「まだだ、まだ!終わってない!!」
掠れ行く視界の中、
“彼女”が叫んだ。
周囲は化け物どもに囲まれて、
周りで弱々しくも聞こえていた銃声も、
既に止んでいる。
化け物に喰われるくらいならと、
最後の抵抗でもある自決の爆発音も
もう聞こえなくなっている。
化け物共も、今にも襲い掛からんと
最後に残った“彼女”を喰らおうと
じりじりと、“彼女”に近づいている。
それなのに、それなのに
そのか細い足で大地に立つ“彼女”の瞳は
まだ死んでいなかった。
“彼女”に治癒の力を与えていた“英霊”は既に去り、
傷付いたその体を癒す力も無くなり、
もうボロボロなのに、
立っているのがやっとの筈なのに
それでも“彼女”は諦めてはいなかった。
“彼女”の心はまだ死んでいなかった。
「まだボクは生きている!ボク達はここにいるっ!!まだ“勇者”は死んじゃいないっ!!」
すぐ近くに居る化け物では無く、
遥か頭上、天高くに居る相手に訴え掛ける様に
空を睨む彼女は、手に持った銃を
天に突き付けた
「全部だ!ボクの全部を持っていけ!!」
既に「贄」となる古き“英雄”の数も無く、
その声に応える存在なんていない筈だった。
けれど、その言葉に呼応するかの様に銃が、
彼女自身の身体が淡くそれでいて力強く、
赤く輝き出す。
「目に焼き付けろ!記憶に刻み込め!
これが、これこそが!人間だ!勇者だ!■■■■だ!」
効かないと、届かないと、
どこかで解って居るかのような台詞。
それに応える“英霊”は居ない?
否!
断じて否だ!
今日に至るまで“彼女”と共に闘ってきた、
無力だった、何も出来なかった、今だって変わらない?
いいや違う。
燃やせば良い
その命を燃やし尽くさんとする“彼女”と同じ様に
その全てを捧げて
今度こそ“彼女”と一緒に!
古き“英霊”達に代わり、
新たな“英霊”達が
“彼女”のたましいの
花が咲く
その姿は
とても、とても
“彼女”に寄り添う様に咲いた、赤いルピナス。
「弾種46cm九一式徹甲弾!目標!天頂“天の神”!!全砲門斉射!!うちーかたっ!はじめぇ!!」
9輪のルピナスが輝く
そして
轟音と凄まじい閃光
余波で周囲の化け物が吹き飛ぶ程の衝撃。
九の凶弾が光を纏い
一直線に天を目指す
天高くの怨敵を撃ち貫かんと
真っ直ぐに登って行く
その行方を
見送ること無く
少女は
華と散った
その身体は
花弁となって風に舞い
後には何も
残らなかった