俺がダンジョンでミノタウロスに襲われるなんてまちがっている。 作:ねこps
もっと言うと、悔しかった。
何年も一緒に居たのに、何も出来ずに離れ離れになってしまった私達。
既に、後悔は無駄だ。
いつの日か、笑って再会するためにも、今は他力であろうと何であろうと、縋ってやろう。利用してやろう。
もう、形振り構うつもりはなかった。
――薄暗くなった空き地に響く、轟音
大広場の一角では、何事だと言わんばかりに、探索帰りの冒険者達が少しずつ数を増やしていく。
「ヒキガヤ君......」
私はというと、思わず祈るように手を合わせて彼を見つめていた。一歩踏み出そうとして立ち止まる。そんな無駄な行為を、先程から続けている。
見かねたのか、ヒラツカ副団長が私の肩に手を置き、首を横にふるふると動かした。
「ユキノシタ、辛いなら先に戻ってもいいんだぞ?」
私とヒラツカ副団長は、今日中にはオラリオを発つ予定になっている。主神であるアシュタルテ様の身辺調査など、色々とやることもある。もう少しこの地に留まっていたいのが本音だが、私達はのんびりとしていられないのが実情なのだ。
ヒキガヤ君が居なくなってから、彼女の動きはさらにきな臭くなってきている。先日も、他の神を打ち倒して大勢の団員を引き込んだばかりだというのに、また侵攻の準備を進めている。
それこそ、オラリオに旅行に来たことすら、彼女からの指令でもあった。
オラリオにおける現在の勢力図を調査し、同時に複数の侵入ルートを探せとの仰せだった。ヒキガヤ君は作戦から外れていたから、基本的に私達とは別行動だったが。主神、アシュタルテはヒキガヤ君にやたらと拘っているように見えた。基本的に過保護だったし、遠征にも同行はさせなかった。
まぁ、何かと歪んだ感情は感じていたし、ハヤマ君もそこら辺を危惧してヒキガヤ君を引き離したんだろう。例のスキルについて打ち明けられた時は、流石にアシュタルテ様のところに怒鳴りこもうとしたものだ。
彼女が狙って顕現させたわけではないだろうが、なんというか、フォローの一つもしていないらしい主神に怒りを覚えた。結局、ヒキガヤ君に止められたのもあって、私が動くことはなかったが。
会った頃はそうでもなかったが、最近のアシュタルテ様は何を考えているかわからなかった。ここ1ヶ月で引き込んだファミリアの数は、数えること、6つ。戦力を次々と膨らませて、一体何をしようというのか。まるで、どこかに戦争でも仕掛けようとしているようにしか見えなかった。
そして、いよいよというか先日の集会で、今年中にオラリオを落とす意向であることが告げられた。聞くところによると、帝国政府にも根回ししており、各方面から助力も得られるらしい。......愚かすぎる。幾らオラリオの魔法石とダンジョンが魅力的だからといって、武力で奪おうとするなど。
......旅行中の彼は彼で、ファミリア内の人間関係維持に尽力してくれていた。それがまさか、あんなことをしでかすなんて思わなかったけど......。
思い返せば返すほど、私達には落ち度しかなかった。
余裕が無かったとはいえ、私とユイさんだけでも彼を気遣ってあげれば、彼が少しでも頼ってくれれば。
3年以上も一緒にいながら、結局は一番大切なところで離れ離れになった。なるべくしてなった。
ハヤマ君の狙い通り、ヒキガヤ君を私達から引き離すにしても、別れ方というものが......なかったか。事情を話せば彼はきっと"また"矢面に立つ。
というか、頭のいい彼のことだ。
私達のファミリアが良からぬ方向に進んでいると、間違いなく感じているだろう。だからこそ、ヘイトをハヤマ君や私に向けてくれれば、きっと戻ってこようとは思わない。
「いえ。彼の辛さに比べればこれくらい......私が弱音を吐くわけにはいきませんから。」
そう。私は弱音を吐くわけにはいかない。聞くところによれば、ヒキガヤ君は"良い場所"に拾われたようだ。ちゃっかり後輩なども作って、戸惑いながらも毎日を生きてくれているらしい。
五体満足で生きていてくれるだけでいい。今度は私達が頑張るから。作ってあげられられなかった居場所――今度こそ私が貴方を護ってみせる。
尤も、彼が抱える厄介な"体質"やスキルについて力になることは、ついに出来なかった。そこは、フィンさんが責任を持って何とかすると言ってくれた。恐らく、この戦闘もその一環なのだろうが、果たしてどうなるか......。
吹き飛ばされるヒキガヤ君の姿を見て、胸が傷んだ。
今更ながらに、"彼"が言っていた言葉の意味を思い知る。
――任されたよ。だけど、
ドSめ......
思わず私は、心の中で舌打ちを鳴らした。
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当たらない、避けられない、逃げられない
互いに打ち合うこと10分と少し。
ハチマンの攻めは悉く弾かれ、かわさる。対して彼は、フィンの攻めを避けきることすらできない。直撃こそ回避しているが、小さなダメージが、徐々に徐々に、積み上がっていく。累積して、大きな打撃となっていく。
そんな中、ハチマンが目の前の男に対して感じる感情は、畏怖――そのもの。
「
声が震える。これは、彼の率直な気持ちを表した言葉だった。だが、畏れを感じると同時に、嬉しくもあった。
かつて己が憧れた領域に、目の前の男は足を踏み入れている。それはやはり、自分では届かない。届くはずがない領域であること。それを、改めて分からせてくれた。
幼き日に憧れた、あの
だが、目の前――フィン・ディムナは、勝ちを諦めているような、達観したような態度をとっている、そんな彼に不快感を感じていた。
自分から距離をとりつつ、息を切らしながら剣を構えるハチマンのことを、挑発するような、見下したような笑みで見つめ、フィンは口を開く。
「......君にいいことを教えてあげよう。君達の、正確には、君の妹さんの父親のことだが......」
ハチマンは一瞬目を見開いたが、すぐに興味がなさそうに気だるげな表情を浮かべる。
「......死んだ奴のことに興味はない。」
彼等の父親、ユイト・ヒキガヤは、ハチマンとコマチが幼き日に死んだ。紛争地域の救助活動中に、女の子を庇って致命傷を負ったのだ。結局、ユイトが少女を庇ったすぐ後、彼らの周りで大爆発が起こり、その後、彼の姿を見たものは居なかったそうだ。間違いなく、呆気なく死んだのだろう。ハチマンは疑いなく、そう思っていた。
殆ど家におらず、挙句いつの間にか死んでいった父親。そのお陰で、自分はともかく、コマチはとてつもなく辛い想いと過酷な境遇を強いられた。
世間的には褒められた行為でも、ハチマンは父の行為を肯定はできなかった。納得はできても、認められなかった。今も尚。
嫌悪感を滲ませるハチマンに無表情で視線を送り、フィンは言葉を続ける。
「最後まで聞くんだ。まだ君の、君達の父親は、生きている。何処にいるか、大体の当たりもついている。なにせ、僕も彼とは浅からぬ因縁があってね。」
ハチマンの呼吸が更に早くなる。そして、目の前の男が何を言っているのか理解するのに、さほど時間はかからなかった。
「......」
「君が勝ったら、続きを話してあげるよ。どうだい?」
差し出される提案。普通に考えれば、オラリオトップの冒険者に勝つなど、不可能。
「......は、はは。」
だが、ハチマンは身体を震わせながら笑い、剣をフィンに向けた。
「......乗った。その代わり、嘘だったら死んで詫びてもらう。アイツの話は、俺達兄妹にとってそれだけの意味を持ってんだ......!」
子供を守れないような親が、一体何を護ろうというのか。実の子であるコマチに、あそこまで辛い思いをさせた男が、一体何を守れるというのか。だから、ハチマンは偽善者が嫌いだった。
そいつが、のうのうと生きているというのだろうか。彼等の前に顔も出さずに。
「ぐ......オオオオオオォォォォ......!」
禍々しい雄叫び、そして、全身から発せられる、どす黒い
「そうか。......これが、"君"かい。やっぱり、血は争えないものだね。」
既に、ハチマンの耳にはフィンの言葉は届かない。いや、正確には、遠くにしか、聞こえない。
張り詰めた空気がぴりぴりと、周りを震わせる。
辺りは少しずつ、暗くなっていた。
フィンはじっと槍を構えながら、真っ直ぐにハチマンを見据え、次に彼がどう動くのかを見定めている。対するハチマンも動かない。いや、この場合は動けないと言った方がよいだろう。
朦朧とする意識の中、目の前の小さな男に勝利するビジョンは、悉く八つ裂きにされる。踏み込んだ瞬間、目にも止まらぬカウンターが飛んでくる。距離を取ってカウンターを狙おうにも、凄まじい速さで間合いを詰められて防戦一方になる。魔法で攻撃したとしても、倒しきるのは不可能。何より、彼の魔法は"燃費"が悪い。持久戦になれば間違いなくマインドダウンで倒れてしまう。
「......さて、と。それじゃ!」
先に動いたのは、勇者――フィン・ディムナ。
響いたのは、鮮烈な風切り音。迫るのは、フィンの愛槍ドラグーンの切っ先。ハチマンはそれを、真正面から受け止めた。
「が、はっ......!?」
アームガードと短剣を用いて、槍の進撃を何とか静止する。それと同時に、ハチマンの視界は反転し、身体は真横にひっくり返る。
フィンは防がれたと見るや、その手に握られた槍を離し、回し蹴り。状況判断の早さ、そもそものステイタス、全てにおいて劣っている。
フラフラしながら立ち上がるハチマンを、フィンは目を細めながら見つめ、地面に落ちた槍を再び手に取る。
その様子を、野次馬もといギャラリー達は戸惑いの表情で見守っていた。
フィンの後方で戦況を見守っている、ティオネとティオナも同様だ。
「うあっちゃー......。容赦ないなぁ。」
「......団長らしくもない。何であんなに......」
ティオネとティオナはハチマンを気遣う。今のフィンは、それなりに本気を出しているように見える。そして、怪しげな能力を持っているようだが、所詮はLv.3。フィンと相対するなど、無謀以外の何者でもない。
「ウアァァァァ!」
「駄目だ」
獣のように飛びかかり、剣を振り回し――再び、吹っ飛ぶ。
呼吸は乱れ、ぼんやりとする頭。そして、視界はチカチカしていた。だが、それでも彼は、ゆらりと立ち上がる。
「......ゾンビじゃないんだから。君の、その無茶苦茶な戦い方はどうかと思うよ。」
フィンが呆れたようにそう言った後、恐ろしい速度の突きがハチマンの鳩尾を突く。だが、攻撃をまともに喰らいながらも、反撃。前のめりになったフィンの攻めを甘んじて受けつつ、手にしていた短剣を一閃した。
「っ!」
一瞬だけフィンは顔を歪める。頬に短剣が掠った。だが、掠っただけだ。
「君は......痛みに慣れすぎているね。」
「......はは。流石、レベル6。よく......見てる......」
ハチマンは自嘲するような笑いを浮かべ、短剣を構える。痛みは確かに感じる。だが、彼は痛いことへの恐怖は感じていない。痛覚はあるが、それを恐ろしいと感じることはないのだ。もっと言うと、自分の身体、命に執着がない。だから、生存本能であるはずの、"痛みへの恐怖"もない。
だからこそ取れる、捨て身の戦法。
ハチマンか格上の相手と戦う時は、いつも半殺しかそれ以上の深手を負う。その代わり、殺し合いには負けたことがなかった。
ユキノやユイに出逢うまで、仲間に恵まれず、一人で妹を守ってきた彼が編み出した、立派な戦法。
「ぐ......」
既にハチマンは、かなりのダメージを喰らっていた。そして、意識が朦朧とする中で、彼の意識は先程よりと更に、どす黒いものに染まっていく。
――殺してしまいなさい。嬲ってあげなさい。悲鳴を聞くのが好きなんでしょう?苦しみと嘆きに喜びを感じるのでしょう?
耳元に、妖艶な女性の声が響く。
「ぐっ......ウガァァァァァァ!!!」
またしても飛びかかり、狂ったようなステップと斬撃。
「......疾いな。」
防ぎながらも、フィンは感嘆する。ドーピング状態とはいえ、このスピードはオラリオでもついていける者はそういないだろう。
「ウナレ......」
まるで螺旋のように、ハチマンは抜刀した刀を振り回し、今日初めて、フィンの身体を捉える。
――
先程、新しく仕入れた一品。
フィンは目を細め、自らの槍で防ぐも、一刀、二刀と身体を掠めていった。だが、隙は多い。これなら、カウンターで沈めることも容易だろう。
猛撃を耐え凌ぎながらも、フィンはそう思った。
勢いに任せてハチマンは刀を両手に振りかぶる。フィンはそんな彼を視界にしっかりと捉えつつ、槍の持ち手部分を思い切り上に突き上げた。丁度、心臓辺りにヒットすると、呻き声とともに、ハチマンは後方へと吹っ飛んだ。
先程よりも更にどす黒いオーラが、ハチマンの周りを漂う。地面に膝をつき、息を切らしながらも、彼はまるで獣のように、反撃の機会を探っているようだった。
もはや、彼の言葉は言葉になっていない。
――呻き声。まるで獰猛な獣のようだ。
「......ここまでするつもりはなかったけど、試してみる価値はあるか。リヴェリア。後で彼を治療してやってくれ。ついでに僕も。」
「フィン、お前......」
すぐ後ろに控えていた盟友に声をかけ、フィンは大きく息を吸い込む。
彼が"飲まれる"ことがあるのは、ハヤマ君とユキノさん、シズカさんからも聞いていた。
だが、これは飲まれるなどという生易しいものではない。かつてフィンが見上げるだけだった女性がいた。壊れるか保つか、絶妙なバランスの中で戦っていた女性がいた。そして恐らく、ハチマンの壊れ方は彼女以上だということは、フィンにはよくわかった。
既に彼は自分をコントロール出来ていない。だが、まるで自我を保とうとするかのように、自らの胸に爪を突き立てている。
ある種、彼の原点でありトラウマである人物を挙げて、煽ったのはフィン自身だ。だが何も、虐めるためにそうしたわけではない。
彼女も最後は自分に打ち勝った。その姿を、幼いながらもフィンは見ることが出来た。
それからだ、フィンが英雄に憧れたのは。勇者を名乗ったのは、何も一族の復興のためだけではない。
「......恐れるな。僕は君より何倍も強い。間違っても死にはしないさ。」
今となっては忘れ形見。だが、こんな所で会えるなどと、フィンは夢にも思っていなかった。
「ぐ......オオオオオォ!」
ハチマンが無言で剣を振るうと、暗黒色の小さな球体がフィンに向かって投げ出される。それを、ロキ・ファミリアの団長であり、オラリオの"勇者"である男はひとつ残らず捌いてみせる。
「ホロビヨ......」
両手で握りしめた長身の刀を、思い切り振り下ろす。
ハチマンの動きは早かった。が、単純だった。隙だらけだった。消耗した状態で、格上も格上。力の差がある相手との力勝負など、具の骨頂。
槍をしっかりと構えたフィンに、彼はまたしても吹き飛ばされる、筈だった。
「やめなさい。ロキの子よ。」
神々しい。正に、その言葉が相応しすぎる程に相応しかっただろう。
ハチマンを庇うように、両手を広げて立ち塞がる彼女の姿は、やはり、慈愛の女神そのものだった。
「っ!?」
無意識に、ハチマンは刀を止め、体勢を崩して地面に転げ落ちる。
そして、フィンの槍は、鋭い金属音と共に弾き飛ばされた。
「......本当なら、ボコボコに叩きのめしてやりたいところだけど......」
「ルノア。いいから。」
女神の制止を受けて、黒拳の少女はフィンを睨みつけながらも、拳を収める。だが、その身体はワナワナと震えており、今にもフィンに向かって飛びかかりそうな雰囲気を醸し出している。
「黒拳に......女神デメテルか。......そうか。彼は貴女の眷属だったね。」
地面に転がった槍を拾いながら、フィンはデメテル達の方に視線を送る。やや、バツの悪そうな表情を浮かべながら。
「貴方にしては些か、意地悪が過ぎるのではありませんか?これ以上遊ぶつもりなら、こちらにも考えがありますよ?」
倒れ込んだハチマンの傍に駆け寄った後、デメテルは淡々とフィンに警告の言葉を述べる。二人のやりとりを聞いていたデメテルとしては、事情がありそうなのは百も承知していたが、それでも全くもって腹立たしいのは事実だった。
「......やめておこう。貴女と事を構えるつもりはないさ。だが、"君"はこのままじゃ先はないと思う。"それ"はわかっているんだろう?」
「余計な......お世話、だ。ロキ・ファミリアの団長様は、ドSかよ......」
フィンの忠告に対して、ハチマンは息も絶え絶えになりながら、デメテルの腕の中で何とか言葉を返す。
「それだけ喋れるなら大丈夫かな。......女神デメテルに黒拳さんも。今度、謝罪に寄らせてもらうよ。」
フィンはデメテル達に向かって、ペコリと頭を下げる。
「......貴方のことは憧れでした。今もそうです。」
いつの間にか近くに来ていたミナミが、フィンに向かって一歩踏み出す。
「......」
フィンは言葉を発さずに、目の前の少女の言葉を待つ。
「でも、先程の貴方の行為は決して肯定できません。私も"少しは"ヒキガヤの事情は知っていますが、間違ってもあんな強引で雑な真似はしません。勇者フィン。今日だけは、貴方のことを軽蔑します。」
ミナミはユキノ達程ではないが、ハチマンの事情を知っていた。とは言っても、オラリオに戻る少し前に、たまたま小耳に挟んだだけだったが。
「そうかい。」
フィンは一言だけ、少女にそう返した。なんだ、オラリオに来ても"相変わらず"いい仲間が居るんじゃないか。そう心の中で思いながら。
「......覚えとけ。」
「え?」
もう一人の少女の声に、フィンはそちらに視線を変える。ルノアの声は震えていた。不思議なものだが、会って一週間程度の少年は、既に彼女にとって"手のかかる"身内のような存在になっていた。
彼の不遇な姿を、無意識に昔の自分に重ねているだけなのかもしれない。純粋な善意から来るものでもないかもしれない。それでも、彼女は言わずにはいられなかった。
「せいぜい、上から見下ろしとけ......。だけど、この子はいつか、アンタのことを追い越す。"私"が超えさせてみせる。」
かつては自分本位な賞金稼ぎ。彼女自身認めているように、血に汚れた、お世辞には綺麗とは言えないその手。だが、確実に、彼女の中で何かが変わりつつあった。
「......楽しみにしておくよ。」
フィンは一瞬だけ目を見開いた後、仲間の下へと戻っていく。その姿を、ルノアとミナミは憎々しげに見つめており、デメテルは表情を変えずに見送っていた。
やがて、ギャラリーも徐々にまばらになっていき、先程まで激しい戦いの場と化していた広場には、暗闇と静寂が訪れる。
「大丈夫ですか?ハチマン。......あら?」
察したデメテルは、ハチマンの顔を両手で優しく包み込んだ。
「......なんで、逃げない、んだよ......。」
ハチマンは先程の"醜い"姿を見られたとわかったとき、契約を打ち切られると思った。今迄の神がそうだったし、ユキノ達、そして、一つ前の主神を除いた仲間達は、大体が彼から離れていった。だから、デメテルもルノアも、ミナミも逃げ出すと思った。
「何を言ってるんだか。......よく頑張ったわね。あの化け物相手に、あそこまで戦えるなんて。正直、惚れちゃいそうだったわよ?」
「......馬鹿なんすか?」
悪戯っぽく微笑む女神に、ハチマンは本気で呆れた。本当に、不思議な
「頑張った。頑張ったのよ。だから、讃えることはあれど、逃げるなんて有り得ないわ。それこそ、母親失格でしょ?」
「ま、私も大概化け物って言われてるし、似たようなもんでしょ。」
「......腐れ縁だからね。それに、"あの"小心者のヒキガヤだし。今さらアンタにビビったりしないって。」
想い想いの言葉。それぞれが、心から出た本物の気持ちだった。
痛みも怖さも感じないが、暖かさだけは、確かに感じた。
――暗闇の中で静かに響いたのは、確かな嗚咽だった。
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次回:雪の妖精
「フィン殿。私はまだ20代です。そう、20代なのです。」
「そ、そうかい......失礼したね。」
オラリオの勇者を前にして、自分の年齢についての力説を続けるヒラツカ副団長を横目に、思わず私はガックリと肩を落としてしまった。
ここまで来て年齢のアピールをしないで欲しい。まぁ、30手前に追い詰められて、焦るのはわかるのだけれど。
――これは、表舞台ではない、裏側の話。
コソコソと動き回りながらも、彼を見守る者達の、お話。
私は全力で戦うわ。ヒキガヤ君。
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ユキノ・ユキノシタ(前衛・剣)
年齢:17歳
出身:帝国領ヴァルドリンド
所属:アシュタルテ・ファミリア
二つ名:氷の妖精
Lv.3
力:C601
耐久:D559
器用:A898
敏捷:S922
魔力:D599
疾風:I
先読:G
«魔法»
ミーア・ティアラ
全体回復(小)
氷の嘘(アイシクル・ダウト)
魔力付与(氷)
«スキル»
氷乱刹那(ひょうらんせつな)
常時発動可能。氷の雨を無数に降らせ、目の前の敵を八つ裂きにする。