神速のGK 作:インパラス
書き終えた後の達成感なく投稿した前話ですが、案の定ガクリと降下()
Aでの初練習から二週間、漸く公式戦だ。
相手は、現在リーグ5位の柏大商業。如何にも高校らしくまとまったチームらしい。200超えの部員の中から勝ち上がってきて何たら。興味ねえ。
「バスの中で下向くと酔うぞ〜青井君」
「黙ってろ」
イヤフォンをつけて、雑音カット。
今は相手チームより、月曜日から始まる期末の方に意識が向いている。ノルマは総合で10位内。英語3科目は5位内だったか。まあ、余裕だがな。そこそこ勉強もした。花ちゃんいなかったらここまでやったか微妙だったけど。
7月に入れば、試合数が多くなる。夏休み期間突入と同時に、まずは群馬でユース選手権が開催。2試合連続後に休息日を挟んでまた2試合とグループが続き、その後にトーナメント。1週間以上かけて行われるせいで、泊まりになるらしい。
東京から群馬まで2時間はかからない。往復3時間って考えると怠いが、泊まり込みも怠い。葵さんも取材で来るらしいが、タイミング悪く月の予定日に被っている。遅らせようかと言われた時は普通に断った。流石にないわ。
あーやっぱ、1週間は長い。夏の間で花ちゃんオトす予定もあるしよ。
バスが止まる。着いたか。
当然、GKとしてスターティングメンバーに入っている。ついでに、残り15分からはMFにチェンジさせるとオッサンから予め通達を受けた。
今回から、俺にはユニフォームは別にもう一つ用意されている。着替えるのは面倒だが、他の奴のユニフォームを着るよりはマシだ。
スタジアムに着く。
人は全然いねえな。プレミアつっても、こんなもんか。向こうのチームらしき集団は、アリのごとくウジャウジャしているけど。声太いし、暑苦しい雰囲気ー。サッカーは楽しむもんだろ?知らんけど。少なくともそんな顔してやるとか、つまんなさそ。
だがまあ、初戦の相手としてはイイ。如何にも頑張っちゃってる奴らに
「おい青井くん。ミーティング始めるぞ…って、顔怖し!」
「…あ?…ああ、そうか」
「…?そうそう(なんか素直だナ)」
さて、初戦だ。楽しんでやろうか。
全然、ボール来ねえ。
拍子抜けだ。Bよりクソつまんねえ。
ゲームスピードは比べ物にならないが、思っていたよりは、ってやつ。相手の気迫だけが無駄にある感じ。全然来ない。マジで退屈だ。今ところ保有率は向こうにあると言っても、ラインを突破して来ない。それにDF陣の奴ら、ボール1回も戻そうともしねえし。
「ライン押し上げろ!行け!」
オッサンから指示がかかる。
ニヤケ面のCB1枚を残して、全員が上がる。
カウンター来ないかなー、と思っていればウニがミスってマジで来た。
相手FWとCBの1対1。
あ〜、ダメじゃん。完全守りに入ったせいでハゲが追いついた。そこはもっと勝負しかけてこいよ。
結局そのままハゲに潰されてクリアー…。
と、プレーが止まる。
1人、足を押さえて芝に座り込んでいた。
こっちの左SBの中村平。あーあ、足やったか?
救護が来てそのまま交代かと思ったが、本人からOKサイン。
オッサンに目を向けるが、特に反応していなかった。
そのまま続行だ。
ハーフタイムが終わり、後半に入る。
「おお…!」
膝を痛めた奴と交代で左サイドバックに入ったのは、葦人ちゃんだった。見るからに、かなりビビっている。歩き方からしてガチガチだ。
これでやっとボールがここまで来そうだ。
客席を見る。
ベンチから外れたエスペリオン1年の奴らと一緒いるのは、葵さんとお嬢様。手を振ると葵さんからは返ってきた。いや、お嬢様も小さく振り返してきている。チビは反応すんな。
そして離れた所に花ちゃんと都ちゃんが座っている。そっちにも手を振るが、花ちゃんは露骨に顔を反らして手を上げるだけ。昨日のが引いてんのかなー(棒読み)。
近くの
気づいた相手FW陣から、若干の殺気が飛んでくる。そう、そうだ。もっとマジになれよ。
手ずから潰してやるからさ。
さあ、来いよ。
で、来ない。
早々にミスしてくれると踏んでいた
ボールから同じ距離にいた敵FWより先にボールを拾い前線に繋げ、最終的にそれを義経が決めて先制点。
え…白けたわ。
だがそれでも、穴だと思ったのか敵は左から攻めてくる。
だが実際は、どっちもどっちだ。
左がそんな状況でも敵が抜けて来ないのは、
こいつはまだ、守備を実践レベルでは理解していない。ボール奪取のスキルがあると言えども、足りないものが多い。
だから、今の状況に笑いしか湧いて来ねえ。
ダイレクト、インターセプト、クリア。とにかくボール、ボールだ。確実なその時まで狙っている。それが、まあ悪くない位置に体を導いていたわけだ。阿久津ありきで、だがな。いなかったら普通に間を抜かれている。
そんなエゴイスト葦人ちゃんを、阿久津が支えているという状態。意思疎通は機能していねえのに、ラインは機能していた。一応、
あー、ウケるけどつまらねえな。
後半20分。
相手が選手交代を使った。28OUTで6IN。
そのタイミングで、オッサンが
時間は更に伸びることになった。相手の17番の足が攣ったらしく、仰向けになって伸ばしている。
オッサンは、
「葦人、お前もだ」
「えっ」
「わかるか。お前が今やっているのは、ただの個人技だ。阿久津がいなかったら、そこに立っていることさえ不可能だ。ボールと、敵だけじゃ駄目だ。味方にも目を向けろ」
「…はい」
「それと段々とプレーが荒くなってきている。深呼吸してみろ」
「わかり、ました…」
再開して5分。少し思った。
まあまあ息があっているよなコイツら。ハゲ同士だからかな。
葦人は阿久津の指示を受けて動いて、指示がない場合は自ら動いて阿久津がカバーに入る。
しかもその舌打ちで
後半30分。交代のボードが上げられる。
2、23OUTで10、16がIN。交代で入るのは、栗林と代わりのキーパー。
ライン際に行って、受け取った黄色のユニフォームを重ね着する。
「よろしく、アゴン」
「あ"〜?」
後半残り2分。アディショナルタイムは5分くらいだ。
ギリあと2点ってところか。
ここまできたし、折角だ。完膚無きまで潰してやるよ。
「おい、栗林ーー」
「ーーいや、それは駄目だろ」
「チッ…乗ったら、ラストはお前の意見聞いてやるよ」
「…うーん、まあいいか。わかったよ、のった」
「ククク、それでいいんだよ」
「おい、あいつら何しているんだ…?」
エスペリオン側ベンチに漏らされたその一言に、誰も答えない。答えられない。誰もが同じ疑問を思っていたからだ。
あの2人は、何をしているのかと。
1人だけ、その疑問の先へと思考を抜け出させた。単純な賞賛とともに、困惑。そして指導者として抱くべき怒りが静かに湧き上がる。
MFに投入してから今までの15分、何も言うことはなかった。コーチングをしない事から仕事のなかった後ろで、敵の連携パターンや個人の癖は読み取っていたのだろう、攻守の全てがその手の中にあった。
まだ始めたばかりあるが、この2週間マンツーマンで教えたことを意識したプレーが出来ていた。
しかし、今やっているこれは何だ。
偶然でないだろう。間違いなく恣意的な…。
「なん…っ」
福田は言葉をそこで詰まらせた。思い至ってしまったからだ。
誰にも聞こえぬよう、小さく舌打ちをする。
あの時の再現だと気づいてしまった。ボールタッチの前後2度周囲を把握、一定以上のスピードを維持しながらの繰り返し。
まさしく、指導を始めた初日に行なったことを連想させた。
より高度に昇華させた…いや、最早次元の違うテクニックだ。だからこそ、福田は青井含太の意図を理解した。
この距離からは顔は見えないのに、悪辣とした笑みを浮かべる姿がはっきりと目に映った。
それは、一度として止まることはなかった。
ハーフウェイライン後方から、僅か2人だけでーー時にはノーバウンドで繋がり続けたボール。
終には、芸術とも言える弧を描きながら、ゴールネットを撫で上げた。
いつからか、スタジアムは静まりかえっていた。ベンチからの声も、総勢200からなる応援席からも、呼吸を忘れてしまったかのように、ただの物音さえもが消え去ってしまっている。
「ボレーシュート…」
ほぅ…と誰かが、感嘆を漏らす。そして次第に、今起こったプレーに対する畏怖を含んだざわめきが生まれていく。
福田は、固く拳を握り締めた。そうして、確かに実感した。
これが、自分の率いるチームだということを。
リーガ・エスパニョーラを経験した自分でさえ、今しがたのただの遊び心ーーというには悪意があるーーが生んだ華麗なプレーに魅せられてしまったのだ。
改めて福田は実感する。最高のカードを2枚得ている事実に、心を猛らせた。
絶対的なキング。
他のカードの力をも引き出し、何者にもなることが可能な、最強の
それらがこの手の内にある。そして、まだ…。
プレミアリーグEAST第七節
エスペリオンユース 7ー0 柏大商業
義経健太 後半6分
阿久津渚 後半27分
本木遊馬 後半31分
義経健太 後半39分
青井含太 後半44分
青井葦人 後半45分+2
栗林晴久 後半45分+6
ロッカールームで着替えを済ませ、さっさとこの汗臭え所から出ようとしたら、
「おい消えーー」
「ごめん!!」
ハゲは、ハゲを見せびらかすように頭を下げだした。
何事かと、後ろでざわめきが起こる。
「おい何のマネーー」
「この前…殴って、本当にごめん…!含太に嫉妬して八つ当たりして…情けねえ!!最低だ!!それに歯まで折って…」
このハゲ、ここで殺してやろうか。
それと…話しやがったなあの女。ルートからして、オカンに話してそれがハゲに行ったか。覚悟しておけよ、社長サン。
「…で?」
「お、俺のことも「ほらよ」なけっ」
折れないギリに加減して鼻面に一発。
だが、これで終わりじゃねえ。
アゴにもう一発だ。
「アガっ」
ハゲはフラフラと背中から地面に倒れる。
の前に、足を入れてやる。
うわ、白目向いてやがるし。キモっ。
鼻から血が垂れてくる。服に付く前に地面に転がした。
そのまま、音一つしなくなったロッカールームをあとにする。
バタンとドアが閉まった後、ドアの向こうから悲鳴が聞こえてきた。
さ、帰るか。外で葵さんが待っている。
ーーさて、"鬼神"、"
私が是非とも推すのは、彼のユース時代…一軍に昇格し出場した記念すべき第一試合目である。
あの節が、彼が実力の一端を見せた始まりであったのだと、私には確信がある。
この時も、誰もがご存知のようにGKとして出場し、残り時間十五分で彼は前線へと歩を進めた。同時に選手交代でピッチの芝を踏んだ、栗林晴久選手と共に。
恥ずかしながら、試合再開後五分が過ぎるまで、私の頭からは記者としての本分がスッカリと抜け落ちてしまっていた。一観客として、黄色と黒を纏う彼等に、完全に魅せられてしまったのだ。
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そして同時に、この試合はもう一つの原点でもあった。そう、あの絶対的なトライアングルの一人、怪物達の"目"である彼もまた、この試合の後半からピッチに足を踏み入れていた。
アディショナルタイム突入時、現在の原型を作り出し得点したあの場面は、今でも鮮明に思い出すことができる。
そういった意味では、この試合は青井含太選手の始発点ではなく、三人の原点…いや、今のエスペリオンというチームの始まりだったとも言えるだろうか。
ーー唐突で申し訳ないが、ここで前述箇所を訂正する。私が推すこの試合は、彼の出発点ではあれども、鬼才MFとしての出発点である。
GKとしての彼が脚光を浴びる日は、そこからまだ先のことで〜〜〜〜
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ーーサッカーエブリー特集「頂点へ」より
新刊読んで…やはり練習風景を描写することは難しいです。しかし原作をそのまま文にするのは避けたい…。
どう進めていけばいいのか迷走した結果、キリがいいので完結です。
原作が進めば、また投稿させていただくかもしれませんが…。
ここまで書くことが出来たのは、感想だったり評価やコメントだったりと、皆様のお陰です。
お付き合い頂き、ありがとうございました。