『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

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【ほんわか家族交流】

「祈里も紅華も鎮まりなさい! 天道家ともあろう者がエキストラのようにザワつくとは情けない」

 

「でも美里伯母さん! 写真の車をよく見て! お(ちち)が源泉垂れ流し状態なんですよ!」

 

「明らかなパンモロですわ。お母様も()かれるものを感じるでしょう?」

 

「オリジナル造語で共感を求めるのは止めなさい……だけど、祈里と紅華の言い分も分かるわ。確かに写真の車を見ていると、()かれる欲求(もの)を感じます。十中八九、タクマ君が乗っているのでしょう」

 

美里伯母さん、祈里姉さん、紅華がオカルト染みた特殊能力で三池氏の存在を感知した。

おっふ、実にピンチ。ニュータイプの巣窟みたいな実家に居る常識人(わたし)はどうすりゃいいんですか?

 

「歌流羅お姉様がへばり付いた車には、タクマお兄ちゃんが乗っていた。間違いないよね?」

 

咲奈が確信に満ちた眼差しを向けてくる。何もかも見通しているのか、それともカマをかけて私がボロを出すのを待っているのか。

うむむむ、臆してはいけない。たかだか十歳程度のお子様にやられる私ではない。年長者としての威厳やら余裕を示す時!

 

「だがちょっと待ってほしい。タクマ氏の姿が確認されない以上、咲奈の指摘は想像の域を出ていないのでは? 『祈里姉さんたちの性癖センサーがビンビンに反応しているから』は著しく客観性に欠けるからNG。明確な証拠無くして私を追い詰めることは出来ない」

 

「往生際が悪いよ、歌流羅お姉さま」

 

まったく怯まない……だとっ。

 

「逆に聞くけど、南無瀬組を辞めようとしていたお姉さまが、どうして南無瀬組の車の上でハッスルしていたの? 納得のいく説明ができる?」

 

「それは……若さ故の過ちと言うべきか……テンションに身を任せ過ぎたと言うべきか……」

 

「著しく客観性のある答えが聞きたいなぁ~」

 

こちらの言葉を引用しての煽りとは……咲奈、さらに出来るようになった。

 

咲奈たちを納得させる説明――

三池氏の飾り気のない説得(比喩なし)により「三池氏は私ルートに入った。ルートの締めは合体シーンがお約束。いざCG回収」と喜び勇んだ私が、車に飛び乗ってドライブを楽しんだ。それだけのこと。

 

ふむ、言えるわけがない。

真実を口にすれば「なるほど、そうか」とみんな納得して――「じゃあ、死のうか」と襲い掛かってくる。重傷を負っている私では対処に手を焼くだろう。

 

と、いう事で生存率を上げるべく取る選択は。

 

「今日は有意義な時間だった。天道家に戻るつもりはないが、名前だけ知っている近所の人程度の距離感で、今後とも付き合ってもらえると有難い」

 

退散、この手に限る。

 

そもそも車上ハッスルの秘密を変態共に明かす理由はない。ちなみにこれは舌戦で勝てない故の撤退ではなく、無意味な姉妹ケンカを避けるための大人の対応なのであしからず。

ソファーから痛みを堪え立ち上がり、居間の出口へと向かう。

 

「お待ちなさい! まだ話は終わっていませんわ!」

「中途半端なところで逃げるなんて、そんなの卑怯だよ姉さん!」

「…………そっか……はぐらかすんだ……悪手だね……お姉さま」

 

背中に浴びせられる姉妹の声を無視してクールに去る。

みんな、私と三池氏の間でただならぬ事が起こったのでは――と勘繰りつつ、悶々とするといい。

 

「卑しいわ。ええ、まったく見ていられないほどに。姉や妹を切り捨てて、自分だけタクマ君とネンゴロになるつもり? そんな卑劣女にタクマ君がなびくかしら?」

 

「私が卑劣……」

 

鈍感力を発揮して祈里姉さんたちの声をスルーした私だが、美里伯母さんの声に含まれる煽り成分にはつい反応してしまった。

 

「邪推よくない。私はダンゴとしての職業精神と男性愛護の博愛精神で、南無瀬組の椿静流として生きていく。恥じる事は一片たりとも無い」

 

「ぬけぬけと。もしもタクマ君がモーションを掛けてきたら、愛護を愛撫にすり替えてベッドインする気でしょ?」

 

そらそうよ――と言いそうな口を制御して。

 

「愚問。私にとってタクマ氏は守るべきもの。押し倒して、衣服をひん剥いて、ひとしきり全身を舐めて、濃厚なハグを織り交ぜつつ、仕上げとして上と下の口から精気を搾り取る――そんな襲い方をしていいものではない」と返す。

 

「否定しているようでプレイの段取がバッチリじゃないの。嫌だわぁ、怖い」

と、頬に手を当ててオーバーに反応していた美里伯母さんだったが。「でも、よくよく考えなくても要らぬ心配だったわね。ごめんなさい」

一転、表情を柔らかくして言い切った。

 

「ぬぅ、急な心変わりだと……」

 

「歳を取ると疑り深くなるものね、気を付けなくちゃ。歌流羅は一年間タクマ君と一緒に居てナニもなかった。それこそが歌流羅が卑劣ではなく、職務に忠実なダンゴである証拠ですもの。普通の女性なら手練手管で彼を堕とすか、無理やり関係を築こうとして刑務所送りになっているでしょうし」

 

「そ、そう、その通り。理解してくれたようで何より」

 

「ああ、他にも可能性があったわ! 四六時中タクマ君の傍にいながら関係を深められないほど恋愛下手か、彼の歯牙にも掛けられていないほど魅力がないのか……おほほ、歌流羅に限ってそんなことないわよね?」

 

「……あ、当たり前。だって、私は……」

 

私は三池氏に半裸で「行かないでください!」と引き留められるほど深い仲になっている!

そう宣言したい。私を見下す天道美里に。私よりずっと後に三池氏と知り合ったくせにグイグイと接近してくる姉妹に。

だが自重、これは美里伯母さんの罠。心を乱してはいけない。

 

押し黙る私へ、懐に潜り込んでくるような美里伯母さんの撫で声が迫る。

 

「歌流羅……あなたがどう思っているのかは分からないから、勝手に喋らせてもらうわね。もしもよ、タクマ君を本気で手に入れたいならあたくしが全力でバックアップするわ。あたくしだけでなく、先代、先々代の天道家の者も」

 

「…………」

 

「たとえタクマ君と夫婦になったとしても姉妹制がある分、祈里、紅華、咲奈も妻としてくっ付いてくる。それを不満に思うかしら?」

 

「お母様! 歌流羅の意思を無視して話を進め過ぎですわ! それに姉妹制の話題はとても繊細、落ち着いた場で論ずるべきです」

 

祈里姉さんが事態の収拾にかかる。

姉さんが慌てて止め役を務めるのは、『姉妹制』が天道家を空中分解させるほどの危険物になってしまったから。

 

天道家における姉妹制で一番得をするのは長女、祈里姉さん。第一夫人の座につき、年齢が一番高いため子作りの順番は最初となる。

妹たちは長女がイチャイチャヌチャヌチャの限りを尽くした後で、ようやく手番となり、やつれた旦那を相手にできる。これを不満に思わない女がいるものか。

歴代の天道家でも潜在的に問題だっただろうが、夫が三池氏となれば問題は確実に表面化する。

 

紅華や咲奈も三池氏に熱烈執心中。祈里姉さんと三池氏のベッドプレイが終わるのを指をくわえて大人しく待つだろうか。

否、圧倒的否。

あのファザコンとブラコンは反旗を翻し、下克上を狙うに決まっている。

最早、軽々しく『姉妹制』を語る時代は終わった。

祈里姉さんが諫めにかからねば、今ここで紅華と咲奈は爆発して、血の気たっぷりの修羅場が形成されるかもしれない。

 

「祈里、人の話は最後まで聞くものよ。あたくしはちゃんと考えているわ」

「お、お母さま……で、ですわよね? 申し訳ありません」

 

爆弾に火を付けたのに涼し気な顔の美里伯母さん。きっと深い考えがあるのだろう――と、察して祈里姉さんが胸を撫でおろす。

 

「さて、歌流羅。姉妹制を廃し、あなただけをタクマ君の妻にすることは不可能ではないけれど、世間体的に難しいわ。代わりと言っては何だけどタクマ君を射止めた暁には、()()()()()()()()()

 

ファッ!? こ、この伯母、なんてことを……

 

「へっ? お母様? 第一夫人は私じゃ……?」

 

あっダメ。祈里姉さんがダメ。顔面を硬直させ、身体はガクガクと震えだしている。

 

「長女が優遇されるのは相応の責任を果たし、明確な結果を出すため。祈里は誇示できる結果があるの? 一応言っておくけど、パイロットフィルム対決を制したのは、あなた一人の力ではないからノーカウントよ」

 

「…………そ、そんな……かはっ……」

 

警戒を解いて油断した瞬間に、致命的な一撃。

あって当然と思っていた第一夫人の座を、あろうことか実母によって砕かれた。祈里姉さんの動揺は計り知れない。

 

「事ここに至っては自分の子だろうと平等に扱うわ。歌流羅がタクマ君を天道家に迎え入れたのなら、問答無用で第一夫人よ。伝統に反するなどと周りから声が上がっても黙らせる。あたくしはこの決定を撤回しない!」

 

大変なことになった。

言語機能を失ってパクパクと魚リスペクトで口の開閉を繰り返す祈里姉さんは放置するとして――私は紅華と咲奈へと視線を移す。

 

「えぇと、それってつまり」

「ふぅん。手間が省けるかな?」

 

妹たちは気付いてしまったか。

 

美里伯母さんの発言は私と祈里姉さんに揺さぶりをかけると同時に、紅華と咲奈に発破をかけた。

すなわち『三池氏を天道家に引き込んだ功労者が第一夫人になる』と。

 

「やった。あたしの父摂生(ふせっせい)な日々にも光明が!」

「予定を繰り上げてタッくんをトロ散らかせるんだね」

 

紅華と咲奈が温まってきている。獣の呼吸でハァハァ感が凄い。

 

先ほど美里伯母さんが口にした言葉を思い出す。

 

『タクマ君を本気で手に入れたいならあたくしが全力でバックアップするわ。あたくしだけでなく、先代、先々代の天道家の者』

 

あの中に今代の天道家が入っていなかったのは、競い合わせるためか……

ただでさえ弱かった姉妹の絆が、修復不可能なほどバラバラに砕けてしまった。

 

 

究極的な話、美里伯母さんは誰が第一夫人になっても良いのだろう。

三池氏を天道家に取り込み、優秀な次代を作れるのなら天道家は安泰。ヘタレ女郎で望み薄な祈里姉さんをあえて立てる必要はない。

実子だろうと家のためなら優遇しないか……

 

美里伯母さんの態度からは、天道家の継続と発展に向けた覚悟が窺える――ように見えるが。

 

私は騙されない。

 

 

『タクマ君を義理の息子(甥も広義的に義息)にして息子シチュを愉しみたい。欲を言えばオプションとして反抗期を付け、バイオレンスなスキンシップ有りで』

 

冷徹を装っているが、その瞳はMスコンに汚染されている。

この伯母、一族の伝統や未来より己の性癖を優先している……業が深いってレベルではない。

 

パンツァー、ファザコン、ブラコン、ムスコンにしてドM。

天道家にこびり付く性癖(業)のおぞましさを痛感する。

 

こんな変態共に三池氏を渡すのは超絶NG。

さらに三池氏が天道家に婿入りしてしまえば、私の母や祖母やその他親戚までが能力者ならぬ性癖者として覚醒する恐れが……うっぷ、想像するだけで吐き気を催す。

 

なんだかんだ精神力のある三池氏でも、増産された変態を前にすれば今度こそメンタルブレイクするだろう。

 

――させない。

 

「妄言を吐くのはそこまで。天道家にタクマ氏を婿入れする資格無し!」

 

ダンゴは護衛対象の身体だけでなく心も守るもの。

元家族のよしみで姉妹や伯母の変態行為に甘い対応をしてきたが、これ以上の蛮行は絶許。

 

「タクマ氏は至高の存在。祈里姉さん、紅華、咲奈、それに美里伯母さん、選りすぐりの変態共にタクマ氏を渡すのは人類史に残る汚点」

 

「ひどい、歌流羅お姉さま。わたしのどこが変態なの? おかしな所は何もないのに」

「パンツ狂いの祈里姉さんはともかく、あたしは普通だし。変なこと言わないでよ」

「ちょ紅華! 私だって品行方正ですわ。パンツに関しては通常趣味の範囲にギリギリ入っている……入っていますわよね?」

「祈里は切り捨てるとして、あたくしまで変態呼ばわりとは……吐いた唾は飲めないわよ」

 

変態の第一条件は己を変態と認識出来ないこと。つまり全員、手遅れ。

ハッキリ「あなた変態。どこに出しても恥ずかしい変態。悔い改めて、どうぞ」そう言及し、自覚症状を促さなくては。そして、金輪際三池氏に近付くなと警告する。

拒否するのなら肉体言語を用いるまで。

 

未だ傷は癒えず本調子ではないが、三池氏のことを思えば無限の力が湧いてくる。付属物である無限の情欲も痛覚を鈍くしてくれるので好都合。

やれる、今の私でも変態共を御すことは可能。

 

 

「……ッ……ッ……ありが……ございます……ゆえちゅ……溢れて……ぷしゅ……」

 

変態と言えば、醜い家族の争いを喜々として撮影する堕メイドも居たか。

『ゆえちゅ』という謎なエネルギーが吸収過多している模様で、全身をビクンビクンさせている。それでもカメラを回し続けるガッツは見習いたい――わけがなく朽ちればいいのに。

アレは手遅れと言うより、生まれた時から終わっている生物。もっとも直接三池氏を襲う危険は低いので、対処は天道家を修正してから。

 

ともあれ――

やや過激な家族交流を始める。


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