守るよみんなの民主主義 魔法少女プリティホーン!
力をあわせ手を取り合えば 叶うよ平等公平正義
倫理と論理と法の光で 照らそうみんなの民主主義
愛と自由と平等平和 最大多数の最大幸福
民主主義こそこの世の正義 みんなで叶える正義の輪
みんな平和を望んでるのに どうして邪魔をするんだろう?
コミーにファシスト消毒よ 平和をこの手に取り戻そう
守るよみんなの民主主義 灯すよ叡智と平和の火
守ろうみんなの民主主義 導け平等への道を
魔法少女プリティホーン 魔法少女プリティホーン!
魔法少女プリティホーン 魔法少女プリティホーン!
「ドッジボール10、サッカー7、野球3、その他2」
舞台は小学校。子供の牧神人がチョークを持ち、黒板に正の字を書きつけていく。彼女は意見が出揃った事を確認すると、正面に向き直った。
「という事で多数決により、自由時間はドッジボールを行う事に決定しました」
「ちょっと待ってください」
「はい、なんでしょうか那智さん?」
手を上げ異議を申し立てたのは、小学生だというのに髪を七三に分けた男の子だ。彼は硬い表情のまま口上を述べた。
「これでは少数派の意見が反映されていません。ドッジボールという意見はクラスの半数未満なのに、最終的にはそれで決まってしまう。過半数ですらない意見に、少数派の意見が蔑ろにされています。民主的とは言えません」
「ええと……それは前も話した通り、少数派の意見も順番に取り上げていく、という事で決まったはずですが」
「そーだぜ那智、へりくつこねんなよ」
「屁理屈じゃない、今は冬なんだから水中ドッジなんて出来ないだろう!?」
以前『多数決で決まったドッジボールだと人魚形態の生徒が参加できない』という事があったのだが、その時はプールでの水中ドッジボールという工夫で乗り切ったのだ。
「それはつまり公平性を欠くって事だ! このままでは、真の民主主義から遠ざかってしまう事は明白!」
「んじゃどうするってんだ?」
「委員長といっても所詮はまとめ役、不公平からは逃れられません! ゆえに僕はここに、委員長を超えた超委員長の設立を提案します!」
「超委員長?」
「その通り! 超委員長は、いろんなことを決める力を持ちます! 少数派の意見をも汲み取り、適切に反映させる事が出来る、真の民主主義です!」
「そんなのソイツの思う通りにしかならないって事じゃない」
「違います! 最初から罷免規定を定めておけばいいのです!」
「ひめん……ってなんだ?」
「辞めさせる、って意味よ」
「クラスの過半数の賛成があれば超委員長も罷免できる! これなら暴走する事もない! まさに真の民主主義です!」
「あー、それはつまり民主的に独裁者を選ぶという事ですか? 駄目です、認められません。というかそんな権限は委員長にもありません」
「何を言っているんだ! 独裁者なんかじゃない! 多数決を否定し、少数派の意見も無視するなんて、もうそんなの民主主義じゃない!」
でんでろでんでろと不気味なBGMがどこからか流れ、辺りが黒と紫に侵されていく。那智から黒い煙が噴き出し、それはおどろおどろしい怪物の形を取った。
『オォォォ――――! 超委員長ハ全テヲ凌駕スル存在! マズハ罷免規定ヲ削除! シカル後コノ学校ニ君臨! イズレハ国中、イヤ世界中ニ広メナケレバナラヌノダ!!』
「民主主義空間が歪んでいく! 民主主義による独裁者の誕生? いやこれは、ファシズム! 民主主義最大の敵!!」
委員長は胸元から、お守りのような形状の物体を取り出す。それを高く掲げると眩く光り、どこからか明るい曲調のBGMが流れて来た。
「照らせ 正義の光!」
光が一層強くなり、その身体を覆い隠していく。
「満ち溢れよ 法と倫理!」
服が分解され、彼女の周囲に渦を巻く。裸のはずなのだが、都合のいい光であざとく大事なところは見えない。
「叶えよ 絶対平等民主主義!」
光が弾け、謎のシステムによって服が装着されていく。
「魔法少女 プリティホーン!!」
いかにもなステッキを持ち、着物の上にエプロンという、大正メイド風魔法少女が顕現する。魔法少女は怪物に対しステッキを向け、攻撃を開始した。
「先手必勝! プリティ・サンダー!」
『フッ』
ステッキからピンク色のファンシーな雷が出るが、怪物はそれを弾いてしまう。その手に握られたものを見た魔法少女の目が見開かれた。
「それは! 伝説の武器、ファスケス!!」
『ホウ、知ッテイタカ』
それは奇妙な武器であった。斧の周りに数十本の木の束が巻き付けられ、皮の紐で束ねられていた。そこから骨のように白いオーラが放たれ、怪物に力を与えていた。
『ナラバ! ファスケスニハ勝テヌトイウ事モ! 分カッテイルデアロウ!!』
「きゃあああーっ!!」
怪物がファスケスを一振りすると、突風が巻き起こり、魔法少女を吹き飛ばした。彼女はあざとくボロボロになった姿で、歯噛みして膝をついた。
「くっ、このままじゃ、民主主義が穢されてしまう……!」
『フハハハハハハ、ドウシタドウシタプリティホーン! 貴様ノ力ハコノ程度ダッタノカ!』
「どうすれば……ハッ!」
その時、彼女は何かに気付いたかのようにステッキを見る。弱々しくだが、黄金の光がそこから漏れ出していた。
「これは……! そうか、そうだったんだ……」
『何ヲゴチャゴチャト! コレデ終ワリダ!』
ファスケスから白い光が斬撃のように放たれる。迫りくる光を前に、プリティホーンはすっくと立ちあがりステッキを掲げた。
「これは私達を導く民主主義の光! 民主主義はいつも私と共にある!」
『ナニッ!?』
ステッキから黄金の光が溢れ、斬撃を消し飛ばす。それに狼狽えた怪物は、次の攻撃を避ける事は出来なかった。
「必殺! デモクラシー・レボリューション!!」
黄金の光が柱のように束ねられ、そのまま怪物に叩き付けられたのだ。怪物はたまらず光の中に飲み込まれていく。
『バ、バカナァァァァアアア!!!!』
断末魔だけを残して怪物は消え去り、ファスケスだけがごとりと地面に落ちた。
「ファシストは消毒よ!」
◆ ◆ ◆ ◆
『魔法少女プリティホーン! 来週もまた見てね!』
次回予告が終わり、コマーシャルが流れ始めた。それを見て唖然とする女が一人。
「…………なにこれ」
施設の子供に付き合って、魔法少女アニメを見ていた皐月である。そんな彼女を、子供の純粋な瞳が見上げた。
「魔法少女プリティホーンだよ?」
「最近の魔法少女はえらくアバンギャルドなのねえ……」
皐月はほとんどそういった番組を見た事がない。単に興味が無かったからだ。なので必然的に、『知識』にある魔法少女が連想される。
コンビの片方が洗脳されて殴り合ったり、魂を宝石に変えられてゾンビ方式で肉体を操ってたり、関節技をかけまくるマキャベリストだったり……。なんだかとても偏っているが、それを指摘できる者はもちろんいない。
「……いや、よく考えたら普通なのかしら」
「なにがー?」
「プリティホーンが」
「ふつうじゃないよ、プリティホーンはすっごくすごいんだよ! トクベツなんだよ!」
「あーうん、確かに凄いわね」
こんなもんを公共の電波に乗せる神経がだが。いやそれは前世も大して変わらないか。
「わかればよろしい!」
「はいはい」
自慢げに胸を張る子供を適当にあしらい、席を立つ。
「じゃ私はバイトがあるから」
「えー」
「えーじゃないの」
「さいきんおねーちゃん付き合いわるいー! あの男とあってるんでしょ!」
「変な事言わないで頂戴。大体あれから一回も会ってないわよ」
言わずもがなの名楽兄の事である。兄は会いたがってはいるのだが、妹の方が止めている。
「男ができたらこどもを放ってみっかいだなんて、しょうらいあくじょになっちゃうわよ!」
「どこでそういう言葉を覚えてくるの?」
◆ ◆ ◆ ◆
画面は変わって新彼方高校。テレビの薄い液晶に、プラカードを持ったゴツイ男たちが映し出されている。形態は人馬で、人種は白人だ。どうやら外国であるらしい。
『ここパリスでは、移民反対のデモが続いています』
アナウンサーの言葉を裏付けるように、プラカードの文字が翻訳される。共和国精神を持たぬ者は国に帰れ、共和国は神に勝る、宗教より憲法、といった文言だ。それを掲げる参加者たちにマイクが向けられた。
『我々は、差別主義者でも移民反対論者でもない。共和国の国民とは、共和国の精神を共有する同志でなくてはならない、と言っているだけだ』
『移民の中には共和国の憲法や法、平等や民主主義より宗教を上に置く者がいる。これは決して許されない事だ』
『それは棄教しろという意味でしょうか』
『そんな事は言っていない。しかし宗教はあくまで個人的領域に留めなくてはならない。共和国が神より上でなくてはならない』
そこで画像が途切れ、テレビの電源が消される。教壇に立つ教師が、生徒達に語り掛けた。
「はいこの通り、民主主義はどんな宗教にも勝ります」
笑顔で結構とんでもない事を言っているが、これがこの世界のスタンダードだ。民主主義は金科玉条であり、だからこうして子供のうちから政治教育として教え込まれる。
「けれども国際政治はそう単純ではありません。非民主的で不平等な宗教を保持する集団を受け入れるには、どのような方便が必要か。どうすれば民主主義国家と矛盾しないか、グループに分かれて考えてみて下さい」
「えらく生臭い題が来たね」
ガタガタと机を移動させながら朱池が呟く。
「ま、とりあえず否定派と肯定派三人ずつ、席順で分かれて意見出してくか」
「入れ替えは?」
「後半だな。個人的信条なんか出されたら纏まらん」
名楽が音頭を取り、まずは皐月・サスサススール・君原が賛成派、名楽・獄楽・朱池が反対派という事に相成った。
「んじゃ始めっか」
「つってもな、神なんかいねーんだから拘る理由なんてなくね」
「おおっと始まって即終了しちゃったよコレ」
「ええっと……事実はどうあれ、そう信じてる人にどうやって受け入れさせるか、って話だから」
「というか、神なんかいないとか言ったら戦争になるだけ……。ああなるほど、そういう事か。希も結構黒いわね」
「どういう事ですか?」
「挑発して暴発させて、合法的に移民を排除しちゃおうって話でしょ? 宗教を信じてるだけならどうにもならないけど、それが反社会的行動に繋がるなら話は別。実行犯はもとより、その宗教もテロ組織認定して潰せるものね」
ついでに移民=犯罪者というイメージを作る事で国内の移民賛成派も黙らせる事が出来、テロに屈さぬ国家という評価を手に入れる事も出来る。国内外の宗教勢力への牽制にもなるだろう。
デメリットとしては治安悪化、対外的強硬姿勢に傾きやすくなる、安くこき使える移民を使いにくくなるので経済的に悪影響が出る、辺りだろうか。
「うわー、サツキン腹黒ー」
「いや俺そこまで外道じゃねーし」
「なんか私外道認定されてるんだけど」
「残念ながら当然ってヤツだね!」
「話が逸れてんぞ。てか菖蒲が反対派に回ってどうすんだ」
「ごめんつい……でも実際、移民に賛成するって難しいのよ。その国のルールに従わないような連中なら尚更ね」
「同じ人間なのにですか?」
「
「難しい話です」
「だから議題にもなるんだけど、方便って言ってもねえ……姫、なんかない?」
「わ、私?」
「こーゆー言い包めみたいな話は得意でしょ。意外と黒かったりするし」
「私黒くないよぅ!」
◆ ◆ ◆ ◆
さて、この世界の民主主義について少々触れておこう。形態間平等は世界的な政治トレンドだが、それを実現させるためのツールが民主主義だ。平等を旨とする民主主義は、形態間平等と相性が良かったのである。
だがしかし、完全なる民主主義かと言えばそうではない。民主主義は、市民の権利が法によって守られることを保障されていなければならないのだが、そんなもんはこの世界にはない。なんせ言論の自由がなく、差別主義者のテロリストには人権がないくらいだ。
正確には言論の自由はあるが、公共の福祉に反さない限りにおいて、という但し書きがついている。その中には形態間平等がまるまる含まれるので、実質的には否定的な事は言えないも同然だ。
そういう意味では、本来の意味の法治国家に近いものがある。法治国家とは元々、法律よりも国民の権利・自由が下にあるという意味を持っていたからだ。その辺りを反省して生まれたのが違憲立法審査権(法令審査権)である。
話題が逸れた。この世界における民主主義は、一種の宗教じみたところがある。それは先程のデモ参加者や、教師の台詞からも察せられるところであろう。
これはまず『形態間平等』ありきで、その手段として民主主義が選択されたためである。形態間平等を実現するためならば、あらゆる手段が肯定される。ゆえにその手法たる民主主義のためならば、幼児向けのアニメにあからさま過ぎるプロパガンダも入れるし、民主主義の下に宗教を置いても構わない。
かと言って、民主主義への批判が許されないという訳ではない。差別発言は即逮捕で矯正所送りだが、民主主義への批判は一応可能である。それこそ民主主義的ではない、という話になってしまうからだ。
なのでその辺りは教育で是正している。民主主義=絶対正義と、あらゆる場面で刷り込んでいるのだ。結果として『民主主義は確かに欠点があるかもしれないが、それを補ってあまりある素晴らしいものである』という認識を植え付ける事に成功している。
なお『欠点』、即ち衆愚政治の危険・意思決定まで時間がかかる等を理解している者もいるが、大抵はその内容に触れたりはしない。うっかり口にすると、当局に目を付けられて監視対象になるからだ。またそういった者たちは、現代に民主主義が合っている事も理解しているため、基本的に批判する事はない。
それでも批判する者は? そんな者は
宗教じみた、と評されるとはつまりそういう事だ。
かくして民主主義は、錦の御旗となりおおせたのである。
◆ ◆ ◆ ◆
「そういえばさ、さっきの授業じゃないけど、南極の政治ってどうなってるんだ?」
授業後の昼休み。思った以上に『良い』意見が出たのか、機嫌よく去っていった教師を見送り、机をくっつけての昼食時。何かに思い至ったような顔の名楽が、サスサススールに問いを投げた。
「基本的に話し合いで決めていますよ」
「するってーと、やっぱ民主主義?」
「いえ、選挙がある訳ではないので、この国のような民主主義ではありませんね。あえて言うなら直接民主制に近いですが、異なる部分も多いです」
「そういえば女王がいるって」
「立憲君主制みたいな感じ?」
「その辺り少し説明が難しいのですが……」
曰く、女王が頂点であるのは確かだが、政治にはあまり関わらないとの事。通常種が話し合いで諸々を決定してはいるが、明確な上下関係はなく、あえて言うなら年功序列に近い。
また、仕事の区分は人類社会で言うところの縦割り行政に似ており、自分に直接関わりのないところには興味すら持たないのが常であるらしい。
「よくそれで回るわね」
「哺乳類人とは精神のありようが異なりますので」
「そうか? あんま変わんねーように見えっけどな」
「私は南極人の中では変わり者ですから」
「前に言ってた『他人を知る事は自分を知る事に繋がるけど、自分に興味を持つ南極人は稀』ってコト?」
君原の言葉に頷きで返すサスサススール。それを見ていた皐月が言った。
「ジョハリの窓みたいな話ね」
「ジョハリの窓、ですか?」
「ええ、有名な心理学の話なんだけど」
人には四つの窓がある、という考え方の事だ。もちろん比喩的な意味でだが。『自分に分かっている/分からない』『他人に分かっている/分からない』で分けた、下記の表で表される。
. 自分に分かる 自分に分からない
. 他人に分かる 開放の窓 盲点の窓
. 他人に分からない 秘密の窓 未知の窓
『開放の窓』は、自分にも他人にも分かっている姿を指す。
自分が考えている姿と、他人に見えている姿が一致している部分だ。
『盲点の窓』は、他人には分かっているが自分には分かっていない姿を指す。
意外な長所や短所、自分では思いもよらぬ癖が出てきたりする。
『秘密の窓』は、自分には分かっているが他人には分からない姿を指す。
コンプレックスや過去の失敗、トラウマ等が該当し、ここが大きいと他人とのコミュニケーションが上手くいかなくなりがちだ。
『未知の窓』は、自分にも他人にも分からない姿を指す。
日常生活では意識しない限りはまず分からないので、一生知らずに終わる事もある。
ちなみにジョハリとは、この考えを提唱したジョセフ・ルフトとハリ・インガムの名を組み合わせたものなので、そういう名の人物がいた訳ではない。
「で、これを南極人に当てはめるなら。『開放の窓』は知っていても、『盲点の窓』『秘密の窓』を意識する事は少なく、『未知の窓』に至っては存在すらも知らなかった、って事なんじゃないかしら」
「自分を知るも他人を知るもコインの裏表だかんね。自分を知らない南極人は、結局他人も知らなかったってコトか」
「哺乳類人と接して初めて『未知の窓』の存在を知って、開けてみたら案外似たところがあった。その辺がさっき希の言ってた『あまり変わらない』に繋がり、こうして哺乳類人社会に出ようと考えるサスサスみたいな個体の存在に繋がる、って事だと思うわ」
その言葉に対するサスサススールの返答は、大きく90度に開かれた口であった。もちろん笑顔ではない。姿とは全く合っていないが、『目から鱗』が最も近いであろう。
「考えもしませんでした。いや、ここに来た甲斐があります」
「オーバーだなサスサスは」
「イエイエ、それだけの価値があるという事です」
「いい事ばっかじゃないわよ。哺乳類人に似たところがあるって事は、哺乳類人が抱える問題が発生する可能性も高い、って事だから。思想的なのは特にね」
「というと例えば……共産主義に染まった南極人が生まれたりとか?」
名楽の言葉に首を傾げるサスサススール。
「共産主義ですか? 実際に導入した国では全て失敗しているはずですし、上手く行かないというのは分かりそうなものですが」
「分っかんないわよー。『哺乳類人では駄目だった。しかし南極人たる我々なら可能だ!』とか考えて、南極の技術を使って革命を起こしちゃうのが出て来るかも」
「アカい南極人か……」
「自分で言っといてなんだが、洒落になってないな」
「そうしたら消毒しないとねえ」
どこぞの魔法少女ではないが、皐月もコミーは好んでいないようだ。目はいつものように死んでいるが、宿す光は本気である。
「あ、じゃあさじゃあさ。南極人もそういう問題を解決するために、日本みたいな形式の民主主義を導入するって未来もあるのかな?」
「話し合いで決めてるんなら下地はありそうだね」
「その辺どうなんだサスサス?」
流れとして必然的に、視線がサスサススールに集まる。その七つの瞳に見つめられたサスサススールは、少しだけ考えて答えた。
「可能性は低いと思います。今のままなら、ですが」
「ってーと?」
「民主主義は哺乳類人の政治体系であり、南極人に合うとは考えにくいです。少なくとも私達は今の形式で不都合を感じていません。ならば変える理由もありません」
サスサススールはあえて言及しなかったが、南極人は数が少ないため、間接民主制が必要な程ではないという事情もある。それに仮に議会を作って何かを決めても、生態上女王には逆らえない。『生殖』を司る者に逆らうと言う事は、種族そのものの滅亡すら意味するのだ。
「逆に言うと、不都合を感じたのなら変える事もあり得ると?」
「はい。ですがそれは、南極人全体が哺乳類人的になったという事を意味します。それがいい事なのかそもそも上手く行くのか、私には判断が付きかねます」
「まー、変化には流血も付き物だかんね。一概にいいとは言えんか」
「身内同士で殴り合いしてたら、道場破りにあっさり負けちまうしな」
獄楽が端的かつ適切に例える。それを受けて君原が具体例を出した。
「アメリカは介入して来そうだよね」
「でも人類社会に関わった以上、変化は必然なのよねえ。何せホラ、目の前に実例がいるんだから」
哺乳類人社会を見たいと望み、実際こうして極東の島国にまで来ている南極人がいる。そういった個体の存在も、それを認める上層部も、これまでの南極の歴史ではありえなかった事だ。
「変化は必然、ですか……」
「墨守が悪いとは言わないけれど、変わらない存在がどうなるのか。歴史の教科書をめくれば、いくらでも書いてある事だしね」
変わらないという事は安定していて長持ちする、という事でもある。それはそれで悪い事ではないのだが、『変わり続ける』外部と接した時。『変わらない』彼らがどうなってしまったかは、歴史が語る通りである。
「つっても小難しく考えるコトでもねーよ。そん時にどうにかすりゃいいだけだって」
「ちょっと気楽すぎる気もするけど、まあそんなもんだろね。どう変化するかなんて、それこそ誰にも分かんない訳だし」
「ここで学んだ事を活かして、スーちゃんが先頭に立っちゃうって方法もあるよ!」
「今日の姫はグイグイ行くね」
「さっきの授業でも黒かったしね」
「黒くないもん!」
「菖蒲といい勝負だったけど」
「羌ちゃん酷いよ!?」
「ちょっと待って姫、それは名誉棄損に当たるわよ」
「ぁっ」
小さく声を上げる君原。思わず口走った言葉がマズイ内容だったことにようやく気付いたようだ。ばっしゃばっしゃと目が泳いでいる。
「え、えーと……」
「……ま、いいわ。聞かなかった事にしてあげる。それよりもサスサス、参考になったかしら?」
「はい。こう考えるコト自体が、私が哺乳類人的になっている証明なのかもしれませんが。それでも重要な示唆だったと思います」
礼を述べるサスサススールは。表情の変わらぬ顔でありながら、確かに笑顔であった。
セントール世界の民主主義の扱いについては結構独自解釈が入ってます。
なので正しいかは分かりません。あくまでこの話だけの解釈という事でお願いします。
なお前書きのアレは歌詞ではありません。念のため。
ただ原作でも本当にあんなノリです。
文章整形で崩れるのでピリオドを入れました。