【完結】四肢人類の悩み   作:佐藤東沙

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16話 変態と子供は、混ぜるな危険だったんだね

「ねえ、あなたと一緒に外を歩きたくないんだけど」

 

「唐突に辛辣!?」

 

 弥生(三月)も下旬、一年生から二年生になるまでの短くも長い春休み。皐月は同じ施設の同じ部屋に住む、同じ年齢の女子高生と街を歩いていた。

 

「ヘイあやっちぃ、私に対してちょっちセメント過ぎなぁい?」

 

 ころころと表情を変える彼女の名は愛宕(あたご)沙紀(さき)。光の加減で僅かに緑にも見える白髪に、青色の瞳を持つ角人である。カラーリングだけなら御魂にちょっと似ているが、顔は全く似ていない。身長もかなり低く、むしろ雰囲気的には、朱池の方に近しいだろう。

 

「コンクリ詰めにして海に沈めた方が良いんじゃないかっていつも思ってるわ」

 

「セメント通り越してコンクリートだったッ!?」

 

 そんな愛宕への対応は塩い。皐月とはそれなりに長い付き合いなのに塩い。愛宕の目が、その理由を見つけてしまった。

 

「おっ、あの子イイ感じ。ズボンの下の秘密の花園、夢が膨らむ……!」

 

「捕まるなら一人で捕まってよ……?」

 

 親子連れの子供の方を、欲望100%の目で見つめる愛宕。彼女は、子供が好きで好きで大好きなのだ(マイルドな表現)。

 

「施設の子もいいけど、たまには口直しも必要だよね?」

 

「あなたに必要なのは頭の医者だと思うけど。というか同意を求めないで頂戴」

 

「あーあ、私があやっちくらい成績良ければなぁ。迷わず小児科医になるってのにぃ!」

 

「小児科医は男の子だけじゃなくて女の子も来るのよ……?」

 

「分かってるってそんなコト」

 

 愛宕はきらりと目を光らせ、決め顔を作って言い切った。こんなところで使っていい顔だったのかは謎であった。

 

「サービスタイムって事だよ! 一粒で二度美味しい!」

 

 ショタロリペドの三重苦な女である。ヘレンケラーに土下座しろ。

 

「その頭をカチ割って、メロンパンと入れ替えたら少しはマシになるのかしら」

 

「私の頭はメロンパン入れじゃないよッ!?」

 

 仲が良いのか悪いのかよく分からない漫才をしながら歩いていると、皐月の目が見知った顔を捉えた。

 

「にゃっ」

 

「にゃっ」

 

「にゃーっ」

 

「ふみゅぅ」

 

 御魂家の三つ子、千草(ちぐさ)千奈美(ちなみ)千穂(ちほ)とその妹の末摘である。普段なら挨拶の一つでもしていくのだが、今は実にタイミングが悪い。

 

「ヤッベエ私の超好み! こんにちはカワイ子ちゃんたち!」

 

「無駄に動きが早いッ」

 

 皐月が止める間もなく愛宕は接近していた。ちょっと人間離れした、まるでスライムの如きにゅるんとした気持ち悪い系の動きであった。

 

「こんにちはー!」

 

「おねえちゃんだれー?」

 

「あやしいひとー?」

 

「あやしい人じゃないよ、やらしい人だよー?」

 

「自分で言ってちゃ世話ないわ」

 

 座り込んで子供と目線を合わせていた愛宕の頭を、皐月が後ろから鷲掴みにする。そのままクレーンゲームのように持ち上げ、子供達から隔離した。

 

「ちょ、ちょっと放してあやっち! 天国が目の前に!」

 

「これ以上喋ったら物理的に天国送りにするわよ」

 

 その場合、むしろ行くのは天国ではなく地獄であると思われる。邪淫の罪なので、衆合地獄の悪見処辺りであろうか。

 

「あ! がんたいのおねーちゃんだ!」

 

「こんにちはー!」

 

「はいこんにちは」

 

「こ、こんにちは……」

 

 三つ子が元気よく、末摘がおずおずと挨拶する。会うのは結構久しぶりだが、どうやら覚えていたようだ。

 

「委員長……真奈美お姉ちゃんは?」

 

「いえでおそうじ!」

 

「私たちはたんけん!」

 

「本当に間の悪い……」

 

 つまり委員長こと御魂真奈美は一緒ではないという事だ。子供達だけで外出させるのは些か不用心だが、昼日中の街中なら大丈夫だろうという判断なのであろう。

 

「あっ、ヘビさんたちもこんにちはー!」

 

「おや、委員長さんのところの……」

 

「こんにちはー」

 

 角から姿を現したのは、蛇頭の南極人二人だ。サスサススールとニルニスニルニーフの姉妹である。

 

「あら奇遇ね。今日は二人だけ?」

 

「ええ、一緒に美術館に――」

 

 サスサススールの目が皐月に向けられ、その台詞が途中で止まる。彼女は吊り下げられている女を見、皐月に視線を戻し、不思議そうに首を傾げた。

 

「――何事ですか……?」

 

「この変態の事は気にしないでいいから」

 

「初めまして! 私はあやっちのルームメイトの愛宕沙紀! あやっちのクラスメイトの南極人だよね!? 名前は確か……ケツアナルホル・サスマタドールさん!」

 

「ケツァルコアトル・サスサススールです」

 

「ごめんサスサス、コイツアホなの……」

 

 天を仰いで目を覆う。愛宕はそんな皐月を気に留める事なく、ニルニスニルニーフと挨拶なぞ交わし合っている。頭を吊られたままだが。

 

 彼女は馬鹿ではないし結構機転も利くのだが、いかんせんアホである。おまけに自己の欲望に忠実という事故物件だ。いつ警察に突き出すか、それともいっそ始末するか、皐月は割と真剣に悩んでいる。

 

「さあ私の胸に飛び込んでおいで! 特にそっちのちっちゃい子!」

 

「みゅ、みゅう……」

 

 ハングドウーマン愛宕が末摘に向けて両腕を広げるが、得も言われぬ邪気を感じ取ったのか、見上げるその目はちょっと涙目である。それを見た千草が、末摘の前に出た。

 

「すえちゃん、このおねーちゃんはヘンタイさんみたいだから、近づいちゃダメなのよ」

 

「変態じゃないよ、仮に変態だったとしても変態という名の淑女だ――――イタァイ!!」

 

 めきょっと、愛宕の頭からしてはいけない音がする。皐月のゴリラパワーが、腐った脳髄を物理的に締め上げたのだ。

 

「なにすんのさ! というかそろそろ放して!?」

 

「肉の前にハイエナを解き放つほど愚かではないつもりだけど」

 

「ぷるぷる、わたしわるいハイエナじゃないよ」

 

「良いハイエナは死んだハイエナだけね」

 

 普段ならここから更に締め付け強化(物理)するところだが、未だ愛宕の頭は形を保っている。皐月は愛宕に色々と借りがあり、多少なら融通を利かせるためだ。具体的には皐月が色々荒れていた頃、隠蔽工作に協力したという借りがある。だからこそ、抹殺を視野に入れられている訳だが。

 

「がんたいのおねーちゃん、だっこしてー」

 

「いいわよー」

 

「なっ、あやっちずるい超ずるい! 私も――――イィッ↓ダァ↑イッ!!?」

 

 前衛的な悲鳴を上げて、愛宕が頭を押さえて暴れる。そんなルームメイトをまるっと無視して、皐月が千奈美を抱きかかえた。

 

「がんたいのおねーちゃんはびじんさんね」

 

「どうしたのよいきなり」

 

 唐突に言われた言葉に目をぱちくりさせ、千奈美を見る。三つ子の一人は人差し指を口に当てると、何かを思い起こすように言った。

 

「でも、ウチのねーちゃんのほうがびじんかなー」

 

「ああそういう……」

 

「がんたいとって、目をキラキラさせたらもっとびじんさんかも!」

 

「前も言ったけど、この下は傷が残ってるから取れないわよ」

 

「目はー? なんでほかの人みたいに、キラキラしてないのー?」

 

 何故目にハイライトがないのか、と聞きたいらしい。確かに死んだ魚の方がまだ生気を感じさせる瞳なのだが、本人としてはこう答えるしかない。

 

「何でかは自分でも分からないわねえ」

 

「そっかー、わからないかー」

 

「ぐぎぎぎぎぎ、一人だけ何を甘酸っぱいやりとりを……!!」

 

「あなたからは胃酸めいた酸っぱい臭いがしてるけど」

 

「すっぱいにおい? げぼこ? ふぁぶりーずしなきゃ!」

 

「子供ってたまに残酷な事言うわよねえ……」

 

「何言ってんの、ご褒美だよ! さあ罵って、もっと罵って!」

 

「頭の中もファブリーズできないものかしら」

 

 三つ子まで巻き込んだ漫才の横で、三つ子の残る二人と末摘は、南極人姉妹と異種族間コミュニケーションを始めていた。

 

「すーちゃんはびじんヘビさん?」

 

「にるちゃんもびじんヘビさん?」

 

「どうなんでしょう?」

 

「そういうのはよく分かんないなー」

 

 首を捻る南極人姉妹二人。哺乳類人とは美的感覚が一部異なるようなので、おそらく嘘ではないのだろう。

 

 彼女らには、『x2 + y2 = z2 』を美しいと思う感覚はあっても、ウィレム・デ・クーニングの『インターチェンジ』を素晴らしいと思う感性はない。

 

 もちろん後者は、哺乳類人でもそう感じるかどうかは個人差がある。だが南極人は、種族全体にそういった感性が存在しないようなのだ。実際、美術館巡りをしているサスサススールにも理解しがたいもののようである。

 

 これはおそらく、種族的な特性から来るものだと思われる。美には様々な種類があるが、そのうちの一つ、『形の整った異性を美しいと思う感覚』は、『その相手がパートナーとしてふさわしいかどうか』を判別するために必要なものだ。もちろんそれだけではなく、他にも様々な意味合いがあるが、それは今は置く。

 

 南極人で、生殖行動を行うのは女王のみだ。大半の南極人にその必要はなく、従ってパートナーを探す必要もない。ゆえに、他者の美醜を気にする必要性もあまりなかったと思われる。その性質が、美術方面を発達させる事なく、他者の美醜に頓着しない、現在の南極人の特性に繋がっていったのであろう。

 

 それでも人類の美術に全く興味がない、という訳ではなく、中には経費を使ってまで美術品を買い求める南極人も存在する、というのは不思議なところだ。

 

 なお、ウィレム・デ・クーニングの『インターチェンジ』とは、約三億ドルという、史上二番目の高額で取引された絵画の事だ。抽象画なので素人が見てもさっぱり分からないが、それだけの値をつけた者がいたという事は、逆説的にその絵にはそれだけの価値がある、という事なのであろう。

 

「私たち、ねーちゃんよりびじんさんをさがしてるの!」

 

「ヘビさんたち、ねーちゃんよりびじんさん知らない?」

 

「哺乳類人の美醜もちょっと……お姉さまはどう?」

 

「一応分からないでもないですが、委員長さんよりも美人となると難しいですよ」

 

「そうなの?」

 

「以前アイドルとしてスカウトされた事がある、と聞きましたから、そういう事なのでしょう」

 

「へー、アイドルかー……」

 

 シューシューと音を出し、何かを考えているかのようなニルニスニルニーフ。そんな妹を横目に、サスサススールは三つ子に語り掛けた。

 

「そちらの菖蒲さんはどうでしょう? 美人ではありませんか?」

 

「がんたいのおねーちゃんより、ウチのねーちゃんのほうがびじんよ」

 

「がんたいのおねーちゃんは、やかれる前のおさかなみたいな目をしてるのよ」

 

「びじんさんは、あんな目はしてないのよ。もっとキラキラできれいなのよ」

 

「焼かれる前の魚て……」

 

「ぶあっはっはっはっ子供は残酷だねってホオ゛オォッ!?」

 

 何とも言えない顔の皐月が、意趣返しか先程の皐月の台詞で返した愛宕の頭を、とりあえず感覚で締め付けた。水揚げされた魚の如くビチビチと暴れる愛宕だが、この短時間で人間性が暴露されたせいか、誰からもまるっと無視された。

 

「では姫さんはどうでしょう? 哺乳類人基準で、十分美人かと思われますが」

 

「ひめさん?」

 

「しのちゃんのおねーちゃんよ」

 

「おっきくてふかふかで、かみの毛があかいおねーちゃん」

 

「あのおねーちゃんは、びじんというよりかわいいだよ」

 

「しょうらいはきっとびじんさんよ」

 

「でも今のびじんさんはなかなかいないね」

 

「ねー」

 

「ねー」

 

 顔を見合わせ声をハモらせ、鏡合わせで首を傾げる二人。その視線が、未だ吊り下げられている愛宕に向いた。

 

「ヘンタイのおねーちゃんは、あんまりびじんさんじゃないね」

 

「やっぱりヘンタイだから?」

 

「あひぃん」

 

 変な声と共にびくんびくんと痙攣する愛宕。端的に言って、非常にきもちわるい。放したいが放す訳にはいかない皐月の目は、もはや汚物を見る目になっている。

 

「うわぁ、すごいね。これが哺乳類人の変態ってやつ?」

 

「失礼ですよ、ニルニスニルニーフ」

 

「いやいいわよ、れっきとした事実だから」

 

「酷いよ!? 私だって、最初からこうだった訳じゃないんだからね!?」

 

 愛宕が情感たっぷりに語り始める。頭を吊り下げられたままなので、いまいち締まらないが。

 

「あれは忘れもしない、今から六……いや、七年前だったっけ……」

 

「忘れてるじゃない」

 

「とにかく小学生の頃、両親と妹と一緒に、車で出かけたの」

 

「ねえその話長くなる?」

 

「でもそこで、事故に遭ってしまったの。今でも決して忘れる事はない……」

 

「さっきは忘れてたみたいだけど」

 

「赤色に沈み、目の前で冷たくなっていく妹……。その事故から、小さい子を見ると妹を思い出すように……」

 

「そんな事が……」

 

「サスサス騙されちゃ駄目よ」

 

「つまり私がちっちゃい子大好きなのは、世界の摂理だったんだよ!」

 

「昔からそんなんで、ご家族も匙を投げ捨ててたって前言ってたわよね」

 

「うぉぉいネタバレ早すぎるぅ!!」

 

 なお家族が事故死したのは事実だが、愛宕本人はその車には乗っていなかった。性癖に至っては生まれつきである。割とどうしようもない。

 

「嘘だったのー?」

 

「いや嘘って訳じゃなくてね」

 

「嘘ね」

 

 首を傾げるニルニスニルニーフに、往生際も悪く言い訳しようとしていた愛宕を、皐月が一刀両断にぶった斬る。それを見た三つ子が、こてんと首を横に傾けた。

 

「ヘンタイのおねーちゃん、ウソツキだったのね」

 

「ウソをつくと、舌をひっこぬかれてじごくいきってねーちゃん言ってたのよ」

 

「ヘンタイのおねーちゃん、じごくにいっちゃうの?」

 

「きっとかまゆでにされちゃうのよ」

 

「くしざし? ひあぶり?」

 

「くるまざきー!」

 

「よくそんなもの知ってるわね……」

 

「テレビでみたのー!」

 

「ああ、あの地獄絵特集ですか。私も見ましたよ」

 

 国営放送の名誉の為に言っておくが、至極真面目な内容の番組である。問題があるとするなら、子供が見るものではないという事くらいだ。どうも何かのはずみで見てしまったようだが。

 

「イィ……幼く無垢なる口から出る、残酷な拷問の数々……メッチャイイ……!!」

 

「この汚物は……本当に始末すべきかしら」

 

 皐月が本気で愛宕の始末手段を検討していると、末摘が千穂の袖口を弱く引っ張った。

 

「ふみゅ……」

 

「どうしたのすえちゃん?」

 

「つかれたの?」

 

「おうちかえるー?」

 

「うん……」

 

 コクリと弱々しく頷く末摘。皐月の腕の中で抱かれていた千奈美が、止める間もなくぴょんと飛び降りた。

 

「じゃあかえろう!」

 

「送って行きたいところだけど……」

 

「すみません、私達はこの後少し用事がありまして……」

 

「留学生といっても特殊な立場だし、仕方ないわ。でもそうするとねえ……」

 

 右手の先の汚物を見る。これを連れて送る訳にはいかないし、放置は論外だ。またぞろ問題を起こすのは、コーラを飲んだらゲップが出るくらいには確実である。さてどうしたものかと考えるが、そこで三つ子が元気よく言った。

 

「だいじょーぶ!」

 

「私たちももうすぐいちねんせい! かえるくらいかんたんなのよ!」

 

「だからバイバイ、ヘビのおねーちゃんとがんたいとヘンタイのおねーちゃん!」

 

 蛇と眼帯と変態の返事も聞かず、タタッと走ってあっという間に消えていく三つ子と末摘。どうやら子供なりに気を遣ったようである。将来は有望だ。

 

「はしっこい子たちねえ……」

 

「では私達も」

 

「バイバーイ」

 

「ん、またね」

 

 南極人二人も連れだって立ち去っていく。だがそちらには目もくれず、未練がましく子供の尻を目で追っているのがいた。

 

「ああっ、私のエンジェルたちがぁ~! いい加減放してよぉあやっち!」

 

「こんのクソ変態が……この世から解放したろか」

 

 この二人――特にまだ吊り下げられてる方――が無事に戻れたのかは、誰にも分からない未来であった。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「ただいまー」

 

「ただいまー」

 

「ただいまー」

 

「ただいま……」

 

「あら、おかえり」

 

 御魂家に、無事戻ってきた三人と一人。それを出迎える長女。オカン系美少女JK完璧超人委員長という、もりすぎたもりそば属性なのに、それを一切感じさせないハイスペック女子高生こと御魂真奈美である。

 

「そろそろ探しに行こうかと思ってたんだけど……どこに行ってたの?」

 

「ねーちゃんよりびじんな人さがしてたのよ」

 

「いた?」

 

「ううん」

 

 三人揃ってふるふると首を横に振る。末摘は早々に御魂に抱かれ、うつらうつらしている。

 

「がんたいのおねーちゃんがおしかったけど」

 

「川にうかんでたおさかなみたいな目じゃ、ねーちゃんよりびじんさんとはいえないのよ」

 

「眼帯に死んだ魚の目……皐月さんに会ったのかしら」

 

 それで分かる辺りこの女も大概である。まあ皐月の方がもっと大概なので致し方ないのだが。

 

「ヘビさんたちはよくわからなかったね」

 

「びじんヘビさんのような気はしたけど、よくわからなかったからねーちゃんの勝ち!」

 

「ヘビさんたち……って事は、サスサススールさんとその妹さん?」

 

 実は妹ことニルニスニルニーフは何度か学校に来ているので、面識があったりする。尤も姉とは違って、入学した訳ではなく、単なる見学だ。公的な身分は南極の領事館所属ではあるが、やる事がないので実質的にはニートである。自宅警備員という言い訳も使えない。むしろ自身が警備される側だ。

 

「ヘンタイのおねーちゃんはダメダメだったね」

 

「かおはそんなにわるくなかったけど」

 

「とってもきもちわるかったから、びじんコンテストからはだつらくよ」

 

「ちょっとお待ち、ヘンタイのおねーちゃんってどういうコト?」

 

 声と表情を少しばかり硬くして、妹に問いかける姉。三つ子はそれに、両手を上にあげながら答えた。

 

「がんたいのおねーちゃんといっしょにいたおねーちゃんよ」

 

「私たちをみてハァハァしてたの」

 

「ウソツキだからきっとじごくいき!」

 

「かまゆで、はりつけ、くるまざきー!」

 

「ねーちゃんちょっと急用ができたからあんたたちはおやつ食べてて」

 

 抑揚のないワンブレスで言い放った御魂の目は、間違いなく閻魔大王をも凌駕していた。地獄の鬼も泣いて逃げ出すレベルである。

 

「はーい!」

 

「わーい!」

 

「おやつー!」

 

「きちんと手は洗いなさいよ」

 

 ばたばたと足音を立てて奥へと走って行く三つ子たち。それを見送った御魂は末摘を寝かせると、携帯電話を手に取った。呼び出す番号はもちろん、死んだ魚の目系眼帯少女こと、皐月菖蒲のものである。

 

「もしもし? はい、新彼方高校の御魂真奈美と申します。皐月さんを――――」

 

 電話口で呼び出す声は、南極のブリザードもかくやな極寒だ。皐月はとんだとばっちりであった。

 




 三つ子とすえちゃんカワイイ!

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