マリアさんと調と切歌、旧F.I.S.組の快適・収容所生活。
G本編終了後のゆるいぬるいコメディです。
GX3巻の戦姫絶唱しないシンフォギアのサブタイトル画、こたつF.I.S.組が可愛かったので。(しなフォを見ていなくても大体通じる内容です)
旧F.I.S.組に幸あれ。
(初出:2016/01/28)(他サイトと同時投稿です)


 
 




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マリアさんと調と切歌、旧F.I.S.組の快適・収容所生活。
G本編終了後のゆるいぬるいコメディです。
GX3巻の戦姫絶唱しないシンフォギアのサブタイトル画、こたつF.I.S.組が可愛かったので。(しなフォを見ていなくても大体通じる内容です)
旧F.I.S.組に幸あれ。
(初出:2016/01/28)(他サイトと同時投稿です)
 
 
 





マリア「これが人をダメにすると名高い日本のKOTATSU……!」

 

 

 

 

 

「これが人をダメにすると名高い日本のKOTATSU……!」

 現物を目の前にして、マリアは畏怖を滲ませた呟きをこぼさずにはいられなかった。

 マリアたちが収容されている施設が所在する、東京。本格的な寒さが訪れようとしていた晩秋、今年最後の月へと差し掛かった頃のこと。それはソファを壁際に寄せて作られたスペースで調と切歌の手によっててきぱきと手際よく組み立てられていった。

 木製の縦横1メートルほどの正方形のテーブル枠。備わった折り畳み式の四足は立てられて、敷ラグの上へと載せられる。膝の高さとなったテーブル枠を覆うように、柿色の布地に臙脂色の大きなチェックが入ったトラディショナルな柄のキルトが掛けられると、その上へさらに滑らかな手触りの天然木の天板が載せられた。

「これで完成デス、っと」

 天板を載せ終えた切歌は後ろに退がり、調の隣に並んで組み立てたものを眺め見る。

「おおー、お値段以上な感じデス!」

 エアキャリア備え付けのテレビでいつか見たことのある家具店のCMのような感嘆だった。そんな切歌に調が両手で抱えているものを差し出す。

「切ちゃん、これを忘れちゃだめだよ」

「そうデス、これデス!」

 天板の中央に配置される、かご盛りみかん。

 これでピースの全ては揃って姿は完璧になった、とでも言うように。調と切歌は喜びを分かちあうかのようにやったーとお互いの手の平を打ち合わせた。

「日本の冬、こたつの冬デス!」

「ダメ元で陳情してみた甲斐があったね、切ちゃん」

「日本になら絶対あると思ったデス!」

「それじゃさっそく」

「あったまるのデス!」

 キルトの下から伸びる袋打ちの太い黒色の電源コード。それの途中に備わっている丸みを帯びたレトロなスイッチを刻印された”入”の方へぱちんと押し込んで、調と切歌はこたつを挟んで対面にいそいそと座り合う。

「フラットヒーター、中は広びろゆったり仕様」

「速熱・速暖・暖ったかワイド、内蔵ファンで温風循環デース!」

 前者は夢心地に、後者はテンション高めに、箱書きの宣伝文句をそらんじ合った。二人にとってよほど嬉しい仕様、であるらしい。

 電源は、普段は金属製のスライドパネルで封鎖されている壁付けのコンセントが今はこたつのために許可が出たといった感で解放されている。信用されているのやら試されているのやら、甘いのやら、定かではないけれど。

「足が当たらないなんていい時代になりましたデスなあ……昔はヒーターの赤い網を足でぼこぼこにへこませてナンボだったデス」

「切ちゃんの家のはたぶん古い……でもわかる」

 などと、しみじみと頷き合う調と切歌。何がわかるというのだろう。マリアにはわからないことだらけで、頭の中に疑問符が浮かぶばかり。

 調は物心つく以前に米国研究機関に拉致され、フィーネの魂を受け止める段になるまで組織の日系ホストファミリーによって育てられていた。一方の切歌も、孤児になる以前は土地は違えど両親とも日本人の家庭で育っている。冬の間には日本の伝統的な暖房器具であるこれが家族団欒の間に置かれて、幼少時から慣れ親しんでいたのだろう。

 これまで暮らしていたF.I.S.の研究施設は欧米文化圏であるため当然そんなものは存在しなく、東欧で生まれ育ったマリアの生家にももちろん無い。マリアにとって現物を目の前にするのはこれが初めてで、何かの折に知識として聞き及んでいるのみだった。

 曰く、人をダメにする。

 その筆頭はたしか一人用クッションだかソファだかと聞いたような気がするが、割愛。日本では冬季に限ってはKOTATSU――こたつは最上位に数えられる人ダメ家具の一つであるらしかった。

 一度入ると抜け出せない。底なし沼のように嵌り込んで人はおろか、犬や猫といったペットですら虜にするという。こたつにまつわる恐ろしげな噂を思い出し、故に、マリアは呻くように呟かずにいられなかったのだった。

「マリア、なにしてるデスか?」

「入らないの?」

「あったかいデスよ?」

 二人の間の空き席をぱふぱふと叩いて誘う切歌と調を前に、マリアは立ち尽くしたまま息を呑む。

 恐るべき存在、こたつ。けれど、そのこたつに既にあたっている調と切歌は何事もないように平然としている。

 こたつとは本当に、噂通りに恐ろしいものなのだろうか。立ったままのマリアを小首を傾げて不思議そうに見上げてくる二人は、声にも表情にも何ら変わったところは見られない。

 二人とはこれまでの数年間、施設で信用できない大人たちに囲まれながら共に支え合って生きてきた仲だ。マリアにとって疑うべくもない妹のような存在で、それならば、躊躇う理由などどこにもないと言えなくはないだろうか。

「ええ、あたらせてもらうわ」

 二人が平気なのだから、大丈夫。きっと大げさな噂が一人歩きしているだけなのだろう。そう考えながらもマリアは一抹の不安と緊張を拭い切れなかった。ぎこちなくこたつに歩み寄る。招きにあずかった空き席に座ってキルト――こたつ布団をめくり、焚き火を思わせる赤橙色の見るからに暖かそうな光で溢れているその中へ、そうっと足を差し入れてみた。

 すると。

「これはっ……」

 暖炉やストーブのような直火の熱の照射で炙るではなく、ファンヒーターのような温風を吹き当てるでもなく。まるで湯のような、穏やかだが芯まで浸透するようなぬくみに足をじんわりと温められる。それは、想像以上に。

「暖かい……!」

「デスデス!」

「マリアって、こたつは初めてだっけ」

 今気が付いた風に尋ねてきた調に、マリアは頷きで答える。

 心は見えない音楽に共振し共鳴する音叉のように打ち震えていた。未だ体験したことはないが、この世の極楽と聞き及んでいるONSENの湯とは、きっとこういう心地がするに違いない。根拠は無いが確信する。

 自覚なく案外冷えていた足がこたつの中で温まっていく。それに感銘を覚えながら、マリアは組織によって施された訓練と教育で培った見識を持って考察を巡らせる。

 室内にはエアコンが埋込み式で天井に備え付けられている。けれど暖気は上に昇る。必然、冷気は下に残る。そのため室内気温に不足はないが足は少々寒いのだ。それはきっと暖房器具全般に言えることで、熱源で温めた空気を逃さないよう布団で囲い、そこへ足を入れて温めるこたつは、冷えやすい四肢を温める点において全く理にかなっている。

 足は第二の心臓とも言う。身体を循環する血液が温まればしぜん体温は上昇し、全身が温まろうというもの。冬に暖を取るために先人たちが知恵の研鑽の果てに生み出した、この合理性に溢れた器具は賞賛に値する。さすがONSENの国だ。それはあまり関係ない気もするが、ともかくこたつとは素晴らしいシロモノだった。よくやった。感動した。ONSEN行きたい。

 けれども。

「かえって背中は寒く感じるわね」

 外気に晒されたままの上体と、温められた足とで温度差が生じる。布団のわだかまる腹側とは違って何もない背中側は、特に寒く感じやすいのだろう。

「そんなこともあろうかと!」

 切歌が傍らに置かれていた紙袋をがさごそと探る。

「なんと、どてら付き」

 紙袋から取り出されたのは、調の言うとおり、ONSEN旅館の広告で客役のモデルが着ているようなどてらだった。というか他では見たことがない。

「あたしが着せてあげるデース!」

 わざわざ席まで来て羽織らせてくれたそれに腕を通す。切歌は調にも同じように着せてやり、自分も着込んで、かすり柄の入った渋い暗紅色のどてらを羽織った三人がこたつを囲う。

 室内の和の趣が一気に色濃くなった。無機質な収容施設の一室に突如生まれた、日本の冬の原風景。わびさび……とは、たぶん違う気がする。

 見た目はどうあれ、とても暖かいのは紛れも無い事実だった。着用を指示されている拘束衣は防寒に配慮された作りにはなっていない。寒く感じるそんな背中を厚みのある綿入れで包んでくれるどてらは、こたつのために誂えられた羽織もののような気さえしてくる。

 否、確信する。頭寒足熱は延命息災の徴。こたつとどてらとはきっと、それを実現するための完璧な布陣に違いない。

 何も足さない、何も引かない。完成された至高の至福がここにある。

 足元からゆっくり蕩かされるような温かみには、自然と頬がゆるんでしまう。ぬくぬくとする一方で、生家で暮らしていた頃の東欧の厳しい冬が脳裏に思い起こされた。――セレナにも、あたらせてあげたかった……。

「マリアマリア、こうやって潜るのもオツなのデスよ」

 亡き妹への想いにしんみり浸っていると、切歌が邪気なく微笑みながら手をひらひらして注視させてくる。マリアが見やると、こたつに身体を潜らせてばふんと布団にくるまった。

「コタツムリデス!」

 頭だけを出して、得意気にこちらを振り返る。その様はなるほど、こたつを殻に見立てたカタツムリの意だと察した。

「切ちゃん子供っぽい」

「マリアもやってみるデース」

 呆れ微笑む調の一方で、切歌がもぞもぞと這い出しながらおすすめしてくる。

 調の言うとおり、たしかに児戯ではあった。けれど、心惹かれてやまないものがある。

 カタツムリごっこにではなく。

 こたつに潜り込むことの方に。

 足だけでもこんなにも至福なのに、全身をうずめたら――

 抗えない、抑えきれない誘惑があった。

「ん、っと」

 マリア、やるんだ? と調の目が意外そうに瞠られる気配があったが、気付かなかったことにした。布団をめくって、身体を深くこたつに潜らせる。

 腰部がこたつの中心に届くか届かないかくらい、布団がちょうど肩を覆い切るくらいの位置で、肩を下に身体を横たえた。クッションを枕に、頭を支えて。

「――あ……」

 横たわったことによる身体の弛緩が全身に安楽感をもたらした。そこへこたつの遠赤外線が下肢を温め、ふかふかのこたつ布団と厚手のどてらが上体を保温する。まるで南国の常夏かのような温暖が、全身を包んで――

 これは、だめ、かもしれない。

「あぁ^~……」

「マリアが心ぴょんぴょんしてるデス」

「こたつの真髄に早くも触れてしまったのね……」

 緩みきった声が意図せず漏れるのを、止める術はなかった。

 全身を隈なく巡る多幸感。こんな悦楽があっていいのだろうか。

 少し高いところから聞こえてくる切歌と調の話し声は次第に遠くなっていって。

 とっくに閉じられていた瞼の裏の暗闇に、さらに深いところへ誘われた。

 

 

 紅色と翠色の二対の目は、信じられないものを見たという風に瞠られていた。

「……横になって十秒くらいだった気がする」

「猫型ロボット漫画の主人公もかくやという早さだったデス」

 調と切歌の眼下には、こたつ布団を被って寝入っているマリアが見えていた。

 布団を被って横になり、心地よさの高まりぶりを可聴化したようなゆるい声を漏らしたかと思えばその間もなく後、マリアから動きの気配の一切が消えて、怪訝に思った二人が身を乗り出して覗き込むと既に意識を手放していたというわけだった。

「絵面として、なかなかの和洋折衷具合デスね」

 切歌の言葉に調はくすりと笑う。たしかに、欧州人の若い女性がどてらを着込んでこたつで寝ているという光景は、調も切歌もホスト家や生家で暮らしていたときであっても目に掛かるものではなかった。

 施設で出会い、共に暮らして数年間。見慣れてはいるけれど、くっきりとした端正な目鼻に女性らしい優しげな柔らかさを伴わせている顔立ちのマリアは、やはり美人と言うにふさわしい。

 穏やかに瞼を伏せている横顔に少し掛かかっている桃色の髪を、調は指先でそっと退かしてやる。

「……マリアが緩んでいるとなんか和むデスなあ」

「そうだね」

 調は頷いて同意する。

 未成年だから極刑が下ることはまずない。特機部二に身柄を預けられて以来、マリアはそう言って調と切歌を安心させようとしてくれた。けれどその言葉は、裏を返せば成人しているマリアはそうではないということ。調と切歌に優しく微笑むその奥で、マリアが気を張り詰めているのは感じていた。

 こんな些細な事でも、少しの間だけでも安らげる時間が訪れたのなら、良かったのだけど。

 先ほど頷き合ったのは、同じ気持ちを抱いたという同意。

 けれど、それの他に。それ以上に感じているものも、きっと同じ。

 ――マリアに、癒やしを感じるのは何故だろう。

 顔の前で軽く握られ、手首を少し傾げて丸みを帯びた形をとるマリアの両の手は、この世界のあらゆる地に生息しているある四足動物の前肢を思わせる。

「わたし、マリアと初めて会った時から思ってた。髪型があの形に似てるって」

「調もデスか!?」

 呟いた調と、驚いた切歌が顔を見合わせる。

「熱いものが苦手なことといい、」

「この姿といい、」

「マリアってばやっぱり、」

「「猫なのかもしれない」」「デース」

 室内に、二人のユニゾンがこだました。

「友達のうちで飼われてた子が、こんな感じにこたつから頭だけ出して寝てたのを見たことあるデス」

 マリアを見やりながら、切歌は片腕で頬杖を衝く。

「聞いたことがある。身近に猫がいると、癒やしの効果があるって」

 調は天板に重ねた腕に、マリアを眺めながら顎をのせる。

「おっきな、優しい猫さんなのデスよ」

「たまにお母さんみたいなときが、あるし」

「マムゆずり、なのデスよ……」

「そう、だね……」

 成人して容貌に艶めきを増していく一方のマリアが、昔から見知っている安らかな寝顔を無防備に見せているところも、癒やしをもたらす源なのかもしれない。

 眺めながら、そんなことを思ううち。

 瞼は下りて、時間は蕩ける。

 

 

 紅色と翠色の二対の目は、向かいの異なる色の瞳と目を見合わせていた。

 顔に浮かべられているその表情から、思うことはきっと同じ。

 それは少し前のこと。時間帯にして朝。調と切歌のいる前で。

『私……だめだ……私……』

『弱い……私は弱い……っ』

 などと顔を俯けながら呟き、天板に載せている拳をふるふると震わせて。

『負けない、こたつなんかに……! 弱い自分を、殺すんだっ……!』

 固めた意志で身を支えるようにして、がばっとこたつ布団を跳ね除け勢い良く立ち上がり、そして。

『……………………さむい』

 映像を逆再生させたかのようにするすると、マリアはこたつに戻ってしまう。

 そんな回想の再生は今二人の間で間違いなくシンクロしていた。嘆息するのも同時だった。

「こたつあるある」

「出るのはたしかに容易ではないのデスよ……」

 出戻るたびに気合を篭めなおし、幾度目かにどうにかこうにかこたつから抜け出して聴取に向かうマリアの姿は、見ていて胸が潰れる光景だった。

 こたつを設置して一週間余。時間帯こそまちまちだけれど、それは日毎に繰り返されていた。

「こたつの悦は初めてのマリアには刺激が強すぎた……」

「施設は砂漠に近い荒野にあったから、冬はそれなりに冷え込んだデスからね」

「東欧も冬の寒さは厳しいって聞いたことがある」

「もしかして、こたつ依存症……デス……?」

 こたつに入り浸りになってしまっているマリアの姿を思い出し、まさかと思いつつもぞっとするものが込み上げ、向かいの相手と顔を見合わせた。

「このままではマリアはマムのお墓にこたつをお供えしてしまうかもしれないデス」

「切ちゃん、それはない」

 手刀でツッコミジェスチャーを入れつつ即否定するも。

「でもあの様子を見て絶対無いって言い切れるデスか!?」

「う、うーん」

 そう言われると反論の材料が見当たらなくて思わず言い淀んでしまう。

「マリアの凶行を止めるのはあたしたちの役目デス!」

 自分たちの役目。そうだ、とその言葉に思い起こされた。計画に身投じる決意をした時に、抱いていた初心を。

「……そうだね、切ちゃん」

 重く瞬いた後に覗けた視界に、何をするべきかはっきり見えた。

「マリアを守るのがわたしたちの戦い――」

 切歌から伝わった熱意は自然、自分の声色にも宿る。

「調……!」

 予備動作なく、すっと立ち上がる。見上げてくる切歌の瞳は想いが伝わったことの感激で潤んで輝いていた。それを視界の端に捉えながら、天板の両辺に手をかけて。

「マリアが苦しんでいるのなら、わたしたちが助けてあげるんだ!」

 身体にほとばしる熱き想いのままに、こたつ台から引っぺがした。

 かごのみかんが、得た自由を謳歌するかのように宙を舞った。

 

 

 聴取を終えて部屋に戻ると、こたつは忽然と姿を消していた。

 こたつのあった場所には元通りにソファが置かれ、痕跡も名残も全く無く。

 ソファに腰掛けていた調と切歌は待っていたかのように立ち上がり、側までやってきてマリアを出迎えた。

「気に入っていたのは分かるんだけど……」

「マリアがだめになるのを、あたしたちこれ以上見ていられなかったデス」

 二人は気まずそうに俯けていた顔を躊躇いがちに上げて、見上げてきた。

 憂いを含ませたその表情からは、悟るものがある。

「そうね、そうよね……わかってた」

 こたつはマリアがいない間に二人が片付けて職員に返却したのだろう。

 朝に起床して、着替えを済ませた後に入るこたつ。あまりの快適さにそこから出ることが困難になっていた。今朝もその例外ではなく、聴取に行くまでに立つ座るを何度か繰り返してしまった。

 こたつがあんなにも馴染むとは思わなかった。もたらされる温かさに眩んでいた。依存していたかもしれない。いや、依存していた。あんな醜態を何度も晒していたら、遠ざけられて当然だ。

 こたつが無くなったのは正直とても残念に思う。

 だが。

 顔をゆるく左右に振る。

「……人の道から外れて獣に落ちるところだった。心配かけてごめん、ありがとう、二人とも」

 自嘲と恥入り混じりに微笑むと、調と切歌は顔を見合わせて、ほっと安堵した表情を浮かべた。

 自分を想って心を痛めてくれた。

 こたつの撤去に踏み切った二人を恨むなどありえない。あるのは心痛を詫びたい気持ちと、自分を想って行動してくれたことへの感謝の気持ちだった。

 先の事変の最中よろしく、これは、自分の弱さが招いたこと。

 ――強くなりたい。

 改めて切に願う。

「獣に落ちなくても猫キャラなところは元かr」

「アハハ調ってば何を言ってるんデスかねーアハハハハ」

 何かを言いかけた調の口を切歌が慌てて手で塞ぐ。そんな二人の様子にマリアは首を傾げることしかできなかった。

 その夜はもう一度、首を傾げることとなった。

 就寝時刻が迫る頃になって、調と切歌はおもむろに寝台からマットを外し始めた。

「二人とも、何をしてるの?」

 マリアの目の前で、再びソファを壁に寄せて作ったスペースの床にマットが並べ置かれていく。

「マリア、今日は久しぶりに三人で寝ない?」

「マットを並べてくっつけるデス!」

「かまわないけど……」

 二人の気まぐれさに苦笑しながら、自分の寝台からもマットを外して並べ合わせる。

 三枚の上掛けは端を重ねるように連ねて、並べたマットに三人で横になってそれを被った。照明が落とされる。

 それから間を置かず、左右それぞれから調と切歌がもぞもぞと身動ぎ寄ってきた。両肩におでこをこつんとあててくる感触。

「三人で寄り添えば、」

「こたつなんかなくてもあったかいのデス!」

「二人とも……」

 唐突だと思ったら、そういうことだったらしい。

 でも、と。思い知るものがあって、明かりの落ちた薄暗い部屋の宙空に一つ息をつく。

 数年前に施設で引き合わされてから今まで、悲しい時、辛い時、自分たちはいつもこうして身を寄せあってきた。濡れた頬を三人分の体温で乾かしたことは一度や二度ではない。

 アジトを失い、寒い夜に暖房のない格納庫で眠らなければいけないときも、こうして三人で寄り添って眠った。

 この先、何があってもこのぬくもりを忘れないでいたい。例え、離れ離れになったとしても。

 マリアは思う。きっと調と切歌が、自分の心の内のこたつなのだと。

 ……我ながら強引なまとめ方をした感を拭えないけれどそれはそれとしてONSENにはいつか行きたい必ず行きたい。

 身体の両側から二人の体温がじんわりと移ってきて温かい。例えはしたけれど、このぬくもりはこたつで得られるものではなく、かけがえのないものだ。心地よい眠気が意識にゆっくりと働きかけてきて――

「つめたっ!」

 予期しない冷感に思わず身体が跳ねた。両足それぞれの左右から冷たいものが押し当てられている。襲い来る既視感。

「だからって、冷たい足をくっつていいってわけじゃない!」

「「ごめんなさい」」「デース」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 マリアさん、初めてのこたつ。こたつに負けちゃうマリアさん可愛い、というご提案でした。
 GX3巻しないフォギア、マリアさんの猫化が止まらない。猫舌ネタは四期で回収されるネタの前フリだと信じています。
 次回『マリア・カデンツァヴナ・イヴは名湯百選の夢を見る~あの日見た湯の花の名前をあたしたちはまだ知らないデス~』総天然色大長編スペクタクル大河小説20016年2月公開予定ですお楽しみに!











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