『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル   作:ヒラガナ

62 / 341
主人公がアレになっていますが、次回にはまともに戻ります。


姉妹制とロリコン疑惑

南無瀬邸に戻り、夕食と風呂を頂いた俺は明日の『みんなのナッセー』特別公演の打ち合わせに備え、早めに就寝しようとした……のだが。

 

「やられたわっ!?」

 

苛立つ声と共に訪問してきた真矢さんによって、敷く途中の布団を押し入れに戻す羽目になった。

 

「わぁふぅ、お風呂上がりで湿った感じの三池さんも良いですねぇ、パジャマ付きで色っぺぇです。じゅるり」

 

「夕食後だが、さらにご飯三杯いけそう。さすが、三池氏。最高のおかず」

 

息を吸ってセクハラを吐くダンゴたちも、さも当然のように入室してくる。

 

「何かあったんですか?」真矢さんがここまでイライラしているのも珍しい。

 

「さっきオツ姫はんから特別公演の件で電話があったんや」

 

オツ姫さんこと心野(こころの)乙姫(おつひめ)さんは、『みんなのナッセー』のフロアディレクターだ。見た目は青髭のオカマだが、正真正銘の女性である。

 

「オツ姫さんから? 明日会うのに、わざわざ電話してくるなんて」

 

「天道咲奈や」

 

「えっ?」

 

「天道咲奈が仕掛けてきよった! 『みんなのナッセー』の特別公演にあの子も参加するんやって。重要な話さかい、オツ姫はんはあらかじめうちらに知らせてくれたんや」

 

「咲奈たんが……」

 

マイラブリーフェアリー咲奈たんと一緒に舞台に立てるのか……おお! 燃えてきたっ!

 

思わずガッツポーズする俺だったが、なんだか周囲の反応が芳しくない。

 

「これは重傷」

額を押さえる椿さんに――

 

「拓馬はん、うう……戻ってきてや」

涙目になる真矢さんに――

 

「そんなに『お兄ちゃん』が良かったんですか! ならあたしも言いますよ。三池お兄ちゃん♪ どうです? 存分に萌えてください。気に食わないなら、兄さん、兄様、兄くん、あにぃ、アニキ、にいに、あんちゃん、なんでも対応できますよ!」

年上の音無さんが視界の隅で妹志願をしているけど、そっとしておこう。

 

 

「三池氏、忠告する。天道咲奈への深入りは危険」

 

「咲奈たんに俺が? はは、深入りだなんて大げさですよ。咲奈たんとは少ししか喋ってないのに、深い情をかけるわけないじゃないですか」

 

「ほんなら、その『たん』は何やの! ずっと『たん』付けやん」

 

そう言えば、俺はどうして咲奈たんを咲奈『たん』と言っているのだろう。

あまりにも自然過ぎて気付かなかったぜ。

 

きっとキャラクターが持つ雰囲気に呑まれてしまったのだろう。つまり、俺が『たん』付けするのは咲奈たんが可愛すぎるから。うん、仕方ないね。

 

「拓馬はん、いっぺん冷静になって考えてみてや。突然決まったコラボ企画、多分天道家がナッセープロダクション上層部にごり押ししたんやろ。裏に何かあると勘ぐりたくなるのは当然や」

 

「そういうもんですか……そもそも、咲奈たんサイドはどうして『みんなのナッセー』とコラボしようと思ったんでしょ?」

 

「言い分としては、今度やる舞台の宣伝のためやな。『みんなのナッセー』の特別公演には多くの観客が予想されるから丁度ええねん」

 

「しかし、腑に落ちない点がある」

椿さんが口を挟んだ。

 

「『みんなのナッセー』は三池氏の人気で全世代が視聴しているとはいえ、基本ターゲット層は二歳から五歳までの幼児と母親。特別公演では、その母娘を優先して会場に入れることになっている」

 

「対して、天道咲奈の舞台はもう少し対象年齢が上なんや」

 

ここ数年の日本では、テニスや自転車競技のアニメを舞台にする、いわゆる2.5次元が注目を浴びていた。

咲奈たんの舞台も同様に、不知火群島国で知名度の高いアニメを舞台化して、主に十代から二十代の女性から支持を受けているらしい。

 

真矢さんたちが指摘するように、『みんなのナッセー』と咲奈たんの舞台とでは対象ターゲットが異なるようだ。

宣伝するにしてもコラボ先が『みんなのナッセー』というのは、たしかにおかしいかもしれない。

 

「うちが思うに、舞台の宣伝は建前で、コラボの真の狙いは拓馬はんに近づくためや」

 

「俺と仲良くなりたいってことですか? んな回りくどいことしなくても、咲奈たんならいつだってウェルカムですよ!」

 

「仲良くか、せやな。ただ、本当に拓馬はんとお近づきになりたいと考えとるのは、天道咲奈の後ろにいる人物や。それも結婚したいほど仲良くなりたいと思うとる」

 

おや?

ここまで咲奈たんの話題で、オラわくわくしてきたぞ、と茹で上がっていた脳が急速冷凍された。

ジョニーがパンツの中から「あかん。もうこの話は(しま)いにして寝よ」と訴え掛けてくる。

 

「天道 祈里(きさと)。聞き覚えある?」

 

椿さんの問いに俺は若干震えつつ肯いた。

 

「え、ええ。咲奈たんのお姉さんで、不知火の像のレプリカをもらったトップアイドルですよね。もう引退したみたいですけど」

 

以前、真矢さんから観せてもらった映像を思い出す。

地球でなら傾国の美女と謳われても不思議でない美女、天道祈里。同じアイドルながら彼女と俺とでは放つオーラが天と地ほど違う。

 

「天道祈里の引退理由は婚活のため。それから約一年。未だに結婚したという報道はない」

 

「天道家っちゅうのは昔からある芸能界の大家でな。天道の姓を持つ歴代の女性たちは、どの子も類まれな容姿と能力で舞台を中心に活躍してきたもんや。せやから、子孫を残すことに関してあの家は一切の妥協をせえへん。一流の種を手に入れるためならどんな手も使ってくるやろ」

 

種。思わず俺は股間へ視線を向けた。

もうジョニーはお決まりの「ヒエッ」を言う元気もなく、一緒に住む家族にも気配を悟らせない一流の引きこもりになってしまった。

 

「三池氏が持つ美麗さと、荒削りではあるがアイドルとしてのスキルは、天道家が喉から手が出るほど欲するものと推測される」

 

「じゃ、じゃあ今回のコラボ企画をキッカケに俺と咲奈たんが深い関係になったら……あ、もちろん友情的な意味で」

 

「お友達なら『お兄ちゃん、わたしの家に遊びに来て』で、天道祈里とのご対面不可避」

 

うめぇな!

椿さんの声真似が咲奈たんと激似だったため、天道家にホイホイ向かう自分が容易に想像できた。

 

天道祈里は芸能界のトップに立った女傑だ。

確かな功績に裏打ちされた力はどれほどのものか……きっと自信に満ちあふれ、口が回り、計算高いだろう。

俺のような未熟なアイドルでは簡単に会話のペースを取られ、そのまま手玉に取られてしまいそうだ。

 

「拓馬はん、分かっとると思うけど、今は男性アイドルとして軌道に乗り始めた大事な時期や。女性とのスキャンダルや、まして結婚は――」

 

「大丈夫です。俺はこの国でトップアイドルになる、って決めたんです。途中でドロップアウトして、どこかの家にお婿に行ったりしませんよ」

 

それに、もし結婚して子どもでも作ろうものなら、たとえ日本に帰る方法が見つかっても帰りづらくなるからな。

と、いう理由はこの場で口にしないことにした。

「いつか日本に帰る」

そう真矢さんたちの前で言うのは心苦しかったからだ。

 

「次から咲奈たん、いえ天道咲奈さんと会ってもあくまで仕事仲間として接するように……します」

 

胸を張って宣言するつもりだったが、最後の言葉が弱々しくなってしまった。

 

「すいません。姉の結婚のために頑張るあの子に厳しく対応しないといけない。そう思うと、ちょっと良心が痛んで」

 

「?……あ、そうか。三池氏は天道家が『姉妹制(しまいせい)』を未だに取っているのを知らない」

 

「姉妹制?」

 

新用語の登場に困惑すると、椿さんが私のターンと言わんばかりに、メガネを取りだし装着した。

ツヴァキペディアモードだ。

 

「解説する。姉妹制とは、姉妹の中の一人が婚活に励み、見事男性を射止めた暁には姉妹丸ごと嫁ぐ制度のこと」

 

なんだ、その大ざっぱな制度は!

 

「姉妹制は、不知火群島国よりずっと古くから存在する。現代のようにオートメーションが進んでいない時代は、誰もが生きるための労働に精一杯だった。とても婚活に時間を割けない。そのため、『姉妹』を作ってコミュニケーション力に()けた一名に代表として婚活させた。ちなみに『姉妹』とは実際に血縁関係がある姉妹の場合と、赤の他人同士が組んで作ったグループの場合、どちらも指す言葉」

 

「『姉妹』は自分の人生を掛けた強固なグループや。それだけに嫁いだ後、たった一人の旦那を共有財産として争うことなくシェアしたケースが多かったんやて」

 

「『姉妹制』は男性側にもメリットがあった。今、真矢氏が言ったように結婚後に妻たちの間で(いさか)いが起こりにくいこと。また、一気に嫁をもらうことで複数人と結婚しなければならない義務からすぐに解放される」

 

「はぁ、なるほど」

俺は、もたらされた情報を何とか咀嚼(そしゃく)して整理する。

「そう聞くと、悪くない制度みたいですけど、さっきの椿さんの言い方からして廃れてしまったんですか?」

 

「肯定する」

 

「どうして?」

 

「現代は機械化・自動化で一人一人の女性に婚活する余裕が生まれた。と、なれば意中の相手を自分の手でモギ取りたくなるのが普通」

 

「もし婚活に敗れても自分が全力を出した結果なら、納得は出来んでも長い時間かけて受け入れることは出来るやろ」

 

素晴らしく肉食的な考え方である。

少子化が叫ばれる日本出身としては、改めてここが異国なんだと実感する。

 

「天道姉妹が今でも『姉妹制』を行っているのは、長女以外の芸能生活に妊娠以外で空白を作りたくないから。妹たちの人生まで背負った天道祈里の婚活への責任は重大であり、故に掛ける想いは大きい」

 

「俺が天道祈里さんに屈したら、祈里さんだけじゃなくて咲奈さんとも結婚することになるわけですか」

 

『お兄ちゃん、あっごめんなさい。あなた、でしたね。わたしってば昔のクセが抜けなくって、うふふ』

 

いかん! 幻聴が聞こえる。

沈静化していたわくわくが、ぶり返してきやがった。

 

「せや。だから天道咲奈に対して、あんま負い目を感じんでええで。あの子は自分のためにも拓馬はんを毒牙にかけようとしてるんやから」

 

「ええ、心を鬼にして対応します」

 

俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンかも俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃないロリコンでもええやん俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンだ俺はロリコンでもいいんじゃないかな俺はロリコンじゃない。

 

何度も何度も自分に言い聞かせつつ、俺は重く首肯した。

 

こうして夜中の緊急ミーティングは終わった。

 

え、音無さん?

 

「兄ちゃま、兄上様、兄ぃ、兄や、兄君、おにいたま、たくにぃ、みにぃ……」

 

何だか部屋の端でずっとぶつぶつ言っているから放っておいたよ。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

翌日。

 

ナッセープロダクションのスタジオで、俺は天道咲奈さんと再び出会った。

 

「おはよう、お兄ちゃん! 昨日はご迷惑をかけてごめんなさい」

 

「おはようございます、天道さん。昨日のことは気にしてませんから、そちらも気にしないでください」

 

「う、うん。ありがとう……そ、それでね、実は私もお兄ちゃんの舞台にお邪魔することになったんだ。どうぞ、よろしくお願いします!」

 

「ええ、聞いています。よろしくお願いします」

 

「あ……あの、わ、私ってまだ子どもですから、そんな堅苦しい言い方じゃなくても」

 

「いけません。天道さんは俺よりも芸能界では先輩になります。タメ口など出来ません」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「お兄ちゃん! どうですか、この衣装?」

 

「ぐふぅ!? ど、どうしたんですか、咲奈さん。今日は打ち合わせだけで衣装に着替えなくても」

 

「私、あまり『みんなのナッセー』で練習する時間がありませんから、動きとか今のうちに決めておこうと思って」

 

「な、なるほど。良い心がけですね」

 

「えへへ、それでそれで、この衣装、どう思います?」

 

「か、可愛くて良いYO、ごほごほ、良いんじゃないですか」

 

「あはっ! ありがとうお兄ちゃん」

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん! 今の決めセリフどうだったかな? 格好良く出来たかな?」

 

「いや、ダメだな」

 

「えっ……」

 

「だって、咲奈ちゃんは格好良いより可愛いキャラだからね。どうしたって可愛さが先に来ちゃうんだよね!」

 

「もうやだ~、お兄ちゃんったら」

 

「HAHAHAHA」

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「今日は練習に付き合ってくれてありがとう。お兄ちゃん!」

 

「うんうん、咲奈たんが一生懸命だからお兄ちゃんも頑張っちゃったよ。またやろうね♪」

 

「えへへ、これ私のアドレス。いつでも連絡してね。お兄ちゃんとお喋りするのすっごく楽しいの」

 

「ありがとう! 必ず連絡するYO!」

 

「じゃあ、寂しいけど私、舞台のお稽古があるから行くね」

 

「そっか~本当に残念だなぁ。舞台、必ず見に行くよ。ファイトだよ、咲奈たん!」

 

 

 

こうして、楽しいが名残惜しい打ち合わせは終わった。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「ダメダメやないか!?」

 

南無瀬邸の自室に帰った俺は、かつてないほど萎縮した。

周りを激オコなマネージャーやダンゴに囲まれれば、正座して頭を垂れざるを得ない。

 

「も、申し訳ありませんでした。最初は咲奈さんに流されないよう抵抗したんですけど」

 

「あれが鬼のような対応なん? 拓馬はんの鬼は玉なしなんか!」

 

「三池さんってロリ萌えだったんですね! あたしがセックスアピールしても肩すかしなわけです。うええぇん!」

 

「俺はロリコンじゃないです。でも、なんかおかしいんですよ。咲奈さんの前に行くと、自分でも分からないほど悪い方向に影響を受けてしまって……もうどう対策を取ればいいか五里霧中(ごりむちゅう)って感じで」

 

「何が五里霧中や、ロリ夢中やないか!」

 

「うう……」

何も言い返せない。自分で自分が情けなくなる。

 

そんな俺に助け船が出された。

 

「まあ、みんな落ち着いて欲しい」

横を向くと、ツヴァキペディアになった椿さんがいた。

 

「三池氏のロリコン疑惑。これはもしや、天道咲奈が『キセキの年代』であることが原因かもしれない」

 

キセキの年代?

またロクでもなさそうな新用語が出てきたな……

そう思いつつ、俺はツヴァキペディアを解説に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

『天道咲奈の日記』

 

 

○月×日

 

 

今日は、ナッセープロダクションでみんなのナッセーの打ちあわせをしました。

 

タクマお兄ちゃんもきてて、あいさつしたよ。

さいしょ、タクマお兄ちゃんは固い感じがして、もしかしてきらわれちゃったって不安だったけど。

がんばってお話ししていたら、どんどんやさしくなりました。

やっぱりタクマお兄ちゃんは良い人だな。

けっこんってよく分からないけど、だんなさんにするならタクマお兄ちゃんがいいなぁ。

 

もっともっと仲良くなれるよう、がんばろうっと!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。