『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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ジョニーよ、今、たち上がる時 (後編)

朝、目覚めると。

「おぃーーっす!」と言わんばかりに、ジョニーがテントを立てていた。

 

中御門(なかみかど)領に滞在して、三日目。

南無瀬(みななせ)邸で徹底的に『処理』したとしても、三日も経てば性欲は溜まる。

人生において最も性欲旺盛な時期。周りは絶賛ウェルカム状態の女性一同。この状況下でムラムラするな、という方が無理だった。

 

「性欲を持て余す」

誰に言うでもなく呟くと、ジョニーが早くテントを畳むよう、俺は世界平和について思いを巡らせた。

 

 

 

「グッモーニンッ、三池氏。今日も今日とて良い男で、眼福と言わざるを得ない」

自室を出ると、当たり前のように廊下で待機していた椿さんと出くわす。

 

「おはようございます。あれ、音無さんは?」

 

「凛子ちゃんは本日の食事当番なので、台所」

 

中御門邸で世話になっている南無瀬組だが、極力食事は自分たちで作るようにしている。

タダで泊めさせてもらっている手前、食事くらいは自分たちで……というのは建前で、真の理由は、俺が口にする物に変な成分が混入されないための用心である。

 

由良様を信用していないわけじゃないものの、大勢の中御門邸スタッフの中に良からぬ事を考える輩がいないとも限らない。というのが南無瀬組の考えらしい。

 

自立心が強い南無瀬組員の多くは料理が人並み以上に出来るため、食事事情に不満はない。唯一、椿さんだけは飯マズを通り越して(悪い意味で)飯テロを起こすので、料理当番から外されていた。

(はなは)だ遺憾である」とは椿さんの弁。

 

 

「先導する」

 

先を行く椿さんの後ろ姿を見ていると、ついつい視線が彼女の太ももに吸い寄せられる。

この前の妄想では、あの御御足(おみあし)をそれはそれは堪能させてもらった。

妄想でも素晴らしかったのだ、現実の肌触りは如何ほどか……などと思っていたのが悪かった。

 

『おっ、今日は朝からお盛んどすなぁ』とジョニーが再び元気になる。

 

「くっ!」

邪心を捨てるべく、全力で頭を振る俺を、

 

「ん? 三池氏、どうかした?」

振り返って怪訝そうに見る椿さん。

 

「な、何でもありません。起きたばかりで、眠気がぶり返しただけです」

 

「……本当に?」

 

「本当です! さあってとお腹も減りましたし、さっさと居間に行きましょう」

 

納得していない顔の椿さんと共に、一階まで来ると。

 

「あっ、おっはようございま~す! 今日はあたしが朝食を作ったんですよ!」

 

ハイテンションの音無さんが嬉しそうにやって来た――その()で立ちがよろしくない。

 

防具はエプロンで、武器がおたまの禁断装備である。

なんだって妄想通りの格好をしているんだ、危険だ。

 

妄想における音無さんは、当初普通のエプロンだったのに、ちょっと目を離した隙に裸エプロンになり、さらには肩にかけたヒモをわざとズリ落として攻めてきた。その誘惑する様は、テーブルにおかずが一品追加されるようだった。

 

「お、おはようございます。た、楽しみだなぁ、音無さんの料理」

 

「んー? 何だか今日の三池さん、よそよそしくありません?」

 

「んなこたぁありませんよ。いつも通りの(ほが)らかな俺ですぅ」

 

「喋り方もどことなく変ですよ」

 

やめてくれ、こちらの顔色を窺うように覗き込まないでくれ、しかも下から!

服の首元より奥に潜む、グランドキャニオンが見えてしまうじゃないか。

 

いかん、ジョニーが『もっと自分に素直になってええんやで』と(かたく)なな理性を優しく説得してくる。おのれ、小賢しいっ!

 

「お、おれ、顔と手を洗ってきます!」

 

「あっ、三池さんっ」

「三池氏?」

 

訝しがる二人を置いて、俺は逃げるように――いや、実際逃げているのだが手洗い場へと急いだ。

 

ところで、南無瀬組が借りている『離れ』の手洗い場は脱衣場でもあり、風呂と直結している。

普段の俺は、誰かが風呂やシャワーを使っていないか慎重に確かめて、手洗い場に入るようにしていた。

が、この時はそんな余裕無く、慌ててドアを開けた――だから。

 

 

「ひゃっ、た、拓馬はん!?」

 

風呂上がりの真矢さんと遭遇してしまった。

パンツはかろうじて穿いているが、上半身は素肌を晒している。首から垂れ下がるバスタオルのおかげでR指定部分はギリギリ見えていないが、限りなくアウトに近いアウトだ。

 

「な、な、なぜに朝から風呂ェ?」

 

「昨晩な、遅ぅまで仕事してたさかい、目覚ましに朝シャンしとったんや」

早口で説明しながら、俺に背を向ける真矢さん。

 

日本のラブコメなら、女性の着替えシーンに出くわした男は悲鳴とビンタの一発でも喰らうところだが、不知火群島国の女性の反応はまったく違う。

 

むしろ真矢さんは。

「す、すぐ服を着るさかい、ごめんなっ」

と、自分に非があるかの如く申し訳なさそうにする。

 

「い、いえお構いなく」

 

「構うで、変なもん見せてしもうたし」

 

こちらを背にして、イソイソと着替える真矢さん。

こういう時、ラブコメの主人公は「お前、わざとやっているだろ」と言わんばかりに長々と現場に居座るが、紳士たる者、即退出するのがマナーである。俺は五秒だけ真矢さんの裸体を見つめ、記憶の最重要フォルダに光景を保存すると、手洗い場を後にした。

 

 

しばらく、廊下で突っ立っていると。

 

「待たせてすんまへん」

 

赤い顔の真矢さんが手洗い場から出てきた。

 

「拓馬はんも手洗い場を使いたいんやろ、どぞ。うちの所為で湿っとるから気分悪いかもしれへんけど」

 

「そんなそんな、全然気にしませんよ」

 

「ほんま? それに拓馬はん、うちの若くもない身体を見たやん。吐き気とかない?」

 

真矢さんは、何を言っているのだろう?

 

吐き気どころか最高だった。

 

良い感じに熟れた肌は尊く、設定の甘かった妄想をガンガン補強してくれた。水気(みずけ)を帯びた髪は清らかさを演出していて辛抱たまらなかった。

痩せすぎもなく、太すぎもなく、目立たないほど小さくもなく、垂れるほど大きくもない。中道こそ真理なり。そんなお身体を自虐するとは何たることかっ!

 

――という賞賛と叱咤の言葉を、オブラートに包んで失礼のないよう、俺は力説した。

 

その結果。

 

「ほんとうに? ありがとう、拓馬君がわたしの事を……そ、その『そういう対象』に見てくれて……あ、ご、ごめんね、調子に乗っちゃって。で、でも凄く、嬉しいの」

 

真矢さんは目を潤ませ、零れそうになる涙を手で拭ってハニかんだ。

 

ジョニーが『もう、ゴールしてもいいよね?』と言う。

気持ちは分かる。このあざとさには完敗で乾杯だ、もう脱帽するしかない。

 

「あっ、三池さん! 全然居間に来ないから心配しましたよ~」

「朝食は一日の活力。欠かさず食すべし」

 

廊下の向こうから音無さんと椿さんはトタトタと駆けてきた。

 

音無さんの身体が上下する度に、彼女の大きな胸が揺れる。

椿さんが足を動かす度に、スリムな脚が美しさを誇示する。

 

ジョニーが『今、たち上がる時』と主張を強める。

 

もう、俺は限界だった――

俺を好いてくれる人たちが、俺を囲んで、心底幸せそうに話しかけてくる。

ここにいたら、俺は、俺は――

 

その時、何かが壊れた。

 

 

「うわあああああああ!!」

無意識である。無意識に、全てを振り切って走り出す。

 

「三池さん!?」

「三池氏!?」

「拓馬はん!?」

 

驚く面々から遠くへ、どこまでも遠くへと走る。

行き先なんてない。誰もいないところがいい。俺とジョニーが落ち着ける場所へ、ただそこへ――

 

 

 

「きゃっ!?」

 

「うわっ!?」

 

『離れ』の玄関前で、ある人物とぶつかりそうになった。

 

「た、拓馬様? いかがなさいました?」

 

由良様、どうしてここに?

よくよく見ると、彼女は手提げの紙袋を持っていた。どこかのお土産だろうか? それをお裾分けするために来たのか。

 

「鬼気迫るお顔をなさっていますよ。何か困り事がありましたら、ワタクシに相談を」

 

優美、秀美、絶美。あらゆる美を体現する由良様が、無警戒に近付いてくる。

 

だ、ダメだ! 由良様、あなたは聖域なんだ。

知り合いをオカズにした俺だが、由良様だけには手を付けなかった。清楚な彼女には犯しがたいオーラがある。汚すなんて出来ない。

由良様はいつまでも綺麗なままでいて欲しいんだ。

 

でも、これ以上由良様の魅力を浴びちまったら、俺はきっとヤラかしてしまう。そうならないためには――

 

「来ないでくださぁぁいぃぃ!!」

 

「あっ、拓馬様!?」

 

逃げる。ひたすらに逃げる。

俺は、ゴルフ場並に茂って広がった中庭へと躍り出るのだった。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

「あんた、ちょっといいかい?」

夕食が終わって、僕が部屋でテレビを観ていると、妙子が訪ねてきた。

 

「どうしたのかね?」

「会ってほしい人がいるんだよ。今からあたしの執務室まで来てくれ」

 

意外な頼みだ。僕と誰かが接触するのを、妙子は嫌がるのに。

 

「どなたかね、僕に会いたいのは?」

 

妙子は渋い顔をして言った。

 

「――中御門由良様だよ」

 

 

 

『こんばんは。お久しぶりですね、中御門由良です。こんな時間に、突然お呼びして申し訳ありません』

 

妙子の執務机に置かれたテレビ電話の先で、由良様が謝罪する。

 

僕は伸び切れるほど背筋を伸ばして「こ、こんばんは。今は男性アイドル事業部で、い、一応責任者を務めさせていただいています、南無瀬陽之助です。三池君たちが、いつも、お世話になって、あ、ありがとうございます」と噛み噛みで挨拶をした。

 

いきなり国主と会談してくれ、だなんて無茶振りにも程があるぞ、妙子ぉぉ!

 

「ぼ、僕にどのようなご用件があるのですか?」

 

年齢的には僕より十も若い彼女だが、人生経験では圧倒的に上だ。

醸し出される上位者の空気は、テレビ越しでも僕の心臓をバクバクさせてくる。

 

『拓馬様のことで、お聞きしたいことがあります』

 

「三池君の?」

 

『今朝から拓馬様のご様子が不可思議で、南無瀬組の出張班も、ワタクシ共も困惑しています』

 

三池君の様子が不可思議?

はて、っと僕が腕を組んでいると、後ろで僕らの会談を覗いていた妙子が口を出した。

 

「真矢から連絡があったんだがねぇ。今日になって急に三池君が周りを避けるようになったらしい。何かに怯えるような素振りでねぇ。さらに、突然叫んで庭を走り出した挙げ句、警備用ロボットと番犬を相手取って激しいデットヒートを繰り広げたらしい」

 

『ご乱心の理由を拓馬様にお尋ねしたのですが、後生ですから勘弁してください、とおっしゃるばかりで……マネージャー様や男性身辺護衛官の方々も心当たりがないそうで、困っております』

 

「そ、それで彼と近しい同性である僕の意見が聞きたい、ということですかね?」

 

『お願いします、陽之助様。拓馬様の変調について、思い当たることはありませんか?』

 

思い当たること……思い当たること……ううむ……あっ!?

 

「もしかしたら」

 

『あるのですねっ!!』

 

ヒッ、由良様が射殺す勢いで僕を凝視する。

 

「い、いえ、あくまで、ぼくの考えで、正解かはわかりませんが……」

 

『今はとにかく情報がほしいのです。不確定だろうと貴重なご意見になります。ぜひ、洗いざらいに暴露してくださいませ』

 

由良様はもっとお淑やかな人だと思っていたのに、この喰い付きっぷりは尋常ではないぞ。

 

『た、拓馬様に忌避される日常……心の臓が握り潰されそう……ソンナノ耐エラレナイ』

 

なんかブツブツ言っていて恐ろしいのだが!

 

「あたいからも頼む。報告してきた真矢たちの顔は酷いもんだった。三池君にセメント対応されたのがよっぽど堪えたらしい。目から一切の光が消えて、唇は紫色、呪い殺される直前のような顔をしていた。あいつらを救うためなら、些細な助言でも大歓迎さ」

 

僕の知らない間に、南無瀬組は崩壊の危機に瀕しているようだ。

アイドル事業部責任者として、仕事をしなくてはいけないね。

 

「……先日、三池君に相談を受けました」

 

『相談? 内容は何でしょうか!』

 

「……下半身事情についてです」

 

『まあっ!?』

 

まさかのシモの話に、由良様が口に手を当てて驚いている……が、瞳はランランと輝いているのは僕の見間違いだろうか。

 

「性欲を持て余す、そう三池君は言っていました。僕たち不知火群島国の男性は、妻との性活と精子提供を行うため、性欲を持て余すことはありません。しかし、三池君は特定のパートナーがおらず、精子提供の義務もない。発散先がなく、モンモンとしているようでした。ただでさえ、彼はニホン出身で性欲が旺盛なようですし」

 

『性欲が……旺盛ッ』

 

由良様がビクンビクンと震えているのは僕の見間違いだろうか。

 

「そんな三池君のことです。もしかしたら、周りの女性を性的な目で見てしまい、自己嫌悪に陥って、それで避けるような態度を取っているのかもしれません」

 

『……はっ!? と、いうことは拓馬様にツレない態度を取られたワタクシは……』

 

「おそらく、性的な対象として認識されているのだと思います」

 

『まあっ!? まあっ!?』

 

由良様がキャッキャッと跳びはねそうになっている。彼女の目がランランからギラギラに変わったのは僕の見間違いだろうか。

 

「なるほどねぇ。さすがはあたいの旦那だ、目の付け所がいい。由良様、こいつは煮詰める必要のある意見ですよ」

 

『そ、そうでございますね。ありがとうございます、陽之助様。あなた様の助言、あらゆる角度から検討しなければいけません。一番の解決策は特定パートナーを作ることでございましょうか? 拓馬様の性欲を受け止める女性を置けば』

 

「しかし、三池君の安全は、彼がフリーであるため成り立っていると言えます。あたいの見立てでは、三池君が誰かとネンゴロになった場合、嫉妬にかられた他の女性たちが後に続けとばかりに押し寄せてくるでしょう。性欲を持て余すとは打って変わって、干からびるまで搾り取られる恐れがあります」

 

『む、確かに。妙子様の言い分には一理あります。拓馬様が多数の女性に襲われるなど、ワタクシの本意から大きく外れます』

 

特定パートナー案を妙子に切り伏せられ、由良様はとても残念そうなお顔をした。

 

『で、あるのでしたら、もっと他の案を……』

 

「うちの組の者にも案を募りましょう。全員の死活問題です、早急に解決しないといけませんねぇ」

 

「あ、あの由良様に妙子。ニホン出身の三池君は、割り切っている僕らより下半身事情にデリケートだから、その辺りを思いやった行動をだね……」

 

蚊帳の外に置かれつつある僕の言葉が、話し合いに熱を入れ始めた二人の耳に届いたのか、それはハッキリしなかった。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

最近、南無瀬組の人や中御門邸の人とギクシャクしている。

それもこれも、ジョニーを制御出来ない所為だ。

 

はぁ、憂鬱だ。

 

精神が不安定な俺のために、真矢さんが中御門での仕事を一週間休みにしてくれた。

おかげで、この一週間は性欲を持て余すこともなく、悠々と暮らしてきたが……

 

「また数日間、中御門でムラムラの日々か」

 

本日から再び仕事解禁である。さらば性欲的な意味でのモラトリアム。

 

南無瀬邸を出て、中御門に旅立とうとしていると、玄関まで見送りに来たおっさんがこう言った。

 

「三池君、どうか気を強く持ってほしい」

 

「なんですか、いきなり?」

 

「これから中御門邸に赴いた君へ、大きな驚きが降りかかるだろう。心してくれたまえ」

 

「ぶ、不気味なんですけど。大きな驚きっていったい……?」

 

「すまないが、僕の口からは言えない。サプライズということになっているからね。でも、それでは君の心が耐えられないから言うのだよ。心してくれと」

 

意味深なおっさんの言葉は、俺の耳に強く残った。

 

 

 

中御門空港から中御門邸へ。

道中、やたらニコニコしている南無瀬組の人々が、俺の不安を加速させる。ついこの前まで、俺に冷たくされたと絶望していた彼女たちが、どうしてこれほどの笑顔を……

 

その答えは、同じく澄み切った笑顔の由良様に案内され、南無瀬組用の『離れ』に着いた時に判明した。

 

離れの隣に見慣れぬ建物がある。

一週間前、ここを出る時には影も形もなかったのに、悠然と建っている。

 

急ピッチで作られたとおぼしき建築物は、一階建ての小屋。

だが、掘っ立て小屋でもプレハブ造りでもない。

丸太を切り取って組み合わせた立派なログハウスだ。小ささも相まって童話の絵本に出てきそうな佇まいをしている。

 

「あ、あれは何ですか?」

 

震える手でログハウスを指さす俺に、由良様は微笑みかけた。

 

「拓馬様専用の()()()()()空間です」

 

「お、おくつろぎ?」

 

「ワタクシの落ち度で、これまで拓馬様がゆったりと出来るプライベート空間が中御門邸にはございませんでした。さぞ鬱屈とさせたことでしょう、大変申し訳ありません」

 

「いえ、そ、そんなことは……それにしても、よく一週間くらいで作れましたね?」

 

「拓馬様が()()()すると知るや、建築会社の人たちが寝る間も惜しんで働いてくれました。あれは人間を超えていましたね」

 

「は、はぁ……じゃ、じゃあ、ここって俺の好きに使っていいんですか?」

 

「ええ、ごゆるりと使()()()くださいませ」

 

さっきから由良様の言葉に含みがあるのは気のせいか。

ま、まあ深くは考えまい。それより、気が休まる場所が増えるのは大歓迎だ。早速、中を見てみるか。

 

俺はログハウスの扉を開け……ウキウキしていた顔を強張らせた。

 

な、なんか見たことのある内装をしているぞぉぉ!!

 

 

寝転がれるスペース! 座り心地のよい椅子! 高画質のテレビ! 片手でめくれるブックスタンド! 

たくさん常備されているティッシュ!

 

また、本棚には巨乳物、美脚物、オフィス物のグラビア本やエロ漫画がギュウギュウに詰められている。あれ? 端っこに巫女物まで挟まれているじゃないか。

 

 

「こ、ここって……?」

 

ログハウスを取り巻いて、すんごく優しい顔をする面々に尋ねる。

 

「心配せんでええよ。この建物は換気機能がバッチリやし、防音がちゃんとされとるし、外からは中が見えへん」

 

「安全装置が多数設置されていますんで、三池さん以外の人物が入ればすぐに分かります。盗撮や盗聴がないかも毎日チェックしますよ!」

 

「ログハウスは私たちの目と鼻の先。三池氏が使用している時は、温かい目で見守る」

 

 

『だから、安心して性欲を発散してくださいね』

みんなの目がそう言っている。しかもその視線は俺の顔ではなく、ジョニーに注がれているようだった。

 

「…………み、みなさん」

 

泣きたかった。恥ずかしさや悲しさや憤りが全身を駆け巡り、膝を突いてむせび泣きたかった。

でも、これは善意が起こしたこと。だったら、俺が言えるのはこれだけだ。

 

「ありがとうございます。大切に、使わせてもらいます」

 

 

 

 

善意は時として悪意より人を傷つけることがある。

ジョニーは死んだ。あまりの辱めに耐え切れず、パンツの中へ埋没していった……

 

 

俺はログハウスではなく、自分の部屋へ行き二時間ねむった……

そして………目をさましてからしばらくして、ジョニーが死んだ事を思い出し……

……泣いた……

 

 


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