターは、デカいだけの蟻。というわけではなく、ぶっちゃけ初見殺しの厄介な敵なのである。
まず、奴らが持つ4本の鍵爪は、5層までのモンスターと比べて格段に攻撃力が高い上に、身体の表面を覆っている外殻はやたらと硬い。加えて、追い込まれると"仲間を呼ぶ"という必殺技を使う。どうやら、蟻同士にしかわからないフェロモンを撒き散らすようだが、これがまた、高い防御力との相性が抜群なのだ。
倒しきれなくて逆に致命傷をもらう。もしくは、仲間を呼ばれて嬲り殺しにされる。
これが、初見の冒険者が陥るパターンである。
それならどうするか、という話だが、答えは簡単。一撃、もしくは二撃目で確実に息の根を止めることだ。いくら硬いとは言っても、勿論弱点はあって、甲殻の隙間を突くことが出来れば、しっかりとダメージは通る。
まぁ、どうしても接近戦の連続になるから、短期決戦で仕留めるには、甲殻をもろともしないような攻撃力、もしくは、キラーアントを上回るよう素早さがあるのが条件だろうな。ちなみに、ベルは後者だったが。
「それにしても......成長速度早すぎじゃね?アイツ。」
ベルから自身のダンジョン探索に同行して欲しいと頼まれたのは、つい先日のことだった。ただ、久しぶりの再会というわけではなく、あいつは暇を見つけては酒場に来て、俺に色々と聞いていたから、実はあれからほぼ毎日会っていたのだ。
あれだけ暴力を振るわれた相手に、ここまでフレンドリーに対応出来るのだから、中々ベルは大物なのかもしれない。
......おっと、目を離した隙に、ベルは全てのキラーアントを狩り終えたらしい。
嬉しそうに駆け寄ってくるのはいいが、全身血だらけで真っ赤なのは何とかして欲しい。まさか、その状態で街に帰るつもりじゃないよね?
内心ハラハラしている俺だが、"やりました!"などと意気揚々に話す少年に、思わず笑みが零れてしまう。
殴りあった時から戦闘センスはそれなりだと思っていた。ただ、それ止まりだった。
――冒険者向きではない。
ベルの純粋さと天然タラシに絆されて、最終的にはなあなぁになったが、その評価は変わらなかった。
だが、一週間ほどが経過した今日正直、驚かされ続けている。
あのナイフも業物なのは間違いないが、それだけではない。この短期間に6層を危なげなく進めるようになったのさ、紛れもなく、ベルの成長の賜物だ。
「......まぁ、暴れ回ったな。だが、流石に血は拭いてくれ。そのままじゃ、街に出たら大騒ぎになる。」
「あ、前もエイナさんに怒られました。」
一回やらかしてるのかよ。内心突っ込んでしまった。ちなみに、エイナさんというのは、ギルドの受付嬢の一人で、ベルの担当者である。俺の担当はミィシャさんという桃色髪のお姉さんだが、まぁ、まだ余り話したことはない。挨拶を交わした程度である。
「取り敢えずその格好で俺に近寄るな。血を拭け。」
「は、はい。へへへ......。」
手の甲を向けて、しっしっと自分から離れるように促す。頑張るのはいいけど、血なまぐさいんだわ、ほんとに。
「......おい。やっぱ待て、まだ残ってたわ。」
「あ!」
何故か嬉しそうなベルに呆れながら、一瞬気を抜いたが、背後からモンスターの気配を感じて、すぐに気を引き締める。二人同時に振り向くと、やはりというか、キラーアントの姿があった。
「そうだ。ベル、ちょっと試してみろ。」
「え?」
今にも駆け出しそうなベルを呼び止め、簡単な指示を与える。今日はいいかと思ってたが、まぁ、今のこいつなら問題ないだろう。
すると、ベルも同じことを考えていたらしく、"やってもいいんですか!?"などと言い出した。別に100%俺の言う通りに動く必要はないんだがな......。まぁ、まだ駆け出しだし、多くを望みすぎるのは酷というものだろうが。
ベルは駆け出し、いきり立っているキラーアントに正面から仕掛ける。
俺がベルに出した指示は一つだけ。
――首を取ってこい。
それだけだ。
怒声と共に迫ってくる左腕をかわし、右腕を切断。そして、武器をなくした右側面へ回り込み、ベルは思い切り、漆黒の刃を突き上げた。
「うおおおぉ!!!」
普段の優男ぶりからは想像がつきづらい、威勢の良い雄叫びをあげながら、ベルはナイフを持つ手に力を込めて、キラーアントの首へ刃を滑り込ませた。
そこに至るまでの動きは、ほとんど"自然体"で無駄な動作は見当たらなかった。上出来だろう。
サンッ、と小気味いい音とともにナイフが流れ出ると、キラーアントの首は宙を舞い、やがて、地面と濃厚なキスを交わすこととなった。
「......うん、いい!」
刀身を振るい、付着した体液を飛ばしながら、ベルは満足そうに
どうやら、かなり手に馴染んでいるらしい。
(まるで、新しい玩具を買ってくれた子供みたいだな......)
純粋すぎるその姿に、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
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「ふむ。キミがハチマン君だね。ベル君がいつもお世話になってるみたいで。」
「いえ、腐れ縁みたいなものなので......。」
「く、腐れ縁って......」
酒場にてお互いに自己紹介を交わした後、俺とヘスティア様、そしてベルは、ミアさん製の料理を楽しみながら世間話に興じていた。
既に外は暗くなっており、続々とダンジョン帰りの冒険者達が集まってくる。本当に、いつもいつも賑やかな場所だ。ここは。
「まぁ、仲良くしてくれてるようだし、ベル君をボコボコにしたことについては、この際不問とするけど。」
「っ!?」
「か、神様!?」
ガタッという音を響かせ、俺とベルは座っていた椅子ごと後ずさった。オイオイ、この神様、神気を向けてきたぞ......。俺の以前の主神もことある事に飛ばしてきたが、そんなポンポン飛ばしていいもんなの?神気って。
「あはは。冗談だよ。そんなに怖がらないでおくれ。」
ヘスティア様はてへぺろっと舌をだしてごめんなさいをする。可愛いけど怖いから。初対面で神気を飛ばすとか、物騒な神様だなまったく......。
内心ビクビクしていると、ルノアさんが飲み物を運んでくる。
「ほいお待たせ。飲みすぎないようにね。特にハチマン君。この子すぐ酔っ払うから、ヘスティア様にクラネル君も気をつけてね。」
「いや、貴女のペースについていくと死ぬだけ......いててっ!」
営業スマイルの欠片もない、眠そうな表情でドリンクを持ってきた挙句、お客様の背中をつねったよこの店員。まぁ、俺は客ではないんだろうけど。
そして、その様子を、ヘスティア様は目を丸くして見ている。
「な、何か私変なこと言いましたかね?」
神様の視線を浴びて、ルノアさんは後ずさる。
「いや、ちょっとびっくりしただけさ。なんというか、デメテルが嬉しそうにしていたのがわかるよ。」
ヘスティア様はあはは、と笑う。
「デメテル様?お知り合いだったんですか?といか、最近お会いになられたんですか?」
「うん。わりと昔からのね。それで、野菜を分けてもらいがてら、今日の昼間に行ってきたんだよ。」
「そ、そうだったんですか......」
ルノアさんは納得したようだ。というか、この人が畏まってるの珍しいな。こんなロリ体型でも、流石は神様というべきか。
「ふふ。君達はいい主神と出逢えて幸運だと思うよ。デメテルはボクなんかよりも、よっぽど出来た神様だ。大切にしてやってくれよ?」
ベルは隣で、神様も出来た神様ですよ!なんて言ってやがる。いや、ヘスティア様のこと大好きなのはわかってたけど、あからさまに褒めるのはどうなんだ。そう思ったら、この神様も赤くなってやがる......。
「......はい。」
「......了解っす。」
目の前で繰り広げられている夫婦漫才もどきは置いておいて、ルノアさんと俺はヘスティア様に返事をする。
「......コホン。まぁ、二人と色々あったようだけど、ボクもデメテル同様、これからの君達に幸運が訪れるように祈ってるよ。」
ニコリと微笑んだヘスティア様は、まるでお伽噺に出てくる女神様のようだった。......まぁ、実際女神なんだけど、この、若干酔っ払った姿を見るとね。うん。
この後は、他愛もない話をしながら、平穏な時間が流れた。
途中、シルさんがベルと話にきたり、それをリューさんが無表情で横で見てたり。ベルが顔を真っ赤にしてたり、色々あった。
取り敢えずわかったことは、ベルを危険に晒した奴は、ヘスティア様に抹殺されるということ。うっかりダンジョンの奥まで連れてって大怪我させた、なんてことがないように、マジで気をつけようと思った。
......平和な時間が流れるのは早いもので、気がつけば、酒場に入ってから数時間が経過していた。
ベルたちはまだ盛り上がってるし、俺は用でも足しに行くか、そう思い立ち上がると、背中に"ドン"という衝撃が走った。
「す、すみません......。」
どうやら、俺の後ろに座っていた女性と同時に立ち上がってしまったようだ。女性はペコペコと平謝りを始め、俺もそれにつられるように頭を下げる。
「いえいえ、こちらこ......そ?」
「......ぇ?」
ほぼ同時に顔を上げると、思わず見つめあってしまう。
「お前、サガミ......か?」
「ぇ、うそ。ヒキガ......ヤ?」
暫く会っていなくて顔も忘れかけていた。というか、当時はショートカットだったのに、今は髪も腰まで伸びているし、何より、少し背も伸びて大人びた雰囲気になっている。
思い返せば、数時間前から後ろに居たはずだが、見た目も変わっているし、気づかないのも無理はない。
こうして俺は、思わぬところで前ファミリアの同期、ミナミ・サガミとの再会を果たしたのだった。